目を覚ませ!!①
「リサ、パット、ベックフォード議員とボディーガード達を安全なところに」
「「はっ!!」」
「た、助かったのか!!?」
命じられるがまま二人は議員達を救出し、ここから避難させる。ショーンとは何回か目が合っただけで、妨害してくることはなかった。
「見逃していいのか?せっかくここまで追い詰めたのに」
「昨晩のブルードとのやり取りを見てたでしょ。おれは借りはきっちり返すタイプです」
「借り……」
何かしたかなと、昨夜のことを思い出してみたら一件だけヒットした。暴走したショーンが熱線でビョルン・ハンゲラン隊長を殺そうとしたのを止めた件だ。
「じいさんを助けた礼か」
「はい。我を失ってハンゲラン隊長を手にかけようとしたのをあなたとブルードは身体を張って止めてくれた。だから、もしまたあなた方と相対することになったら、何らかの形で借りを返そうと」
「律儀なこって」
ビオニスは笑みをこぼした。鼻で笑うとか馬鹿にした感じじゃなく、嬉しそうに純粋な笑顔を浮かべた。
「……でも、今は逃がしてもいずれ同じことをするんだろ?」
「ええ、もちろん。罪人には罰を与えないと」
「そういうのは特務の役目じゃないって何度言ったら……」
「言ってわからないから、また力ずくで止めに来たのでしょうに。御託はいいからやるならさっさと始めましょう」
ショーンは手のひらを上に向けると、クイックイッと指を曲げて手招きした。
「挑発的だね……嫌いじゃない。乗ってやるよ」
真剣な面持ちに戻ったビオニスは胸のポケットからサングラスを取り出してかける。それはハイヒポウともBMとも僅かに形状が違っていた。
「自信の根拠はその新型か」
「あぁ、こいつは強いぜ……モモカーバ」
ビオニスの声に反応し、サングラスは光の粒子に分解、そしてショッキングピンクのド派手な機械鎧に再構成されると、ビオニスの巨体を覆い隠した。
目を奪われるほどの美しい曲線を描く重装甲を、目を背けたくなるほどのどぎつい桃色に染めた上に、青色の模様がタトゥーのように刻まれ、前身となるベヒモスやBMのように右腕には二連装ビーム砲、左腕にはガトリング砲を装備。さらには各部には覚醒アストの換装形態のように無数の噴射口がレイアウトされている。
それこそがモモカーバ。カウマ・ミリタリーインダストリーズの技術と資源を(ビオニスが勝手に)惜しげもなく注ぎ込んで生み出された最上級ピースプレイヤーである。
「何を出すかと思ったら……この期に及んで特級じゃないピースプレイヤーなど!そんなものでおれにリベンジできると思うてか!!」
ショーンはイラつきを覚えた。自分が侮られていると感じたからだ。人智を越えた力に目覚めた彼にとって、最早上級以下のピースプレイヤーなどゴミ同然なのだ。
しかしビオニスは……。
「お前がどう思おうと俺は……俺達はこいつでお前に勝つぜ。ただの人間でも力と知恵を出し合えばエヴォリストに対抗できるって証明してやる。お前は思い上がりが過ぎるってな」
しかし、ビオニスにとってモモカーバは最高のマシンであり、それを証明することがカウマにも、そしてショーンにとってもいいことだと信じていた。だから……。
「行くぞ!ショーン・ヴォークス!!これがただの人間の力だ!!」
だから意を決して両腕の砲口を変わり果てた同僚に向け、全力で発射した!
ビビシュウンッ!ババババババババババババッ!!
右腕の二つの大きな砲口は強烈な光を放ち、破壊力満点な奔流を撃ち出す!
左腕な円状に並んだ八つの小さな砲口は高速回転しながら、チカチカと火花を散らし、無数の弾丸をばら撒く!
それら全ての軌道は一ヶ所に、覚醒ショーンに集約される!
「ふん!結局またそれか」
バシュッ……バシュッ……バシュッ……
けれどもその全てが漆黒のマントによって防がれる。覚醒アストの最強必殺技、龍輪刃によって短くなったマントだったが、ショーンの急所を覆うには十分な大きさをいまだに保っていた。
「このまままたエネルギー切れになるまで待ってあげましょうか」
「BMよりも高い素材を使っているモモカーバはそう簡単にガス欠起こさねぇよ!だからといって持久戦をやるつもりはないけどな!!」
モモカーバは僅かに銃口を横に逸らした。ショーンからその隣に放置されている高級そうな車に……。
「ッ!!?しまっ――」
バシュンッ……ドゴオォォォォォォォォォォン!!!
「――ぐあっ!!?」
銃弾に貫かれた車が誘爆!そして大爆発!
間近で爆風を受けたショーンはたまらず体勢を崩した!
「カーバクロー!!」
「!!?」
右腕の砲口から光の刃を形成しながら、桃色の獣が即座に追撃!その爪を真っ直ぐと突き出す!
「させるかぁッ!!」
バシャアァァァァァァァァァァァッ!!
