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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
覚醒者の王
125/160

ダンク!!

「アウェイク、オレ!!」

「ガルウゥゥゥッ!!」

 予期せぬ獣との邂逅と襲撃にアストは即潜在能力解放!全身を青き龍の姿へと変化させながら、地面を転がり、爪の撃ち下ろし攻撃を回避する。


ザンッ!!


 その結果、爪はターゲットのアストではなく、その後ろにあった壁を抉り取り、見ようによっては新たなアートを刻みつけることになった。

「ガルウゥゥゥッ……!」

「一旦落ち着いて話し合おう……って、できる感じじゃないな。その眼はよく知っている……獲物を見る目だ」

 獣に睨み付けられた覚醒アストの脳裏に過ったのは、過去に戦ったオリジンズ達の眼。目の前の獣も彼らと同じく確実に命を奪ってやると怒りと憎悪を込めた眼差しで自分を見ていた。

(まさか昨日に続いて今日も戦うことになるとは。しかも相手はオリジンズなんて……思いもしなかった)

 自分の不運を呪いながら「チッ」と小さく舌打ちをする。だが同時に、心は苛立っていても頭は冷静に敵を分析しろと指令を出し、その指示に従い金色の瞳で獣をつぶさに観察する。

 謎のオリジンズのサイズは覚醒したアストと同等、体表は赤く、短い尻尾が生えていた。そして手にはまるでナイフを並べたように鋭い爪が生えており、そこから白い煙が昇っている。そしてそれで抉られた壁も……。


ジュウゥゥゥゥッ……


 白い煙を昇らせていた。どうやら少し溶けているようだ。

(あの爪、熱を発しているのか?だとしたら液体化で無効化できない。よりによってオレへの対抗策を持つオリジンズとは……都合が良すぎないか?)

 考えるまでもなく、あまりにピンポイントに覚醒アストにとっては不都合な能力を有していた。先ほどまでこれまで感じた違和感について考えていたこともあって、アストにはこれも仕組まれた出来事にしか思えなかった。

(もしこれがパジェットコープによる策略だとして、オレはこのまま戦っていいのだろうか?むしろここは撤退という選択肢が一番……)


「パパ~!ママ~!待って~!!」


「!!!」

 今しがた通って来た細い道の入口から親を呼ぶ子供の声が聞こえてきた。この瞬間、アストの中から“撤退”という最も無難に思われた選択肢がきれいさっぱり消え去った。

(こいつを放置して、さっきの公園に行かれたら、何の罪もない子供達がたくさん犠牲になる。ならば……オレがこいつを止めるしかないだろ!ちくしょう!!)

 別に戦いたいわけではない。というかできれば戦いたくなんてない……。

 だが、アスト・ムスタベという人間はその優しさから大切なものを守るためなら心を鬼にして、拳を握れる男なのだ。

「謎のオリジンズよ……命までは奪いたくない。どうか大人しく捕まってくれないか?」

「ガルウゥッ……!!」

「だよな」

 オリジンズの眼光は変わらず。アストの言葉を理解できないし、できたとしても無視したであろうと思えるほど興奮してぎらついていた。

「そっちがその気なら、こっちも不本意だけど……力を行使させてもらう!」

 決意を固めた青き龍は体内の水分を金色に輝く瞳に集める。

 得体の知れない相手への初手としてアストが選んだのは、近づくこともせず、触れることもせずにダメージを与えられる遠距離攻撃だった。

「涙閃砲!!」


ビシュゥッ!!


 涙というには苛烈過ぎる一筋の水流が発射された!それは空気の抵抗をものともせずにターゲットへと迫っていく!

「ガルウゥッ!!」


ヒュッ!


 しかし、赤い獣は驚異的な反応速度で躱す!しかも跳躍するとさらにそのまま……。


ガンガンガンガンガンガン!!


 壁を蹴り出し、また別の壁へ。そしてその壁からまた対面にある壁に……。

 そうやって三角跳びで青き龍の頭上を跳ね回った。

「身軽だな。本来は森や険しい山なんかに住んでるのか?まぁ、どうでもいいけど」

 続いて覚醒アストは手のひらを開き、その指の先に小さな水の球を生成した。

「点でダメなら面だ!散青雨!!」


ババババババババババババババッ!!


 腕を勢いよく頭上に向かって振り抜くと、射出された指の先の水の球は、進んでいく度に、さらに細かく分裂し、オリジンズの視界一面に広がった。

「ガル!!」

 重力に逆らい真下から降り注ぐ銃弾の如き豪雨を見て、反射的に回避は無理だと悟ったオリジンズは空中で身体をできる限り小さく丸めた。


ババババババババババババババッ!!


「――ウゥゥゥッ!!?」

 被弾面積は小さくできてもゼロにはできない。打ち付ける無数の水球に血のように赤い皮膚は裂かれ、貫かれ、抉られ、同じ色をした液体がにじみ出る。

「賢いな。初見で散青雨に対応するとは。だったらもう一度……!」

 覚醒アストは落下してくる赤い球体を睨み付けると、その瞳に再び水分を集中させた。

「涙閃砲おかわり!!」


ビシュゥッ!!ザシュウッ!!


