元凶
「ふぃ~、食った、食った!やっぱ、朝はバイキングだよな~」
アストは満足そうに普段よりも滑らかな曲線を描いた腹をポンポンとリズムよく叩いて、ソファーに腰を下ろした。
トウドウとの激戦から一夜明け、ホテルの朝食を堪能したのだ。戻ってきたホテルの部屋の上等なソファーは重くなった彼の身体を優しく受け入れ、それが心地良くて、さらにアストの心を満たしていく。
「君……昨日の今日でよくあんな食べられるね……」
彼の友人ウェルター・ナンジョウは不思議そうに異様に元気なアストを見つめる。もしかしたら、彼は……。
「空元気なんかじゃないぜ、ウォル」
「――!?」
自身の心中を完璧に言い当てられて、ウォルは言葉を失った。そんな彼にアストはニコリと笑いかける。
「ビオニスさんと約束したからな。切り替えるって」
「でも、だからといって……」
「迷っていたら、トウドウには勝てない。あいつは自分のやっていることに迷うなんてことないからな……善か悪かじゃないんだ、勝つのは自分信じられた奴なんだ……!!」
「アスト……」
ウォルは友の瞳の奥に燃え滾る決意の炎を確かに見た。もう覚悟は決めたのだと。
「ウォル、アストの言う通りだ。ウジウジ悩んでたって何にもならねぇ。今はとりあえず食後のコーヒーを楽しめよ、ほれ」
もう一人の友人メグミ・ノスハートは見た目と違って、気遣いのできる男で二人が話している間にコーヒーを入れて持って来てくれた。テーブルの上に湯気と香ばしい香りが立つマグカップが並べられる。
「サンキュー、気が利くじゃないの」
「ふん」
アストはご機嫌に素敵な苦味を持った黒い液体を啜った。
「ありがとう……けど……」
一方のウォルは未だに顔を曇らせていた。それにはメグミもさすがに腹が立ってくる。
「ウォル!切り替えろよ!いつまで……」
「いや、ぼく、ブラックコーヒー飲めないんだよね」
「へっ……」
「っていうか、幼なじみなんだから知ってるよね?君の方が切り替えられてないんじゃない?」
「てめえ……人がせっかく気ぃ遣ってやったのによぉ!!砂糖とミルクだな!!」
「砂糖は二つね」
「はははっ!」
文句を言いながらも、幼なじみのためにUターンするメグミの姿に、アストの顔が綻んだ。そして、心の中でもう一度感謝をした。ずっと一緒にいてくれて、ありがとうと。
トントン
楽しい団らんが落ち着こうとした時、ドアをノックする音が部屋の中に響いた。
「来たか……」
笑顔が一瞬で消え、真剣な面持ちに……アストは再び気持ちを切り替えた。
この後、来訪者と話し合うことは自身の文字通り命運を左右することなのだから。
「もう約束の時間か……アストは座ってなよ、ぼくが行くから」
そう言うと、トコトコと小走りでウォルはドアに向かって行った。
“ガチャリ”と音がしたと思ったら、すぐにまた“ガチャリ”。そして、増えた足音がこちらに近づいてくる。
「よぉ!とりあえず元気そうだな!」
「おかげさまで、ビオニスさん」
ウォルに連れられて、大きな身体に大きなモジャモジャを乗せた見知った男と、細身のスーツを着こなす、いかにも仕事ができそうな見知らぬ男がアストの前に現れた。
「あの……」
「あぁ、リサとパットなら今日明日ぐらい安静にしていれば、すぐに元気になるってよ」
「それは良かったですけど……」
「だな。元気になったら、鍛え直してやんねぇと。エヴォリストとは言え、ただの学生に守られたとなっちゃ、ピンキーズの名折れだ」
「いや、そうじゃなくて!」
「ん?どした?」
「その人……紹介してくれませんか……?」
「あぁっ!悪い悪い!」
アフロの隊長、ビオニスは自分のおっちょこちょいっぷりに苦笑しながら、隣の男の肩に親しげに手を置いた。
「こいつは『サバン』。俺の幼なじみ。まぁ言うなれば、お前にとってのウォルとメグミみたいな奴さ」
「はぁ……幼なじみ……」
だからなんだという感想しか、アストには出て来なかった。まるで得体の知れないものを見るようにサバンとやらに奇異の目を向ける。
