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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
覚醒者の王
132/160

特級タッグ

 新たに現れたキオンフェクスというマシンは氷山を四角く切り出したような半透明の装甲が各部から生えている、美しさを感じさせる姿をしていた。

 そしてそれはアスト・ムスタベには既視感のある姿であった。

(今度は兄貴のそっくりさんか。冷気を操るのも一緒だし……厄介だな)

 強くて今も頭が上がらない偉大なる兄、リオン・ムスタベの覚醒形態を思い出し、億劫な気持ちになった。氷に関する能力と自分の液体化能力の相性の悪さは文字通り痛いほど知っている。

「どうした?今度こそ本当にビビり散らかして声も出ねぇか?」

「いや、ただあなたのここからはタッグでって発言が気に食わなくてな。最初から二対一だったんじゃないか」

「まぁ……そうだな。正々堂々とした戦いをするあんたにこの戦法を使うのは、正直心が痛んだぜ」

「けれど我らはずっとこのやり方で訓練してきたので」

(ってことはオレのためにわざわざ作戦を考えたわけじゃない。本来のターゲットは……)

 アストがチラリと横目で確認すると、案の定レスコットの顔が気温以外の理由で青くなっていた。

(オレと能力が近いらしいレスコットさんの打倒のためのタッグか。参ったな、急造なら付け入る隙もありそうなもんだけど、時間をかけて連携を磨いてきたとしたら……)

「本来のターゲットに使う前に手の内をさらけ出したんだ」

「その分の成果はきっちり上げさせてもらいますよ」

 並んでいた二体の特級だったが、構えを取りながらゆっくりログケプトが前に、逆にキオンフェクスは後方に移動した。そして……。

「さぁ……逆転させてもらうぜ!!」

 準備が整ったのかログケプトが加速!いまだこのタッグの攻略の糸口が見えないアストの間合いまで踏み込んできた!

(なんにせよオレがやるべきなのは各個撃破!一人ずつ潰していく!!)

「は――」

 その手始めにカウンターパンチを撃ち込もうとした。それはここまでのログケプト相手なら出鼻を挫く一撃になるはずだった……はずだったのに。

「ウラッ!!」

「!!?」


ヒュッ!!


「……何!!?」

 アストはパンチを繰り出せなかった。

 大振りばかりだった先ほどまでとは打って変わった鋭く無駄のない動きでログケプトが先に拳を放ち、それを避けるのに必死で、こちらから攻撃する暇なんてなかったのだ。

(打ち方が変わった。急にモーションがコンパクトに……こいつ!)

「今まで三味線弾いてたのか!!」

「そういうことだ!!」


ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!


「ッ!?」

 ログケプトの打撃は全く別物になっていた。最短距離を突っ切るようなパンチはアストから見ると巨大な拳が突然さらに大きくなったようで、回避することに精一杯で、反撃を差し込む余地がない。

「ほれほれ!!」

(パンチが走ってる。ハンドスピードに関してはもう今のオレと遜色ない。で、パワーはあちらが上となると……)

「らあっ!!」


ブゥン!!


(打ち合いでは分が悪いか……!!)

 耳元を通り過ぎる風切り音を聞く度にアストの肝は冷えていった。もちろんキオンフェクスのせいで実際に身体の方も……。

(こういう時は液体化で打撃を無効にしてからのカウンターがセオリーだが、この状態、表面が凍っている状態では変化が間に合わないかもしれん。つまり能力ではなく技術で打破しないとダメってことかよ!!)

 アストは苛立ちを募らせる。その反面、これまで今以上のピンチをくぐり抜け、戦闘に適した思考回路へと作り変えられた頭脳は淡々と次の一手を検索する。

(……とりあえずこれでいってみるか)

 そして即座に一つの答えを導き出し、身体に指令を与えた。

「はっ!!」

(あれはおれの脚を壊した……)

 覚醒アストが選んだ一手はローキック!解放戦線のリーダーの膝をへし折った下段蹴りだ!しかし……。


ゴッ!!


 ログケプトは脚を上げ、強固な装甲で覆われた脛で難なく受け止める。

「リーダーがやられた技を警戒してないと思ったか?」

「思ってないよ」

「そうか!思ってない……え?」

「はあっ!」


ドゴッ!


「――ッ!?」

 アストは即座に足を地面に戻し、姿勢を低くすると、肩と背中からぶつかりに行った!ローキックを防いだことにのんきに喜び、片足状態のログケプトに体当たりがきれいに決まる!さらに……。

「うおりゃあっ!!」

「うおっ――」


グッ!ドスウゥゥゥン!!


