おまけ:その頃の幼なじみズ
覚醒アストが第三特務を救うためにヴェノコンダと相対している頃、彼の幼なじみであるウォルター・ナンジョウとメグミ・ノスハートは人気のない砂浜で向かい合ってストレッチしていた。
「よいしょっと!身体も解れたし、そろそろ始めるか?」
「だね」
そう言うとメグミは腕輪を、ウォルは指輪を嵌めた手を顔の前に翳した。そして……。
「ゴウサディン・ナイティン!!」
「イクライザーV3起動」
各々愛機の名を叫び、それを装着する。
眩い光を放ちながら、メグミは巨大な槍と盾を装備した銀色の騎士にも似た姿に、ウォルは黒いボディーに鮮やかな赤い半透明のパーツが取り付けられたともすれば奇怪な姿へと一瞬で様変わりした。
「じゃあ先手は……」
「おれがもらうぜ!!」
「いっ!?」
先に動いたのはナイティン!円錐形の長大な槍を踏み込むと同時に突き出す!
ヒュッ!!
「ちっ!」
「危な~」
しかし、咄嗟にイクライザーは後ろに跳躍し、槍の射程外に離脱した。
「避けるのだけは本当にうまくなったな」
「おかげさまでね。だけど今のぼくは逃げるだけじゃないよ!ルビー!マルチランチャーだ!」
「了解~」
主人の命令に気だるげに応じ、補助AIは長大な銃を召喚した。そして……。
「ここは……スピードショットだよね」
「セオリー通りっすね。OK、スピードショットセットアップ」
「食らえ!!」
ババババババババババババババババッ!!
そしていくつかある弾丸の中で速射性、連射性に優れたものを選び、けたたましい音を鳴らしながらばらまく。一気にナイティンの視界一面が光弾の雨に覆われた……が。
「スピードショットなら……マルチシールドで!!」
キンキンキンキンキンキンキンキン!!
けれど騎士の持つ巨大な盾によって全て弾かれてしまった。
「さすがぼくの開発したナイティン!これ位じゃびくともしないか」
「「喜んでる場合か」」
今は敵同士であるメグミとルビーが仲良くハモりながらのんきに自らの功績を誇っているウォルにツッコミを入れた。
「確かにはしゃいでる場合じゃないか。誠実で友情に厚いぼくと違ってメグミはいつ闇落ちして裏切るかわかんないし」
「お前、おれをなんだと思ってんだ。つーか、どっちかと言うと裏切りそうなのはお前の方だろ。好奇心に負けて悪の道に走り――」
「ノーマルショット!!」
バシュ!バシュ!!
「――うおっ!?」
話しの途中に銃撃!イクライザーは先ほどより威力は高いが、スピードのない弾丸を不意を突いた形で発射したが、ナイティンは反射的に身体が動き、ギリギリで躱すことができた。
「お前……!!」
「油断大敵だよ。ましてや今にも闇落ちして裏切りそうな男を前にして集中力を切らしちゃダメね」
「そうか……そっちがその気なら、こっちも容赦しないぞ!!」
怒りのままにナイティンは突進!槍を引き、盾を構えて、砂浜を疾走する!
「なら、こっちは……」
対するウォルはマスク裏のディスプレイに映ったとある表示にちらりと目をやると、またすぐに視線を向かって来るナイティンに戻した。
「ならこっちはもう一度スピードショットで迎撃だ!!弾幕を張りましょう!!」
「……OK。スピードショットセットアップ完了」
望み通りのセッティングになったのを確認すると、イクライザーは愛銃を両手で抱えて、狙いを定めた。
「スピードショットは通じねぇってわからないのか!!」
ナイティンは対抗するように盾を構えた。走るスピードは緩めてない。本当に盾で防ぐつもりだと確信したウォルは口元をいやらしく歪めた。
(勝った!)
勝利を夢見ながら引き金を押し込む。すると……。
ドシュウッ!!
放たれた弾丸は先ほどよりも大きさ、熱量が明らかに違った!力強かった!これはスピードショットではなく威力を重視したパワーショットだ!
「だろうな」
ヒョイッ!!
「……え?」
それをナイティンは飛び越す!助走をつけていたので余裕だ!というか、そのままイクライザーの頭上までたどり着いてしまった。
「メグミ、君は……!?」
見上げると青い空をバックにナイティンが槍を振りかぶっていた。その格好のまま落下して来ていた。
天才ウォルは瞬間的に戦いの決着を理解した。
「ジーニアス、出直して来い」
ドゴオッ!!
