最大の障害
「みんな!出ろっ!!」
「「「はっ!!」」」
リーダーと思しき男の合図で前後のトレーラーから続々とピースプレイヤーが降りて来た。
とりわけ目を引くのは……。
背中の右側部分にキャノン砲が折り畳まれ、左側にマイクロミサイルポッドが装備された重武装のマシン。
見惚れるような美しい刀身の刀を二本携えた鎧武者の如き機体。
スクラップを継ぎ接ぎしたような歪なピースプレイヤー。
これら三体で、それら以外は二種類のピースプレイヤーが混在しているようだった。
「メインの戦力は『ソルジャードッグ』と……『イクストラル』でしたっけ?」
「よくご存知で、正解です」
ミラー越しにイゴールはアストと目を合わせ、意外そうな顔をした。
「ピースプレイヤーもお詳しいんですね」
「たまたまですよ。前者は有名ですし、後者は以前、友人に安くてそこそこ優秀なマシンだから覚えておけと言われたってだけで」
「それよりも問題なのは、そいつらと違うあの三体……」
「お目が高い。二刀流の『刃風・双』を装着しているのが解放戦線の現サブリーダー『グラント・バーズリー』、あのジャンク品を継ぎ接ぎしたみっともないマシンはその名も『ジャンクドッグ』。装着しているのは『ザット・ティアニー』というチンピラです」
「そちらも色々とお詳しいですね」
「まぁ、仕事上ね。それに昔ちょっと……」
イゴールはバツが悪そうにバックミラー越しにアストから目を逸らした。
「……自分のことはいいんです。それよりも重武装の『バルランクス』の使い手こそが……」
「エドガー・パジェット!無駄な抵抗はせずに速やかに投降しろ!!」
「……今、喋ったのがリーダーの『ネイザン・コルバック』です」
「あの男が現在のプロティーブルに不平不満を持つ人間を焚き付け、こうしてテロ紛いの行為をし続けているのです。なんと忌々しい」
エドガーは不快感をこれでもかと表現するように親指の爪を噛んだ。
「あなたのやり方に不満を持つ人がいるのですかエドガー社長?」
「百人が百人、百%満足するような政策なんてあり得ません。不平を持つ人もそりゃあいるでしょう。ならば、それを言葉にして伝えてくれればいいのに、この解放戦線とやらは暴力に訴えて……」
(これだけ急激な変化だ、軋轢も生まれるか。今の段階ではどちらが正しいか判断しかねるが……)
「早く出て来ないと、車ごと吹き飛ばすことになるぞ!それでもいいのか!!」
(さすがにただの成金社長相手に物騒過ぎるよな)
アストはエドガーのことをまだ信用していないが、それ以上に解放戦線の高圧的な態度に腹が立ち、ほんの少しだけ彼に同情を覚えた。
「社長、ここは自分が」
運転席にいたイゴールはシートベルトを外し、懐からデバイスを取り出した……ジャンクドッグを睨み付けながら。
(イゴール……!!)
ジャンクドッグもまた彼が出て来ることをまだかまだかと待ち構え震える。それは武者震いかそれとも……。
けれど残念ながら彼らの因縁の決着は一人の来訪者によって邪魔されることになる。
「イゴールさん、ここはオレが行きますよ」
「……え?」
イゴールを制止すると、アストもシートベルトをガチャガチャと外し始めた。
「アストくん、君が戦う必要なんて……」
「そうも言ってられないでしょ。この人数相手にピースプレイヤー一体だけじゃ厳しい」
「いや、時間さえ稼げば『六覚星』の誰かが駆け付けてくれるはずですし……」
「そのなんたらかんたらを待つよりオレがやった方が早い。ここにオレがいるのも何かの縁、任せてください」
「アストくん!?」
エドガーの言葉を振り切り、アストはドアを開けて外に出た。今の言葉通り、この状況に何か感じるものがあったから……などでは、当然ない。
(理由はどうあれ信用し切れてない人間に……イゴールさんに武装させたくない。そして多分、本当にオレがやった方が手っ取り早いと思うし)
アストはあくまでパジェットコープに心を許していない……いないからこそ、戦う決意をしたのだ。
「……誰だお前は?」
車の後ろから出てきた見知らぬ男にリーダーのバルランクスは警戒を強めながら問いかけた。
それに対し、アストは……。
「あんた達に名乗る名前はない」
拒絶の意思を示すと……。
「アウェイク……オレ」
戦闘形態への変身を開始した!
