超越者二人①
「…………」
「…………」
(アスト……あいつ何で?)
二人の人間を超えた覚醒者が金色の瞳でにらみ合っている背後でビオニスは疑問の答えを探ろうと視線を動かした。
すると、覚醒アストの少し上にそれは、答えが悠々と飛んでいた。古代のコウモリに似たガジェットが。
(あれはウォルが作った盗撮盗聴マシン……アストの野郎、あれだけ言ったのに、俺達のこと見張ってやがったな……!!)
ビオニスはしてやられたとBMの頭をガチャガチャと掻いて、その考えに至らなかった自分を恥じた。
(まぁ、今はそこはいいや。とにかくまずは……)
「ブルード」
「はい」
(あっ、まずいかも……)
アストは返事こそしたが、こちらを一瞥することもなく覚醒ショーンから目を離さなかった。それだけなら警戒しているでいいが、ビオニスにはどうにもアストの目がいつもより切羽詰まっているような、血走っているように見えた。
「おいブルード」
「すいません。言うことを聞かなかったお叱りは後でちゃんと受けます」
「いや、それはこの際横に置いといて。助けに来てくれたことにも感謝してるよ。だけど、ありがた迷惑というか……今回はお前が戦っても何も解決しないどころか余計に拗れるっていうか……」
「………」
(駄目だ。完全に頭に血が昇ってる。パットやリサ、顔見知りがやられて腹が立ってんだな。それを止められなかった自分とやりやがったショーンに。これはもうどうにもならんか……)
ビオニスは思わずため息をついた。
「……ブルード、二つだけ」
「はい」
「自分を責めるな。何でもかんでも背負おうとしているのが、今お前の目の前にいる奴だ。あいつのようにはなるなよ」
「はい」
「二つ目は自分を見失うな。お前の長所は強さじゃなくて、優しいところだぞ」
「はい」
「わかったなら、もう俺は何も言わん。つーかさすがの俺でもエヴォリスト二人を止められねぇしな」
「はい。では……いってきます」
覚醒アストはやはりハイヒポウBMのことをチラリとも見ずに、一歩前に出た。
「話は終わりましたか?」
「わざわざ待っていてくれたのか?」
「どうやら勘違いしているようですけど、おれは別に特務部隊が憎いわけではない。ただちょっと意見の相違がね」
「ちょっとのレベルをかなり逸脱しているように見えるが……!!」
「ッ!?」
怒れる青龍に凄まれると、たまらずショーンはたじろいだ。両者、同じエヴォリストといっても、くぐって来た修羅場の数が違う。
「対峙すると……ここまで恐ろしいとは……!」
「ビビったんなら降参するか?今なら拳を収めることができるが」
「冗談!憧れの存在と手合わせできるチャンスを見逃すバカがどこにいますか」
「オレが憧れの存在だと……?」
「ええ……昨日あなたに助けられて初めて気づいた。おれはあなたのようになりたかったのだと」
「昨日の……オリジンズに噛まれていた」
「はい。その節はどうも」
ショーンは頭を下げた。そこに挑発や嫌味、悪意など一切なく、完全なる感謝を伝えるための行為だったのだが……。
(オレに憧れていた人間が、オレが助けた人間が覚醒してこんな凶行に……だとしたらイグナーツの言う通りじゃ……)
「お前が望まなくても、必ず力によってねじ曲がってしまった、もしくは覚醒と共に隠れていた悪意を解放させてしまったエヴォリストはお前の目の前に現れる。そうなった時、お前はどうする?」
「くっ!?」
ショーンに悪意はなかったがその行為は、アストの強敵との会話を呼び起こし、心を大きく揺さぶった。
「ブルード?」
「オレに憧れているのに、どうしてこんなことをする?オレが力に溺れて暴れ回っているように見えたのか?」
「いえ……むしろあなたは抑え過ぎですよ。それだけの力があれば、この国に絶対的な正義と平和をもたらせるのに」
「オレは神じゃない」
「だが、神に選ばれた存在だ」
「そんなのただの勘違いだ。オレ達はオリジンズが保有するウイルスと、死ぬ間際の細胞とが突然変異を起こしただけの存在でしかない」
「下らない科学者の俗説を。だが、そうだとしても選ばれた存在であるのは変わらない。ほとんどの人間はそのまま死んでしまうんですから」
「お前とはとことん話が合わないみたいだな」
「ショーン・ヴォークスです。残念で仕方ありませんよ」
「ショーンか……一つ頼み事がある」
「何でしょうか?あなたに命を救われた身、できることならばなんでもしますよ」
「ならお言葉に甘えて……先手はいただくぞ!アウェイクテクニック!!」
覚醒アストの闘志に呼応し、空気中から足りない水分を吸収しながら、肉体が目まぐるしく変化、右腕は細く伸びて長大なライフルに変わり、さらには胸部鎖骨部分、肩部、腰部横、ふくらはぎや膝なども変化し噴射口を増設、最後の仕上げに耳元がアンテナのように伸びて尖って、金色の眼を保護するようにバイザーが覆い被さる!
強敵イグナーツを下した青き龍の中で最も変則的な攻撃を得意とする形態!テクニックアストだ!
(知らない形態だ。だが、あの見た目からして……)
「喰らえ!!」
バシュッ!バシュッ!バシュッ!!
テクニックアストは右腕を変形させたライフルから圧縮した水の弾丸を発射した……が。
「思った通り遠距離特化か」
バシュバシュバシュ……
射撃攻撃を予期していた覚醒ショーンはバックステップであっさり回避。水の弾丸は全て地面に着弾した。
「これで一応先手を取らしたことに!あんたの頼みを聞いたことになるよな!!ならもうこっちから攻めてもいいよなぁ!!」
憧れの存在が攻撃を失敗したと思っている覚醒ショーンは意気揚々と方向転換。前進し、青龍に近づこうとする……が。
「オレの攻撃はここからだ……“水糸”」
バシュ!!
「――ッ!?何!?」
テクニックアストから指令を受けた外れたはずの弾丸は自ら開けた穴の中で変形、言葉通り細長い水の糸となって、地面から伸びた。そして……。
グルン!グンッ!!
「――ぐあっ!?」
上を通ろうとした覚醒ショーンの全身に絡みつく!それは水でできているからこその柔軟性と、水でできているとは思えないそれなりの丈夫さを誇り、ショーンの動きをピタリと止めてしまった。
「最初からこのつもりで……!こんなことができるとは!?」
「そういうことをするための形態だ」
「だが、今のおれならこの程度の拘束!!」
バシャアン!!バシャバシャアン!!
覚醒ショーンは力任せに水の糸を引き千切った。簡単に糸は切れ、ただの水滴となってショーンの周りをキラキラと舞った。
「だろうな」
「!!?」
「アウェイクいつもの」
そんなことをしている間に青龍は接近、そしてまたさっきまでの姿に戻り、そして……パンチ!
ドゴオッ!!
「――ッ!!?」
青い拳がガードも回避もする暇のなかったショーンの顔面にきれいに命中しし、めり込んだ!
「先手を譲ってくれてありがとう!ショーン!!」
「くっ!?」
宣言通り機先を制し、ファーストヒットを与えたのはブルードラゴン!この一撃と、アストの嫌味ったらしいセリフが超越者二人のバトルの本格的な始まりを告げたのだった。