「くっ!?」
しかしこれもマントによって防がれてしまう。光の刃は一見ただの布にしか見えない覚醒ショーンの器官の一つによって攻撃を阻まれ、光の粒子を周囲に拡散する。
「クローでも無理か……!!」
「所詮ピースプレイヤーではおれを少し驚かせるくらいが限界だ」
バサッ!!
「うおっ!?」
ショーンはマントごとカーバクローを押し返し、逆に桃色の獣の体勢を崩す。そして……。
「わかったら、もうそろそろ観念しろ!!」
豪腕を唸らせ、強烈なパンチを放つ!
「嫌だよ!モモカーババック!!」
ブシュッ!!ブゥン!!
「ぐうっ!?」
「……なんだと?」
モモカーバは前面に配置されたスラスターを起動させ、凄まじいスピードで後退した。それは中身のビオニスが歯を食いしばるほど凄まじいスピードで。
「ブルードの真似事か!?」
「いいものは積極的に取り入れるのが俺の流儀でね。そもそも急加速はあいつの専売特許じゃねぇしな。あとついでにこいつも……」
モモカーバの肩や脚の横が展開。中から小さな流線型の物体、ミサイルが顔を覗かせた。
「お次はハンゲラン隊長のガンセナルか!!」
「ミサイル一斉発射は男の子の夢よ!というわけでマイクロミサイルフルバースト!!」
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!
反射された小型ミサイルは爽やかな朝の青空に白い糸を引きながら、先ほどの砲撃と同様に全弾、ショーンへと集まって行く。
「皮肉だな。狙いが良すぎだ。これなら!!」
バシュウンッ!!
ショーンはこちらに群れをなしてやってくるミサイルの先頭に目から熱線を発射。見事それが着弾すると……。
ボボボボボボボボボボボボボボオォォンッ!!!
周りを巻き込んで連鎖爆発!宣言通りたった一発で全てのミサイルを破壊してしまった。
「昨日あんだけ暴れた甲斐があったな。目からビーム使いこなしてるじゃねぇか」
爆風のカーテンに紛れて接近!モモカーバは射程に入るや否やパンチを繰り出した!
「芸がないな!煙に乗じて来るなどお見通しだ!!」
パンッ!!
「――ッ!?」
「今度こそ……喰らえ!!」
けれど昨日の経験からショーンはビオニスの行動を予測していた。あっさりと拳を手刀ではたき落とすと、お返しにと再びパンチを放った。
「だから嫌だって」
ブシュッ!!ブゥン!!
「ぐっ!?」
再びスラスター噴射で急加速!緊急回避!そしてそのままショーンの左側に回り込むと……。
「オラアッ!!」
ドゴオッ!!
「――ぐっ!!?ぐわあぁぁぁっ!?」
昨夜アストにしつこく下段蹴りを入れられ痛々しい紫色に変色した箇所をおもいっきり踏み抜いた!
あまりの激痛にショーンは思わず声を上げ、そのまま崩れ落ちそうになったがギリギリで踏みとどまった。
「この……!!」
「卑怯っていうなよ。相手の弱みにつけ込むのが戦いの基本だ」
「言われなくとも承知しているさ!!」
ショーンは三度目の正直だと身体を捻り、右手でパンチを放ったのだが……。
ビキッ!!
「ぐっ!?」
胴体を捻ったことによって、赤青の生体装甲に入っていた亀裂が広がり、欠け、全身をかけ巡る痛みがパンチの勢いを阻害してしまう。
「ほっ」
ブゥン……
「ぐっ!?」
となるとわざわざスラスターを吹かさなくても余裕で避けられる。ショーンの右腕と入れ替わるように右側面に回ると……。
「よいしょ!!」
ドゴオッ!!
「――がはっ!?」
左ボディーブロー!桃色の獣の拳が赤青の覚醒者の胴体に容赦なくめり込み、亀裂を大きくする。さらに……。
「カーバガトリング!!」
「!!?」
ゼロ距離で機関砲を発射する!
「くうっ!!」
ガリッ!ガリッ!バババババババババッ!!
人間を越えた存在らしくない慌てっぷりで逃げるショーン!だがそのおかげでわずかに右脇腹を抉られただけで済んだ。
「はぁ……はぁ……」
ズキッ!!
「――ッ!?」
距離を取って一息つこうと思ったが、追い打ちをかけられた傷が痛み、おちおちと呼吸してもいられない。
そんな満身創痍の超越者にしてかつての……いや、ビオニス的には今も同僚の姿を見て……桃色の仮面の下でアフロの男は口角を上げた。
「良かったぜ、昨日のダメージが回復してなくてよ。実のところ、全然その場から動かないから、逆に弱っているフリをしているのかと疑ってたんだ」
「生憎……そんなセコい真似をする人間じゃない」
「そうだったな。やはり見た目は変わっても根本は変わってないよな」
「……何が言いたい?」
「この不毛な戦いを終わらせる光明が見えたってことだよ!!」
ブシュッ!ブシュッ!ブシュッ!!
