思い出は炎に照らされて……
炎の揺らめく影のかかった相貌は、より異形さを引き立たせているように見えた。
熱風にはためく漆黒のマントは、彼の得た絶対的な自信を表しているように見えた。
燃え盛る火をバックに佇むショーン・ヴォークスはビオニス達が知る彼とは全く別物の存在に見えた……。
「……遅かったですね」
「どっかの誰かさんが道路に穴開けやがったからな。おかげで大渋滞さ」
「その件に関しては謝りますよ。今思うともっとスマートなやり方があった気がします。ただそのおかげあなた達は爆発に巻き込まれなかったのだから結果オーライってことで」
ショーンは以前とは違う色と形になった腕を広げ、瓦礫の山と化した別荘を見せつけた。
「……今の話、爆発ってのはお前の仕業じゃないのか?」
「ええ。イエローポイズンの仕業です。簡単に説明するとキース・マッカーシーはおれ達、特務に自身の偽物が爆死するところを見せて、罪も因縁も精算するつもりだったみたいですよ」
「なっ!?なんだと!!?」
アフロの隣で思わず声を上げたのは熟練の戦士であり、ショーンの直属の上官ビョルン・ハンゲラン隊長。ただでさえショックなこと続きの彼だったが、その言葉は彼の心にそれら以上に重く突き刺さった。
「なら、昨日のビルの件も……」
「この場所に誘き寄せるための撒き餌だったんでしょう」
「もし予定通りここにたどり着いていたら……」
「第三特務は一網打尽にされていた可能性もありますね。マッカーシー的には一人か二人、自分が死んだと証言するまで生きてくれれば良かった訳ですから」
「そんな……」
自らの無能さを、よりによって自らの無能さにより傷つき、その結果変わり果てた部下に突きつけられ、ビョルンは膝から崩れ落ち……。
「しっかりしろ!ビョルン・ハンゲラン!!」
「ッ!!?」
膝から崩れ落ちそうになったが、ビオニスに一喝されてかろうじて踏みとどまった。
「ビオニス……」
「反省とか後悔とかは全部終わってからにしろ!上官であるあんたが部下と向き合わなくってどうする!!」
「……そうだな……!!」
瞳の奥に光を取り戻したビョルンは昨日とは別人、いや別種となったショーンの金色の眼を真っ直ぐと見据えた。
「ヴォークス……話はわかった。結果としてお前の独断専行が私のミスを帳消しにしてくれたんだな」
「まぁ……そういうことになりますか」
「ならば今回の件は私が全力を持ってお前を守ろう。全て不問になるように上にかけ合ってやる」
「それはどうも」
「だからそいつらを引き渡せ」
「!!?」
「ボクと兄ちゃんを……」
マスクの下のギャラウェイ兄弟のそっくりな顔が驚きでさらに同じような形に変化した。
「傭兵兄弟よ、私達の仕事はお前らの命を奪うことではない。処罰については然るべき場所で然るべき者達の手で下されるのが法治国家として当然……お前にもそう言ったよな?ヴォークス」
「ええ……」
「だよな、わかっているよなお前は。庭に転がっている構成員達は皆、重傷を負ってはいたが、命に別状はなかった。お前は強大な力を得てもきちんとそこの線引きができていた」
「…………」
「そいつらもこれ以上傷つけずに引き渡してくれ。本物のマッカーシーの居場所も聞かねばならんしな。だから……」
手を差し伸べるビョルン。それに対しショーンは……目を逸らした。
「ヴォークス……」
「あなたの言う通り、おれは悪党とはいえ命を奪うことに躊躇がありました……ついさっきまでは」
「なに……?」
「さっきも言ったように立派な別荘を吹き飛ばすほどの爆発、もしあなた達が先に来ていたらただじゃ済まなかった。今回はたまたま助かったが今回は……」
「おい……ヴォークス……!」
「おれの覚悟がまだ足りなかったのだと反省しましたよ。弱き者を助けるのが力を得た者の役目!今のおれにとってはあなた達特務部隊さえ庇護の対象!罪なき命を守るために……消せる悪は消せる時に消すべきだぁ!!」
ショーンは今度は足ではなく拳を振り上げた。向かう先は変わらずパネスビズーミエの頭部だが……。
「やめろ!ヴォークス!!」
「パネス!!」
今まさに自称正義の鉄槌が振り下ろされそうになった瞬間だった。
「させるかぁ!!」
「ヴォークス!!」
ガッ!ガッ!!
二体の濃紺のピースプレイヤー、ハイヒポウが強襲。彼らのパンチを受け止めるために覚醒ショーンは正義の鉄槌を振り下ろすのを中断した。
「ホルトビーさんとマティブさんか」
「男子三日会わざればと言うが……」
「昨日の今日で変わり過ぎでしょう……!!」
全力を込めている二体のハイヒポウの拳だったが覚醒ショーンの手のひらに抑えられ、一切前に進むことはできなかった。
「無駄ですよ。ハイヒポウ如きのパワーでは今のおれに対抗できない」
「昨日までの愛機のことを“如き”呼ばわりするなよ」
「あと別に無駄ではないですよ」
「よっと!!」
もう一体のハイヒポウが二人の横から飛び出し、そのままパネスビズーミエを回収して離れて行く。
「パット・クラドックか。ということは……」
「早くこっちに!」
「おう……」
視線を動かし、レスリー覚脳鬼の方を見ると、また別のハイヒポウが肩を貸して、これまたショーンから少しでも離そうとしていた。
「やはりリサ・アルノランか……」
士官学校時代のことを思い出したのか、ショーンの腕から僅かだが力が抜けた。
グッ!
