2-8 聖女の騎士
「それとな、サヤよ。
一応、お前の事は王家預かりという形にしておいてもらいたい。
国内で唯一の聖女であるという事の他に、お前の素晴らしい働きを見て他国が邪まな考えを起こさぬとも限らぬしのう」
その他国というのは、もちろん主にお隣のあの国ですね。
今回の事で私も彼らからだいぶ恨みを買っていそうですし、大人しくそうした方が明らかに得策のようですね。
「わかりました。
でも住むのは今まで通りにホルデム公爵家にさせてください。
王宮住まいはさすがに。
それに、せっかくこの素晴らしい台がいただけるというのに、飾る部屋の方がなくなってしまっては困ります」
そう言って私はうっとりと怪しい笑顔で台の上を撫で回すとそれを収納した。
その私の残念な台詞にまたしても王様は苦笑していたが、私があっさりと国王預かりとなる事を了承したのでホッとしたようだ。
向こうにしてみれば、自国で現在唯一の聖女が自分の管理下にあるのは望ましい。
少々残念な部分には目を瞑ってくれる大人の対応のようだ。
どうせ王様からすれば、あの公爵家は自分の息子の家なのだし。
こっちとしても、国の各部署が味方についてくれるのなら心強い。
「では、そのように取り図ろう。
他に何かお前の方から要望はあるかな」
「ああ、それでしたら、私の配下の魔物に対して、私の正規の騎士としての資格をお認めいただきたく。
なんというか、国内中どこにでも連れて歩けるように」
何しろ、小柄で可愛いチュールはともかくチャックがあの見かけですのでね。
まあチャックに関しては図体と重量により、場所によっては物理的な入場制限はあるのですが。
あの子って、まるで最新型の米軍あたりの無人機動兵器並みの存在感ですから。
私としても、あの二人を連れて歩ければ天下無敵ですしね。
「ああ、それは構わんよ。
そういえば公爵家の従魔がおったのであったな」
それを聞いて、リュールは微妙な顔をしていた。
王様はまだあのチャックの姿を見ていませんからね。
でも言質はとった。
多くの貴族達の目の前で。王様が吐いた唾は飲めないものね。
こうして私は、特別権限を付随させた新しき身分証と莫大なお金、強力な従者を連れ歩く許可と国内の治安機関に護衛その他を任せられるような権利を手に入れた。
実際には騎士団が私のパートナーなのだけれど、必ずしもそれだけで安心はできない。
かならず、どこかから騎士団に対して横槍は入りそうな感じだったから。
しかし、もうその心配もなくなった。
これでやる事といえば、あの青い鳥を追いかける事だけだ。
後は可愛いモフモフ集めかなあ。
もちろん、イケメンはたっぷりと鑑賞させていただきますよ。
王太子殿下は悪戯そうにウインクしてくれた。
何しろ、私が今後騎士として連れ歩く予定のチャックは、王宮を襲ったあの惨状をもたらした三体の魔物のうちの一体ですから。
まあ、あの子は一人だけやる気がなくて殆ど触手を適当に振り回していただけなのですがねえ。
私の警護に関しては、彼の本気に期待します。
それから、満足そうな笑顔で王宮を辞して他のところへ挨拶周りに行く事にした。
馬車の中では、あの謁見の最中もまた、一人だけ何一つ動じていなかったアメリが言ってくれた。
「大物ぶりが、なかなか様になっていましたね、サヤ」
「まあどちらかというと変人ぶりが目立っていたような気もしますが。
聖女サヤの見解としては、今回の謁見に関して特に問題はなかったと断定しておきます」
だがアメリは楽し気に、苦笑を浮かべたリュールさんと顔を見合わせるに留めた。
アメリ、そこは私付きのメイドさんとしては、「そうございますわね、さすがはサヤ様です」とか言っていただくシーンなのではないでしょうか。
それから冒険者ギルドへ行き、サブマスのサンドラさんに各種の報告をした。
「うーん、またえらい事になっていたものね。
しかし、あの報告にあった捕獲された魔物を騎士として連れ歩くつもりなのですか。
相変わらずイカレていますね、あなたは」
「余計な御世話です。
うちの『ホンカン君』は頼りになるのです!」
「まあ、これで王家の後ろ盾も出来たんだから、あれこれと安心でしょう。
あなたは見るからに危なっかしいし、すぐ奇行に走るタイプだから。
あなたの関係者がみんな、ヒヤヒヤしながら見ているのでしょうから、これで周りの人達も安心できるでしょう」
「冒険者ギルドからの低評価に、聖女サヤは激しく抗議をしたいと思います。
それよりも、お宅のスカポンタンな上司はまだ戻られないのですか。
うちのアレな関係者達もまだダンジョンから一向に帰ってこないのですが」
「あれがいつ戻るかなんて、神様だって知りはしませんよ。
そっちも、あのうちの駄目上司と血縁なんだから無理。
もう気長に待つしかないわね。
諦めなさいな。
それとも、聖女権限で国軍を率いて捜索でもする?
まあ訓練名目なら王国も断れないわよ」
「やめておきます。
王国騎士団や近衛兵から悪魔聖女呼ばわりされるほどやらかしましたので、しばらくほとぼりを冷まさないと、今度は称号が大魔王聖女にまでランクアップしそうです」
「あら素敵なお話じゃないの」
「嫌です!」
という感じに、一か所は馴染みのサブマスとコントをしているだけで終了したのであった。