「ちっ!?小癪な!!」
「ぐうぅ……!!」
モモカーバは各部のスラスターを連続で起動し、無秩序な動きでショーンの周囲を動き回る。そして……。
「オラオラオラアッ!!」
ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!!
「くっ……!!」
速射砲のようにジャブを打つ!打つ!打つ!威力よりも当てることを重視して、最小限の動きで最短距離を通って打つ!
脚と胴体が思うように動かないショーンではその異常とも言える動きに対応することができない。
「今のお前にならジャブ当て放題だ!気分はまるでブルード!昨日の再放送だ!!」
「あなたの拳など、奴とは比べものにならないくらい貧弱だわ!!いくら打たれてもKOされる気がしない!!」
「強気だね~。じゃあ、その台詞が泣き言になるようにもっとギアを上げましょうか!!」
ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!!
「「ぐうぅ!?」」
殴られるショーン、殴るビオニス、不思議なことに二人とも同じように苦しみの声を漏らした。
それもそのはずビオニス・ウエストもまた激痛と苦悶の中にいたのだ。
「その動き……いつまで保ちますかねぇ……」
「そんなもんお前をノックアウトするまでだよ……!!」
「ハッタリですね。その急加速は本来緊急回避用。連続で使うものじゃない。それだけの巨体を無理矢理高速で動かせばマシンにも装着者にもかなりの負担がかかるはず。本当はGのせいで吐きそうなんじゃないですか?」
「そうだね。ゲロ出そう。関節も軋むし、泣きたい気分」
「フッ……無茶をなさる」
自らの予想が当たったことは素直に嬉しかった。だが、それ以上にビオニスがビオニスらしい戦い方をしていることに妙に心が躍った。
「無茶っていうならお前も大概だろ。本当に国家の治安維持をたった一人で背負うつもりか?」
「それが一番いいやり方だ!こんなに辛く危険な仕事は力のある者が担えばいい!!正義の心を持った力のある者が!!」
「この仕事が辛く危険だってわかってんなら、お前の言っていることが絵空事だってわかるだろうに!!」
「あなたはエヴォリストじゃないからわからないんだ!この天から与えられた絶対のギフトは絵空事を現実にする力がある!!」
「百歩譲ってお前にできたとして、お前がいなくなったあとはどうするんだ!エヴォリストだって不老不死なわけ……もしかしたら世界には不老不死の能力を発現した奴もいるかもだけど、お前は違うだろ!?」
「あぁ、多分殺されれば死ぬし、寿命もあるだろうな」
「だったら!国家の治安維持は代替可能、持続可能であるべきだってことくらいわかるだろ!!」
「きっとそれまでにおれの意志を継ぐ力のある者が現れるさ」
「何でそういうとこだけアバウトなんだよ!!その安易なノリで最後まで進んで、大失敗した独裁国家やワンマンの会社はごまんとあるぞ!!」
「ふん!ならばおれが死ぬまでにあんたも納得させるシステムを構築してみせるさ!!」
「ここで負けるような奴にそんな長々と考えられる時間を作れるわけねぇだろうが!!」
ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!!
「ぐうぅ!?」
モモカーバはさらに各部スラスターを存分に活用して身動き取れないショーンを翻弄した。けれど……。
「ぐっ……!!」
ショーンの言った通り、いや言った以上に、中身のビオニスの状態は深刻であった。
(もうちょい保つかと思っていたが、やっぱこのレベルの相手となると、少しもサボれねぇからな……俺もモモカーバも限界が近い。そろそろ決めねぇと)
決着への道筋を考えるビオニス。
その脳裏に浮かんだのは昨日の自らマントで自らの視界を遮ってしまったショーンの失態であった。
(顔面にデカい一撃をぶち込むフリして、奴にマントで視界を覆わせる。そんでアストみたいに回り込んでドカン!……それしかねぇな)
覚悟を決めたモモカーバは跳び回りながら右腕の二つの砲口にエネルギーを集め始めた。傍目から見ても光が灯っているので何かしようとしているのは明白だ。
(エネルギーを溜めている……まさかさっきはガトリングだったが今度は二連ビームの方をゼロ距離で撃ち込む気か……?)
ショーンは警戒心を強め、最も防御力の高いマントにも似た器官に意識を集中した……ビオニスの狙い通りに。
「今だ!!」
ブシュウッ!!
背面のスラスターを起動して、一気に加速!そして一気にショーンの眼前に!光輝く二つ並列した砲口をこれ見よがしに振り上げた!
「くっ!!」
バサッ!!
ショーンはそれに対し、ビオニスの想像通りの動きをする。漆黒のマントを翻し、顔面を、視界を覆う。
(完璧な動きだショーン!!)
ブシュッ!!ブシュッ!!
自分の姿が隠れたのを確認したモモカーバは急速方向転換!昨夜の覚醒アストのように背後を取った!がら空きのショーンの背後を!
(これで……終わりだ!!)
モモカーバは躊躇することなく、砲口をねじ込むように突き出した!




