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君と俺と、僕と私と  作者: 壁野実
3/7

十月 二

 キーン、コーン、カーン、コーン。

「―それでは、来月までに課題を終わらせておくように。次は移動教室なので号令は結構。」


 5限目が終わり、次の体育のために男子生徒が体育館へ移動している。校舎が古いからなのか、それとも田舎だからなのか校舎に「更衣室」は無く、男子が体育館で着替え、女子は教室で着替えている。

「服部くん、一緒に体育館行こっか。」

鞄から体操服を出していると、高橋に声をかけられた。

「そうだね、あの先生授業遅れると怖いからなぁ。」

「この前スカート折ってた子を廊下で怒鳴ってたね。」

「ほんと、今の時代によく出来るよ、怖いもんないのかな、あの先生。」

他愛もない話をしていると、

「よっ、服部、と…高橋くん?こいつと仲良かったっけ。」

と、歩きながら話している2人の間に、森本が割って入ってきた。

「席替えしてから話すようになったんだよ、それまでは全然話してなかったんだけどね。」

高橋が答えた。

「そっか、でもこいつ言葉遣い荒いからなぁ、高橋くんと馬が合うといいけど。」

森本が冗談交じりに言う。

「おい、そんな事ねーよ。お前みたいなのが特別なだけだ。」

「ふふっ。2人とも、仲がいいんだね。」

2人の会話を聞いていた高橋が、微笑みながら言った。

服部は、どこか恥ずかしさを感じ、顔を少し赤くする。

「それよりさ、今日の体育って何するんだっけ。」

恥ずかしさを紛らわすために、服部が話題を変えた。

「前は何してたかもう忘れたな。高橋くん覚えてる?」

「前はバスケだったけど、今日は違うのするんじゃなかったかな。」

「そういやそうだったな、高橋くんよく覚えてんなぁ。」

「実はさっき、誰かが話してたのを聞いただけなんだよね。」

高橋が恥ずかしそうに笑う。それを見た服部も、また少し顔を赤くした。そんな2人とは違って、森本は笑っていた。


 3人が体育館に入ると、先に居た生徒たちが、一ヶ所に固まって着替え始めていた。

服部は決まって、そんな集団から離れて着替えている。理由は高橋だ。

服部は怖いのだ、どうしようもなく。高橋が着替えるのを見てしまう事が。


 例えば、自分が学生だとして。異性、特に自分が想いを寄せている人が、1枚、また1枚と服を脱いでいる。そんな所を、誰にも咎められず、責められず、そのすぐ隣で見ることができるならば。そのとき自分は喜んで見るだろうか。おそらくそんな事は無いはずだ。

 確かに、一度なら喜んで見ようとするのかもしれない。想いを寄せている人が服を脱いでいる、それを見たくないはずがない。しかし、多感な年頃の学生が、現実離れした、まるで恋愛小説のような事を、何度も、何度も繰り返せるのだろうか。

 その人の、その肌を見る度に「あぁ、私はこれを見てしまって、本当によいのだろうか。」と心を刺す。その匂いを感じる度に「あぁ、私のこの感覚は、許されるものなのだろうか。」と心を惑わせる。

 その身体が、目に、心に、強く焼き付けば、焼き付いてしまえば。淡く清廉で、やわらかなその恋情は。背徳的に、蠱惑的に、己の心を蝕む呪いへ姿を変えてしまう。


 服部は、体育の時間が憂鬱でしかなかった。ジャージ姿の高橋を見る度に、自分が咎められているような感覚になってしまう。

 例えるなら、小学生の頃、優しく穏やかな声の先生が「ボクの言いたいことは分かるんだよ、でもね。」と、静かに自分をなだめるような、そんな感覚になるのだった。


 「いやー、ドッジボールなんか久々にやったよ。な、服部。」

「ん、あぁ、懐かしいな。」

森本の声に、ぼーっとしていた服部は少しはっとし、体育の後の熱くなった心身を冷ましながら、のんびりと歩いていた。

「冷たっ、雨降ってきてんじゃん。」

そんな2人を急かすかのように、パラパラと小雨が降り始めた。

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