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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
離島編
11/85

早起き

 まだ太陽が顔を出していない薄暗い時間、シニネ島の森の中にポツンと建っている一軒家から一人の男、まだどこか幼さを感じさせる青年が息を潜めて出てきた。

「ふぅ……上手くいったな……」

 男は最初のミッションを達成したと思い、胸を撫で下ろした。

「これでいい……これでいいんだ、危険を侵すのはこのアスト・ムスタベだけで……!!」

 男は、アストは空を睨みながら一人決意を口にした……決して揺るがないように。

 彼自身、不安で不安で仕方なかったが、それ以上に友人の方が大切だった。だから、皆が寝静まってる中、孤独に出発することにしたのだ。

「……ちんたら独り言を言ってる場合じゃないな……確か、ガスティオンを見たのは……今度こそ、“早起きは三文の徳”になるといいんだけど……」

 アストはキョロキョロと忙しなく顔を動かす。目的を達成しようとする強い決意はあっても、手段の方を練る時間は彼にはなかった。ぶっちゃけ行き当たりばったりだ。

 そんな昔から変わらない無鉄砲な姿に幼なじみは苦笑した。


「ガスティオンが飛んでいたのはあっちだよ。ぼく達が向かっていた連絡船の港とは真逆だね」


「おぉ!そうだ!そうだ!いつも悪いな、ウォル………ウォル!?」

 アストは夢の中にいるはずの友人の存在に驚きの声を上げる。

 早くも……というか、始まる前にアストの計画は破綻した。

「おま!?なんで!?」

「なんでも何もないよ……長い付き合いだからね、君の考えることなんてわかるって。あっ、これ忘れ物」

「おっ!?」

 ウォルは何かキラキラと輝く物を投げて来た。慌ててアストはそれをキャッチする。彼の手の中にゴウサディン・チュザインのバッジが戻って来た。

「森の中で勝手に装着が解除されたの、あれね、ぼくがロックを外す時にエネルギーが減った時にオートで待機状態に戻るような設定にしちゃってたみたいだ。もう直したから、今後はあんなことにはならないよ」

「おお、そりゃあ良かった……じゃねぇよ!!」

 アストの混乱は収まらない。さっきの強い決心を秘めて空を睨み付けていたのが嘘のように慌てふためいている。

「駄弁ってないで、早く行こうぜ!夜が明けちまう!ここは闇夜に乗じてってやつだろ!なぁ?」

「いや……夜は夜で危ないから、明けた方が……どうなんですか、セリオさん?」

「まぁ、狂暴化した島民が五感も強化されているなら、むしろ日が出ている方がマシかもな」

「ぐうぅ……!いいこと言ったと思ったのに……!」

「メグミ、トウドウ君、それにセリオさんまで……?」

 アストの下にぞろぞろとみんなが集まって来る……呆れた顔をして。

「このおれ様が、“待機”なんて消極的な作戦、黙って受け入れると思うのか?」

「言われて見れば……確かに……」

「はっ!こうなることはわかりきってたからな!わかり易すぎだぜ、アスト!つーか、なんだこの手紙!“オレは大丈夫だから、みんなは大人しく助けを待っていてください”……って!バッカじゃねぇの!!」

「――ッ!?お前なぁ!」

 メグミはアストからの手紙を本人の胸へと突き返した。バカにバカと言われアストはご立腹だ。でも、今回ばかりはそう言われても仕方ないと、完全に行動が読まれたアスト自身も、そしてトウドウでさえも思っている。

「ひどいよ、アスト君……一人で行くなんて……」

「それは……」

「僕もついて行くよ。一人よりみんなで探した方が見つかる可能性は高いはずだからね」

「トウドウ君……」

 トウドウは少しぎこちなさが残った笑顔を浮かべた。

 アストがこの決断に至った理由は彼から森の中で言われた言葉が大きな要因だが、昨日話したようにトウドウ自身、その発言を後悔し、申し訳なく思っているんだろうと、アスト・ムスタベは思った。だからついて来てくれるんだろうと。

 なら、セリオは……。アストは視線を隣にずらす。

「あの………」

「あぁ、わたしかい?わたしはまぁ、こうして出会ったのも何かの縁だし、君達を黙って送り出して何かあったら、寝覚めが悪いからね」

「セリオさん……ぐっ!?」

 セリオはそう言ってニコッと爽やかに笑いかけた。すると、アストは突然まだ暗い空を、上を向いた。

「アスト………」

「まさか、てめえ……」

「うるさい!何でもない!!」

 お察しの通り、アストは泣きそうになったのだ。感情が溢れ、涙がこぼれそうになるのを必死に耐えた。

 なんとか心を落ち着け、アストは皆の方を向いた。その瞳には涙ではなく、再び強い決意を感じさせる輝きが宿っている。

「ありがとう、みんな……!」

「どういたしまして」

「ふん」

「オレはやっぱりこの島の人達を、狂暴化してしまった人達を諦められない……!だから、必ず今日の夕方までにガスティオンの死体を見つけて、血液を採取する!」

「うん」

「みんな!オレに力と知恵を貸してくれ!」

「言われなくても、そのつもりさ」

 こうして皆の心が一つになった!アストはくるりとターンをして、足を前に出す!