「――がっ!?」

 そのまま身体を潜り込ませたと思ったら、かち上げ、背中を転がすようにして特級マシンをひっくり返した!

「しまった!?ローはこのための……」

「布石だよ!!」

 さらにさらに青龍は反転するとそのままログケプトの頭をサッカーボールのように蹴……。

「させません」

「!!?」


ブシャアァァァァァッ!!


 絶体絶命のピンチにタッグパートナーがカットイン!その両手のひらから白い冷気を放出しながら突っ込んで来た!

「ちっ!!」

 たまらず覚醒アストは攻撃を中断してエスケープ……するだけでは気に食わないので、こちらも手のひらを開き、指の先に水の球を生成する。

「散青――」


カチン……


「――うっ!?」

 しかし、水の球は生成されたとたんに凍ってしまい、床にビー玉のようにボロボロ落ちた。

(散青雨が使えない!?なら涙閃砲も……下手したら視界を奪われることになるか。だったらまた接近戦で……!)

「ミルコ!悔しいが格闘センスは奴が上だ!だから……」

「距離を取って安全圏から仕留めるんですね。こういう風に!!」

 キオンフェクスは跪き、冷気を出していた手のひらを床につけた。すると……。


ガギィィィィィィィン!!


 前方に巨大な氷山がそそり立った!それを……。

「ウオラアッ!」

 ログケプトが渾身の力を込めて殴った。


バキッ!バババババババババババババッ!!


 パンチの衝撃で氷山は砕け、氷塊の群れとなって撃ち出され、青き龍へと襲いかかった!

「ちいっ!!」

 覚醒アストは高速の氷の隙間を驚異的な反射神経とボディーコントロールでかろうじて躱す……躱すしかできなかった。

(こっちは遠距離攻撃を封じられてるのに、射程の外から!これを続けられると……)

「いい感じだミルコ!!このまま続けよう!!」

「ええ、そのつもりですよこちらも」


バキッ!バババババババババババババッ!!


「くそ!!」

 特級タッグは徹底してこのやり方を貫くつもりのようだった。アストにとって最もやられて嫌なこの方法を……。

(こうなったら一か八か形態変化を解禁するか?いや、表面が凍った今、変形できたとしても、かなり時間がかかる。この二人はその隙を見逃さない)

「どんどんといこうぜ!」

「はいはい」


バババババババババババババッ!!


 絶え間無く撃ち出され続ける氷。いつの間にか車両倉庫の床は氷の塊まみれになっていた。

(凍結で変形を封じられる……兄貴に注意された通りになっちまったな)

 それはアストが形態変化を会得した直後に帰省した時のこと……。



「どうだ凄いだろ!オレ、飛べるようになったんだぜ!」

 覚醒状態になった兄貴の前で、飛行能力と機動力に特化した姿に変化し、自慢気に各部から水蒸気を吹き出し、宙に浮く弟。

「ふむ」

 それに対し、覚醒リオンはそっと手を翳した。すると……。


ブシュウッ……カチン!!


「……へ?」

 水蒸気の噴射口が凍らされ、浮力を失い、強引に着陸させられた。

「俺のように氷や冷気を操る相手ならこの通り。目の前うろちょろ飛び回らせたりしない」

「いや、これはあくまでお披露目するために加減してたから!本気の全開機動なら簡単に凍らせられないくらい水蒸気出してるし、そもそも滅茶苦茶速くて捉えられないから!」

「確かにそうかもな」

「だろ?」

「なら、変形する前に変形できないように凍らせる」

「……え?」

「だから変形前に潰すって言ってるんだ。一気に懐に入って凍らせるか、気づかれないように徐々に周囲に冷気を展開し凍結させる。それがお前の変形に対する氷使いの対抗策だ」



(あの時の話をちゃんと覚えておけば、こうなる前に気づけていたのに。勝手にプレッシャーだの地下だからだの寒さに理由をつけて……ダメダメだなオレ!!)

 アストは学習能力と危機管理能力のなっていない自分のことをぶん殴りたい気分だった。もちろんそんなことをやっている暇はないのでやらないが。それよりもやるべきなのは……。

(確か兄貴に凍らせられた時の対応について聞いていたはずだ。兄貴はあの時……)

 アストは記憶をサルベージして、兄の言葉を拾い上げた。



「凍らされたら?凍ったら溶かせばいいだろ。暖かい場所に移動しろ」



「兄貴のバカ野郎!!」

 弟は遠く離れた兄貴に行き場のない怒りをぶつけた。

(暖かい場所とか、この地下のどこにあるんだよ!そもそもこの特級タッグ相手に逃げることなんてできないだろうし。今からここで焚き火でもやれって……)

 刹那、アストの脳裏に甦ったのは、このプロティーブルに来る決断を下した理由の一つでもあるイグナーツ、彼との戦いの記憶だった。

(そうか焚き火をすればいいのか。火種ならある!)