「――ガッ!?」

 再度凄まじい勢いで発射された龍の涙!それは今回は見事に命中し、獣の腕や脇腹に穴を開けた。

 さらにそのせいで体勢を崩したことで……。


ドスウゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


「――ッ!!?」

 受け身も取れずにバスケットコートに墜落!追加で落下ダメージを与えた!

「これが本当の泣き落とし……なんてね」

「ガルウゥゥ……!!」

 間髪入れずに更なる追撃!フラフラになりながらも必死に立ち上がろうとする獣へと突撃していく!

「オリジンズ愛護団体の人、すいません!!」

 そして勢いそのままに振り被った拳を……。

「ガル!」

 殴りかかろうとしたタイミングを見計らって、今までのグロッキーさが嘘のように機敏な動きでカウンターの爪突き!

「!!」


ヒュッ!!


「ガ!?」

 けれども本能か経験則か覚醒アストは直前でバックステップをしたので爪の切っ先は金色の瞳にギリギリ届かず、つまり奇襲は不発に終わった。

「賢いというより小賢しいな。弱ったフリなんて」

「ガルウゥゥゥッ!!」

 ごちゃごちゃうるさいんだよ!と、言わんばかりに元気になったオリジンズは口と両手を広げて飛びかかってきた!羽交い締めにした上で首を噛みきるつもりだ!

「今は抱きしめられたい気分じゃない」


ヒュッ!ゴッ!!ガチン!!


「――ッ!?」

 だがこれも青き龍はいとも容易く跳躍して回避。さらにそれだけでは飽き足らず獣の頭を踏みつけ、だらしなく開いた口を強制的に閉じさせながら、背後に回った。

「ガ!ガルウゥゥゥッ!!」

 これは相当屈辱だったのか今まで以上に猛々しく吠えながら振り返る。そこには……拳を振り抜く龍の姿が。

「はあっ」


ゴッ!ゴッ!ドゴッ!!


 昨日、刃風・双を夢の世界へと案内した右フック、左フック、そしてとどめの右アッパー!華麗なるコンビネーションパンチが今日も唸りを上げた!

(手応えあり)

 覚醒アストは拳から伝わる感触から勝利を確信する。しかし……。

「………ガ」

「………ん?」

「ガルウゥゥゥッ!!」

「ッ!!?」

 オリジンズの意識は断たれてなかった!人間とは異なる太く硬い首の骨とそれを覆う柔軟な筋肉繊維がクッションとなり、脳への衝撃を分散したのだ!

「ガルウゥゥゥッ!!」

 そしてそのまま獣はよくもやってくれたなと鋭いナイフの爪を横に薙ぎ払った!


ブゥン!!


 しかし、これまた空振り。一瞬だけ驚いたがアストはすぐに気持ちを立て直し、身体を仰け反らせて反撃を躱した。さらに……。

「でやあっ!!」


ドゴッ!!


「――ガッ!?」

 回避運動の反動を利用して、足を伸ばして前蹴り!獣の腹にねじり込むようにぶち込んで、吹き飛ばした!

「ガルウゥッ……!!」

 それでも謎のオリジンズは倒せない。腹を叩かれ逆流した体液を口から惨めにもボタボタと垂らしながらも、闘志は衰えずに青き龍を睨んでいる。

(改めてオリジンズ相手は厄介だな。人間相手なら決まり手でもいい技に平気で耐えやがる。こいつをKOするには、相当の威力の技じゃないと)

 今出すべき最適な技を検索するアスト。その彼の視界の片隅に天啓のようにバスケットゴールがちらついた。

(この場所で戦うことになったのも何かの縁。新技の初下ろしといこうか)

 心の中で決断を下した覚醒アストは構えを解くと、だらりと腕を下ろし、力を抜いた。あの技だ。

「水鞭」


ヒュッ!グルン!ガシッ!!


「――ガッ!!?」

 脱力しさらに液体化した龍の腕を勢い良く振り抜くと、ぐんぐんと伸びていき、技名の通り水でできた鞭へと変化する。

 その先端は相当のスピードを誇り、タフとはいえかなりのダメージを受けてズタボロのオリジンズに反応させることなく、あっさりと頭部に巻き付く。そして……。

「おりゃあッ!!」


ブン……ブン……ブンブンブンブンブン!!


「――ッ!!?」

 そのまま全力でブン回す!ハンマー投げの要領で赤い獣は遠心力に身を委ねながら、青の龍の周りを衛星のように旋回する!

「はあっ!」


グンッ!


 その横回転エネルギーを強引に縦回転に変換!覚醒アストの頭上を弧を描いて頭を掴まれ為す術がないオリジンズが通過し……。


ドゴッ!!バギッ!!


 バスケットゴールに叩き込まれる!

 当然本来のボールよりも大きいオリジンズはリングに引っ掛かり、ゴールを破壊しながら……地面に!

「ブルースリーポイントダンク!!」


ドゴオォォォォォォォォォォォン!!


 ダンクというより隕石が衝突したようだった。

 壁が、地面が、プロティーブルが揺れ、バスケットゴール下にその技の破壊力を物語るような巨大なクレーターが出現したのだ。



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