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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
旅行編
46/93

青龍VS紅竜

 紅いボディーに銀の差し色、勾玉を彷彿と挿せる額の二本の角に、木漏れ日を思わせる黄色い二つの眼……ナナシガリュウと名乗ったそれの姿は彼の周りを飛んでいるベニとよく似ていた。いや、むしろベニがナナシガリュウに似せて造られたのだろう。

 その紅き竜が現れた瞬間、周囲の気温はわずかに上がると、逆にその場にいる人間は恐怖で呼吸が乱れ、足が震え、背筋に寒気を感じた。

「……AIのワタクシにもわかります。絶好調ですね、ナナシガリュウ」

「ご機嫌だ……俺自身が怖いと感じるほどに。あの青いエヴォリストのせいか?」

「――ッ!?」

 二体のドラゴンの視線が交差すると、青い方が気圧され、狼狽え、たじろいだ。

(この荒々しい感じ……リヴァイアサンと対峙した時に似ている……けれど、あの赤いのはずっと静かで穏やか……きっとこれが……特級ピースプレイヤーの真の完全適合……!!)

 青龍は紅竜の力量を悟った……自身が全身全霊を懸けて戦わなければいけない相手だということを。

「お前達」

「「「!!?」」」

 紅き竜の声にビクッ!と過剰に反応する。完全に上下関係は決まってしまっていた。

「大人しく投降しろ。まぁ、いきなり言われても困るだろうから十秒待ってやる。その間に話し合え。ベニ」

「はい。十…………九…………」

 電子音声が正確なカウントを刻み始めると、より精神的プレッシャーをかけられてる気がして、頭がおかしくなりそうだった。

 それでもアストはなんとか頭を動かし、答えを出す。

「……ウォル」

「……なんだい?だいたい見当がつくけど」

「オレがあいつを引き付ける……その間にメグミとマサヨさんを連れて逃げろ」

「やっぱり……」

「それしかない」

「いや、いっそのこと言われた通り投降もありなんじゃない?」

「……仲間を倒したオレ達を許してくれると思うか?」

「それは……」

「なら……!」

「落ち着きなよ、アスト……!あのマシンに見覚えがある……っていうか、ナナシガリュウって……」

 幼なじみと話して自分の方が落ち着きを取り戻したウォルの記憶が正常に機能し始める。

 しかし、少しだけ遅かった。

「三…………」

「答えを出すのに……十秒もいらねぇよ!!」

「「メグミ!!?」」

 張り詰めた空気に耐えられなくなったメグミ・ノスハートが暴発した!心を奪われたマサヨを守ると気負っていたせいもあるだろうが、あまりに軽率!

「止まれ!お前じゃ、その機体じゃ!!」

「でえぇぇぇいッ!!」

 アストの必死の制止は荒ぶるメグミの耳には届かない!

 ゴウサディン・ナイティンは一目散に突進すると、先ほどベッローザにやったように槍をバチバチと帯電させ、紅き竜に向かって突き出した!しかし……。

「……遅い」

「――!!?」

 槍は何もない虚空に炸裂した。あっさりと回避されてしまったのだ。

「次は……こっちの番だ……!」

 紅き竜が拳を握ると、瞬時に躱せないと判断したナイティンは盾を構えた!


バギィィィィィィィィン!!


「…………がっ!!?」

「「メグミ!!?」」

 盾は拳に触れた瞬間、粉々に砕け、そのままナイティン本体の鳩尾に突き刺さった。銀色の装甲に亀裂が入り、酸素が肺から強制的に押し出され、騎士はその場に膝から崩れ落ちた。

「がはっ!?……はぁ……!はぁ……!」

「意識を失わなかったか。少し加減し過ぎたか?それともお前とそのマシンが想定以上にタフだったのか?」

「はぁ……!はぁ……!」

「まぁ、勝敗は決したからいいか」

 銀の騎士を見下ろす紅き竜……どちらが勝者かは言うまでもなく明らかだった。

「あいつ!」

「アスト!気持ちはわかるけど、ちょっと待って!」

 幼なじみをやられた怒りに身を任せ、飛び出そうとする青龍をイクライザーは制止した。

「ウォル!このままじゃ……!」

「わかってるよ……だから、イクライザーの奥の手を使う……!」

「奥の手……?」

「カッコ悪いから言わなかったけど、吸収したエネルギーの最後の最後の使い道さ。ぼくがカウントするからゼロになったら目を瞑って」

「目を……わかった」

「マサヨさんも」

「は、はい!」

 アストは幼なじみが何をするのか、自分に何をして欲しいのかを理解した。

 爆発しそうだった感情を体内に、胸の奥に押し止める……その時が来るまで。

「話し合いは終わったか?」

 あくまで自分から動かず返答を待つというスタンスのナナシガリュウはぶっきらぼうな言葉で急かした。けれど、アスト達の耳にはその言葉は届かない。彼らの耳は今度は味方が呟く小さなカウントを聞き漏らさないように、それだけに集中している。

「二……一……」

「……ん?何でお前が数字を……」

 紅き竜がようやくその囁くようなか細い声に気付く!しかしもう……手遅れだ。

「ゼロ!!イクライザーフラッシュ!!」


カッ!!