「行こう!ガスティオンの下へ!!」

「いや、だからそっちじゃないって」

「――ッ!?」

 明後日の方向へと出発しようとしたアストがウォルの言葉でずっこけそうになる。顔は見えないが、耳は赤くなっているように思えた。

「……そうだったな……こっちだな……」

「よくそれで一人で行こうと思ったね」

「うるさい!」

「まぁ、いいけど……とりあえず、森を通って、祠のある崖のところに行こう」

「祠……?そんなところがあるの?」

 トウドウは率直な疑問を口にした。そういう場所があることも知らなかったが、何より当てずっぽうでもそこに向かう理由がわからなかった。もちろんウォルも適当に言った訳ではない。

「トウドウ君は知らないよね。そこなら開けてて周囲を見渡せるし……それに……!」

「うっ!?」

 説明していたウォルの顔がグニャリと歪んだ。まるでオモチャを前にした子供のように、まるで悪いことを考えている大人のように……。トウドウは思わず気圧された。

「そ、それに……?」

「地下室での会話を覚えてるかい?」

「地下室……?」

「あの噂話だよ!」

「噂……あっ!打ち上げられた特級オリジンズが二体いて、片方を秘密裏にピースプレイヤーにして隠しているって……まさか!」

 ウォルの口角がさらに上がる。

「そのまさか……それが隠されているとされているとされているのが、その祠だよ。特級ピースプレイヤー『リヴァイアサン』がね」

「リヴァイア……サン……」


「おい!お前ら置いて行くぞ!」


「おっ!?」

 いつの間にかずいぶんと先に進んでいたアストが彼からしたら与太話に花を咲かしているウォルとトウドウを急かした。

「待てよって!行こう、トウドウ君!」

「……うん」

 二人はアストの背中に向かって駆け出した。こうして色々あったが結局、治療薬の素材を、希望を求めてアスト達は全員でガスティオンの死体を探すことになったのだった。

 しかし、アスト・ムスタベはこの決断を一生後悔することになる……。



 時を同じくして、アスト達の言う本土、カウマ共和国首都イフイでも、ある者達が集まっていた。

「ふあぁ~ッ……」

 筋骨粒々の大きな男が、大きなアフロヘアーを揺らしながら、これまた大きなあくびをした。胸元のシャツにはサングラスをかけており、見るからに強面だ。

「ったく……こんな早くに呼び出しやがって……」

 唐突な呼び出しに不機嫌極まりない様子で、近寄り難い雰囲気をびんびんに醸し出しているが、もとよりこんな早朝に人はいない……彼と同じく呼び出された人間以外は。

「『ビオニス』隊長!」

「ん?なんだ、『パット』か」

 ビオニスは声のした方を一瞬だけ振り向いて、見知った顔を確認すると再び前を向き歩き出した。

「なんだはないんじゃないんですか、隊長?」

 パットは文句を言いながら、部下らしくいつも通りに彼のほんの少し後ろにポジショニングした。頭の上には部隊員の証であるビオニスとお揃いのサングラスを乗せている。

「こんな朝っぱらから俺達、『ピンキーズ』を呼び出すとはどういう要件だ?なぁ?」

「そのピンキーズってのやめましょうよ。『イフイ第二ピースプレイヤー特務部隊』っていう立派な名前があるんですから」

「長いし、ダサいし、偉そうだし、その割にやってることはただの便利屋、何でも屋だし、ピンキーズの方が断然クール&キュートでいいだろう?」

「ないッス。ピンキーズはマジないッス」

「お前……」

 普段のビオニスだったら怒髪天を衝いているところだが、早朝でテンションが上がりきってないことからパットは事なきを得た……今のところは。

「……お前を折檻するのは後にするとして、実際、何で俺達が呼び出されたんだ?呼び出されるならシフト的に第一、『バイロン』のところだろ?」

 ビオニスの脳裏に自分と同じく部隊を率いる友人の顔が映し出される。もうこの世にはいないことも知らずに……。

「そういうのは『リサ』に聞いてください。ちょうど着きましたし」

 彼らの視界にゴツい車とその横でペコリとお辞儀をしている可憐な女性の姿が入って来た。

 彼女の胸のポケットにも二人と同じサングラスがあることからイフイ第二、通称ピンキーズの一員だとわかる。

「おはようございます、ビオニス隊長」

「おう、待たせたな」

「いえ、まだ予定の時間よりも前ですからお気になさらずに」

「そうそう、リサが早すぎるんですよ」

「貴様はもっと早く来い、パット。ワタシよりもな」

「ええ……」

「二人とも朝から元気だな……で、これはどういうことなの?」

「とりあえず車に乗りましょう」

「それもそうだな」

 隣にあった華奢なリサには似合わないゴツい車の助手席にパットが、後ろにビオニスが、そして最後にリサが運転席に乗り込んだ。

「これから船着き場に向かいます」

「船着き場だ?」

「何でそんなとこに行かなきゃならんのさ?」

 秩序側の人間らしくみんなちゃんとシートベルトを締めながら今回の任務について話し始めた。しかし、まず最初に発せられた情報が予想外過ぎて、さらに疑問が深まる。そして、それは話しているリサも同様だった。

「ワタシも詳しくは……昨晩からシニネ島と連絡がつかないので、『ビオニス・ウエスト』隊長ならびにイフイ第二ピースプレイヤー特務部隊全員に急行して欲しいというオーダーです」

「俺達全員にとは、ずいぶんと大袈裟じゃないか?」

 ビオニスは首を傾げた。どう考えても急すぎる、いくつもの段階を飛び越しているようにしか思えなかったからだ。

「ええ、ワタシも隊長と同意見です。しかも……」

「しかも……?」

 リサは思わず口ごもった。理解不能なミッションでも、口にするのも躊躇するほど特に理解不能な命令……けれど、伝えなければいけない。

「完全武装で、現場判断で武力行使も許す……と」

「なん……だと……?」

「……とりあえず出発します」

 ビオニスの胸に溢れ出る疑問と不安を余所に車と運命は動き出した。


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