「……ビオニス……説明不足にも程があるだろ……」
その視線と幼なじみの間抜けさに耐えられなくなったサバンはビオニスの手を払い、服を整えた。
「改めて……私はサバン。一応、こいつの上司に当たる。君の……君達のことは聞いているアスト君」
「あっ!よろしくお願いいたします!」
サバンがペコリと軽く頭を下げると、アストも慌てて立ち上がり、同じように頭を下げた。
「そんなに畏まらないでいいよ」
「はい……で、上司っていうのは……」
「あぁ、こいつが隊長を務める第二を含めて、五つあるイフイピースプレイヤー特務部隊のまとめ役ってところだな」
「俺達が現場で好き勝手動けるように、こいつがあれやこれやの雑務とか、面倒ごとをやってくれてるみたいな?そんな感じ」
「お前……そんな風に俺のことを思っていたのか……」
はぁ……と、サバンは深いため息をついた。なんにも自分の仕事を理解していない愚かで大雑把な幼なじみに心底呆れて。
一方のアストもサバンの仕事については、何にも理解できていない……まぁ、あの説明で理解しろという方が酷な話だが。というより、彼が本当に知りたいのはサバンが何者かよりも、何しに来たのかだ。
「そうなんですか……それでサバンさんはどうして……?」
「それは私も聞きたい」
「えっ?」
「私もビオニスに連れて来られたんだ……半ば無理やりにな」
サバンは横目で幼なじみを非難する。それに対して、ビオニスは悪びれもせず、へらへらとニヤついていた。
「無理やりって……お前なぁ……」
「事実だろ?何のために俺を呼んだんだ?」
「いやいや、賢いお前ならわかるでしょうに」
ビオニスの軽薄な態度にサバンは苛立った。顔をしかめて、睨み付ける。
「お前なぁ……!!」
「本当にわかんねぇって言うなら、俺はてめえを許さないぞ、サバン……!!」
「――ッ!?」
和やかだった部屋の空気が一瞬で凍りつく。ビオニスの全身から発せられる圧倒的なプレッシャーに飲み込まれ唾を飲むことさえ躊躇われた。ビオニスに逆に非難の視線を向けられるサバンに至っては自然と足が後ろに下がっている。
「まさかビオニス、お前は……!?」
「証拠はばっちり確保してあるぜ……!!」
二人の会話の内容は先ほどにも増して、意味不明だったが、アストもウォルも質問することができなかった、とてもじゃないができる雰囲気じゃなかった。
体感では現実よりもずっと長い沈黙の時間が流れる。しかし、勇気ある者がこの空気を打ち破るために動く!
「あ、あの……」
「!?」
「コーヒー淹れたんですけど……」
メグミが新たに淹れたコーヒーをお盆に乗せてやって来た。ここしかないと、アスト達も彼に続く。
「そ、そうですよ!コーヒー飲みましょうよ!」
「メグミの淹れたコーヒーは美味しいですよ!」
「まぁ!ホテルに備え付けてあったマシンを使っただけなんだけどな!」
「さぁさぁ!お二人とも座って!」
三人が長年の付き合いで培った連携を発揮し、場を少しでも和らげようとする。その結果は……。
「ふぅ……わかったよ……サバン、話は後だ」
「あぁ……」
和解……とまではいかないが、どうやらもう一組の幼なじみは一時休戦することにしたようだ。アストに言われた通り、彼の対面のソファーに腰かけ、宥めるように優しい香りを発するコーヒーを啜った。
「……美味いな……」
「あぁ……落ち着くよ……」
「おおッ!」
「良かったな!メグミ!」
「備え付けのマシンの奴だけどな!」
二人の言葉とほんの少しだが確実に緩んだ口元に三人は胸を撫で下ろした……のも、つかの間。
「で、本題だが……」
「へっ!?」
さっきよりはマシだが、空気がまたピリついた。
森の中で初めて会った時以来のシリアス全開のアフロに戸惑うが、アスト達はいつまでも大人達の顔色を伺っていても仕方ないと思ったのか、むしろとっとと終わらせた方が得策だと考えたのか、覚悟を決めてソファーに座った。
「ふぅ……本題っていうと、三日……いや、二日後のトウドウとの戦いの件ですよね」
「違うぞ」