「ん?」

(フーグラー!オレの意図を汲んでくれ!賢い君ならきっと……)

 覚醒アストはチラリとフーグラーの操るドローンに視線を向けた。何かを要求するように力強い眼差しを。

 それを受けたフーグラーは……。

「大丈夫!ちゃんと見てるし、応援してるよ~!頑張れ~!!」

(あのアホ!!こうなったら……)

 目線だけは伝わらないと悟ったアストは回避運動を続けながら、床に突き刺さった手頃な氷の塊を拾い上げた。そして……。

「うりゃ!!」

 それをぶん投げた……ダドリーに向かって。

「いっ!?」


ガァン!!


「何しやがんだ!!この野郎!!」

「仲間割れか?」

「さぁ?エヴォリストの考えることはわかりません」

 ダドリーは咄嗟に躱し、氷の塊は彼の背後にいたカリギュアに衝突。その行為ダドリーは当然憤り、バナンとアチェルビは追い詰められてアストがおかしくなったと思った。

 そしてフーグラーは……。

「なるほど……そういうことね」

 今度こそアストの意図はフーグラーに通じた。

 全てを察したフーグラーは氷をぶつけられたカリギュアに指令を出す……青き龍に突っ込めと。

「いいよ!全部部外者任せってのも情けないからね!!というわけでカリギュアいきます!!」

「なんだ!?」

「本当に仲間割れですか!?」

「否!これがオレたちのチームプレイだ!!」

 意志疎通ができた喜びの中、覚醒アストはその感情を手のひらに集中、水の球を生成すると、それを高速で回転させ、薄く伸ばしていく。あっという間に水の球は丸いノコギリのような形へと変化した。

「冷気を寄せ付けないくらい激しく回れ龍輪刃!!」


キイィィィィィィィィィィィィィン!!


 覚醒アスト、最強の必殺技発動!

(あれは……あんな技をまだ隠していたのか!?)

「ミルコォッ!!」

「あぁ、あれは……ヤバい!!」

 その凄まじい殺傷能力を察したネイザンは目を見開き、相対しているバナンとアチェルビは身構えた。

「ふざけやがって……なんなんだよアレは!!」

「どこまでも不愉快な……!!」

 彼ら以上に驚愕し、動揺したのが味方であるダドリーとレスコットである。ここに来る道中で自分達を超える才能をまざまざと見せつけられたのに、さらに上の段階があるなんて……能力だけが自分の価値だと思い込んでいる二人は心中穏やかでいられない。

 だが、彼らの恐怖は取り越し苦労だ。優しき青き龍はこの技を基本的に人間に対して使うことはない。今回もその必殺技という呼び名の絶技の餌食になるのは……。

「さぁ……おもいっきりやっちゃって!!」

「おう!!」


ザンッ!!


 龍輪刃の餌食になったのは人の入っていない遠隔操作タイプのピースプレイヤー、カリギュア。

 アストに突っ込んでいき、手のひらで回転する刃で真っ二つにされると、内部の機械が露出し、バチバチと火花を散らして……。


ドゴオォォォォォォォン!!


 爆発した!衝撃が大気を揺らし、爆炎の花が見事に咲いた!

「あいつら……マジで何やってるんだ?」

 その一見意味不明な行為に頭を傾げるログケプト。

 対照的に隣にいる彼のパートナーは……。

「やられた……!!」

 その行動の意味を理解し、全てがひっくり返されたとマスクの下で焦燥の表情を浮かべた。

「やられたって……何をだ?」

「わからないんですか?あの熱と炎……あれは我がキオンフェクスの呪縛を解除するためのもの……」

「――ッ!?しまった!!?」

 ようやくログケプトの方も自分が置かれている危機的状況に気づいた……が。

「もう遅い」

「「!!?」」

 アストの発言通り、もう手遅れだった。

 間近で爆発の熱を受けたことで彼の体表を覆い、能力発動を阻害していた氷はすっかり溶けてしまったのだ。つまり……。

「アウェイクテクニック」

 形態変化ができる!

 覚醒アストの想いに反応し、空気中から水分を取り込み、肉体が目まぐるしく変化していく。右腕は細く伸びて長大なライフルに、さらには胸部や腰部横などに噴射口を増設、耳元がアンテナのように伸びて尖って、金色の眼を保護するようにバイザーが覆い被さる!

 テクニックアスト変形完了!