「――ッ!!?」

 イクライザーの赤い半透明なパーツから強烈な光が放たれる!これにはナナシガリュウも反射的に腕で目を覆い、ガードを固める!

「今だ!アスト!!」

「おおう!!」

 青龍は幼なじみの合図を聞くと、溜めていた感情と力を一気に爆発させた!地面を抉れるほど踏み込み、拳を固く握り、振りかぶり、そして撃ち出した!


ガキン!!


「――なっ!?」

「甘いぜ、この野郎……!!」

 けれど、既に混乱から抜け出していた紅き竜は青い龍の不意を突いたはずの一撃をあっさりと受け止めた。しかし……。

「今だ!ウォル!!」

「はいよ!!メグミも早く!!」

「お、おおう!!」

「ちっ!?」

 青い龍の顔越しに、逃げるターゲットが見えた。ナナシガリュウは拳から手を離し、そちらに向かって……。

「させるか!」


ガシッ!!


「――!!?」

「こっちのセリフだ!!」

 アストは解放された拳を開くと、そのまま紅き竜の手首を掴んだ!力を込めてそのまま……。

「うりゃあ……!」

「させるか?こっちの台詞だっての!!」


ブゥン!!


「――ッ!?」

 覚醒アストは投げ飛ばそうとしたが、逆にナナシガリュウがそれ以上の力で腕を振り、逆に吹き飛ばされてしまう!

「くそ!?だが……!」

 空中でくるくると器用に体勢を立て直し着地、攻撃が全て防がれたことには腹が立つが、一番の目的である仲間を逃がすことには成功し、内心ホッとする。

(ターゲットは……ベニが追っているか、さすがだな。ならば、俺の役目は……!)

 いつの間にか消えている小さな相棒の優秀さに感服すると、ナナシガリュウは黄色い二つの眼で起き上がる青い龍を真っ直ぐと見つめながら、ゆっくり歩み寄って行った。

「お前、データになかったな……新人か?それとも単純に俺達の調査不足か?」

「何をわけのわからないことを……!」

 アストも示し合わせたかのように、紅き竜に向かって歩き出した。ゆっくりゆっくり、一歩一歩、少しずつ二頭のドラゴンの距離が縮まっていく……。

「じゃあ、異名は?あのカッコいい異名はお偉いさんからもらっているのか?」

「……おちょくってるんですか?」

「俺は大真面目だよ。できればずっとふざけていたいがな」

「……オレも同じです」

「でも、こうなったら……」

「目の前に立ち塞がる敵を……」

「倒さないと……」

「楽しくバカやれない!!」

 先手を取ったのは紅き竜、ナナシガリュウ!先ほどのお返しとばかりに青龍の顔面に鋭いストレートパンチを放つ!

「速いが……避けられないほどでは!」

 赤いナックルは僅かに青い頬を掠めただけだった。そして回避運動の勢いそのままにアストはカウンターを放つ!

「ウラァ!!」


バシッ!


「――!!?」

「その言葉そっくりそのまま返すぜ」

 青いナックルは赤い手のひらにあっさりはたき落とされた。

「まだだ!!」

 しかし、青龍は怯むことなくラッシュをかける!パンチだけでなく、蹴りや手刀を織り混ぜ、一気呵成に攻め立てる!


バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!!


 だけど、それも全て紅き竜がガードする。いや……。


ブゥン!ブゥン!ブゥン!ブゥン!!


「くっ!!?」

 徐々にアストのスピードとリーチに慣れてきたのか、見せつけるように最小限の動きで躱し始めた。

「どうした?それがマックスか?」

(マックスだよ!まさかこんなに早くモーションを盗まれるとは……!だが、それなら!)

 青龍は下から抉り込むようにボディーブローを繰り出す!

「無駄だ」

 それを紅竜はまたまた容易に回避する……はずだった。


カン!!


「……何!?」

 衝撃が腹から全身に広がる!アストの拳がついにナナシガリュウを捉えたのだ!

「もう一丁!!」

 もう一方の拳で理解が追い付いていない紅き竜に追撃!今度の狙いは肩だ!

「調子に……!」

 ナナシガリュウは身体を半身にして、回避を試みる。


カン!!


「――!!?また!?」

 再びのヒット!威力はそれほどでもないが紅竜の肉体、精神のバランスを揺るがす。

「これで!!」

 その僅かな隙を見逃さず、アストは紅き竜の顔面、正確には銀色の口部分のマスクの端にある顎を狙って捻りを加えて拳を振り抜いた。

「もらった!!」


ブゥン……


「……なっ!?」

「二度あることは三度ある……とはならなかったな」

 しかし、ナナシガリュウは咄嗟に後ろに跳躍!拳は空を切った!

