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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
本土編
32/89

試すアフロ

 真っ白い壁に四方を囲まれた部屋の中心にアフロの大男が腕を組み、目を瞑って立っていた。

 その壁にたった一つだけある窓の外から三人の若者が彼を見守っている。


ウィーン


 これまたたった一つだけの扉が開くと、高級そうなスーツを華麗に着こなす男が部屋の中に入って来た。

 その手に重厚なケースを握りしめて……。

「待たせたな」

「いや、思っていたよりも、かなり早いぜ。随分と物分かりが良かったみたいだな」

「お前……!」

 全て理解した上で、嫌味を言う幼なじみをサバンは睨み付けた。

「おおう!恐い恐い!サバン君、もしかして君、無断で持って来ちゃったの?」

「あぁ!そうだよ!だらだらと手続きしてたら、決戦までに間に合わねぇからな!それに……」

「それに?」

「あんな奴らのご機嫌伺うなんて、もうごめんだ!困るんなら、困ればいい!ざまぁ見ろだ!」

「たはっ!開き直ると、やっぱすげぇな!痛快!痛快!」

 ビオニスは腹を抱えて笑った。サバンのこういう覚悟を決めたら形振り構わないところが彼は大好きだった。

 逆にサバンはビオニスのこういう気軽に無理難題を自分に押し付けるところが大嫌いだった。もうこれ以上、彼の不快な笑い声を聞いていたくないので、てきぱきと手に持っていたケースを開いて、彼に突き出した。

「笑ってないで!ほれ!」

「おっ!これが……」

 重厚なケースの中には、どこにでも売っているようなシンプルなデザインのブレスレットが一つ入っていた。

「皮肉だな……いや、これが運命というものかな……同じブレスレット型の待機状態を取るなんてよ……」

 一人呟きながら、ビオニスは左手首にそれを取り付ける。触れ合った皮膚から強い力の鼓動が全身に伝わっていくような奇妙な感覚をがした。

「いけそうか?」

「多分、装着はできると思う……」

「装着は……か」

 幼なじみの言い方に若干の違和感を感じたが、敢えて触れずにサバンはその場でターンをした。

「装着できるなら上等だ。今までは誰一人としてできなかったんだからな。是非とも最初の装着者になってくれ」

 そう言って、サバンは幼なじみを残して部屋から出て行った。

「言われなくても、やってやるさ……!」



「サバンさん」

「さっきぶりだね、アスト君」

 サバンはアスト達シニネ島の幼なじみ三人組と合流した。お互いまだ吹っ切れたわけではないが、それを圧し殺せるぐらいにはお互い大人である。

「あれが噂の『ベヒモス』なんですね」

「あぁ、ウォル君、君達の故郷に流れついた二体の特級オリジンズの内の一体、カウマ政府が引き取った死骸から造り出したピースプレイヤーだ」

「まさか、そいつがもう一体を素材にしたリヴァイアサンへの切り札になるとはなぁ~。運命とか感じちゃうぜ」

 メグミはあっけらかんに何も考えずに言った言葉だが、皆が皆、心の中で強く頷いた。特にアストは……。

(本当に運命だったのかもしれない……ガスティオンがシニネに来たことも、トウドウがリヴァイアサンを手に入れたことも、今回のこと全てが二体のオリジンズが漂着した時に決定付けられたように思えてしまう……もちろん、オレの力も……)

 アストは自分の手のひらをじっと見つめた。もし彼の思った通りならば、この先も……。

(だとしても!オレはオレの意志でオレの望む未来に歩いていくだけだ!それがアスト・ムスタベの生きざまだ!運命が決まっていても、オレは揺るがない!)

 アストは一人心の奥底で固く決心する。

今にも全身から溢れ出しそうなほどの情熱が身体中を駆け巡っていく。

「アストよぉ……」

「ん?」

「お前がそんなに気合を入れてどうすんだよ」

「そうだよ、今回の主役はビオニスさん。君の出番はないんだから」

「それは……そうか……」

 迸っていた熱が急速に冷めていく。冷静に考えてみれば、勝手に盛り上がって馬鹿みたいだなと思った。

「ふっ、いいトリオだな」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「純粋に褒めてるんだよ」

 そう言いながら、サバンは窓の近くに備え付けてあるマイクを手に取り、口元に近づけた。

『避難完了だ、ビオニス!お前の好きなタイミングで始めてくれ!』

 部屋の角に取り付けられたスピーカーから流れる幼なじみの声にビオニスは無言で首を縦に振った。

「ふぅ………すぅ……」

 身体から古い空気を追い出し、新しい空気を取り込むと、ブレスレットを着けた左手を顔の前にかざした。そして……。

「WakeUp、ベヒモス」

 部屋中が一瞬で眩い光に包まれる。そして、一瞬でその光が消えるとえんじ色をした屈強な重戦士が出現していた。

「あれが噂のベヒモスちゃんか……」

「なんというか……ゴツくて、明らかにコンセプトも違うし、色も真逆だけど……」

「あぁ、雰囲気がどこかリヴァイアサンに似ている気がする……この心をざわめかせるようなプレッシャーは奴と相対した時と同じだ……」

 アストにはベヒモスの姿と群青の竜が重なって見え、思わず身震いする。生物として誰もが持っている根源的な生存本能を刺激し、確かな恐怖を駆り立てるようなオーラが両者にはあった。