優男と形容されるアストの全身がみるみるうちに優しい青色をした鱗に覆われ、異形の形に。そして瞳が金色に爛々と輝く。
アスト覚醒態、プロティーブルに降臨!
「ちっ!」
「こいつも……!」
「やはり新手のエヴォリストか……!!」
エヴォリストのための国というのは伊達ではないらしく、アストの変貌を見てもいつもよりもリアクションは薄かった。けれどだからこそ……。
「気を引き締めろ!この威圧感……並みの奴じゃないぞ!!」
けれど見慣れてるからこそ、一部の人間は人智を飛び抜けた存在の中でも一際飛び抜けていると、特上のエヴォリストだと察知し、警戒心を強める。
「おおっ……!!」
「あれがカウマの無敵の龍人……!!」
そして車内のイゴールとエドガーもまたその強大な力に当てられ、感嘆の声を溢す。その異形ではあるが、どこか美しく力強い姿に憧れの眼差しを向けて……。
「プロティーブル解放戦線……とか名乗っているらしいな?」
「……あぁそうだ名無しさん」
「オレはこの国の部外者だ。だからここで大人しく退いてくれるなら見逃してやる。とっととその邪魔なトレーラーをどけろ」
意趣返しのようにあえて高圧的な態度を取りながら覚醒アストは自分に注目を集めた。
そして同時に決して誰にも気付かれないように手のひらの指の先に小さな水の球を生成する……。
(このくらいでいいかな)
「部外者というなら引っ込んでいろ!これはこの国の人間の問題だ!!」
「問題があるなら武力ではなく話し合いで解決しろよ。こんなやり方間違っている」
「何も知らないのに適当なこと言いやがって……!!」
ジャンクドッグが苛立ちから拳を強く握りしめた。いや、彼だけでなく他の連中も怒りに身を震わせている……アストの狙い通りに。
(いい感じに熱くなってくれてるな。これなら一気に……)
「お前と話していても埒が開かないようだ。ここは強引に目的を達成させてもらう」
バルランクスが手を軽く振り上げ、戦闘開始の合図を出そうとしたその時であった。
「お前らかか――」
「散青雨!!」
ババババババババババババババッ!!
「――れ!?」
覚醒アストが腕を勢いよく振り抜いて指の先の水の球を発射する!それは空中でさらに細かく分裂し、散弾銃のように解放戦線へと襲いかかった。
ババババババババババババババッ!!
「ぐあっ!?」「ぎゃっ!?」「ぐっ!?」
激しい豪雨よりも強く打ち付ける水球の群れに為す術なくソルジャードッグとイクストラルは装甲をへこませ、カメラを粉砕された。
「ちっ!」
「くそっ!!」
一方、幹部格のバルランクスとジャンクドッグはさすがの動きで、攻撃範囲外に逃れる。
「一網打尽とはいかないか。それでも!!」
覚醒アストは出鼻を挫かれ混乱しているしたっぱ達へと一気に接近。そして……。
「はあっ!!」
ドゴッ!ガッ!!バギイッ!!
「「「――ッ!!?」」」
目にも止まらぬ蹴りや手刀、パンチで意識を断ち切って行った。
「たった一瞬でこれだけの被害を……」
「あいつ……強いぞ!」
「六覚星クラスか……!!」
「臆するな!数ではこちらが勝っているんだ!みんなで一斉に襲いかかれば……」
「待て」
恐慌状態に陥り、半ば自棄になったような特攻を行おうとする部下達をチームのサブリーダー、二刀流の刃風・双が制止した。
「バーズリーさん……」
「あのレベルの相手では、この程度の数の差で有利は取れない。お前らは下がっていろ」
「ですが……」
「ここは……自分達がやる」
鎧武者が目配せすると、リーダーと鉄砲玉が力強く頷いた。
「おれが隙を作る!その間に!!」
バルランクスは背部左側のマイクロミサイルポッドを展開。マスク裏のディスプレイに表示されたカーソルが突如として現れた青い龍をロックオンすると……。
「喰らえ!!」
バシュ!バシュ!バシュウッ!!
