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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
覚醒者の王
130/160

不愉快な男達

 近年、発展が著しい国プロティーブル。最新のビルや建物が建設され、賑わっている。しかし、そこだけは真逆の人の賑わいとは無縁の場所であった。

 暗くじめじめとした空間、人がいない代わりに蠢く小型オリジンズ、そして地面に敷かれた線路……。

 アスト達一行は現在は使われてない地下鉄の路線を歩いていた。

「まさに表と裏、光と影って感じだな。賑やかな地上とは大違いだ……とか、思ってたでしょ?」

「勝手に人の心を読まないでください」

 アストは前方をライトで照らしながらも鬱陶しく絡んでくる小型ドローンに、それを操っているフーグラーに対し、不快感を露にした。何故なら彼の言ったことが大体合っていたから。

「まぁ、確かにプロティーブルにこんな場所があることには驚きましたけど」

「むしろ探せばこんな場所ばかりだよ。パジェットコープが来るまで、無茶苦茶だったし、それを全て是正するにはエヴォリストをいくら集めたところで、もうちょっと時間がかかる」

「実際、その穴を突かれて解放戦線にまんまと隠れ家を作られてしまったんですもんね」

「……なんか嫌味だね、君」

「いや、建設途中で廃棄された地下鉄の路線なんて、隠れるには格好の場所じゃないですか。何で今まで気づかなかったのかなって……」

「そんなところがあると知っていたら真っ先に調べていたよ。でも、ボクらは知らなかった。前にも言ったけど、今この国は新体制への移行期間。引き継ぎに不備があって、こちらが存在を把握できない場所の一つや二つできるさ。納得した?」

「はい、一応」

(全然してないって顔だね)

 疑いの眼差しを向けるアストに、本社ビルにいるフーグラー本体は苦笑いするしかなかった。

「別にいいじゃねぇか。今は悪党の根城が見つかったことが大事だろ」

「細かいことを気にし過ぎだよ、ムスタベ氏」

 二人の会話を黙って聞きながらついて来ていたダドリーとレスコットが割り込んで来た。この暗がりなのにダドリーは相変わらずサングラスをかけているし、レスコットはせっかくの長身を背中を丸めて台無しにしている。ちなみにその背後にはフーグラーが操るカリギュアが一糸乱れぬ動きで行進していた。

「そういうタチなんで。それにこの件に関しては細かいとは思いませんし」

「百歩譲ってお前の意見の内容はいいよ。だけどよ~、そもそも意見自体する権利がお前にあるのかって話だよ」

「君は本来なら部外者なんだからね。今後のプロティーブルについて何の責任もない人間にとやかく言われる筋合いは……ないかな」

 アストを敵対視している二人の言葉には棘しかなかった。色々と御託を並べているが、その奥にあるのは単純な嫉妬の心と、自身の脅威となり得る才能を持ったエヴォリストを排除したいという自己防衛意識……要は器の小ささをこれでもかと見せつけているのだ。本人達はそんな気は更々ないけど。

「部外者だからこそ言えることもありますし、第三者の意見を聞くことも時として大事ですよ」

「「ちっ!!」」

 そんな彼らには付き合ってられないとアストは軽く流……せばいいものを彼は彼で負けん気が強いので、こちらも嫌味たっぷりの返事で返す。当然二人のアストに対する心証はさらに悪くなるし、場の空気もぎすぎすだ。

「仲良くしろとは言わないけど、いい大人なんだからさ、いい感じに折り合いをつけられないかね?」

「オレはそうしたいですよ。お二人に対して、特になんとも思ってないんで」

「てめえ……!」

「ダドリー、やめよう。確かにこれ以上こいつと言い合いを続けたところで何の意味もない。今は任務を速やかに安全に終わらせることだけに集中しよう」

「……ちっ!わかったよ。社長と……アルトゥルさんに失望されたくないからな」

「それこそ死活問題だ……」

 アルトゥルの言葉を口にしたダドリー、そして耳にしたレスコットの二人とも、その場に本人がいないのに萎縮した。まるで今まさに眉間に銃を突きつけられているように恐れおののいた。

(この二人、態度はともかく実力は間違いないと思う。なのに、そんな彼らがここまでビビるとは。そして情けないが、その気持ちは痛いほどわかる……)

