真の敵
覚醒アストとナナシガリュウが激戦を繰り広げている頃、ウォルとメグミ、そしてマサヨは路地裏をがむしゃらに疾走していた。
「急げ!急げ!少しでも離れるんだ!」
「そうは言っても……」
「もう限界……」
けれどもダメージを受けたメグミとピースプレイヤーを装着していないマサヨには限界が迫っていた。
「くっ!わかった……一旦止まろうか」
「お、おおう……」
「はい……」
少し広めの道に止まると、メグミは腰に手を当て顔を上げ、逆にマサヨは膝に手を当て、項垂れながら呼吸を整えた。
「少し休んだらすぐ行くよ」
「行くって……どこにだよ?」
「とりあえずホテルまでかな?チェックインして部屋にいれば、しばらくは時間が稼げるでしょ」
「時間を稼いで、その後は?」
「もちろん然るべきところに連絡……ヴィンチーマの警察に通報するよ」
「――!!?それは!」
瞬間、マサヨが顔を上げ、声を荒げた!表情には今まで以上の焦りを感じる。
「ん?どうしたんですか?」
「いえ……その……警察はちょっと……」
「ちょっとって……当然のことだと思うんですが?」
「え、ええ……その通りなんですけど……」
もじもじと口ごもる女に、ウォルは顔しかめ、訝しんだ。一方、メグミは……。
「おい……問い詰めるみたいな真似はやめろよ」
「そんなつもりはないよ。ただこの状況で不合理で理不尽な選択はできない……それを望むなら明確な理由を示して欲しいだけだ」
「それが尋問みたいって言ってるんだろ!」
マサヨを信じたいメグミと、彼女に疑念を感じ始めたウォル……一触即発の空気に緊張が走る。その時……。
「悪い女ですね、マサヨ・マツナガ」
「「!!?」」
「男二人を争わせるなんて……魔性過ぎませんか?」
二人の耳に知らない声が届く。その声がした方向を向くと、ド派手なスーツを着た男が立っていた。
「なんだおま……」
「その声!マウリッツ様ですか!?」
「ええ……私があの『マウリッツ・モランデル』です」
「来てくれたんですね!」
「ちょっ!」
「マサヨさん!?」
マサヨは顔を赤らめながら、先ほどまでの疲弊っぷりはなんだと言いたくなるくらい軽快な足取りでマウリッツと名乗った男の下に駆け寄った。
「どういう……ことですか?」
「………」
事態が飲み込めずに、説明を求めるメグミの視線をマサヨは目を伏して、拒絶した。
「マサヨさん……」
「しつこい男は嫌われますよ」
「てめえ……!!」
ニタニタと不愉快な笑みを浮かべながら、嫌味ったらしくそう言い捨てるマウリッツをメグミはナイティンのマスク越しに、睨み付けた。
「怒らせてしまいましたか。こちらとしてはアドバイスのつもりだったのですが」
「余計なお世話だ!!」
「ふむ、では謝罪の代わりと言ってはなんですが……できる限り楽に殺してあげましょう!!」
「「!!?」」
突如としてマウリッツの身体が一回り大きくなった!そしてその肥大化した肉体は丸みを帯びていき、最終的にはツルツルとした球体がくっつきあったような異形の姿へと変化した。
「エヴォリスト……だと!?」
「改めて自己紹介させていただきます。私はマウリッツ・モランデル、ディオ教第十三支部支部長にして、“完璧なる球体 (パーフェクト・スフィア)”の異名を持つ者!!」
「ディオ教の支部長!?」
ウォルの中に渦巻いていた疑念が確信に変わる……自分達は大きな過ちを犯したのだと。
「メグミ……!」
「ウォル……ディオ教って、過激派のエコテロリスト集団だよな?」
「あぁ……」
「あいつ、そこの支部長らしいぞ?」
「ディオ教の支部は全部で26……そのトップはいずれもバリバリの戦闘型のエヴォリストだと言われている……」
