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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
旅行編
44/91

観光終了

「やって来ました!ヴィンチーマ!!」

「「おおう!!」」

 空港から出ると、三人を出迎えたのは彼らの故郷と勝るとも劣らない澄み切った青空だった。

「天気も最高だな」

「気温もちょうどいいし」

「これもおれの普段の行いのおかげだな」

「何が普段の行いだよ……と、いつもなら言うところだけど、今回ばかりはマジでお前のおかげだよ、メグミ」

「だろ!だろ!もっと感謝しろよ!おれは一発で一等を当てた男、メグミ・ノスハートだぞ!」

 メグミは腰に手を当てて、鍛え上げられた大胸筋を目一杯張った。

「感謝はしてますよ、メグミ様。まさかカウマに並ぶ世界的観光地であるヴィンチーマに来れるとは」

「んで、感謝の気持ちは横に置いておいて、どうするよ?」

「置くなよ!まっ!今のおれは気分がいいし、元々器もデカいから多めに見てやろう!」

「そりゃどうも。で、どうするんだ?こういう段取りは昔からお前の役目だろ、ウォル」

「もちろん考えてあるよ。ぼくは旅行についても天才だからね」

 ウォルはメガネをクイッと上げて、光らせた。

「まずは今日泊まるホテルに直行!」

「ん?部屋に入れるのは午後からだろ?」

「チェックインはね。ぼく達は入れなくとも荷物に関しては預かってもらえるんだよ。こんなキャリーケース引きずりながら、観光したくないだろ?」

 ウォルは傍らに置いてある自分のケースを爪先でつついた。

「だな。身軽な方がいいに決まっている」

「で、荷物を預けたら、近くのレストランで昼ご飯かな」

「そうこなくっちゃ!!」

 満面の笑みを浮かべながら、メグミはパチンと指を鳴らした。

「その後のことは……」

「それを聞くのはランチを食べ終わってからでいいかな」

「だね」

「話はまとまったな!というわけで楽しいヴィンチーマ旅行スタートだ!」

「「おおう!!」」

 テンションが上がりまくっている三人は人目も気にせず拳を突き上げた。



「ふぅ~!食った!食った!」

 椅子の背もたれに重くなった身体を預け、既視感のあるセリフを吐きながらメグミはこれまた見たことのある行動、大きく膨らみ、緩な曲線を描いている腹を満足そうにポンポンと叩いた。

「どこでも君は変わらないね」

「褒め言葉として受け取っておこう」

「褒め言葉として言ったんだよ」

「でも今回はオレも食い過ぎたな。他にも美味しそうな店はいっぱいあるし、もうちょいセーブしておくんだった」

 アストはメグミほどではないが、丸くなった腹を優しく撫でた。

「まぁ三泊もあるんだし、心配しないでもたくさん美味しいものを食べられるよ」

「金もあるしな。こういう時にパーッって使うのが、正しい謝礼金の使い方だ」

「いらないって言ったのに、貰ってもらわないと困るってサバンさん譲らなかったもんな」

「申し訳ない気持ちもあるんだけど、トータルだとぼく達の方がよっぽど助けられてるのにね」

「結局、何だか使い辛くて、今日まで手をつけられなかったけど……そう言う意味でもこの旅行に来れたことは本当に良かったよ」

 アストの言葉に賛同を示すように、ウンウンとウォルとメグミはしみじみと頷いた。

「それじゃあサバンさんにも感謝しながら、ヴィンチーマを堪能しましょうか」

 話が一段落ついたので、今後の予定を話し合うためにウォルはテーブルにある皿をどかして、地図を広げた。

「ヴィンチーマに来たら、絶対に見逃せないのは、ここ!古代のコロシアム!!」

 ウォルは一際大きい字で強調されている場所を元気よく指差した。しかし……。

「いや、今補修工事中で入れないだろ」

「ありゃ?知ってたの?」

「当然」

「さすがのおれもそれぐらい調べたわ」

「ですよね~」

 ウォルは苦笑いを浮かべながら、スーッと指を横にスライドさせた。

「まぁ、残念だけど無理なものは無理だから仕方ない……ってことで、とりあえず今日はコロシアムの外観を眺めながら、近くにあるこれまた歴史ある大聖堂に向かおうと思います」