 アストもまたその男との初対面を思い出し、背筋に悪寒を走らせた。差し出された手すら怖くて握れなかった男……後にも先にもこんなことはないだろうなと思った。

(アルトゥル・ミチュカって一体何者なんだ?あの人は何のためにパジェットコープに……単純に待遇がいいから?エドガー社長の理念に共感したから?それとも……)

「おい」

「…………」

「おい!」

「…………」

「おい!聞こえねぇのか!アスト・ムスタベ!!」

「――ッ!?」

 アルトゥルのことに夢中で心ここに在らず状態になっていたアストをダドリーの怒声が叩き起こした。

「すいません。ボーッとしていて」

「エヴォリスト四人体制で余裕なのはわかるけどよ、これでも極悪テロ組織との決戦に向かってる道中なんだぜ。気を引き締めろ」

「ごもっとも」

 アストはさすがにこれは自分が悪いと思い素直に反省、肩越しにダドリーに頭を下げた……が。

「………」

 当のダドリーは無視……というより、アストの先に視線と意識を集中させていた。サングラスを下にずらし、暗闇の奥を眉間にシワを寄せて肉眼で凝視する。

「モアさん?」

「……おれの能力の副作用……って断言するにはいまいち関係あるかないかわからんのだが、とにかくおれは覚醒してからこの状態でも夜目が利くようになった。つーかこれならお前も見えるんじゃないか?目だけ部分変身できるならやってみろ」

「……はい」

 アストは言われるがまま瞳を金色に輝かせると、ダドリーの視線をなぞっていった。すると彼の見つめる先にゆらりゆらりと何か蠢くものが……。

「これは……」

「普通ならオリジンズ一択なんだが、この先にテロリストどものアジトがあるなら……」

「ドローン!!」

「だな」

 闇の向こうからやって来たのは、漆黒のボディーで周囲に溶け込んだドローンの群れ!数えきれないほどの数の人工飛行物体が、アスト達へと一心不乱に向かって来ていた。

「防衛用のドローンなんて持ってたんだ。感心感心」

「してる場合ですか!っていうかこういうのに真っ先に気づくべきなのは君じゃないのフーグラー!」

「ごめんごめん。君と同じくボーッとしてた」

「こいつ……!!」

「文句なら後でいくらでも聞くよ。それよりも今はこの先に解放戦線のアジトがあることが確定したことを喜ぼう。そして奴らを迎撃することを考えよう」

「ちっ!確かに先にあいつらを片付けないと……アウェイク、オレ!!」

 アストが叫ぶと同時に全身が変化。どこにでもいそうな大学生が金色の瞳を持つ青い龍へと姿を変えた。

 そして彼に続いて……。

「ふわぁ~」

「…………」

 そしてアストに続いてダドリーとレスコット、六覚星の二人も戦闘形態になるのかと思いきや、一切そんな素振りを見せない。

「モアさん、レスコットさん、敵が来てますよ?」

「わかってるよ。つーか、おれが真っ先に気づいたし」

「じゃあ何でそんなのんきに……」

「たかがドローンだろ。おれ達が出る必要がどこにある」

「数は多いが……あの程度ならアルトゥル氏やサカタ氏に認められるほど有望なエヴォリストであるムスタベ氏なら余裕であろう」

 二人はアスト一人で戦えと要求しているのだ。まるでドラマに出てくるスポーツ強豪校で期待のルーキーをいびる姑息で情けない先輩のようにニヤニヤと不愉快な笑顔を浮かべながら、アストの反応を伺う。

(さぁ、ムキになって怒るか?)

(それとも助けを求めて泣きつくか?)

(何でもいいからできるだけ無様な姿を晒して)

(俺達の溜飲を下げておくれよ)

 とにかく彼らは生意気なアストの感情を揺さぶってやりたかった。

「その通りですね。ここはオレ一人でやります」

「そうか……え?」

「は?」

「では行って来ます」

 しかし、残念ながらアストは彼らが望む態度とは真逆、覚醒状態でわかりづらいが澄ました顔で提示された無茶な要求を了承すると、ドローンへと駆け出した。

(こういうのは下手に反応しても付け上がらせるだけだ。それに無理を言ってついて来た手前、雑用くらいはやらないと)

「あいつめ……!!」

「完全にアストくんが一枚上手だったね。カッコ悪いよ君達」

「くそ!!」

 さらに苛立ちを募らせる矮小な先輩達を尻目に覚醒アストは戦闘を開始した。

「散青雨!!」


ババババババババババババババババッ!!


