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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
本土編
29/93

戦うアフロ

「なんで、あなたがここに……?」

「おう!昨日ぶりだな、アスト・ムスタベ」

 戸惑うアストに大男といって差し支えないビオニスはぱちりと茶目っ気たっぷりにウインクをした。

「ここに来る途中でリサ達にも会った。あいつらも無事だぜ」

「それは……良かったですけど……」

「お前のおかげだ。お前のおかげで、みんな助かったんだ……だから、もう十分だ……!」

 穏やかだった顔が一変、険しさを増しながら、この事態を引き起こした張本人、アスト以外には誰からも望まれてないのに地獄から帰ってきた殺人鬼トウドウの方に向ける。

「選手交代……ここからは俺が引き受ける……!」

「ビオニスさん……」

 その力強い声、立ち姿、ビオニスという存在にアストはこの戦場において確かな安心感を覚えた。最初は度肝を抜かれたあのモサモサの頭も心なしかカッコ良く感じる。

 一方、トウドウはいきなり現れ、生意気にも自分に宣戦布告をしてきた男に不快感マックスだ。

「なんだ、急に出てきて……僕達二人の神聖な戦いの邪魔をするな……!」

「するさ。そういうお仕事なんでな、俺の職業は。ったく、嫌な予感ってのは当たるもんだな。急いで帰ってきて正解だぜ……まさか、シリアルキラーが復活して、そのサイコ野郎にあいつらがやられるなんてよ……」

「ん?あなたもさっきの女達の同僚か?」

「ちょっと違う……上司だ……!」

 ビオニスは今にも爆発しそうな怒りを抑えながら、胸にかけてあったサングラスを顔の方に……。

「俺の部下に手を出しておいてただで済むとは思うなよ……!」

「その言い方、まるでマフィアだな」

「そいつらを取り締まるのも仕事だ……だったら、そいつらより恐くて、強くねぇとやっていけねぇだろ?」

「そうなのか?怖さはともかく……強くはなかったよ、あなたの部下達」

「あぁ……だからお説教だ……てめえをぶっ倒してからな!」

 ビオニスはその目にサングラスをかけた!

「カモン!ハイヒポウ!!」

 眩い光が周囲を照らし、ビオニスの身体を装甲が覆っていく。

 リサ達と同じ中級ピースプレイヤー、ハイヒポウ。けれど、彼女達のものとは違い、全身がド派手なショッキングピンクにこれまたド派手なタトゥーのような紋様が各部に刻まれている。そのド派手なピースプレイヤーこそがイフイ第二ピースプレイヤー特務部隊の隊長の愛機にして、彼が率いるチームの愛称“ピンキーズ”の由来となったマシンだ。

 ビオニスハイヒポウは銃を呼び出し、リヴァイアサンに向ける。リサが両手で構えていたものを軽々と片手で。

「蜂の巣になりな」


バババババババババババババッ!!!


 銃口が激しく点滅し、無数の弾丸が闇夜放たれる!向かう先はもちろんリヴァイアサン!しかし……。

「その攻撃はさっきあなたの部下に見せてもらったよ」

 群青の竜は先ほどと同じように、あっさりと弾丸を避けていく。

「聞いてはいたが……想像していたより、ずっと速い……」

 凄まじい反動があるはずだが、ビオニスはまったく動じることなく、引き金を引き続ける。だが、発射される弾丸は一向に当たる気配がない。

「サイコな殺人鬼と、それと適合する特級ピースプレイヤーか……めんどくさいな」

「だったら、すぐに終わらせてあげるよ!」

 左右にステップを踏んでいたリヴァイアサンが方向転換!前方に“敵”に向かって突進してきた!そして、いとも容易くハイヒポウの懐に入る。

「こいつ!?いつの間に!?」

「はっ!部下が部下なら上司もこの程度か……?」

 困惑するビオニスを見上げながら、余裕綽々で挑発をするトウドウ。そんな自分を、戦いを舐め切った殺人鬼にビオニスは……!

「てめえ!!」

 拳を振り上げる!

「だから、遅いってば」

 けれど、リヴァイアサンは振り下ろされる拳をまた難なく回避……できなかった。

「なんてな」

「……えっ?」

 振り下ろされるはずの拳は急速に軌道を変え、回避運動に入ったリヴァイアサンを迎え撃つように下から……。


ゴオォォン!!


「……がはっ!?」

 炸裂した!意図的にやったのか、それとも偶然なのか部下達にやられたことを、そっくりそのままやり返すように群青の腹部にピンクのナックルが深々と突き刺さり、トウドウの身体から空気を追い出す。

「めんどくせぇとは言ったけどよぉ……対処できないとは言ってない……ぜッ!!」


ガァン!!


「がっ!?」

 体勢を直すどころか、新しい酸素を吸い込めてすらいないトウドウに容赦なき追撃!さらに、たじろぐ群青の竜にピンクの獣は銃口を突きつけた。

「この距離ならさすがに避けられねぇだろ」


バババババババババババババッ!!


「ぐうぅ!?」

 深い青色をした装甲に弾丸の雨が降り注ぐ!リヴァイアサンも身体を必死に丸めて被弾面積を減らそうとするが、抵抗虚しく全身に小さな傷やへこみを刻んでいく。

「ぐぅ……くそっ!?」

 なんとか横っ飛びで弾丸の雨から逃れた……が。

「所詮はただの殺人鬼……見え見えだぜ」

「なっ!?」

「でりゃあっ!!」


ガギンッ!!


