弾ける花火、深まる疑念
「よし……」
シュルシュル……
遠心力を存分に生かし、謎のオリジンズを地面に叩きつけた覚醒アストは鞭状に変形し獣の頭に絡み付いていた腕をほどき、元の形に戻した。
(さすがにここまでやれば気絶させられただろう)
「………」
(あれ?もしかして死んでる?)
バスケットのリングを首輪代わりにしてクレーターの真ん中でピクリともせずに横たわる赤い獣の姿を見て、青い龍はようやくやり過ぎたと思い始めた。
(マジか……奴の耐久力を見誤ったか。うまいこと気絶させるだけで済ますってのは本当に難しいな)
肩と視線を落とし、ため息をつく覚醒アスト。その動作のせいで獣から注意を逸らしてしまった。
「…………ガルッ」
その隙をつきオリジンズ再起動!倒れたまま口を開くと……。
ボオォォォォッ!!
その奥から灼熱の炎が湧き上がってきた!あまりの高温にバスケットゴールのネットは燃え、リングは溶けてひしゃげ始めた。
「結局どうすれば一番良かっ……ん?んん!?」
ここでようやく顔を上げた覚醒アストが異変に気づく。獣の口に火球が生成され、こちらを狙っていることに!
「ガルッ……!!」
「龍輪刃!!」
キイィィィィィィィィッ!!
刹那、覚醒アストは手を開くと、その中心に水の球を出現させ、それを高速で回転させていく。
回転のスピードが上がるごとに球は薄く潰れていき、最終的に水の球は丸いノコギリのような形に……彼の最強の必殺技を発動したのである。
「はあっ!!」
そしてそれを間髪入れずに投げる!極限まで薄く、速く回転するそれは空気さえ容赦なく引き裂きながら、オリジンズに接近し……。
ザンッ!!
「――ッ!?」
頭と胴体を分断した。
「水鞭!!」
シュルシュル!ガシッ!!
さらに青き龍は再び腕を鞭状に変形して伸ばし、再度獣の頭に巻き付かせる。口を強引に閉じさせ、火球を内部に封じ込めるようにギュッと。
「熱っ!?」
熱さが液体化した腕に伝わり、思わず顔をしかめる。だが、どれだけ熱くとも決して離さずに覚醒アストは頭上に視線を向ける。そして……。
「飛んでけぇ!!」
ブゥン!!
おもいっきりそのまま視界の先へ、空に向かって獣の頭を投げ飛ばした!
頭はぐんぐんと高度を上げて、周囲のビルを飛び超えると、そのタイミングで……。
ドゴオォォォォォォォォォン!!!
限界を迎えて爆散!肉片と火花を空中に撒き散らした!
「うわっ!?」
「花火?」
「昼間から?そりゃねぇだろ」
「なら、あれはなんだよ」
「さぁ?」
何も知らないプロティーブルの住民にはそれはただの花火にしか見えなかった。だから一瞬だけ足を止め、目線を上げるが、その後に何も続かないと思うとまた顔を下げて元の平穏な生活に戻っていった。
「……危なかった」
一方のアストもピンチをなんとか切り抜けたと汗を拭うような素振りを見せて、胸を撫で下ろした。
(やっぱりオリジンズは最後まで油断できないな。まさかまだ意識を保っていて、あんな大技を使ってくるとは。つーか……)
ピクピク……
(まだ動いてるし)
頭を失って身体だけになってもオリジンズはまだ僅かに動いていた。その圧倒的な生命力の強さにアストは呆れると同時に畏怖の感情を抱く。
(あなたはもう十分にやった。だから……)
「おやすみ」
ビシュゥッ!!ビシュゥッ!!