 手始めに腕を振り抜き、水の散弾を発射。向かって来るドローンのカメラ一面に平行方向に移動する弾丸の如き雨粒が広がった。


ドゴオッ!ドゴオッ!ドゴオッ!ドゴオンッ!!


 雨粒は次々とドローンに穴を開け、粉砕。爆炎がチカチカと暗い地下を照らした。

 だが、倒せたのは最前列のみ。まだドローンはたくさん健在で……。


バシュウンッ!バシュウンッ!!


 下部に取り付けられた小型ミサイルなどを発射してくる!

「だからどうした!」


ババババババッ!!ドゴオドゴオンッ!!


 だが、それも雨粒の散弾銃によって迎撃。一発たりとも弾幕を抜けることはできなかった。

「涙閃砲!!」


ビシュゥッ!!ビシュウッ!!ドゴオドゴオンッ!!


 そして間髪入れずに目から高圧水流発射!ターゲットスコープであると同時に発射口でもある金色の眼に睨まれたら最後、闇の中を飛翔するドローンは見事に中心を撃ち抜かれ、コントロールを失い、壁に激突、地面へ墜落していく。

「「「!!」」」

 同胞達がいとも簡単に壊されていくが稼働するのに最低限のコンピュータしか積んでないドローンに恐怖はない。仲間の残骸を飛び超え、あろうことか体当たりを敢行する!

「特攻か……遠くでチクチクやられるよりも手っ取り早くていい」


ヒュッ!!ドゴオッ!!


 決死の体当たりも覚醒アストには全く通じず。あっさりと避けられ、そのまま下からぶん殴られ、天井に叩きつけられ破壊。

「ほっ!」


ヒュッ!!ドゴオッ!!


 間を置かずにやって来た第二陣はジャンプで上を取り、踏みつけ。使われていない線路の上に叩き落とす。さらにそのまま……。

「ローリング水鞭!!」

 空中で横に一回転!脱力、液体化した腕を遠心力で伸ばすと……。


ドゴオッ!ドゴオッ!ドゴドゴドゴオンッ!!


 一網打尽!回転する水の鞭の軌道上にあったドローンはまとめて撃破された。

「残るは……」

 あっという間に数えきれないほどいたドローンの群れは両手で数えられるくらいに。

「仕上げにもう百発」


ババババババッ!!ドゴンッ!ドゴオンッ!!


 ラストはこの戦いの火蓋を切って落とした散青雨。

 下から気だるそうに振り上げた手のひら、正確には指の先から発射され、無数に分裂していった水の弾は残るドローンを一体も逃がすことなく仕留めきった。

「……終わりましたよ」

 誇らしげにそう言いながら振り返る青き龍の堂々たる姿を見て、ダドリーとレスコットは……さらに顔を醜く歪めた。

(サカタの旦那と引き分けたと言われても半信半疑だったが……あの身のこなし、能力の汎用性ならあるいは……もしかしておれの力でもそこまで優位を取れないんじゃねぇか!!?)

(嘘だと思いたかったが、やはり俺の上位互換と言える能力だ。しかも能力だけじゃなくあの動き……戦闘に関するセンスも俺とは段違いだ……くそ!!)

(このままだとおれは、おれ達は……)

(パジェットコープから、アルトゥル・ミチュカから見捨てられる!!?)

 アストの力は二人の想像を遥かに上回っていた。もはや小馬鹿にして喜んでいる場合ではないと、ただただ深刻に思い詰め、息を飲むしかなかった。

「見直されるどころか、完全に脅威判定をいただいちゃったみたいだね」

「フーグラー……」

「あ!ボクは彼らと違うからね。そもそも能力のカテゴリーが全然違うから、対抗しようとすら思わない」

「そう思うんなら君は手伝ってくれても良かったのに」

「覚醒したアストくんの動きにカリギュアやドローンがついて行けると思う?ボクの能力は複数のマシンを同時に操れることで操作技術自体は中の下ってところだよ。助けになるどころか邪魔するだけだと思ったから、観客に徹していたのさ」