「そうか……腕を少しだけだが伸ばせるのか。道理でタイミングがずれるわけだ……」

「ぐっ!?」

 驚愕する青龍の金色の眼に、冷静に流水拳を分析する紅き竜の姿が映る。物理的にはほんの一歩分の距離しかないが、実力的には二人の距離は隔絶していた。

「んじゃ、こっちもリーチで勝負するか……ガリュウロッド」


ゴン!!


「――ぐはっ!?」

 主の呼びかけに応じ、生成された戦闘用の棒が深々とアストの腹に突き刺さった!身体が“く”の字に曲がり、先ほどのメグミのように強制的に肺から酸素を追い出される。

「オラオラ!どんどんいくぜ!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「つうぅ……!!?」

 紅き竜はまるで自分の手足のように縦横無尽にロッドを動かし、青龍を殴りつけていく!暴風雨のような乱打にアストは身体をできる限り小さく丸めて、少しでもダメージを減らすことしかできなかった。

(つ、強い!流水拳をあんな短時間で攻略するなんて……くぐってきた修羅場の数も質もオレとは違い過ぎる……!!)

 アストの目には、ナナシガリュウの後ろに彼と激闘を繰り広げたであろう強敵達の幻影が見え、戦慄し、身体が震え上がった。

(長丁場は不利になるだけだ……初見殺しで一気に攻め落とすしか、オレには勝ち目がない……!!)

 ガードを固めながら、紅き竜の攻撃のリズムを取る。

(チャンスは一度きり……タイミングを逃すなよ、アスト・ムスタベ……!)

「オラァッ!!」

「ここだ!涙閃砲!!」


ビシュゥッ!!


「なっ!?」

 勢いよく金色の瞳から発射された涙というには激しすぎる水流が、ロッドを持っていた紅き竜の腕を貫いた!思わず得物から手を離す!

「ちっ!だが、そんな小細工でナナシガリュウは止まらない!!」

 けれども紅き竜は言葉通り、動きを止めず、もう一方の腕でパンチを放った!

 その時をアストは待っていた。


バシャッ!!


「なんだと……!?」

 紅きナックルは液体化したアストには通用しなかった。そのまま水そのものになった覚醒アストはナナシの後ろに回り込み……。

「取った!!」

「――ぐっ!!!?」

 再び実体化して、チョークスリーパーを決める!このためにあえて液体化を見せずにわざわざ攻撃を受け続けていたのだ!

「このまま……落ちろ!!」

「ぐうぅ……!!」

 アストは確信した……自分の勝利だと。出し抜いてやったと、この状態で反撃の余地はないと、考える暇などなく、腕の中にいる紅き竜は夢の世界に旅立つことになると。

 そんな間抜けな勘違いをしていた。


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「――ッ!?ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?」

 全身が痺れ、激痛が走った!思わずお手本のように完璧に決まっていた絞め技を解いてしまう。

 それだけの威力がナナシガリュウの額の勾玉のような二本の角から全方位に放たれる電撃にはあった。

「くっ!?ぐがっ!?」

 地面に転がり、のたうち回る青龍。一方の紅竜は既に平静を取り戻している。

「フルリペア!!」

 涙閃砲で開けられた穴がみるみると塞がっていき、まるで戦闘前に戻ったようにきれいな姿になる。さらに……。

「物理は無効化できるが、電撃は無理か……だったら!ガリュウグローブ!」

 その腕に新たな武器が装着される!一回り大きくなったその手を開くと……。

「エレクトリックウェブ!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「ぐわあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 手のひらから電気の網を発射した!それに捕らわれたアストは悲痛な声を上げる!誰がどう見ても効果は抜群だ!

「オリジンズの生け捕り用にわざわざ『花山重工』に頼んで、つけてもらっておいて良かったな……」

 自分の準備の良さに感心しながら、グローブを消し、代わりに彼が最も信頼する得物を召喚する。

「ガリュウマグナム……!電撃が効くなら、熱はどうだい?」

「くっ!?」

 銃口を電気の網にひれ伏す青い龍に向けて突きつけた。

「もし……三年後、いや二年後に戦っていたら、俺はきっとお前に手も足も出なかっただろう。タイミングが悪かったな」

「この……!?」

「悪いが、念のために四肢を撃ち抜かしてもらうぜ」

 引き金に引っかけた指に力を込める。その時!

『ナナシ様』

「……ベニか?」

 小さな相棒から通信が入り、指が止まる。

「どうした?ターゲットは?」

『申し訳ありません、逃げられました』

「そうか……なら、こいつに居場所を吐いてもらわないとな……!」

 黄色い二つの眼が、龍というより蛇のように地面に這いつくばるアストを見下ろす。

「居場所……?さっき会ったばかりの人の行き先に心当たりなんてあるわけないだろ……!」

「はぁ?この期に及んでしらを切るか……!!」

 減らず口を叩いていると思ったナナシガリュウは激しい苛立ちを覚えた。再び指に力を込める。しかし……。

『その方が言っていることは事実だと思われます』

「はい?」

『どうやらわたくし達は大きな思い違いをしていたようです』

「……なんだって?」


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