解放された狂気②
「ん?」
「なんだありゃ?」
別荘の庭で警備をしていた黒スーツ達がにわかに騒ぎ出す。当然のことであろう。全身を赤と青に彩り、漆黒のマントをはためかして、金色の眼を妖しく光らせている不審者がこちらに歩いて来るのだから。
覚醒したショーン・ヴォークスは新たな自分を見せびらかすように堂々と敵陣に姿を現した。
「おい!止まれ!!」
「ここは仮装パーティーの会場じゃねぇぞ!」
「承知している……ここはおれのバースデーパーティーの会場だ」
「はぁ?」
「生まれ変わったおれを祝うために貴様らは存在している」
「こいつ……」
顔が人間離れしているからわかりにくいが異形の存在はどうやら不敵に笑っているみたいであった。その顔で噛み合わない会話……黒スーツ達はようやく恐怖というものを感じ始めた。
「怖がらないでくれ」
「ッ!?」
「別にお前達に何をしようというわけではない」
「そうなのか……」
ホッと胸を撫で下ろすチンピラ。しかし……。
「おれは罪人にしかるべき罰を与えにきただけだ……!!」
「「「くっ!!?」」」
覚醒ショーンの全身からおぞましいプレッシャーが迸る!
刹那、頭の弱いチンピラ達でも戦闘が不可避だと理解した。いや、もしかしたら最初から全てわかっていたのかもしれない。だが生命としての防衛本能がそうなることを信じたくないと拒絶していたのだろう。
きっと彼らは覚醒したショーンを見たその時から理解していたのだ……自分の身に起こる惨劇の未来を。
「ふ、ふざけやがって!!」
「お前達!やるぞ!!」
「「「おう!!」」」
「「「ヴォーイン!!」」」
「「「儚星!!」」」
自然と震えてしまう身体に喝を入れ、戦闘態勢に移行する。庭の各所で眩い光が発生し、それが収まると機械鎧を身に纏った戦士が姿を現した。
それを見て覚醒ショーンは……。
「イエローポイズン御用達の二体か。予想はしていたが……肩慣らしにしてもあまりに物足りない」
不満そうに顔をしかめた。彼もまた本能でわかっているのだ。今の自分の力ならばこの程度の量産品、いくら集まろうが敵ではないと。
「ふぅ……けれど贅沢も言ってられないか。いいよ、相手になってやる。かかって来い」
ショーン覚醒態は手のひらを上に向けて指をちょいちょいと動かした。あからさまな挑発。当然チンピラ達は……。
「舐めやがって!!」
「オレ達をバカにしたことを!!」
「死ぬほど後悔させてやる!!」
怒りのスイッチを入れた!単細胞は恐怖心を憤怒が塗り潰し、目の前の失礼な奴を殺すことしか考えられなくなってしまう。
「てめえら!もう二度と下らねぇことを喋れねぇように蜂の巣にするぞ!!」
「「「おう!!」」」
チンピラは一斉に機械鎧に搭載された銃火器を召喚。狙いは適当、なんとなくショーンの方に銃口を向けると……。
「てえっ!!」
ババババババババババババババババババッ!!
躊躇することなく引き金を引いた!暗くなってきた夜の闇にけたたましい音が鳴り響き、マズルフラッシュがチカチカと点滅する!
放たれた弾丸はまさにショーンの視界一面を覆うほどのものだった。もし彼が今まで通りピースプレイヤーを、ハイヒポウを使っていたならきっと何もできずにそれらをもろに食らっていただろう。しかし……。
「ふん」
ババババババババババババババババババッ!!
「何!?」
覚醒ショーンは軽快な動きで左右と後ろにジグザグとステップして全ての銃弾を回避した。その金色の瞳には人間では捉えられない超スピードの弾丸がくっきりと見えていた。
(これがエヴォリストの見る世界か。この鋭敏な感覚と優れた身体能力があれば並の銃など相手ではないな)
「くそ!もっとだ!もっと撃て!!」
ババババババババババババババババババッ!!
(無駄だ。そのマシンの装備ではいくらやっても今のおれに当てることはできない。いや、むしろ……)
「「「!!?」」」
覚醒ショーン急ブレーキ!今までの機敏な動きを止めて、その場に立ち尽くした。
「なんだ!?トラブルか!?諦めたのか!?」
「何でもいい!!チャンスをくれるなら、ありがたくいただいておこうぜ!!」
戸惑いよりも喜びの方が勝った単純なチンピラ達は引き金を押し込み、案山子と化したショーンに銃弾の雨を浴びせかけた……が。
キンキンキンキンキンキンキンキン!!