「あいつ姿が!?」

「エヴォリストのやることに一々驚いていてはキリがありません!それよりも来ますよ!」

「はっ!」


バシュッ!バシュッ!バシュッ!!


 テクニックアストは右腕を変形させたライフルから圧縮した水の弾丸を発射する!しかし……。

「ミルコ!!」

「ええ!これなら……!!」


バシュバシュバシュ……


 けれどログケプトもキオンフェクスもどちらも後方に跳躍して回避。水の弾丸は全て地面に着弾した……テクニックアストの狙い通りに。

「捕らえろ水糸」


バシュ!!グルン!グンッ!!


「――ッ!?」

「何!?」

 水の弾丸は穴の中で変形、細長い水の糸となって、地面から伸び、特級タッグに絡みついた!それは水でできているからこその柔軟性と、水でできているとは思えないそれなりの丈夫さを誇っており、生半可なことでは破壊できない。

「こんなもの!!」


ブチィ!!


「キオンフェクス!!」


ガチン!バキッ!!


 ログケプトはその有り余るパワーで強引に引きちぎり、キオンフェクスは冷気で凍らせて破砕した。

 だが、それでもほんの一瞬だけ動きが止まった。

 そしてそのほんの一瞬だけでアストには十分だった。

「こんなもんで俺らを止められ――」

「アウェイクスピードからのマッハドロップ!!」


ドゴオッ!!


「――ぐッ!?」

 いつの間に脚部や肩部、背部に水蒸気噴射ユニットを増設したスピード特化形態になっていた青き龍がログケプトにドロップキック!衝撃が全身に走る!

「てめえ……よくもやったな!!」

 けれど、ログケプトは気合で耐え、あろうことか目の前に着陸したスピードアストに向かって反撃の左の巨拳を繰り出した!

「アウェイクパワー!!」

 スピードからパワーに。脚や肩、背中の突起などが身体の中に吸収されていき、それが移動し上半身、特に腕部に集中し、青龍は別の姿に形を変えると……。

「オラアッ!!」

 巨拳に向かって、こちらも腕から水蒸気を噴射し本来の膂力に更なるパワーを加えた巨拳を放った!


ゴッ……バギイィィィィン!!


「――ぐわあぁぁぁぁぁっ!!?」

 ぶつかり合う拳と拳……勝ったのはパワーアストだ!ログケプトの左腕の装甲が砕け、内部のバナンの骨も粉々に粉砕された!

(まさかログケプトを凌ぐパワーを隠し持っていたとは……くそ!やはり接近戦では勝てない!ここは一旦退いて、態勢を立て直す!!)

 この状況でジェイミー・バナンが下した決断は撤退。けれど悲しいかな彼に選べる選択肢など残っていなかった。すでに決着はついてしまっているのだ。

「だりゃあぁぁぁぁぁっ!!」


ドゴッ!ドゴッ!ドゴオォォォォォン!!


「――ッ!!」

 左右フックからの撃ち下ろしで頭から地面に叩きつけられるログケプト。

 鈍重に見えるパワーアストだが、遅いのは移動だけでハンドスピードは一級品。手負いで対応できるレベルではないのだ。

「ジェイミィィィィッ!!」

「アウェイクいつもの!そして水鞭!!」


シュルシュル!グンッ!!


「――ッ!!?」

 仲間の敗北に慟哭するキオンフェクスに容赦なく鞭状に変化した腕を巻き付ける。そしてそのまま頭上を飛び越して背後に移動、俗に言うチョークスリーパーに近い形に。

「ぐっ!?がっ!?」

 水の鞭はしっかりと首に食い込み、アチェルビの気道と動脈を圧迫する。つまりこちらも決着だ。

「諦めてとっとと眠れ。もう終わったんだ」

「まだ!まだだ!!近づいてくれたなら好都合!このまままた凍らせ……ッ!!?」

 ただでさえ少なくなっていた血の気が引いていった。遅ればせながら自身が敗北したことを理解してしまったのだ。

「気づいたか?この状態で凍らせたら余計に強固にあんたの首が絞まるだけだ」

「そん……な……」

「こっちとしても加減できなくなるからやめて欲しい。別にあんたを殺すつもりは……」

「………」

「……落ちたか」

 アストが拘束をほどくと、キオンフェクスは力なくへたり込んだ。

 自分が詰みに陥ってると知り、心が折れたのと同時に、酸素を奪われた脳もブラックアウトしたのである。

「あなた達のコンビネーションは素晴らしかったですよ。それでも勝ったのは……オレだ」

 アスト・ムスタベ、追い詰められながらも特級タッグ撃破!


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