「そういうことならいいけど。この狭い空間だとうろちょろされると実際に邪魔だっただろうし」

「そうそう!だから気にせずにもう一頑張り頼むよ!」

「え?」

「今度は集中してたから察知できた。敵の援軍……今度はピースプレイヤーだよ」


「いたぞ!パジェットコープの奴らだ!!」


 フーグラーの発言の直後、アストの耳にドタドタとこちらに向かって来る足音が、目にはほのかに光るセンサーの輝きを捉えた。

「ドローンが全滅……くそ!!」

「あの青い化け物のせいか!!」

「あいつは、あの青のエヴォリストは物理攻撃を無効にしてくるぞ!攻撃するなら……」

「わかってるよ」

「あのびちょびちょ野郎には」

「こいつだろ!!」


バチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!


 けたたましい音が地下に響き渡り、切れかけの電球に照らされるようにチカチカと明滅する。その発生源はソルジャードッグとイクストラルが持っている棒。彼らのうちの何体かはどうやら電磁警棒を所持しているようだった。

「またかよ……」

 今まで散々見てきた自分を倒すための特効武器の姿を確認し、アストは心底辟易し、思わず項垂れた。

「ん?あいつもしかして……」

「ビビってんのか!!」

 それを見て勘違いした解放戦線の面々の士気は一気に上昇した……が。

「楽しそうなところ悪いけど」

「……え?」

「それの相手は慣れっこなんだ」


ドゴオッ!!


「――がはっ!!?」

「な!?」

「にいぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」

 上がったテンションは一瞬でドン底まで落ちていった。文字通りあっという間に懐まで踏み込んできた覚醒アストにより、早くも仲間の一人がワンパンKOされてしまったのだ。

「この野郎!!」

 それでも諦めきれないイクストラルは闘志を奮い立たせて、バチバチと喧しく帯電する電磁警棒を撃ち下ろす……が。


ヒュッ!!


「な――」

「はっ!!」


ゴッ!!


「――ッ!!?」

「ったく、あぶねぇな。こっちに飛ばすなよ」

 回避されて、脇腹にカウンターの蹴りをもらう!身体を横に“く”の字に曲げながら、吹き飛び、面倒くさそうに軌道上からずれたダドリーの横を通り過ぎて、闇の中へと消えていった。

「接近戦はダメだ!テーザー銃を!!」

 ソルジャードッグはこの時のために用意していた電気攻撃可能な遠距離武器を、マウントした腰の後ろから取り出そうとした。しかし……。


ガッ!


「!!?」

「物騒なものは仕舞っておいてよ」

 いつの間にか隣まで来ていたアストに腕を抑えられて、銃を撃つどころか抜くことさえできなかった。

「この!!」

「はっ!!」


ゴッ!!


「――!!?」

 それでも何かしようとしたのだが、これまたその前に青き龍の神速の拳によって顎を撃ち抜かれ、意識を断たれてしまう。

「こいつ……話に聞いていたより強いぞ!!」

(それさっきやったつーの)

(戦闘に適したエヴォリストである俺でも戦慄する能力とそれを生かすセンス……覚醒していない者にどうにかできるはずもない)

(ここでミスの一つでもしてくれれば可愛げもあるってのに……)

(本当に不愉快な人ですねアスト・ムスタベ)

「でやあっ!!」


ドゴッ!ドゴッ!ドゴオッ!!


「「「ぐあぁっ!!?」」」

 敵を圧倒的な力で倒せば倒すほど味方の機嫌が悪くなるという歪な状況……。

 けれどアストはお構い無しにその身に宿る潜在能力と、鍛練と思考の末に会得した技を存分に振るっていく。

「このまま一気に突破しましょう!ついて来てください!!」

「はいはい!」

「あいよ」

「…………」

 青き龍の快進撃を止められる者などいなかった。来る者来る者、彼の餌食になり、使われていない線路の上に山積みになっていく。そしてそのまま……。



「また会いましたね解放戦線のリーダー、ネイザン・コルバック」

「おれとしては二度と会いたくなかったんだがな……ブルードラゴン」

 アスト一行はプロティーブル解放戦線の隠れ家に、決戦の地にたどり着いたのだった。


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