「ん?」
その僅かな緩みに乗じて、ハイヒポウ達の拳は少しだけ前進した……少しだけ。
「よそ見してるんじゃねぇ!!」
「いつから我らを蔑ろにできるほど偉くなったのですか?」
「あんまりガッカリさせないでくださいよ」
「は?」
「何を……?」
「触れてみてもわからないんですか?あなた達とおれの埋めることのできない圧倒的な差が!!」
グンッ!!
「「!!?」」
覚醒ショーンは重厚な装甲を持ち、実際にピースプレイヤーの中でも重めのハイヒポウを腕力だけで持ち上げた。そして即座に……。
「ふん!!」
ドゴオォォォォォォォォン!!
「――がっ!?」
「ぐはっ!!?」
地面に叩きつける!背中を強打し、強制的に口から空気を排出させられる!さらに……。
「もう一発……行きますよ!!」
グンッ!バギィィィィィィン!!
「「――ッ!?」」
さらにもう一度持ち上げ、シンバルのように両者をぶつけ合う!間髪入れずの二連強打に二人の意識はどこかに吹き飛んだ!
「これが今のおれとあなた達の差です……聞こえてないか」
そうぶっきらぼうに言うと、同僚を道端にゴミを落とすように投げ捨てた。
「それが仲間に対する態度かよっ!!」
パット、激情を滾らせながらカムバック!言葉にならない苛立ちを乗せて、懐に踏み込むと同時に豪腕を撃ち出した!
ガン!!
「ッ!?」
けれどもパワー差、スピード差は覆せず。小虫を払うように軽く手刀で捌かれてしまった。
「お前にはガッカリしないな。ここで形振り構わず仕掛けて来るのがおれの知るパット・クラドックだ」
「そうだ!てめえみたいな勘違い野郎をぶん殴らないと気が済まない俺様だぁぁぁぁッ!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン……
「くっ!?」
威勢のいい啖呵とは裏腹に拳は赤と青に彩られた生体装甲に触れることはできなかった。打てども打てども手刀ではたき落とされる。
「この感じ……学校での組手を思い出す」
「あぁ……あの時も自分はやられっぱなしだった……だけどお前は!!」
若き日のショーンとパット、学校の訓練場で組手をしていたのだが……。
「はあっ!!」
ドスン!!
「――ぐへぇ!?」
ショーンが易々とパットを投げ飛ばし、あっさりと決着がついてしまった。
「また負けた……」
「おれも人のことは言えんが、熱くなり過ぎだ。もっと相手や周りを見ろ」
「敗者にアドバイスとは優しいね~」
「何を勘違いしている」
「へ?」
「弱い仲間がいると、おれを含めみんな苦労する。だからお前には強くなって貰わないと困るんだ。背中を預けられる奴は一人でも多い方がいい」
そう言って、ショーンは手を差し出した。
「ショーン………ったく!そこまで言われちゃ強くなるしかねぇな!すぐにお前なんかぶち抜いてやるぜ!!」
パットはその手を力強く握りしめた……。
そして再び現在……。
「あんなこと言っていたお前が……!仲間に!自分に背中を預けると言っていたお前が!どうして目の前にいるんだよ!!」
やるせなさ、苦しさ、そしてこうなることを止められなかった自分自身への怒りを込めて、この日一番のパンチをパット・クラドックは繰り出した!
ドゴオッ!!
「――がはっ!?」
だがこれも届かず。その前に覚醒ショーンによる前蹴りを食らい吹き飛ばされてしまう。今の彼らを象徴するように二人は遠ざかって行った……。
「ショーン!!」
間髪入れずに覚醒者に挑むのはパットと同じく同期として切磋琢磨したリサ!ナイフを召喚し、ハイヒポウらしからぬ流麗な動きで……突く!
ヒュッ!!
「くっ!?」
しかし刃が突き刺したのは何もない空間。これまた簡単に躱されてしまったのだ。
「流石だなリサ・アルノラン。ハイヒポウを装着してのナイフ術としては教科書に載せるべきフォームだ」
「なら当たっておきなさいよ!」
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!!
パットの時と同じだった。どれだけ攻め立ててもショーンには当たらない。
「かつてのおれなら一進一退の攻防を繰り広げ、最後の最後で君にしてやられていただろうな。首席を持っていかれた時のように」
「あなたは出会った時からワタシを対等なライバルとして見てくれたわよね。女だなんだの言う他の人と違って」
「性別や年齢などというカテゴリー分けなど常々下らないと思っていたからな。大切なのはその人間の本質……尊敬できるかどうかだ。君は間違いなく尊敬する人物だった」
「ワタシもあなたのことを尊敬していたわ……なのに!」
「おれはこの力を手に入れてわかったことがある。カテゴリー分けは必要だ……普通の人間とエヴォリストというカテゴライズはな!」
ガシッ!!
「ッ!?」
覚醒ショーンはナイフを持ったリサハイヒポウの手首を掴んだ。そして……。
「聡明な君ならわかってくれ!これが一番いいんだ!力を手に入れたおれが!みんなを!カウマを守るのが!!」
ブゥン!!
「うあっ!?」
ショーンはリサ機を投げ飛ばしたが、今までと比べると明らかに勢いはなく、ダメージも少なければ、気を失うようなことはなかった。けれど……。
「ワタシが女だから手加減したの!?それとも今のあなたよりずっと弱いから……!!」
けれどリサは立ち上がり、再びショーンに挑むことはできなかった。聡明な彼女はそんなことをしても彼を止められないと悟ってしまったのだ……。
「……次はどちらです?それとも二人同時ですか?」
「ビオニス……」
「あぁ、悔しいが後者で行こう」
ビョルンとビオニス、二人の隊長は懐からいつものものとは形が少し違うサングラスを取り出し、顔にかけた。




