2-10 御用達っぽい何か
アメリが案内してくれた店は、もう店構えからして超高級だった。
入り口の上に埋め込まれている看板が高価なミスリルで出来ているし。
こ、これメッキかなあ。
思わず冷や汗が背中を伝います。
というか、あのような高価な看板を無造作に野晒しにしておくなんて、さすがに無用心じゃないの⁉
ありえない。
あれ一体いくらするのよ……金看板じゃなくって、馬鹿高いミスリルで出来た看板だよ?
「こんな店で買うお酒っていくらするわけ!?」
だが、アメリはくすっと笑って私の可愛いお腹を神官服の上からポンポンと叩いた。
「まあまあ、今日は懐も温かい事ですし。
これくらいしてあげてもいいんじゃないですか」
「まあ、それもごもっとも」
あいつらには、あれだけの目に遭わせてしまったからなあ。
まあいいか。
中へ入ると、どこの高級ブティックの店員だよと思うような、豪奢な感じのスーツを着た人がやってきて挨拶してくれた。
少なくとも私にだって、よれよれで安物のスーツとピシっとした高級スーツの区別くらいはつく。
これは最高級クラスのものだ。
応対の店員さんでこれ⁉
「本日はリカー・ロイヤルへようこそ。
どのようなご用命で?」
うん、名前からして高そうな雰囲気だ。
どのようなもへったくれもない。
「えー、王国騎士団でパーティをやりますので、良いお酒を見繕っていただきたいのですが。
あ、この白金貨一枚分お願いします。
本日しか手に入らないようなお酒がありましたら、それも優先して是非お願いします」
「畏まりました。
では、そこの待合室でお待ちください。
今、お茶をお持ちしますので」
彼は恭しく礼をすると、待機していただろう案内の女性を呼んだ。
私は前払いでプロに丸投げしたのだ。
さっきから、その辺のお酒の瓶についていた値札をチラっと見たら、結構なお値段がしていた。
日本円にして五万円から二十万円ってところか。
白金貨くらいは出さないと、さすがに本数が足りなくなるだろう。
「サヤ、太っ腹ですね」
「今日くらいはね。
リュールは何か飲みたいお酒はないですか」
「ああ、俺は皆が飲む物と同じ酒でいい」
もうイケメンだな。
これは騎士団の連中が命懸けでついていくはずだ。
あのお兄ちゃんの王太子なら遠慮なくズバズバと高い酒を山盛り選んで、豪快に「騎士団には俺が飲むのと同じ酒を飲ませてやればいい」くらいは言いそう。
それもまたイケメンっぽい発言だけどね。
あの人って、半ば歩く無礼講みたいな人だし。
なんかやたらと広く作られた待合室もまた豪奢にして絢爛そのもの。
革張りソファは一体幾らすんのよといった感じの高級品で、明らかに高位魔物の革製の逸品だ。
どれだけ使ったってへたる事はなく、逆に使い込んだ事によって風格が増すみたいな。
壁に張られた木材も、なんというかホルデム公爵家のサロンに張られている物と同等だ。
ありえない。
テーブルも明らかに名のある職人による一点物で、凄いお金持ちになったんじゃなかったら、うっかりと傷つけたりしないように触りたくないような代物だ。
リュールはともかく、アメリはごく自然体にこの庶民には異質な空間に馴染んでいた。
あんた、一体どこのお嬢様なのよ。
何故、メイドなんかしているのか。
女の人が持ってきてくれたお茶には、まるで試供品のようにお酒の小瓶が五個くらいずつ並んでいた。
「お茶にお酒を入れるの⁉」
「まあ、そういう飲み方もありますが、ここは王都パルマ随一の高級店ですから、まあほんのサービスですね。
もちろん、買っていただくためのお試しの意味合いもあるのですが。
あなたは白金貨一枚分ポンっとお買いになられるのですから。
それに馬車に描かれた公爵家の紋章を見て対応されたのが、ここの支配人でしたので」
「な、なるほど~。
人を見ての対応っていう訳かあ」
「これからは、あなたの賜った聖女の紋章が、それと同等、あるいはそれ以上の待遇を約束するでしょう」
「ふむん。想像がつかないな」
やがて、支配人自ら二人ほど連れて持ってきてくれたお酒は六十本程度。
もうちょいあるかと思ったのだが。
「聖女様は本日の逸品をと仰られておられましたので、まずそのあたりを揃えたら十本で金貨三十枚分、その他で家の格に合わせてお選びしましたものが二十本で金貨三十五枚分。
それから量を求めて少しお値打ちな物を残りのお金で三十本といった感じでございますが、いかがなものでありましょうか」
ああ、もう聖女ってバレているのね。
こっちの懐具合も貴族から情報が流れていたりして。
「御免、明らかに量が足りないから、もう白金貨一枚分お願い。
うちの団長だけで、その半分くらい飲みそう。
質は落とさないで、なるべくいい物をチョイスしつつ、それなりの数を用意して。
でも質には十分に配慮してね。
数はさっきより多少減ってもいいわ。
よろしいかしら」
「畏まりました」
白金貨をもう一枚払い、とりあえずの分は収納しておいた。
それから今度は五十五本の上等そうなお酒を持ってきてくれ、まさにオーダー通りだった。
「リュール、これで足りそう?」
「足りなければ買いに走らせよう」
「ではこれで」
私はそれらをまた収納した。
支配人はそれを羨ましそうに見ていた。
「収納ですか、商人の夢ですなあ」
「冒険者さんも欲しがるでしょうね」
「あの連中は命懸けですからな。
まあその分は報われるわけですが。
彼らも、高位の冒険者ともなると、うちでも結構な上得意様でしてね」
「そうかもね」
何しろ、リュールの家と来た日には、三代に渡ってそんな感じだもんね。