「そうだ。神に選ばれた我らこそが!この強大なる力を持った我らが民を導くべきなのだ!!」
自己陶酔してうっとりと自らを抱きしめる覚醒体のマウリッツの姿に二人は生理的な嫌悪感を覚えた。
「あの感じ……多分おれ達みたいな有象無象の下民を殺すのに、躊躇なんてないよな?」
「だろうね……」
「でしょうね」
「やっぱそうだよ……ん?」
「えっ?」
「先ほどはどうも」
幼なじみの二人の間に小型の赤いドラゴンメカがしれっと降り立った。
「お前……!」
ナイティンの槍を握る手に力が入る!そのまま薙ぎ払うつもりだ!しかし……。
「やめろ、メグミ」
「――ッ!?ウォル……」
幼なじみが制止する。そんなことをしたら、後で後悔するのがわかりきっていたからだ。
「こいつはおれ達を襲って来た奴の仲間だぞ!?」
「ぼく達が必死に守って来たレディのお供は国際的テロリストだった」
「そ、それは!?」
「そして今まさにぼく達を殺そうとしている」
「うぐっ!?」
「逆だったんだ……ぼく達がつくべきは、あの赤い竜の方だったんだよ……何が天才だ、まったく……!!」
ウォルはマスクの下で自嘲した。できることなら自分で自分をぶん殴ってやりたい気分だった。
「死ぬ順番は決まったかい?」
既に勝った気でいるマウリッツの傲慢な声が路地裏に響く。ウォルはちらりと横を飛ぶドラゴンに目を向けた。
「あいつのデータは?」
「ありません。お役に立てずに申し訳ない」
「いや、こちらこそ勘違いがあったとはいえ、ご迷惑を……」
「そういうのは後にしましょう。先ほどやった目眩ましは?」
「あと一回分は……」
「なら、またそれに頼りましょうか」
「でもエネルギーが少ないし、マサヨにバレているから、できるだけ至近距離で撃ちたい。メグミ」
「あいよ」
物心ついた時からの友人にはそれだけで十分だった。ナイティンは再び槍を握る手に力を込める。
「どうした?決められないなら、このマウリッツが選んで……」
「おれが先陣だ!!」
ナイティンは槍をマウリッツの丸いボディーに向けながら、残った力の全てをかけて突撃した!
「死ぬ気なんか更々ねぇんだよ!!」
「………」
マウリッツは微動だにしない!回避も防御も何もしなかった!なぜなら……する必要がないから。
ツルッ!
「……はっ?」
槍はマウリッツの曲面になっているボディーの上を滑って、傷一つつけることができなかった。
「これが私が“完璧なる球体”と呼ばれる所以!神から祝福を受けたこの身体は何者も傷つけることは不可能!!」
「マジかよ……」
「この私の手にかかることを幸せに思え、無能力の凡愚が!!」
マウリッツは拳を振り上げた!その時!
「メグミだけじゃなく、ぼくも構ってよ」
「!?」
銀色の騎士の後ろから宝石のような赤い半透明なパーツを付けたピースプレイヤーが飛び出す!
「――!?マウリッツ様!目を!!」
ウォル達の意図を察して、叫ぶマサヨ!けれど……。
「もう遅い……イクライザーフラッシュ!!」
カッ!!
「――ぐっ!!?」
イクライザーから放たれた強烈な光が周囲を包み込む!天から力を与えられた選ばれし覚醒者と言っても、生き物であることは変わらない。マウリッツも反射的に身体をさらに丸めてしまう。
その隙に幼なじみ二人と小型のドラゴンメカは息を潜め、そそくさとその場から退散した。
「………逃げられたか」
光が収まると、マウリッツは辺りを見回し、ウォル達がいなくなっているのを確認すると、変身を解除した。
「まぁ、いい……当初の目的は達成した。そうだろ?マサヨ・マツナガ」
「はい……ここに」
マサヨが手を差し出すと、その手のひらの上には小さなデータカードが乗っていた。それを見た瞬間、マウリッツは口角を上げ、醜悪な笑みを浮かべた……。




