プロローグ
「な、なんで、こんなことに……!!?」
とある無人島に、本来いるはずのない人間がたった一人……そのたった一人の男が声を震わせながら呟いた。
「おれが……!?カウマ共和国の特殊部隊のエリートであるこのおれが……!?」
男はオリジンズという獣の亡骸を利用したパワードスーツ『ピースプレイヤー』を装着していたが、その鈍く輝く装甲は無惨にも傷つき、抉られ、砕かれ、中身である男自身がむき出しになっていた。
しかし、それでもマシな方だろう。彼の足下には彼が纏っているピースプレイヤーと同じものがより悲惨な状態で大量に転がっていた……。
「エリク、マサコ、隊長……くっ!?必ず助けに戻るからな……!!」
大切な仲間達に後ろ髪を引かれながらも男は言うことを聞かない足を強引に引きずり、動かせなくなった片腕を抑えて、この場から必死に離れようとしてしていた。全てはその仲間を助けるために。
けれども、この凄惨な状況を引き起こした元凶である“ソレ”は男の行為を許さない。
「グルルルルル………!!」
“ソレ”は怒り狂っていた。彼の人生……いや、オリジンズ生において最も重要な瞬間を愚昧な人間によってたかって邪魔され、はらわたが煮えくり返っている。
二階建ての家屋ほどの巨体に刻まれた激闘の跡……突き刺さった刃や、銃弾によって開けられた穴から流れ落ちる血など気にせずに、ズシズシと四本の足で大地を踏み締め、逃げる男に近づいていく。
「くそッ!?動け!動けよ!ハイヒポウ!!動いてくれ!おれの足!!!」
正に祈るような気持ちで愛機と自らの足に訴えるが、残念ながらどちらも答えてはくれない……。
「――ッ!?」
「グル………」
そうしている間にも“ソレ”は男に接近し、自身の射程圏内に……。
背後から特殊部隊で鍛えられた男と、重装甲が自慢のピースプレイヤーよりも太く大きい前足をそっと上げていく。
罪人に鉄槌を下すために。
「くそ!くそ!くそ……!ここまでかよ……済まない……みんな……!」
それが、助けられなかった仲間達への謝罪が、男の最期の言葉だった……。