2-26 空気を読まないおっさん
「おお、これぞまさしく精霊獣様に他あるまい。
姿を隠し、また人の言葉をお話になる。
その人型で毛皮に包まれた御姿は、典型的な精霊獣様のものに相違ない。
ようこそ、このパルマ王宮へ。
この国の王として感激に絶えませぬ」
本当かいな。
そのような伝説がこの世界に⁉
だが、このモフモフ野郎は王様に人見知りして、またしても私の後ろに隠れやがった。
大き過ぎて全然隠れ切れていないけど、ぐーっと体を縮めるような感じにして。
まるで凄く大きくなり過ぎた子供が母親の後ろに無理やり隠れようとするかの如くだ。
もしかして、あたしってこいつから見て、そういう立ち位置なの⁇
「サル、あんた。
この王宮の主に対して、ご挨拶くらいしなさいよ。
今まで散々出没して騒がせておいて」
「し、しかし、おいどんは人前に姿を見せるのは苦手でごわすよ」
「嘘つけ、昨日はあれだけ堂々と飲み散らかしていたくせに」
「宴会は別でごわす」
なんだ、それ。
どういう基準なのよ。
「だそうですよ、国王陛下」
もう、まるでコントだな。
本当にこれが神獣なんてありがたい物なんだろうか。
非常に悩むところだが、奴は今も私の後ろをぴったりとマークしている。
いいけど、トイレにはついてこないでよ。
さすがに国王陛下も、ちょっと微妙な顔をしているなあ。
「そ、それでは神獣様の歓迎の宴をやらせていただくというのは如何なものでございましょう」
う、昨日に続いてまた宴会コース?
ちょっと勘弁してほしいな。
こいつが主賓という事は間違いなくこの私がホステスを務める羽目になるというか、この草色モフモフ巨大猿め、今も絶賛私の背中に張り付いていやがる最中なのだが。
「それはよい考えですな」
あ、団長。
またあんたは余計な事を。
ちったあ、空気を読めや。
昨日、散々ウワバミのように飲み散らし、あれだけ弾けまくっていたというのに、昨日の今日でそれか。
少しは他の人の迷惑も考えなさいよ。
二日酔い中の王太子のお兄ちゃんを少しは見習いなさいな。
そこのリュールさんを始めとする騎士団三人衆が、この団長のためにいつもドタバタしている理由がよくわかったような気がする。
今日はメイン・ストッパーであるサリタスさんもまだ復活していないのだが。
王太子のお兄ちゃんもいないし。
私は、なんとかしろオーラを眼からビームのように放ち、隣で苦笑しているリュールさんに送りつけた。
「陛下、さすがに昨日の今日というのはなんですので、神獣様には今晩は王宮に滞在していただき、明日の晩に宴を催し歓待するという形でいかがなものでしょう」
ナイス・イケメン。
私も全力でそれに乗らせていただく事とした。
「陛下、私もそれがよいと思います。
もう一人神獣様と仲の良い王太子殿下もいらっしゃらない事ですし」
「ふむ、そうか。
ではそのようにするかな。
息子にも神獣様と親交を深めさせたいしのう」
いやいや、夕べは十分過ぎるほど深めまくっていましたがね。
私がまだ買い物から帰る前にもう三人で仲良く肩を組んで。
お陰様でこっちはエライ事に。
うわあ、危なかった。
なんとか二日続けての大宴会は全力で回避に成功した。
団長だけは非常に残念そうな顔をしていたが、まったくこの人ってば本当に。
そして、どうやら私の今晩の枕は、そこの草色モフモフに決定したようだ。
「そういうわけだから、あんた明日まで実体を消すの禁止だから」
「そ、それはキツイでごわすな」
「いいでしょ、もう。
後で美味しいお菓子を焼いてあげるから」
「約束でごわすよ」
「はいはい」
どうせ、厨房にもついてくる気なのに違いない。
「団長、あなたも今夜は王宮に泊まっていってくださいな。
これの面倒は一人では見切れません」
これをおいどんと一緒に置いておくと、また宴会を始めてしまいそうなので、またなんなのだが。
ここには、更にお兄ちゃん王子もいるのだし。
だが背に腹は代えられない。
まさか、こいつがそのような胡乱な存在だなんて夢にも思っていなかった。
ただの新種の私専用のモフモフだと思っていたのに。
まあいいんだけどね。
これで結構なかなかのモフモフぶりなのだ。
ミス・ドリトルとしては、こいつを手放すという選択肢はありえない。
幸い、よく私に懐いているし。
まあ私がモフモフに懐かれるなんて事は、異世界まったく関係なく今更なのですが。