「大聖堂ね……殺し合いを楽しく観戦するところのすぐ側に、平和の祈りを捧げる場所があるなんて、皮肉だね」

「相反しているように思えるけど、きっとどちらも人間の本質なんだよ。闘争も平和も求めている、それがぼく達人間という種族さ」

「わかった風な口を……でも……事実かもな……」

 アストの脳裏に狂気に落ちたかつての友と、平和のために命を懸ける者達の顔が思い浮かんだ。

「人間の本質どうのはおれにはわからないが、野郎三人でステンドグラスを見てもな……」

「言葉にするなよ、余計虚しくなるからさ。っていうか、アストってカウマ大の先輩でもあるべっぴんのお姉さんと一緒に住んでるんだろ?」

「マジか!?そんなの初耳だぞ!!」

 一気にボルテージの上がったメグミはテーブルに手をつき、前のめりになった。

「こうなるからお前には言わなかったんだよ……」

「おれじゃなくとも男ならみんなこうなるわ!美女と一つ屋根の下なんて……!!」

 恨めしそうに顔をしかめて、遠いところに行ってしまったような幼なじみを睨み付けた。

「別に二人っきりってわけじゃないから。前にも言ったけど、下宿してるじいさんの知り合いの家に一人娘も住んでるってだけ」

「でも、きれいなんだろ?」

「まぁ……」

「殺してやる!!」

「はいはい!それはこの旅行が終わった後でね」

 憎しみに我を忘れ、アストに掴みかかろうとするメグミをウォルが間に入って止めた。

「まったく落ち着きなさいよ」

「そもそもお前がコトネさんの話なんてするから……」

「ぼくが言いたかったのは、そのコトネさんって人も連れてくれば良かったんじゃないってこと。謝礼金で一人分の旅費ぐらいは捻出できるでしょ?」

「足りないならおれも出すぞ!!」

「いや、今さら言われても……」

「……そうだな、今さらだな……」

 意気消沈したメグミは再び深々と椅子に腰をかけた。

「まぁ、本当に今さらなんだけど、世話になってるお礼にさ。ヴィンチーマは女の子に人気があるし」

「実のところ、誘ってみたんだよ」

「「マジか!?」」

「マジで。だけどね……」

 アストはバツが悪そうに頬を掻いた。

「断られたのか?」

「あぁ……さすがに男三人の中に女一人ってのはあれだから、オレの同期でコトネさんも仲いいナカシマさんって人と一緒にどうかって誘ってみたんだけど……」

「嫌だって?」

「嫌というより、“ワタシはともかくいきなり旅行に誘われるミナちゃんの気持ちを考えなさい!超怖いわよ!あと、結局そういうのは男同士水入らずで行った方が楽しいに決まってるんだから、ワタシのことなんか気にせず楽しんで来なさい!”……って」

「「へぇ~」」

 訳を聞いたウォルとメグミは穏やかな笑みを浮かべ、若干ぬるくなったコーヒーを啜った。

「なんだよ、そのリアクション……」

「いや、なんか気持ちのいい人だなって思って」

「お前なんかのことを気にしてくれるなんて素敵な人じゃないか」

「体よく断られただけの気もするけどね」

 アストもカップに口をつけると、一気にコーヒーを飲み干した。

「それじゃあ、そのコトネお姉さんのお気持ちに応えるべく、男三人大聖堂に行きますか?」

「いいお土産が売ってるといいな」

「そうだな」

 三人は立ち上がると、会計を済ませ、店から出て行った。

「ずいぶんと混んでるな……」

 メグミは溢れんばかりの人の波に辟易し、食後の時とは打って変わって、まるで苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

「大人気観光地だから当然と言えば当然だけど、コロシアムが見れないのも関係してるかもね」

「その分大通りに人が集まっているのか……」

「これだと大聖堂まで予想より時間がかかるかもね」

「だったら裏道だ!付いてこい!」

「えっ!?おい、メグミ!」

「待ってよ!」

 メグミは一人勝手にすたすたと歴史を感じる住居の間に伸びる狭い道へと入って行ってしまう。幼なじみ二人は声をかけても止まらない彼にしぶしぶ付いて行く。

「おい!裏道って……もちろん土地勘なんてないよな?」

「あぁ!ない!!」

「何でそんなに自信ありげなのよ……」

「そりゃあおれは福引きで一等を当てた男だからな!正解の道も当ててやる!」

「それとこれとは話が別だろ……」

「まぁ、コロシアムの方向に向かえばなんとかなるかな」

 ウォルは屋根の間から見える細かい彫刻が施された巨大建造物を見上げた。

「そうそう!なんとかなるって!」

「そうだな……そもそも大聖堂にそこまで興味があるわけでもないし、まだ一日目だし、気ままに散歩がてら行けばいいか」

「こういう計画にないことの方が後から思い出した時にいい思い出になるんだ……」


ドンッ!


「――よ!?」

「キャッ!!?」

 突然、メグミの巨体にスレンダーな女性が横道から突っ込んで来て激突、跳ね返されて、尻餅をついた。

「す、すいません!お怪我は!?」

「だ、大丈夫です……ワタシが慌てていたから……」

「うっ!?」

 顔上げた女性の顔がメグミにはキラキラと輝いて見えた。

「あ、当たりだ……またおれは当たりを引いてしまった……!」

「は、はい?」

「い、いえ!?あっ!手を貸しますよ!」

「ど、どうも……」

 女は差し出された手を取ると、力強く引っ張られ、立ち上がった。

「改めてすいませんでした……」

「いえ、ですからワタシが慌てていたのが悪いんです……」

「いや、こいつが悪い」

「ウンウン、無駄にデカいのが悪い」

「お前らな……!」

 普段でもこんな茶々の入れ方はムカつくというのに、一世一代の出会いの場でやられるとなると、メグミも黙ってられない。

「頼むから、邪魔しないでくれ!福引きで一等を当てたのも、全てはこのため……」


「待て!待ちやがれ!!女!!」


「「「!!?」」」

 突然の怒声。声がしたのは女の後ろから。そこには必死になってこちらに向かって走ってくる黒ずくめの男がいた。

「おい、メグミ……これもお前が引いた“当たり”か?」

「このために一等引いたのかい……?」

「そんなわけねぇと……信じたいけどな……!」

「とりあえず……オレ達の観光は今をもって終わったみたいだな……!」


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