「そうです……ん?違うって?」
「そのまんまの意味だ。トウドウの話じゃない」
出鼻を挫かれた離島の幼なじみ三人組は仲良く目を点にする。その間にビオニスはもう一口コーヒーで喉を潤した。
「ふぅ……いや、トウドウの話もおいおいするつもりだが、まずは……『ガスティオン』の話からだ」
「ガスティオン……」
三人にとってはその名前は忘れられないものだった。
突如、彼らの故郷シニネ島に飛来し、死に際に放ったガスで島民達を狂暴化させた憎き特級オリジンズ。それと同時にアストに大いなる力を与えてくれた存在でもある。
しかし、ここでその名前が出るとは思っていなかった。怒りや憎しみよりも疑問の方が強く、三人の頭の上に?マークが浮かんだ。
一方のサバンはガスティオンの名前を聞いた瞬間、拳を握り、目を伏せた。断罪の時を待つように……。
「俺はな、一時の短い間だが傭兵として世界を放浪していたことがあったんだ」
「へぇ……それは……」
「なんというか……」
「納得です」
色々と取り乱していた三人だったが、ビオニスの過去については特に驚きもしなかった。彼の纏う雰囲気というかオーラは国家という組織に属する公務員よりも、己の力だけで生き抜く傭兵と言われた方がしっくりくるファンキーで野性味溢れたものだったからだ。
「その時にガスティオンの話も聞いたことがある……別名『王を導く流星』のな」
「王を導く流星……」
「セリオさんに教わったな」
「うん」
彼らはその異名についても覚えがあった。むしろガスティオンという正式名称よりも印象深い。なぜなら……。
「あんなずんぐりむっくりしたオリジンズになんでこんな異名がついてんだ……」
「「「!?」」」
「そう思ったんだろ?」
突然、心の中を言い当てられて、アスト達は再び目が点になった。ビオニスは予想通りのリアクションに“くくっ”と小さく笑った。
「俺もさ。俺も話を聞いた時に同じように思ったよ」
「ビオニスさんも……?」
「あぁ、だけど理由を聞いたら納得したぜ……まんまなネーミングだってな」
またビオニスの顔が引き締まると、アスト達は若干前のめりになり、彼の一挙一動に集中した。単純に今は彼の話の内容に強い興味が湧いて来たのだ。
「ガスティオンっていうのは死ぬ時に人やオリジンズを狂暴化させるガスを出すのは知ってる……というか、目の当たりにしたからこんなことになってるんだよな」
「はい……嫌というほど……!」
「でも、その時までガスティオンという存在は知らなかった……」
「はい……確かにそうです……」
「おかしくねぇか?そんなヤバい奴なら、今までに一回や二回は耳に入ってきそうなもんなのに」
「それは……」
「言われて見れば……」
「そう……かもな……」
アスト達はお互いの顔を見合せ、首を傾げた。
「あっ!でも、ガスティオンってかなり珍しいんですよね!だから……」
「それも確かに理由の一つではあるよ、ウォル」
「じゃあ、普段は人間のいない……国際自然保護区の奥に引っ込んでいるから!」
「それもある。だが、それだけじゃないんだ、メグミ」
「だったら、なんで……」
「アスト……そもそもシニネ島のようなことは普通は起こらないんだよ……ガスティオンは誰にも迷惑をかけないように、誰もいない空の彼方まで飛んで行ってから、死ぬんだからな……」
「えっ……?」
突如として始まったクイズ大会は予想だにしない答えで打ち切られた。
アスト達はビオニスの言葉が理解できなかった……いや、むしろしたくなかったのかもしれない。彼の言うことが本当なら、自分達の怒りや憎しみをぶつける対象がなくなってしまうから……。
それでも彼らは知っている。真実から目を背けては、先に進めないことを。
「すいません……もう一度、言ってくれませんか……?」
「何度でも言ってやるよ……ガスティオンは本来なら、他者に迷惑をかける死に方をするようなオリジンズじゃない」
「じゃあ!……なんで……!!」
自然と言葉が強くなったが、若者は必死に堪えた。だが、同時にこの先を聞いたら耐えられないことも本能でわかっている。