容赦なく発射した!
無数の小さなペンシル状の飛行体は煙で空中に線を引きながら、アストへと一斉に向かって行く!
「もう一度散青雨!!」
バババババババッ!!ドゴッ!ドゴオンッ!!
水の球は弾幕としての役目を見事に果たし、脅威を全て迎撃。マイクロミサイルはターゲットの手前で強制的に爆破させられ、煙を撒き散らす。
「今だ!ザット!バーズリー!!」
「はい!」
「おう!!」
ミサイルは自らに注目を集め、仲間を接近させるための布石!狙い通りにジャンクドッグと刃風・双は覚醒アストを挟み込むように……。
「でやぁ!!」
ドゴッ!!ドゴオォォォォン!!
「――ッ!!?」
「ザット!!?」
挟み撃ちにしようとしたが、想像よりも速く、そして長く伸びた前蹴りをもろに喰らいジャンクドッグは吹き飛び、トレーラーへと叩きつけられた。
「ちっ!よくも!!」
目の前で仲間がやられ、プランが破綻したとしてもサブリーダーは揺るがなかった。美しく研ぎ澄まされた二本の刀を巧みに操り、名も知らぬエヴォリストに打ち込む……が。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!
「ッ!?」
しかし、その切っ先は青い鱗を掠めることもできず。
覚醒者は人間を遥かに超えた動体視力と反射神経で紙一重で斬撃を回避し、虚しい風切り音だけが周囲に鳴り響く。
「さすがに鋭い太刀筋だ。だが、オレを倒すには物足りない」
「くそ……!!」
「ならば足りない分はおれが補おう!!」
サブリーダーの窮地にリーダーが助太刀!バルランクスは背部右側のキャノン砲を展開すると、膨大なエネルギーを砲身に集めていく。
「させるかよ」
それに対抗するように、青き龍は爛々と輝く金色の瞳に体内の水分を集中させる。狙いをつけるスコープであり、発射口でもあるそれをキャノン砲へと向けると……。
「涙閃砲!!」
ビシュゥッ!!
涙というには激しすぎる水流一閃!ロックオンから発射までのタイムラグがほぼなく金色の瞳から発射された高圧水流は、発射直前のバルランクスのキャノン砲口に侵入すると……。
ドゴオンッ!!
「――ぐわっ!!?」
そのまま砲身を縦断し、貫き、行き場を失ったエネルギーが逆流して背部ユニットが爆砕した。
(まさか目からも攻撃ができるとは……!)
衝撃で前のめりに倒れるバルランクス。そのマスクの下でネイザンは……嗤った。
(だが、これでお前が攻撃する隙は作ったぞバーズリー!!)
「はあっ!!」
リーダーの方に視線が向いた覚醒アストの両肩に刃風・双は二本の刀を垂直に全力で撃ち下ろした!
それは鱗を粉砕し、皮膚を切り裂き、腕と胴体を分断する……はずだったのだが。
バシャバシャアン!!
「!!?」
鱗を砕く感触も、皮膚を切り裂く感触も、腕と胴体を分断する感触もなかった。
バーズリーが感じたのは刀を水が通り抜ける感覚……。
覚醒アストは肉体を液体化して、斬撃を無効化したのだ!
「残念だったな」
「ッ!?」
ゴッ!ゴッ!ドゴッ!!
カウンターで右フック!左フック!右アッパーの電光石火の三連撃!攻撃に専念し、防御のことなど一切考えていなかった刃風・双に防ぐ術などなく、見事三発とも顎にぶち込まれ、意識を夢の世界に弾き飛ばされてしまった!
(くそっ!!強いとは思っていたが、まさか斬撃を無効にできる能力持ちとは!!こんなことならレスコット対策のあのコンビを連れてくるべきだった……!!)
自ら失策と見立ての甘さに悔しさと情けなさから歯噛みするネイザン。覚醒アストのポテンシャルは彼の予想を遥かに超えていた。とはいえ完全なるイレギュラーな存在である彼に完璧に対応しろというのも酷な話ではあるが。
「ちっ!後悔していても仕方ないか……物理攻撃が効かないなら、これはどうだ!!」
最大火力のキャノン砲を失ったバルランクスはライフルを手に召喚した。水を一瞬で蒸発させるビームを放つことができるライフルを。
「頼むから効いてくれよ!!」
ビシュウッ!!