両目から二回、涙閃砲という名の高圧水流を発射し、痙攣する首なしの身体を貫く。するとようやく獣は完全に活動を停止した。
「すまないな。オレがもっと強く、オリジンズに見識があれば、穏便に済ませる方法もあったかもしれないのに。今のオレには……安らかに眠ってくれと祈ることしかできない」
そう言うと青き龍は手を合わせて、獣を弔った。本当に申し訳ないと心の底から。
「本当に君って人は優しいんだね」
そこにドローンや四足歩行型のメカ、そして真っ白でツルッとしたピースプレイヤーがぞろぞろと集まって来た。昨日と同じく。
「フーグラーか」
「イエス!騒ぎを聞きつけやって来たよ!まぁ、ボクの本体はご存知の通り本社ビルだし、今さら来てもって感じだけど」
スピーカー越しに自嘲するフーグラーがその能力で各種機械類を同時に操ると、周囲の状況をカメラで記録し始めた。
「君もツイてないね。昨日の今日でこれなんて」
「こんな風に人間を簡単に殺せるようなオリジンズが出没することはよくあるのか?」
「こんな都心部では最近珍しいかな。他の国と同様、地方部ではちょいちょいあるし、パジェットコープが来る前の荒れてた時は、悪い奴らが輸入したのが逃げ出した……みたいなことはあったみたいだね」
そう言うと一体のカリギュアが穴の開いた胴体だけの死体の横に膝をつき、隅々まで観察した。
「赤い体表に、鋭い爪の人型オリジンズ……もしかして『フレング』か?」
「このオリジンズについて知っているのか?」
「特定の人達は有名だからねフレングは。ただ頭部がないから断定はできないけど」
「なんか口から炎みたいなのを出そうとしたから、咄嗟に切り離して空に……」
「さっきの花火はそれか。っていうか口から炎を吐くならフレングで決定だね。奴の特徴の一つだ」
「そいつは街の真ん中に現れることは……」
「普通はないね」
「本当か?」
「本当だよ。こんなことで嘘ついてもしょうがないじゃない」
「本当に何もわからないのか?」
「本当だって」
「………」
「………」
パジェットコープ本社ビルの最上階にはにあるコントロールルーム。その中心にある無数の機械とモニターに繋がれた椅子に腰かけ、ヘッドマウントディスプレイをつけているフーグラーの視線と青龍の疑惑の視線が電波を通じて交差した。
「……プロティーブル解放戦線が用意したのか、もしくはそいつらに売り付けようとした奴が間抜けにも逃がしたのかだろうよ。まぁ、これからボクが頑張って調べますから報告を楽しみにしておいて」
「……わかった」
見るからに全く納得のいってない様子のアストだったが、これ以上詰めても成果は得られないと判断したのか戦闘態勢を解除し、元の優男に戻るとカリギュアに背を向け、歩き出した。
「ん?あれだったら車を呼ぶよ」
「いや、結構。自分で歩いて帰る。もう少し街も見たいしな」
「んじゃ、お気をつけて!あとまたこの件について話聞きに行くかも」
「あぁ、頑張ってな」
アストは振り返ることもせずに手を振ると、そのまま路地裏の細い道へ消えていった。
「……完全に疑われてるね。言わんこっちゃない」
アストの姿が見えなくなると、スピーカーを切ってだだっ広い部屋の真ん中でフーグラーは呆れたようにため息をついた。
(あれだけ焦るなって注意したのに。エドガー社長はどうしようもないな。っていうか昨日の暴れっぷりを見たら、フレング一匹程度じゃどうにもならないってわからんかね)
カリギュアを操作して首なし死体を人差し指で小突くとアストとは別ベクトルの社長への不信感を募らせた。
(……社長を貶しても、そんな人に頼らないと生きていけない自分が情けなくなるだけか。所詮ボクもこいつと同じ体よく利用されるだけの存在……いずれは……)
そしてどんどんと熱を失っていくそれと自らの未来を重ねて、目を伏せた。
「ボクもアストくんやサカタさんみたいな力に目覚めていたらな……」
思わず口からこぼれ出た本音は広い部屋中を反響し、さらにフーグラーの胸に抱く虚しさを強調した。