「――ぐうぅ!?」

 リヴァイアサンの動きを完全に読んでいたビオニスは先回りをして、自分に突っ込んで来る竜にカウンター気味に強烈な蹴りをお見舞いしてやった。

 だが、ビオニスハイヒポウの攻勢はまだ終わらず、更なる追撃を……とはならなかった。

「ふぅ……このまま一気呵成に行きたいところだけど、やめておこう。まったく……悔しいけどよぉ……前言撤回しねぇとな……」

 ビオニスは逸る気持ちを必死に抑えた。その足から伝わる衝撃のせいで……。

(あのタイミング……完璧だった。間違いなく奴を再起不能にする一撃だった。だが、あの野郎はあろうことかガードした挙げ句、蹴り入れた俺の脚に逆にパンチを入れやがった……!!)

 ピンクのハイヒポウの脚に先ほどまでなかった新しい紋様が刻まれていた。ビオニスの説明通り、リヴァイアサンのカウンターを食らったことによって亀裂が入ったのだ。

(ただの殺人鬼じゃねぇ……あいつは一流の戦士だ。いや、違う……今この瞬間に一流になろうとしているんだ。中身のトウドウとか言う殺人鬼自身の成長、それに伴い適合率を上げていく特級ピースプレイヤー……遊んでる場合じゃねぇな……!)

 トウドウに対する認識を改めたビオニスは密かに覚悟を決めた。

 一方のトウドウも目の前のアフロ男について考えを改めていた。

(……部下とは違うというわけか。あいつらが二人で行っていた誘導と攻撃を一人で、しかもさらにハイレベルで実行できるとは……恐れいったよ、ビオニス・ウエスト……)

 他人を信用もしないし、尊敬もしないはずのトウドウがビオニスには感心し、敬意のようなものを感じていた。まぁ、だからといって、彼の行動は変わることはないのだが。

(認めよう……ピースプレイヤーの戦いでは今の時点では場数の差から、あいつには勝てない……だったら、別のところで勝負するだけだ……!)

 トウドウも覚悟を決めた。勝利のために手段を選ばない、屈辱を受け入れる覚悟を……。

「やるよ……リヴァイアサン……!無茶をするよ!!」

 先に動いたのはリヴァイアサン!今まで以上のスピードでハイヒポウに突進していく!

「来るか!シリアルキラー!!」

 ビオニスは文字通り、迎え撃つ!再び銃で自身に向かって来る竜に狙いをつけ、引き金を引く!


バババババババババババババッ!!


 何度目かになる銃弾の嵐が闇夜に吹き荒れる!しかし、今回は今までと少し違った。


キンキンキンキンキンキンキンキン!!


「ぐうぅ!」

 リヴァイアサンは回避などせず、弾丸を受けながら突っ込んできたのだ!

「真っ直ぐだ!僕とリヴァイアサンに回り道はいらない!!」

 一直線にハイヒポウの下へと進むリヴァイアサン!そして、遂に敵を射程の中に捉えた。

「喰らえ!その目障りなピンクを紅に染めるがいい!!」

 放たれるのは、必殺の貫手!宣言通り、最短距離でショッキングピンクの装甲に迫っていく!そして……。


ガギャン!


 ピンクの欠片が漆黒の闇の中でこぼれ落ちる……それだけ。中身には届いていない。

「プライドの高さが出たな……アイル・トウドウ」

「な……に……!?」

「別のところなら避けきれなかった……だが、お前の狙いはわかっていた!腹をぶん殴られた仕返しに、俺の腹を狙ってくるんだと思ってたぜ!!」


ガシッ!


「――ッ!?」

「捕まえたぁ!!」

 伸びきった群青の腕をピンクの腕と胴体が挟み込み、逆の手で竜の首根っこを掴み、がっちりと固定する。

「ウオラァァァァァッ!!」

「ぐうぅ……!?」

 そして、そのままリヴァイアサンを持ち上げ、移動していく……ある場所まで。

「悪いな……お前には世話になっていたのによ……!だけど!お前もピンキーズの足ならわかってくれるよなぁ!!」

 ハイヒポウが向かった先、それは車!アスト達が乗っていたピンキーズ所有のやたらめったらデカい車だった!そこに……。

「始末書!書かせてもらいます!!」


バゴォン!!


「……がはっ!?」

 リヴァイアサンごと車の側面に全力でタックルをかます!ガラスは砕け、ドアはグニャリと間違いなくもう二度と開かない形に歪んだ。

「まだまだぁ!!」


ガンガンガンガンガンガンッ!!!


「ッ……!?」

 反撃することも、逃げ出すことも許さない圧倒的な密度のパンチのラッシュ!リヴァイアサンの全身はさらに深く車にめり込み、車は最後の務めを果たそうとしているかの如く、竜を包み込むように変形していく。

「ウラァ!!」


ガァン!


「ぐっ!?」

 おまけの一発と顔面に拳を叩き込むと、ハイヒポウは一転、ぴょんぴょんと軽快に後退していく。

「それじゃあ仕上げといくか」

 距離を取ったハイヒポウが群青の竜を抱く車に手を伸ばすと、再び銃が召喚される。

「シュート」


バババババババババババババッ!!!


「ちいっ!?」

 身動き取れないトウドウは身構えた……全身に走る痛みに耐えるため。しかし、それは幸か不幸か徒労に終わった。

「……外れた……?」

 大量の弾丸はたったの一発もリヴァイアサンに当たることはなかった……リヴァイアサンには。

「外れたんじゃねぇよ。そもそもお前を狙ってねぇ」

「何……?」

「正解は……すぐにわかりそうだな」

 ビオニスは無数の穴の空いた“車”の姿を見て、自分の立てたプランを完遂できたことを確信する。

 そして、ほんの一瞬遅れてトウドウも理解する自分の置かれた絶望的な状況に。

「まさか!?車ごと!?」

「大正解」


ドゴオォォォォォォォォン!!!


 大気を震わせ、爆音を響かせながら、リヴァイアサンを天を貫くような火柱が包み込んだ。


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