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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
覚醒者の王
127/160

ご遠慮願いたい労い

フレング


 山岳部に生息する上級オリジンズ。二足歩行で一見するとブラッドビーストと見間違えるほど獣人然とした見た目をしている。

 普段は大人しいが、敵と見なした者には容赦無く襲いかかる気性の荒さをあわせ持ち、その体表は赤く、ナイフを並べたような鋭い爪からは熱を発し、牙とともに巧みに操り、獲物を追い詰めていく。

 さらに切り札として口から吐き出す高熱の火球があり、時として山火事の原因になることも(知能は高いので自分の住処近くではよっぽどのことがない限り使わないようだが)。

 また余談だが、ブラッドビーストの元となった獣人部族ネイティブラッド(もしくは仙獣人と誇称される)の一つであり、最強の傭兵一族と名高い“ヴェジ族”はこのフレングを戦うことを古来よりの儀式としており、一人で倒した者が一人前の戦士として認められる。その為一部の人間の間では“フレングキラー”の称号はとても誇らしく神聖なものである。



「つまりオレもフレングキラー名乗っていいってことだな……嬉しくない!」

 アストは普通の大学生が泊まるにしては豪華過ぎるホテルの一室、その中でも一際目を引くふかふかのベッドの上に腰をかけて備え付けのタブレットを眺めていたが、唐突に色々と嫌になりその最新鋭の板を放り投げて、仰向けに寝転がった。

 雑に投げ捨てられたタブレットには、昨日戦った謎のオリジンズの画像と説明文が表示されている。

(フーグラーの言った通り、あいつはフレングというオリジンズだってのはわかったが、調べれば調べるほど、何でこんなところに現れたのか理解できないな)

 結局頭を支配するのは、そのフレングのことばかり。アストはくるりとベッドの上を回転し、うつ伏せの形になったら、先ほど放り投げたタブレットに再び手を伸ばし、引き寄せた。

(まず気になるのは山岳部に生息しているってところ。この辺りには山はないし、自然に迷い込んだってことはまずあり得ないだろう)

 タブレットを持ったまま、また仰向けに。天井の電灯を遮るように顔の上に掲げる。

(次に気になるのは腕試しの儀式のターゲットにされていたってこと。それはつまり強いけど、それなりの実力者なら普通に倒せるからってことだよな。そんな半端な奴をエヴォリストがうじゃうじゃいるこの国に持ち込んでもどうにもならんだろ。少なくとも六覚星なら余裕で倒せる。昨日だってフーグラーがもっと早く来てくれれば……)

 刹那、アストの脳裏からフレングのことは消え去り、昨日そして一昨日の不可解な援軍のタイミングのことで一杯になる。

(昨日も一昨日もオレが戦い終わったのを見計らったようにカリギュア軍団が現れた。それはただの偶然なのか?それとも何か意図があって、オレが戦い終わるのを待っていたのか……)

 続いて脳内で再生されたのは周囲を記録するカリギュアやドローン達の姿。もしかしたらが頭を過ぎる。

(……フーグラーの目的はオレのデータを集めることか?オレがずっと気づいていないだけで、戦闘を監視され、分析されていたのか?だけど何のために……?)

 アストは目を伏せ、顔を中心に寄せるように難しい顔をして考えに考えた。しかし……。

「……わからん」

 結果は伴わず。

 完全に思考の迷子になっているアストはまたタブレットをふかふかのベッドに放り投げると、自身は起き上がりコーヒーメーカーの下に。

 考え過ぎてオーバーヒートしそうな頭を冷却し、さらに減ったエネルギーの補充として糖分を摂取したくなったのだ。

「こういう時はカフェラテっと」

 カップとコーヒーポーションをセットし、スイッチを押すと芳しい匂いを漂わせながら、薄茶色の液体が注がれていく。

 それを真っ直ぐと見つめながら、再びアストは考え込む。

(とにかく情報が足りないんだよな。もっとパジェットコープについて調べないと。ウォルガジェットを使うか?でも、フーグラーが能力を使って警戒網を張っているから、下手に動くのは……)

 そんなことを考えている時だった。


ピンポーン……


「……ん?」

 突如として部屋中にインターホンが鳴り響いた。

(ルームサービスは頼んでないよな?オレを訪ねてくる知り合いもここには……エドガー社長と六覚星の連中くらいしかいない……!)

 アストは一気に警戒レベルを上げた。疑いの眼差しを向けている一派がわざわざやって来たとしたら油断できない。

(本命は昨日のことを聞きに来たフーグラー。だが、彼なら先にメールなり電話なりして来そうだし。じゃあエドガー社長?いや、あの人もわざわざ部屋まで出向くかな?じゃあ……)

 アストは恐る恐るドアについた覗き穴に目を近づけた。するとそこには……。

「…………」

 髪を結った無精髭で細身、着物を羽織った侍のような出で立ちの男が真っ直ぐと立っていた。

「サカタさん!?」

「うむ」

 慌ててドアを開けながら名前を呼びかけると、サカタは一つ結びの髪をオリジンズの尻尾のように揺らしながら、満足そうに頷いた。

「どうしたんですか、いきなり?」

「昨日のことをフーグラーから聞いてな。労ってやろうと」

「そうですか……」

(本当にそれだけのために……?)

 完全にパジェットコープもといその中枢にいる六覚星への信頼を失っているアストは当然サカタにも疑いの目を向けた。しかし……。

「…………」

(嘘をついているとは思えないな)

 サカタの瞳は一切の淀みなく、澄みきった眼差しでアストのことを真っ直ぐ見つめている。アストにはそれが何かを隠している人間の姿には見えなかった。

「……ありがとうございます。お気遣いいただいて」

「気遣うのは当然だ。主は大切な客人なのだから」

「こんな豪華なホテルに泊めていただいただけで十分ですよ」

 笑顔を作ったアストはドアを限界まで開き、部屋の奥まで見えるようにした。それが感謝を示すのに一番いいと考えて。そしてできることならそれで満足して帰ってくれないかと淡い希望を込めて……。

 けれど、残念ながら……。

「主のような血気盛んな若者にはホテルでゆっくりというのも退屈だろう。気晴らしに少し運動せぬか?」

「うわぁ……考えうる最悪のパターンに入ったっぽい……」

「何か言ったか?」

「いえ……オレは根は怠け者なんで、日がな一日ぼーっとしてるの苦にならない人なんですけど……」

「それはいかん。主ほどの才能、磨き上げなければもったいないぞ。なので一緒に訓練しよう」

「これってどんな受け答えしても結果変わらない感じですか?」

「初めて会った時に言ったであろう……拙者がやると決めたんだ。断ることはできない」

 そう言うと、サカタは目を爛々と輝かせて不適な笑みを浮かべた。その表情を見て、アストもついに諦める。

「あくまで訓練……互いを高めるための組手ですよね?」

「もちろんだ。拙者が客人の命を脅かすようなことをすると思うか?」

「するかしないかで言ったら、おもいっきりしそうに見えますよ」

「どうやらかなり誤解しているようだな。これは一刻も早く拙者のことを知って貰わなければ。ということで早速参ろうか?」

「せめてカフェラテだけ飲ませてくれませんか。もったいないんで」

「焦らすのう……だが構わん!一服するくらいの時間を待ってやる度量は持っているからな拙者は」

「それは素晴らしいですね……」

「まぁ、そのカフェラテ、飲んでもすぐに吐き出すことになるかもしれんがな!」

「はは……そうならないように頑張ります……はあ……」

 こうしてなし崩し的にアスト対サカタの戦いが決定したのだった。


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