ビオニスもそのことを理解しているから、少し口が重くなった。けれど、閉じることはしなかった。
「……本来あり得ないことが起こったんだろうな……」
「あり得ないこと……?」
「あぁ、天寿を全うしようとする直前に第三者に襲われたんだろ……」
「それって……!」
「オリジンズか……もしくは……“人間”にな……!!」
「「「!!?」」」
アスト達三人の脳裏に森の中でのビオニスとセリオの会話がフラッシュバックする。あの意味深なやり取りの意味がようやく理解できた!そして、ここにサバンがいる意味も……。
三人の視線が一斉にビオニスの隣に移動すると、サバンは許しを乞うように項垂れていた。
「サバン……さん……!」
「ッ!?」
名前を呼ばれると、身体中に電流が走った。サバンも彼らに全ての真相を伝えることが、今の自分ができるせめてもの贖罪だということはわかっているのだが、どうしても口を動かすことができなかった。
見かねた幼なじみが助け船を出す。
「お前達が聞きたいのは、なんでそんなことをカウマが……この国がしたってことだろ?」
「……はい」
「その理由はガスティオンのコアストーンにある」
「コアストーン……ですか……?」
「ガスティオンのコアストーンは適合したストーンソーサラーが使うと特殊な力を発揮する……人間やオリジンズを強化するっていうな」
「それ!シニネ島で起きたことと!」
「あぁ、一緒だ。唯一違うのは、そいつらをコアストーンを持ってる奴が自由に操れるってことだ」
「じゃ、じゃあ、“王を導く流星”って異名は……」
「その昔、空から降ってきたコアストーンを拾った奴が人間とオリジンズを操って大暴れ……そんで王様になったのさ。だから、あんななりして、王を導く流星と呼ばれるようになったんだ」
(だから、あの時のセリオさんは……)
ガスティオンの死骸の中からセリオが何を探していたのか、そして見つけたそれを何故海に投げ捨てたのかも、ようやくわかった。と、同時にまた沸々と怒りが沸き上がる。
「それを手に入れるためにカウマは……!」
「ぐっ!?」
再び三人の非難の視線を受けて、針のむしろになったサバンは限界を迎え、立ち上がった!
「俺は止めたんだ!コアストーンなんて手に入れたって使える奴がいなければ意味ないってな!でも、あのジジィどもは聞く耳を持たなかった!他に取られるよりはいいとかほざきやがって!ガスティオンは『国際特別保護オリジンズ』のリストに入ってるから、バレたら世界中から叩かれるっていうのによ!!」
「サバンさん……」
先ほどまでのスマートな印象が嘘のように涙目になりながら、サバンは感情を爆発させた。今の今まで溜めに溜めていた激情が本人の意志を無視して、とめどなく溢れ出した。
「こうなる可能性も予想できた……できたのに止められなかった……そのせいでシニネ島が……バイロン達が……」
そして、一通り言いたいことを言うと、再びソファーに腰を下ろし、両手で目を覆い、項垂れた。
「…………すまなかった」
振り絞るようなか細い声で謝罪されると、アスト達は何も言えなくなってしまった。
すると、今度はビオニスがスッと立ち上がり……。
「こいつは本当に止めようと思ったんだと思う……昔からそういう奴だから」
「ビオニスさん……」
「許せとは言わない、けどそのことだけはわかってやってくれ」
「……お前……」
「あと、俺もこの国に仕える者として謝らねぇとな……すまなかった……!」
ビオニスは大きなアフロを乗っけた頭をモサッと揺らして下げた。それに隠れてアスト達からは見えないが、表情には悔しさと後悔が滲んでいる。
「ビオニスさん……くっ!?」
アスト達はまた何も言えなかった、言えなくなってしまった。大の大人が心の底から後悔するその姿に、命の恩人とも呼べる存在の心からの謝罪する姿に、怒りをぶつける気にはどうしてもなれなかった。
「もう……いいですよ……」
「過ぎたことだから……って、簡単に割り切れませんけど……」