『宣言通り、装着はできたな!で、着心地はどうだ?』

 スピーカー越しに幼なじみに問いかけられるとビオニスは感触を確かめるように身体を動かしながら、纏ったえんじ色の装甲をじろじろと観察した。

「悪くない……ファーストインプレッションは最高と言っていい……」

 満足げに手を開いては、握るを繰り返す。しかし……。

「しいて一つ文句を上げるとしたら……」

『色か』

「色だ」

 スピーカーから大きなため息がこぼれる。

『俺としては、いつものショッキングピンクよりマシだと思うんだけどな』

「お前の意見なんてどうでもいい。俺は他人によく見られたいから、あの色にした訳じゃない……ただ俺がカッコいいと思ったから!そうしたいからそうしただけだ!他人なんて関係ない!!」

『おぉっ!』

 今度はスピーカーから感心したような若者達の声が聞こえて来た。その声に“決まった!”と鼻息を荒くする……が。

『いや、お前、いつもパットにダサいって言われてるの気にしてるじゃん。怒ってるじゃん』

「うっ!?」

『ええっ……』

 サバンの言葉で一瞬で若者達の心はビオニスから離れて行った。

「わざわざ言わなくてもいいだろうが……!」

『若者達に、時には情けないところを見せてあげるのも大人の役目だと、俺は思うぞ』

「ふん!お前の矜持など知ったことか!つーか、特級ピースプレイヤーは使用者の好みに合わせて、見た目を変えたら適合率がアップしたなんて話もあるじゃねぇか!本当にピンクにできねぇか?」

『時間もないし、そもそも黙って持って来たって言ってるだろうが。そんなことしたら、勝手にベヒモスを持ち出したことがバレて、俺達二人仲良くクビだ』

「それも……そうか……はぁ……」

 大きな肩を落として、大きなため息をつく。それを強化ガラス越しに見ながらサバンは傍らに置いてあったタブレットを手に取り、なにやら操作をしだす。

『ごちゃごちゃ言ってないで、始める……ぞっと!』

 サバンがタブレットの画面をポンと叩くと、ベヒモスのいる部屋の天井についている機械から、床に向かって光が発せられる。

 その光の中からここにいるみんながよく知った“あれ”が三体現れた。

「ゴウサディン・チュザイン!しかも三体もいるぜ!すげぇな!おい!」

「いや、立体映像だから。ホログラムを相手に訓練するための場所だって、来る時説明したよね」

 子供のように目を輝かせるメグミにウォルは呆れた。だが、その隣でもう一人の幼なじみも……。

「いや!わかっててもすごいものはすごいさ!やっぱ本土はヤバいな!ウォル!」

 アストも目をキラキラさせている。その姿を見て、ウォルは頭を抱えた。

「そういう田舎者感丸出し状態になるのが嫌だったのに……」

「フフッ!本当にいいトリオだな、君達は!」

 笑いながらもサバンの指は止まっていない。トントンと小気味良くタブレットをタッチしていく。

「よし」

 そして、恙無く全ての作業を終了したようだ。

『準備完了だ!いつもより強く設定してあるけど……』

「問題ない」

『あと、そいつのウリは全身に装備された銃火器だがここでは使うなよ!』

「わかってるよ」

『じゃあ、訓練開始までカウントダウン!十秒前から始める!』

「おおう」

 ついに始まるのかとアスト達は固唾を飲んだ。一方の当事者であるビオニスは初めての特級ピースプレイヤーだというのに、大して緊張していないようで、のびのびとトレッチをしている。

『十……九……』

「ふぅ……」

『八……七………GO!!』

 六ではなくGO!五でもなくGO!サバンはカウントダウンを無視して、ゴウサディン達に命令を下したのだ!

 その命令に従って三体のゴウサディンは一斉にベヒモスに……。

「オラァッ!!」

「!!?」

 飛びかかる前にベヒモスのラリアットが炸裂!えんじ色の太い腕が首に触れると、機械が撃破されたと判断して、ゴウサディンは光の粒子となって消えていく。

「サバン……てめえならカウントダウンなんて守らないと思ったぜ。そもそもヨーイドンで始まるスポーツじゃねぇからな!実戦は!!」

 間髪入れずに次のターゲットに狙いを定め、突っ込んでいく!その姿はまるで飢えた野生の獣のよう!

「ピピッ」

 ゴウサディンも黙って見ているだけではない。正確無比なジャブで牽制する!……が。

「精密過ぎて読みやすいんだよ!」

 華麗なステップで一発、二発と拳を掻い潜り、あっという間に懐に入り込んだ!

「二体目ぇっ!!」

 アッパーカットがクリティカルヒット!二体目のゴウサディンも光となった。

「ピピッ!」

 ベヒモスの背後から最後の一体が強襲!ハイキックで二本の立派な角の生えた頭部を狙う。

「だから……見えてんだよ!」

 しかし、ベヒモスは大きなその身体から想像できない軽快さでしゃがみ込み、キックをあっさりと回避する。しかも、それだけでは飽き足らず……。

「よっと!」

「ピ!?」

 そのまま反転して足払い!ゴウサディンは無様に仰向けになって地面に倒れる。そして、仕上げに……。

「ラストぉ!!」


ドン!


 立ち上がり、ホログラムの頭を踏み潰す!床と足の裏がぶつかる音がすると、その周辺から光の粒が舞い上がった。

「ウォーミングアップには、ちと物足りなかったな」


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