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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
本土編
30/70

進化する悪

 自分が起こした炎をビオニスは見つめていた……自分の無力さを噛みしめながら。

(もうちょいスマートにやれると思ってたんだけどな……いや、俺の想像を上回った奴を褒めるべきか……)

 なんとか自分を納得させたビオニスはくるりと反転し、火柱を背に歩き出す……つもりだったのだが。

「ビオニスさん!」

「アスト……」

 彼の下にもう一体のブルードラゴン、覚醒アストが駆け寄ってきた。ビオニスの前で立ち止まり、そびえ立つ炎を見上げる。

「この火柱……やったんですね……」

 炎に照り返された青色の顔は言葉とは裏腹に曇っていた。いまいち表情がわかり辛い覚醒体だが、ビオニスは敏感にその機微な変化を感じ取った。

「悪かったな……」

「えっ!?なんでビオニスさんが謝るんですか!?」

「だって、お前あいつのこと助けたかったんだろ……?」

「それは……」

 自分の気持ちをズバリ言い当てられて戸惑うアストに、ビオニスはド派手なピンクの仮面の下で優しく微笑みかけた。

「そう思うのは、別に悪いことじゃない。お前はお前の思うままに、信じるままに行動すればいい……」

「ビオニスさん……」

「けどな……」

 ビオニスの表情が一転、険しくなった。アストには仮面で隠れて見えなかったが、纏う雰囲気の変化には気付き、自然と背筋が伸びた。

「けどな……力がなければ、実現できないこともこの世界には多々ある。お前がどんなに強く願おうと、それが正しいことだろうと力がなければ、ただの夢物語で終わるんだ……今回の、トウドウのこともそうだ」

「……はい」

 自分の感じていたことを、目の前で第三者に言語化されるのはかなり堪えた。それでもアストはビオニスの言葉を噛みしめ、彼から目を決して逸らさない。

 ビオニスはそんな彼の肩をポンと叩いた。初めて会った時のように。

「まぁ、偉そうに言ったけど、俺も同じさ。多少、痛い目は見せるつもりだったが命まで取るつもりは更々なかった……」

「でも……結果は……」

「俺の力不足だ。いや、言い訳になるが、あいつの強さは俺の想定を遥かに越えていた。しかも、戦いの最中にさらに力を増していくしな」

「そんなに……ですか……」

「お前も感じていたんじゃないか?奴の成長……むしろ、解放を……」

「解放……?」

 訝しむアストにビオニスは小さく頷いた。

「奴の潜在能力は凄まじいの一言だ。恐ろしいまでの戦闘センスを持っている……だが、それを使う必要は今までなかった。一般市民を殺すだけなら、あの強さは過剰だからな……だけど、奴は俺やお前に出会ってしまった」

「オレに……」

「強敵の存在が、蓋を壊してしまったんだ。そうなったら、もう止まらない。ただひたすら力を増していくだけだ……その証拠に……」

 ビオニスは抉られたようなハイヒポウの装甲をアストに見せた。

「そのダメージ……トウドウが……」

「あぁ……完全に動きを読んでいたのに、避けられなかった……トウドウ自身も最悪だが、リヴァイアサンというパートナーを得たことも最悪としか言いようがない。運命か必然か、出会ってはいけない二つが交わってしまった。多分あのまま戦闘を続けていたら、たどり着いていただろう……」

