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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
覚醒者の王
118/157

悩む青龍

「バリッ!」

 不意に遭遇したコンビニ強盗を懲らしめてから数日後、アストは下宿先のウエハラ家の茶の間で煎餅を食べながら再放送のドラマを見るというしょうもないが、最高の時間を楽しんでいた。

「こうして見ると、このカウマの注目の的、ブリュウストだとは思えないわね」

 ヒーローなどと持て囃されている男だとは思えないあまりに所帯じみたアストの姿にお茶を淹れてきたコトネは思わず苦笑いを浮かべた。

「オレは別に注目されたくもなければ、そもそもヒーローやってるつもりもないですよ」

「はいはい。目の前で困っている人がいるとほっとけないお節介さんなだけよね。そしてその気質のせいか、運がないのか目の前でしょっちゅうトラブルが起こるだけ」

「運がないとか……嫌なことを言わないでくださいよ。言霊ってオレあると思ってるんですから」

「そりゃあ悪うござんした。美味しいお茶をご馳走するんで許してくだせぇ」

「いいだろう。許してあげましょう」

 下らない小芝居に笑みを浮かべながら、白い湯気が昇る湯飲みを受け取ると、アストはフーフーと息を吹きかけてから一口、ズズッと音を立てて啜った。

「結構なお手前で」

「スーパーで一番安かった茶葉に適当にお湯ぶっかけただけだけどね」

 そう言うとコトネも一口だけお茶を口に含み、喉を潤した。

「ぷはー!………で、悩みは解決したかね若人よ」

「何ですか急に?」

「いや、最近たま~に思い詰めた顔してたじゃん。こんな風に眉間にシワ寄せて、険しい顔してさ」

 コトネは顔の筋肉全てに力を込めて、その時のアストの顔つきを真似したが、バカにしているようにしか見えなかった。

「……自分で言うのもアレですけど、オレはもっとハンサムですよ。そんな間抜けな顔してない」

「あんた結構自己評価高いわね。実際それなりに整ってるから強く否定できないけど。って、そんな話じゃなくて、お悩みは結局どうなったの?」

「どうと言われても……今も絶賛迷い中ですよ。ぶっちゃけどうしたらいいかわからない……」

 アストの脳裏に甦ったのは秘密結社T.r.Cとの戦い、特にパーヴァリーとイグナーツとの戦闘の最中や終わった後に交わした会話。そして自分と同じエヴォリストに目覚めたが、力に飲み込まれ、暴走したショーン・ヴォークスの姿であった。

「エヴォリストへの差別や偏見は話では知ってましたけど、こうして直面すると何か思ってたのと違うなって」

「自分で言うのもアレだけど、ワタシを含めて、あんたの周りっていい奴ばかりだからね」

「それは本当にそう思います。あれから色々とエヴォリストについて改めて調べていますが、目を覆いたくなるような事件もたくさんあって」

「それって普通の人間がエヴォリストに対してやったこと?それともエヴォリストが人間に対してやったこと?」

「どっちもですよ。エヴォリストってだけでこんな扱い受けたら堪らないってのも、こんなことやられたら、エヴォリストのことそりゃあ警戒するよなってのがいくらでも見つかって……」

「前者はともかく後者は差別を助長するかもって、メディアなんかもかなり消極的だからね。あんまり報道されないけど、実のところエヴォリストの暴走ないし、悪事って多いのよね」

「今思えば、兄貴なんかもオレが止められなければ、あのまま暴れ回って島中の人間を殺してたかもなとか考えると……」

 想像しただけで背筋が凍り、身震いした。

「オレ、初めて会ったエヴォリストがセリオさんだったから、なんかみんなあんな風にいい感じに目覚めた力と折り合いつけているとばっかり。でも世界には自分の能力に振り回されたり、不満に思っているエヴォリストがたくさんいて……」