「な!?」
「にぃぃぃぃぃぃッ!!?」
銃弾を浴びせかけたが、全てその赤と青に変化した人間を超えた肉体が弾き返されてしまった。
(やはりこの程度なら避ける必要もないな。ハイヒポウの装甲は厚く丈夫だと誇っていたのがアホらしくなるな。あんなものエヴォリストからしたらただのおもちゃだ)
思わず口角が上がる。可笑しくて仕方ないのだ、この全能感を知らなかった過去の自分が、それを笑い飛ばせる今の自分の絶対的な力が。
(防御性能に関してはなんとなく把握できた。次は……)
「攻撃だ!!」
「ひっ!?」
銃弾を弾きながら目に付いた儚星に接近!あっという間に拳の届く間合いまで到達した。
「やめ――」
「まずは軽く……」
ドゴオッ!!
「――て!?」
嘘をついたわけではない。ショーンは宣言通り軽く小突いたつもりだった。けれど結果は拳に触れた儚星はまるで爆発に巻き込まれたように吹き飛び、宙を舞った。
(力を入れたつもりはないのに……この威力!エヴォリストとはなんと素晴らしいものか!!)
「ひいっ!?」
歓喜に震えるショーンは次の獲物、ヴォーインに狙いを定める。目があったチンピラは恐怖で足がすくみ、動くことはできなくなってしまった。
「待って!?降参するから!?」
「引き金を引く前だったら受け付けたかもしれんな」
ドゴオッ!!
「――がはっ!!?」
「……いや、散々好き勝手やってきた悪党を許す必要などないか」
文字通り一蹴!踏み込むと同時にミドルキックを叩き込んだ!ヴォーインは先ほどの同僚と同じく装甲の欠片を撒き散らしながら夜空を舞う。
「さて、次は……」
「ひっ!?」
「うっ!?」
周囲を見渡したが、チンピラ達は今の一撃を目の当たりにして、完全に戦意を喪失しているようだった。かろうじてファイティングポーズを維持しているが、よく見ると小刻みに震え、ジリジリと後退している。
「所詮は何の信念もなく力を振るうことに酔いしれているだけの烏合の衆か。ちょっと劣勢になったくらいでこの有り様。仲間の仇討ちをする気概もない」
ガシッ!!
「なっ!?」
「その点、お前は見所があるぞ」
背後からの奇襲。しかし、覚醒ショーンの研ぎ澄まされた感覚を出し抜くことはできなかった。
ナイフで一突きしようとした儚星だったが、超越者が振り返ると同時に回避、そして逆に手首を掴まれてしまう。
「発想は悪くなかったが、少しベタ過ぎる。そんな単純な手でかつてのおれならともかく今のおれの命を断つことなどできんよ」
グイッ!バキバキバキィッ!!
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
耳を覆いたくなるような悲痛な叫び声がカウマの夜に響き渡った。
覚醒ショーンはまるで赤子の手を捻るように、儚星の腕を軽く捻り上げ、手首と肘の関節を破壊してしまったのだ。
「痛いか?痛いよな?痛くなるようにやったからな」
「お前は……お前は一体何なんだ!!?」
「おれか?おれは……正義だ」
ブゥン!!ドゴオォォォォォォォォッ!!
「――がっ!?」
「ぐはっ!?」
ゴミのように儚星をチンピラ達の群れの中に雑に投げ捨てると、ボーリングのピンのようにバッタバッタと倒れていく。
今のショーンにとっては何気ない行動でも、普通の能力を持たない人間にとっては必殺の一撃になってしまうのだ。
「さぁ……次はどいつだ?」
「「「……………」」」
答えるものなど誰もいない。もし答えてしまったら、今目の前で起きた身の毛もよだつような恐怖の制裁が自分の身に降りかかることになるのだから。
「戦士は今の奴だけか。やはり肩慣らしにもならんな。この力の全貌を知るためにはもっと強い奴を相手にしないと……」
瞬間、ビョルン隊長とイエローポイズンについて話し合っていた時の記憶が甦った。
(確か……ギャラウェイ兄弟とかいう双子の傭兵がボスのマッカーシーの護衛についているはずだ。奴らならもしかしたらおれの力を……)
ショーンは今日一番の、下手したら思い悩んでいたここ数ヶ月で一番の笑みを浮かべた。
「ひいっ!!?」
しかし、その笑顔は端から見ると禍々しく、狂気をはらんでいる醜悪な恐怖と嫌悪感の対象にしか感じられなかった。
「ゆ、許してくれ……」
「心を入れ替えて真面目に生きるから……」
ついにチンピラ達は武器を手放し、代わりに祈るように手のひらを合わせて許しを乞い始めた。
そんなことをしても無駄なのに……。
「今までの一連の流れを見てなかったのか?生憎おれは悪党の言葉を聞き入れる耳を持ってないんだ」
「そんな……」
「そしてお前らにもう興味はないが、このまま見逃してやるほど無責任でもない……!!」
そこからしばらく別荘の庭には悲鳴と骨やピースプレイヤーが壊れる音がこだまし続けた……。