「だからといって、あんた達に当たっても何にもなんねぇからな……」
「………そうか」
ビオニスが頭を上げると、アスト達は皆、複雑な表情をしていた。ここでこれ以上言葉を尽くしても、お互いに虚しくなるだけだと思った彼は話を先に進めることにした。
「サバン」
「……なんだ……?俺は知っていることを全て話したぞ……」
自分を見下ろす幼なじみに対して、サバンは床に向かって言葉を吐き続けた。情けなくて、とてもじゃないが顔を見て話す気にはなれない。それでも……。
「顔を上げろ、サバン!本当に悪いと思っているなら、これからのことに!未来に目を向けろ!罪を贖なうためにも、立ち上がらねぇと!」
「今さら……俺に何ができると言うんだ……」
「あるさ!お前にできること!だから、俺はお前をここに呼んだんだ!」
「何……?」
サバンは竹馬の友の顔を見上げた。ビオニスの目はさっきまでの自分を非難する冷たいものではなく、信頼する友人と未来に進もうとする熱い決意の炎が灯っていた。
その眼差しがサバンの心に小さな火を着ける。
「……あるのか……?俺にできることが……?」
「あぁ、お前に俺から頼みたいことは二つ……一つ目はトウドウとの決戦は俺とアストの二人に任せてくれ……!」
「えっ!?」
いきなり名前を出されたアストが声を上げると、サバンは一瞬だけ彼の方を見て、首を激しく横に振った。
「駄目だ!一般市民を巻き込むわけにはいかないだろう!アイル・トウドウは特務部隊総出で捕まえる……それが筋ってもんだろ……!」
「そんなことはわかってるよ……俺だってできることなら自分達だけで、解決したい……」
「だったら……」
「だが、無理だ!リサやパットが二人がかりでやられるような奴を相手に数でどうにかしようとしても犠牲者を無駄に増やすだけだ!トウドウと、リヴァイアサンとやり合えるのは、残念ながらアストだけなんだよ!」
「だとしても!」
「サバンさん!」
サバンは突然自分の名前を呼ぶ声、その主の方に視線を向ける。そこにはこれまた強い決意を秘めた瞳を持った青年がこちらを見つめていた。
「オレも……オレ自身もトウドウとは自らの手で決着をつけたいです……!」
「アスト君……しかし!?」
「悪いと思っているなら、オレの頼みを聞いてください!」
「!?」
「……勝負ありだ、サバン」
「……あぁ」
サバンは深呼吸をした。
これが自分が犯した罪に対しての罰なのだと理解するため。
それを受け入れた結果、もっと恐ろしい罪を犯すことになるとしてもそれを背負っていく覚悟を決めるために……。
「わかった……君の言う通りにしよう。どんな結果になろうと私が責任を取ろう……」
「ありがとうございます」
いつもの癖で頭を下げそうになったが、止めた。それをすると余計にサバンの心が曇ってしまう気がしたから。
けれど、サバンはその心遣いに気づいていた。その気持ちが嬉しくもあり、何より辛かった。
「よし!じゃあ、一つ目はOKってことで!」
ビオニスは胸の前でパンと手のひらを合わせた。その音に釣られるようにサバンが再び彼を見上げる。
「で……二つ目ってのは……?」
「おう、偉そうなことは言ったけどよ……俺の見立てじゃ、今のままだと勝率三割ってところだ」
部屋の空気がまたピリついた。この部屋にいる人間は皆、ビオニスという人間の強さと経験を信頼している。だから、彼が軽く口にした今の言葉は絶望的で、聞いていた者の心に重くのし掛かったのだった。
「それだけ……いや、そこまでの奴なのか……?」
「あぁ……間違いなく、このままだと敗北濃厚だ」
「それを逆転するために俺……に!?まさかお前!?」
サバンは何かに彼の思惑に気づき、思わず立ち上がった。
ビオニスはというと面白い悪戯を思いついた子供のようにニヤリと笑っている。こういう顔をしている時は録でもないことを考えている時だと幼なじみは知っていた。
そして、今回も案の定だ。
「そのまさかだよ……特級ピースプレイヤー『ベヒモス』を俺に使わせろ。それが二つ目だ」




