エピローグ:英雄の資格
『速報です!イエローポイズンのボスであるキース・マッカーシーが逮捕されました!しかも、なんと縄でぐるぐる巻きにされて警察署の前に置かれていたという前代未聞の……』
「ア……じゃなくてブルードの奴、余計な気を回しやがって」
ジムのテレビを見上げながら、ぶっきらぼうに呟くとビオニスはチョコ味のプロテインに口をつけた。言葉とは裏腹にどことなく口角が上がっているように見える。
「自分らがショーンにかかりっきりの間に手際がいいこって」
「多分ウォルくんが力を貸したのでしょうね。そして彼はこれで今までのあれやこれやを水に流して欲しいとか思っている」
「「間違いない」」
きれいにハモった隊長と同僚の顔を見て、リサも優しく微笑んだ。
「これでイエローポイズンも壊滅。ついでにベックフォード議員の方も収まるところに収まった」
テーブルの上に置かれたスマホには『ハチロウ・ベックフォード議員辞職!過去の不正会計、脱税を赤裸々に告白!』という見出しのネットニュースが表示されていた。
「ショーンの一件がいいお灸になったってことっすかね」
「落ちるところまで落ちていたようですが……正義感を全て失ったわけじゃなかった」
「個人的に、今のあいつならこの国の舵取りを任せても……とまではいかんが、頑張って欲しいとは思うよ」
「隊長はそうでも国民がね……」
「一度過ちを犯した人間には、残酷なほど厳しいですから……」
「まぁ、やったこと自体は擁護できないからな。だけど、信頼できる人間が支えてくれればきっとまた立ち上がれる。ベックフォード議員も、ショーンも……」
「ん……」
「おはよう。二度寝は気持ち良かったかい?」
目を覚ましたショーンの視界に入って来たのはカウマの青い空……を、遮る不愉快極まりないモジャモジャであった。
「……あんたのそんな珍妙な頭をいの一番に目にして、目覚めは最悪ですよ……」
「はっ!そんな憎まれ口を叩けるなら大丈夫そうだな。カーバマグナブラスターはリサやパットだけじゃなく、お前の力も信じないと使えなかった。あくまで俺達の目的はお前を止めることで殺すことじゃないからな。お前なら耐えられると思えたから引き金を引いたんだ」
「では、おれの生命力に感謝してください。腹を抉られても生きているおれのしぶとさにね。おかげで寝覚めが悪いなんてことにならなかったんだから……」
「だな。良かったよ本当に」
微笑みながらビオニスが視線を動かし、空を見上げると、反対に道路に仰向けになっているショーンの顔は曇りがかった。
「……おれは間違っていたんでしょうか?」
「さぁな。善悪なんて時代と共に変わる。俺達のやり方より、お前のやり方の方が正しいって評価される未来が来る可能性もゼロじゃない」
「そんなことを思いながら命懸けで戦ってたんですか?」
「我ながらバカだと思うよ。でも、未来がわからないからこそ、今できること、やるべきだと思うことをちゃんとやりたいんだ。それがもし将来、悪だと断ぜられるかもしれないとしても、俺は……今俺が正しいと思うことをする」
「それじゃあ結局おれと同じじゃないですか……」
「だから俺はこれ以上お前に何か言うつもりはないよ。戦いの中で伝えたいことは全部伝えたから。それを聞いても考えが変わらないなら好きにすればいい。まぁ、カウマに迷惑をかけると思ったら、またお前の前に立ち塞がってやるさ」
そう言ってビオニスは立ち去っ……。
「おっと!大事なことを忘れるとこだった」
立ち去ろうとしたが、何かを思い出して止まり、踵を中心にくるりとターンして、再びショーンの金色の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「何ですか?言いたいことは全部言ったんじゃ……?」
「俺の言葉はな。これから話すのは、ブルードの言葉さ。お前の憧れのヒーロー」
「ブルードの……」
「彼曰く……“どんな辛いことがあってもまた立ち上がり、前を向く。それが人間に標準装備されている最強の能力、どんなエヴォリストの能力より素晴らしいスーパーパワー”……だそうだ」
「エヴォリストの能力より素晴らしい人間の持つ最強の力……」
「案外、その単純だけど一番難しいことができるのが、英雄の資格なのかもな」
その言葉を頭の中で繰り返す度に、ショーンは心の奥底が熱くなっていくのを感じた。
「……まっ、俺自身の耳で聞いたわけじゃなく、又聞きなんだけど。なんとなく今のお前らに伝えておいた方がいいかなって」
「お前“ら”……?」
「あとは自分達でなんとかしろ。俺は俺のことで頭が一杯」
そう言うと、手を気だるそうに振りながら、ビオニスは今度こそ本当に立ち去って行った。
そしてその代わりにやって来たのは……。
「ヴォークス……」
「ハンゲラン隊長……!?」
「よぉ!ちょっと見ない間にずいぶんとイメチェンしたな」
「イチタ先輩……!?」
ビオニスと入れ替わるようにやって来たのはショーンの直属の上官と先輩であった。二人とも所々に包帯を巻き、絆創膏を張り、ボロボロであったが、その顔には優しい笑顔を浮かべていた。
「隊長、先輩……おれは……」
「今のブルードの言葉、かなり刺さったよ。ここで心が折れて、第三特務の隊長をやめるわけにはいかないと思った。少なくともお前が戻って来るまでは……」
「まっ、なるようになるだろ。オレ達第三特務部隊が一丸になれば乗り越えられないものなんてない……絶対にな」
「おれは……!おれは!!」
肩を寄せ合う第三特務の三人を確認すると、第二特務の三人はお互いに頷き合い、その場から完全に撤収した。
「あいつらならきっとまた立ち上がる。もっと強くなってね」
「つーか、そうでないと困るから」
「さすがのワタシもこれ以上働きづめはちょっと……」
「だな。とはいえ、もう少し時間がかかるのは事実だからな。激務に負けないように……今日はもうちょっと鍛えていくか!!」
ビオニスは満面の笑みで親指を立てる。その瞳の奥には狂気にも似た筋トレへの欲求が蠢いていた。
「うわぁ~!余計なことを言っちまった!!」
「今さら後悔しても遅いわよ。諦めてもう一頑張りしましょう」
「ぐへぇ~!こんなブラックな職場なら、ショーンにぶち壊してもらいたかった!!」
「ごちゃごちゃ言ってないで行くぞ!ハリーアップ!!」
頭を抱えるパットを引き連れ、リサとビオニスはニヤけながら器具の並んだ部屋に戻った。
いつかきっとまた彼らと肩を並べてトレーニングできる日を夢見ながら……。