「――がっ!?」
持ち前の膂力に加え、重力の力まで乗せた槍の腹でおもいっきり頭を叩かれると、衝撃が全身に走り、赤い半透明のパーツが一斉に砕け散った。
キラキラと舞い散る赤い欠片に彩られながら、イクライザーは柔らかい砂のベッドに仰向けで倒れる……決着である。
「痛った~!!訓練なんだからもうちょい手加減してよ!!」
「こうして文句言えるくらい元気なら十分だろ」
マスクの裏で苦笑いを浮かべながらメグミは槍の腹で今度は自らの肩を労うように優しくポンポンと叩いた。
「くそ~!百歩譲って殴り合いで負けるならまだしも、よりによって読み合いでメグミのバカに負けるなんて~」
「おれは勉強はできないが、マヌケじゃないぜ。あんなしょうもないフェイントに引っかかるほどの大マヌケじゃな。つーか、ガキの頃から付き合いだから、お前のやろうとすることなんてわかるつーの」
「ううっ……」
「宣言した弾とは別の弾を発射するってのは悪くない発想だと思うんすけどね。使うタイミングが……」
「うるさい!うるさい!!天才であるぼくをこれ以上蔑むな~!!」
幼なじみと自ら作ったAIに弄られ、ウォルはどたばたと癇癪を起こした子供のように手足を暴れさせた。砂が飛び散るのがウザい。
「おい、ウォル。そろそろ……」
「さてとスッキリしたし帰るか」
「情緒不安定過ぎる!そして勝手過ぎる!!」
ピタリと動きを止め、上半身を起こして帰宅を宣言する自由極まりない幼なじみにメグミはツッコミを入れずにはいられなかった。
「お前、いくらなんでも自分勝手過ぎるぞ。大学で他の奴とコミュニケーション取れてんのか?」
「ぼく、人を選んでやってるから」
「自慢気に言うことじゃねぇ。つーか、今のおれのこと舐めてる宣言か?」
「滅相もない。ぼくの訓練に付き合ってくれる君にはリスペクトしかないよ。今回もおかげでいいデータが取れた」
「またイクライザーを弄るのか?」
「T.r.Cとの戦いで色々と思いついてね。盗ん……拝借したピースプレイヤーや装備も面白いものも揃っていたし」
(いつかリサさんに大目玉食らうな)
「ちなみに君のナイティンの方も少し弄る予定だよ」
「え?ナイティンも改造するのか?」
「元々色々とアイデアがあったんだけど、取れる選択肢を増やし過ぎると、ピースプレイヤー素人の君は混乱すると思って今のシンプルな仕上がりになったんだよ」
「そうだったのか……」
「そうだったのよ。んで、今日のメグミの戦いぶりから見て、戦闘中でも冷静に正しい判断できるみたいだし、そろそろぼくの想定していた仕様にバージョンアップしてもいいかなって思った次第です。本人的にはどうでしょう?」
「パワーアップは大歓迎だ。おれもT.r.Cの戦いで思うところあったしな」
「そのT.r.Cの兵器も組み込んじゃうよ~!ヤバい考えただけでワクワクしてきた!こんなところで君とくっちゃべって場合じゃない!!」
「おい」
「いざ我が家へ!!こっぴどく怒られて二輪の免許は取らせていただきましたから、堂々とイクチェイサーに乗って帰るぞ!おー!!」
そう言うと、拳を突き上げながらイクライザーは歩き出した。
「ったく、本当自分勝手だな」
ナイティンも幼なじみの傍若無人っぷりに辟易しながらも、素直に後について行った。
「……ところで今日はアストは誘わなかったのか?てっきりあいつも来ると思ってたんだけど」
「もちろん誘ったんだけど、連絡つかないんだよね。もしかしてこないだ渡したウォルガジェットで盗撮・盗聴に勤しんでるのかも」
「あいつに限ってそんなことしねぇよ……思いつきはするだろうけど」
「だね。多分、大学の課題でもやってるんじゃない?」
「学生と謎のヒーローの二足のわらじは大変だな~。しばらくはあいつが出張らなきゃいけないような大きな事件が起きないといいんだが」
「ぼくも心からそうなるように常々祈ってるよ」
二人の祈りも虚しくこの時アスト・ムスタベは例の如く事件に巻き込まれていた。
T.r.C戦ではそこそこ活躍したウォルとメグミは今回に関しては全く役に立たなかったわけだが、今日のこの訓練がいずれアストの助けに……なったらいいなと思う。