「たどり着く……それって……」


「“完全適合”のことかい?」


「「!!?」」

 両者は一斉に声のした方向、炎に視線を向ける。そこには……。

「ビオニス・ウエスト……あなたの言う通りだ……あなたとムスタベが僕とリヴァイアサンを更なる高みに連れて行ってくれた……!」

 燃え盛る真っ赤な炎の中から、水の球に包まれた群青の竜がゆっくりと出てきた。

「まさか、あれだけ爆発に巻き込まれても無事だとはな……!」

「だから、君達のおかげだよ。君達が限界まで追い詰めてくれたからこの力を目覚めさせることができた……」

 リヴァイアサンは指をパチンと鳴らすと彼の身体を守っていた水の球が四方に弾け飛んだ。

「今の水のドーム……いや、バリアか……!?あれは……」

 アストの胸の奥で嫌な予感が渦巻く。もしビオニスが言っていたことが本当ならば、自分は大きな過ちを犯してしまったのではないかと……。

 そして、残念ながらその予想は当たっていた。

「あぁ……君の真似をしたんだ、アスト・ムスタベ……!君のように僕も水を操れると信じて!試してみたんだよ!そしたらこの通りさ!」

「そんな……」

 最悪の想定が的中して、アストはまた立ちくらみを起こしそうになった。しかし、これまた残念だが、体調を崩す暇も、後悔する時間も今の彼にはない。

「アスト……ごちゃごちゃ考えるのは後だ……!」

「ビオニスさん……」

「ここで奴を仕留める……!そのためには情けねぇが、俺達二人がかりでやらないと無理だ……!」

 すでに気持ちを切り替え、戦闘体勢に入っているピンクのハイヒポウの姿にアストも迷いを振り切った。

「……はい、オレ達でトウドウを止めましょう……!」

 再び闘志に火をつけたアストとビオニス。それに対して、トウドウは……。

「やる気満々なところ申し訳ないけど、今日のところは失礼させてもらうよ」

「な……」

「にぃッ!?」

「ぷっ!」

 予想だにしない言葉に突拍子もない声を上げてしまった二人のみっともない姿に、トウドウは思わず吹き出す。

 もちろんビオニス達からしたら、全然面白くない。

「……笑ってるんじゃねぇよ」

「失敬。けど、ついね」

「つーか、自分で自分が何を言っているのか、わかっているのか……?」

「わかっているさ。僕はね、この新しい力をもっと知りたいんだ。だから、少し一人……リヴァイアサンとの時間が欲しい……」

 自らの存在を確かめるように群青の竜は胸の前で拳を握りしめ、それを真っ赤な眼で見つめた。

「だから、三日後だ。三日後に『ロド海岸』の岩場で会おう。あそこなら人もいないし、君達も身体を癒して、万全の状態で戦う方が気持ちいいだろう?僕も“疲れてたから、負けたんだ!”みたいな言い訳は聞きたくないしね」

 アスト達の方を向き直し、べらべらと一方的に言葉を並べるトウドウ。これには進路に悩む学生もアフロの隊長も我慢の限界だ。

「勝手に約束して、勝手に心配して、勝手に俺達に勝った気でいるようだけどよぉ……」

「オレ達が聞いたのは、そんな下らない話じゃない……」

「へぇ……そうなの……?じゃあ、何……?」

「てめえは本当に俺達から逃げられると思ってるのかよってことだ!!」

 ビオニスの怒りの咆哮を合図にアストと同時にリヴァイアサンへと飛びかかった。

 群青の竜はその場から動かない。動けないのではなく、動かない。そんな必要ないからだ。

「逃げられるかって……当然、思ってるよ」

 リヴァイアサンは手のひらを広げるとその指の先に水の球が出現した。

「まさか!?」

「そのまさかだよ。確かなんかダサい名前の……そう、“散青雨”だ」


バシャッ!!


 リヴァイアサンが手を下から上へ振り抜くと、指の先にあった球は無数に分裂しながら凄まじいスピードで飛んで行く。

「ビオニスさん!」

「わかってる!」

 アストの呼び掛けの前に、既にピンクのハイヒポウは防御体勢に入っていた。もちろんアストも青色の腕で前方を覆っている。


バババババババババババババッ!


「くっ!?」

「ちいっ!?」

 視認できないほど小さくなった水の粒がアスト覚醒体とビオニスハイヒポウの身体の表層を凄まじい勢いで叩いていく。全身に細かな衝撃が絶え間無く伝わり、ダメージ自体はほとんど無いが、ほんの一時、彼らの足を止め、視界を奪った。アイル・トウドウの狙い通りに……。

「このぉ!!」

 青色をした腕を勢いよく振り、水滴を払うアスト。金色の眼を見開き、再びターゲットを捉えようとするが……。

「……いない……!?」

 彼の目に見えるのは、いまだに炎上している車のみ。かつての友人で今は宿敵、トウドウの姿はどこにもなかった。

「逃げられたか……」

 無駄だとわかっていても、周囲を見渡し、ターゲットを探すビオニス。けれど、やはり群青の竜は見る影もない。


ポツポツ………


 二人の闘争心を静めるように、彼らの心を慰めるように天から雫が一滴、二滴と雨が降りだした。

「こりゃ、本降りになりそうだな……」

 ピンクの装甲の表面を流れる水滴を見ながら、ビオニスは一人呟く。トウドウの捜索を断念、諦めるためにはちょうどいい理由だった。

「アスト!ここは後から来る警察に任せて、ホテルに戻ろう!ウォルやメグミも既に向かっているはずだ!」

「…………」

 ビオニスの呼び掛けにアストは応えなかった。ただ呆然と雨によって勢いをなくしていく炎をじっと見つめている。

「アスト!」

「…………」

「アスト!」

「…………」

「アスト・ムスタベ!!!」

「――!!?は、はい!?」

 ようやく現実世界に帰還し、アストはどしゃ降りの夜という視界最悪のロケーションでも、すぐに視認できるド派手なビオニスハイヒポウの方へ振り返った。

「呆けてるんじゃねぇよ」

「すいません……」

「……まぁ、気持ちはわかるけどよ……でもここにいたって何にもならねぇ!俺達は今、できることをやるしかねぇんだ!」

「……はい」

「わかったら、ホテルに行くぞ。ここからなら……歩いて行けるだろ」

 ハイヒポウはくるりと反転し、歩き出す……つもりだったが。

「あ、あの!!」

 アストが彼を呼び止める。ハイヒポウは顔だけ振り向き、肩越しに再び優しい青色をした龍を見つめた。

 アストの方はというと、また炎の方に向き直し、ビオニスに背を向けている。

「なんだ?まだ何かあるのか……?」

「あの……五分!いや、三分でいいんで待ってくれませんか!?それで……切り替えるんで……!」

「アスト……はぁ……お前って奴は……」

 ビオニスは彼の心中を察し、一回ため息をつくと、ショッキングピンクの後頭部をガリガリと掻いた。

「一分だ!俺の部下なら秒で切り替えろって言うところだが、お前は学生だからな……おまけしといてやるよ」

 そう言うとビオニスはアストから目を背けた。

「ありがとうございます……」

 アストは天を仰ぐ。すると、青き龍の頬を雨粒が濡らした。


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