「それがT.r.Cの奴らから聞いた話とヴォークスさんとやらの覚醒を目の当たりにして、わかんなくなっちゃったってわけね」

「はい……オレ自身も特に自分の能力について不満はないですし、コントロールもできてるんで」

「実際T.r.Cの言う通り、その能力は大当たり中の大当たりよ。使わない時はオフにできるわ、色々と応用も効くわ、戦闘型のエヴォリストとしては最高峰じゃない?」

「…………」

 アストは急に黙ると、何かを訴えるようにコトネの目をじとーと見つめた。

「……何よ?」

「オレ、自分の能力に不満はないですけど、戦闘型とかいう訳のわからない分類に入れられるのは嫌なんですよね。別に戦いに使うかはオレ次第なのに」

「それは……確かにそうね」

「まぁ、これだけところ構わず戦っていれば説得力ないかもですけど」

「それもそう」

「けど、やっぱり納得いかない。強さだけがこの力じゃないのに、戦闘型なんて……!」

「ちなみに戦闘以外、日常生活ではどういうところが役に立つの」

「まずはいざという時に水分補給ができる!空気中から全身で水を取り込んで、脱水症状とは無縁!」

「それは便利ね」

「あと日常じゃないかもですけど、水の中でも息ができます。いくらでも潜ってられます」

「日常的には微妙だけど、溺れないのはいいわね」

「あとは今みたいにお茶が熱い時に……ふん!」

「おおっ!!」

 アストの瞳が金色に輝き、手のひらに力を込めると、空気中から水分が集まり球体を生成した。そしてそれを湯飲みの側に寄せると……。

「これを……こうして!」


ジョロロロロロロロロ……


 小さな滝のようにお茶の中に一筋の水を流し込んだ。

「どうです?これで適温……コトネさん?」

 一部始終を見ていたコトネは舌を出して、顔をしかめていた。

「あんた、それって汚くない?」

「失礼な!埃やら汚れやら排除してますからきれいですよ!何だったら水道水やミネラルウォーターよりもね!!」

 そうぷんすか怒りながら瞳の色を戻したアストは適度な温度になったお茶を一気に飲み干した。

「ぷはー!美味しい!」

「あんたが気にしないならワタシは何も言わないけど……まぁ、日常生活的にも地味に便利だわね」

「個人的に洗濯物の水分を取り除いて、一瞬で乾かせるようになると便利だと思って努力しているんですが」

「ド派手な変形の練習の合間にそんなことやってたの?」

「気分転換にね。オレとしてはこういうところを褒めて欲しい訳ですよ。強いとか弱いよりも便利だねって」

「発想が家電ね。でも、あんたがどう思おうと、やっぱり普通の人からしたら、敵をぶちのめすスーパーパワーの方が大事よ。ましてや自分の能力が“外れ”だと思っているエヴォリストからしたら尚更」

「ですかね……何にせよエヴォリストの知り合いが少ないのが、オレの悩みの原因だと思うんすよね。もっと色んなエヴォリストの話を聞いてみたいって欲求が日に日に強くなってる感じがする……!」

 言葉にしたことでさらに想いが強くなったのか、先ほどとは違う感情で全身を震わした。

「それなら待ってないで会いに行けば?例えば……セイクリアとか?」

「“偉大なる11人 (グレイテスト・イレブン)”にアポ無し突撃しろと?」

「こっそり実はワタシはカウマで話題のブリュウストですって教えれば、会ってくれるんじゃない。あんたのやってるお節介を国に認められてお仕事としてやってる連中なんだから、向こうもあんたに興味があるはず」

「だとしても彼らはセリオさんやオレと同じく能力と折り合いをつけて生きているエヴォリストじゃないですか」

「そっか。そっちの話は別に聞きたいわけじゃないものね」

「まぁ、聞けるんなら聞きたいですけど……」

「だけどセイクリアなら、次世代の偉大なる11人になろうとするエヴォリストもいっぱいいるはずだし、そっちにアプローチしてみたら?きっと色んなタイプの能力者が集まっているでしょうよ」

「あぁ……そっちか。確かにそっちの人の話は聞きたいかも……」

 思うところがあったのか、アストは腕を組むとコトネの言っていた眉間にシワを寄せた険しい表情を顔に張り付けた。

「イエローポイズンだっけ?あれが壊滅してから、大きな事件は起きてないし、特務部隊もいる。いざとなったら改心したヴォークスさんとやらを引っ張り出してくればいいわけだし……この機会に観光がてら行ってみれば」

「けどお金が……」

「ん?謝礼金があるでしょ。あれやこれやに協力したお礼に特務から貰った」

「あれは別に……お金が欲しかったわけじゃないので……」

「そう言う割に返そうとはしないわよね」

「うっ!?」

 痛いところを突かれた。普通よりシビアな金銭感覚を持っているアストくんはああだこうだ言いながらもきっちり自分の口座に謝礼金を貯め込んでいるのだ。

「別にアホみたいな使い方するんじゃないんだから、そのお金でセイクリアでもどこでもエヴォリストが居そうなところ行って来なよ。成果を得られなくても、他の場所の空気を吸えば、気が楽になるかもしれないし」

「そう言われると、その使い方が一番いい気がしてきた……思いきって、次の連休に行って見るかな」

「それがいいわ。後でお土産のリスト渡すからよろしくね。セイクリアでしか買えないかわいいポーチがあるのよ」

「……もしかしてコトネさん、最初からオレにお使いさせるつもりで、この話を……?」

「そ、そんなわけないじゃない」

 ズズッとお茶を啜るコトネの身体は僅かに、けれど確かに震えていた。

「コトネさん……」

「あっ!ワタシ、まだ課題が残ってたんだ!これは急いでやらねば!!」

「そんな下手な芝居しなくても……」

「ワタシは芝居なんかしてな~い!誤魔化してなんかもしてな~い!!」

 どう見ても芝居がかった喋り方をしながら、空の湯飲みを片付け、コトネが自室に帰ろうとしたその時だった。


ピンポーン


「ん?」

 突然、インターホンが鳴った。

「珍しい。お客さんですか?」

「来客の予定はないけど……まさか今時訪問販売?」

「とにかく確認してみましょう。オレもついて行きますよ」

「これは心強い。カウマ最強の戦士がいれば、怖いもの無しね」

「オレが力を使うことになんてならないですよ」

 そう言ってアストも立ち上がり、コトネに続いて茶の間を出る。

 そしてそれこそが再びカウマの青き龍が新たな戦場に赴く第一歩だったのだ……。


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