銃口から放たれた閃光は大気を焼き焦がしながら真っ直ぐとターゲットに向かって行く。
それに対し覚醒アストは……。
「おっと」
回避運動を取った。ビームは青龍を通り過ぎ、彼方へと飛んで消えて行ってしまう。だが、その光景を見たネイザンの顔は明るい。
(今の攻撃を避けたということは、やはり何でもかんでも無効にできるというわけではないみたいだな。これならまだこちらに勝ち目が……!!)
勝利の光明が見えたことでグリップを握る手に、引き金にかけた指に自然と力が入った。
(めんどうなものを)
対照的に覚醒アストは構えを解いて、だらりと腕を下ろし、完全に脱力した。長い腕が骨や関節が失われたように、ゆらゆらと流動的に揺れる。
「というわけで取り上げさせてもらう。水鞭」
ヒュッ!グルン!ガシッ!!
「――ッ!!?何!!?」
脱力しているだけでなく液体化もしている覚醒アストの腕を振り抜くと、勢いに任せて一気に延長し、水鞭という技名が示すように、その腕はまさしく水でできた鞭になる!それがバルランクスには反応できないスピードでライフルに接近すると、銃身に蔦のように巻き付いた!そして……。
「はい、没収!」
グイッ!!
「――うあっ!?」
それを力任せに引っ張ると、必要以上に強い力で握りしめていた本体も引き寄せられた。行きたくもないのに、バルランクスは前方に、青龍の方に吸い込まれるように近づいていく!
「おまけが来てくれるなら、このまま一気に決めようか」
青き龍は拘束をほどき、腕を元の形に戻すと拳を固く握りしめて引いた。いまだに引っ張られた余韻でこちらに向かって来ているバルランクスを、その勢いを利用したカウンターで顔面を撃ち抜き、一発KOするつもりだ。
(あれを喰らうのは……まずいってもんじゃない!!)
バルランクスも龍の意図を察知し、最悪の未来を防ぐために動き出した!左足に全身の力を集約し、つっかえ棒のように斜め下、前方の地面に突き立てる!
ガッ!ギイィィィィィィィィッ!!
「ぐっ!?」
全体重と身に纏ったマシンの重量、そして頼んでもいないのに強引に与えられた運動エネルギーがたった一本の脚にのし掛かり、その中心にあるネイザンの膝関節はギチギチと音にならない悲鳴を上げた!それでも根性で耐え、アスファルトと足裏の装甲を擦り、火花を上げながら、スピードを緩めていく。
ギイィッ……
「ッ!?」
その結果、覚醒アストに倒されるために自ら突っ込んでいくという醜態を晒すことだけは回避した……が。
「よく耐えたな」
「……え?」
「いいものを見せてもらったお礼だ。褒美をくれてやる」
ドゴッ!バギャアァァァン!!
「――がっ!!?ぐわあぁぁぁぁぁぁっ!!?」
覚醒アストはブレーキングのために伸びきったバルランクスの左脚を容赦なくローキックでへし折った。彼からしたらどうぞ蹴ってくださいと言わんばかりに差し出されていたので、綺麗に膝関節の横に蹴りが炸裂した。
「があっ!?ぐっ!?」
本来前後にしか曲がらないはずの膝が横に折れると、そこから全身に広がる鈍い痛みによってネイザンは仮面の下で顔をひきつらせ、脂汗を滲ませ、立つこともままならず、まるで許しを乞うように無様に四つん這いになって、頭を垂れる。
「どうやら……勝負は着いたみたいだな」
それを冷たく輝く金色の眼で見下ろす覚醒アスト。今のこの立ち位置こそ、両者の力の差を何よりも雄弁に物語っている。
(まさかまだアルトゥルやサカタに並ぶ特上の戦闘型エヴォリストを保持しているとは……!間違いない……この青の覚醒者こそ、プロティーブル救済の最大の障害になる……!!)
絶望に打ちのめされたネイザンの頬を痛みから来る脂汗とは違う種類の水滴が伝った……。




