十月 一
とある中学校、色恋に興味を持ち始める思春期に、2年生になった服部は例に漏れず恋をしていた。
恋情というものはあまり人に知られたくないものだ、この年頃の子供は特に。恥ずかしい、からかわれる、嫌われたくない…。理由はそれぞれだが、大体は要らぬ心配だったりする。しかし、服部は違った。彼だけははっきりと嫌われると確信していた。
服部が想いを寄せている相手は、同じクラスの高橋という生徒で、人当たりがよくクラスの皆から信頼されている。嫌っている人は居ないんじゃないか、というくらいだ。
これだけなら、「クラスの可愛い子に恋した男の子」で済む話だが、一つだけ問題があった。それは、高橋が男という事だ。
服部は、毎朝一番に学校へ行き、本を読んで過ごしている。しかし、今日はいつもと違い、机に突っ伏して眠っていた。理由は、課題の提出期限が明日なのを寝る前に思い出し、夜更かしして終わらせたからで、課題が終わる頃にはもう空が白み始めていた。
「よ、服部。朝からお眠か?お前が机で寝るとは珍しい。」
机に突っ伏して寝ていた服部の肩を叩いたのは、服部と小学校からの友人である森本だ。
「今日は5限が英語だろ?その課題をやってたんだよ…」
「あぁ、先月あたりに出たやつだな。お前よく一晩で終わらせたな…」
「もちろん。そういうお前も、どうせ寝ずに終わらせたんだろ?」
「終わってねぇから朝早く来たんだよ…」
そう言って森本は、教科書とノートを机に広げ、課題を始めた。
「そっか、じゃあ俺はしばらく静かに寝れそうだな。」
「へっ、言ってろ。すぐ終わらせて叩き起してやる。」
森本の言葉に服部は笑い、そのまま眠りを続けた。
「起立!」
先生の大きな声に、服部は目を覚ました。かなり熟睡していたようで、目覚めた時、座っていたのは服部だけだった。
「気を付け、礼、着席。」
服部が寝ていたからなのか、それともたまたまか、先生は最初の声よりも小さな声で続けた。
はぁ、もう少し寝たかったな。そう思っている服部に、「おはよう、服部くん。気持ちよさそうに寝てたね。」と、隣の席の高橋が声をかけた。
「あー…おはよう、高橋。」
「起こそうと思ったんだけど、あまりにも熟睡してたからさ。」
「気ぃ使わせちゃったな、ありがとう。」
「ありがとうって、感謝されることしてないよ。それに、可愛らしい寝顔が見れたしね。」
高橋は、からかうように微笑んだ。
「それは恥ずかしい所見られちゃったな…」
「ははっ、冗談だよ。」
そんな会話をしていると、水を差すようにチャイムが鳴った。