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1-37 モフモフ・スイーツタイム

「さてと、後は皮が焼き上がるのを待つだけですか。

 カスタードクリームも、なんとか上手くできましたし」


『まだー? いい匂いがする』


「もうすぐですよ。

 シュークリームは皮だけですから、中までビッシリ土台が詰まっているケーキじゃないので、そこまで焼くのに時間はかかりません」


『待ち切れないよー』


「というか、さっきからあなた誰です⁉」


 だが、見回しても誰もいない。


「胡乱な」


 もしかして幻聴だろうか。

 いや、きっとモフモフ成分が足りないせいなのに違いない。


 そして、やや大型の魔導オーブンの鉄板にびっしりと並べられたシュークリームの皮部分を取り出した。


 さすが、そう取り計らっただけあって皮はしっかりしている。


 失敗してペシャンと潰れたシュークリームの皮ほどみっともない物もそうない。


 クッキーなんかだと、失敗して多少焦げてしまっても食べられない事はない。

 そういう失敗品を男の子にあげるのは躊躇われますがね。


 中には特にあげると言っていないのに勝手に持っていく奴もいますが。


 中学の頃は特にボーイフレンドではなくても、女の子は普通に家庭科で作ったお菓子をクラスの男子にあげたりしていましたね。


 日本での思い出を懐かしく思い出しながら、無事にシュークリームの中身を詰め終わって、試食に入ろうとしていた時、そいつと目が合いました。


 テーブルの上に乗って膝を曲げたスタイルでしゃがんでいた、茶色の毛皮でクリクリの眼をした可愛い奴。


 なんというか、日本でも幼児がよくやる、可愛らしいあの座り方です。


 この子はお猿系の魔物だろうか。

 全長四十センチほどの、図体も可愛いサイズの奴だった。


『食べていい?』


「いいよ」


 さっそく、可愛らしく両手でシュークリームをとって齧り出す、そいつ。


 魂の深底からうずうずしますが、ここは焦ってはいけないシーンです。

 逸る指先は鎮めながら慎重に慎重に。


「あ、私が一番乗りする予定だったのに」


「ベロニカさん、大人気ない事を言わないでください。

 元々、この子みたいな子が甘いものを好きだってあなたが言うからシュークリームを作ったんでしょうに。

 はい、どうぞ」


 こちらも無言で齧りついたので、自分も試食を始める事にした。


「うん、やっぱり皮が少々固めだな。

 まあ失敗しないようにわざとそうしたんだけど。

 でもこれなら、今度はもう少し柔らかめで大きくしても大丈夫そう」


『おいしいよ?』


「美味しいです。

 また作りましょう」


「今度はホイップクリームも作りたいよね」


『甘い?』


「うん、あれはもっと甘いよ」


『作ろう』


「また今度ね。

 あれは材料の試作から頑張らないと、いきなり作るのは無理だし」


『いつ?』


「とりあえず、今日はこれを食べようよ。

 そういや、あんた一人だけなの?」


『他の子はダンジョン行った。僕だけお留守番』


「そいつは奇遇ね。

 実はあたしも今日は、しがないお留守番なのよ」


『どこか怪我してるの?』


「え、いやそうじゃないけど」


 そこまで言って気がついた。

 その子は足に痛々しく包帯をしているのだ。


「大事にされているわね」


 思わず頬が緩む。

 従魔だからって無理して連れていったりはしない人なのだろう。


 この子って可愛いしね。


「お姉ちゃん、聖女だから足見せてみ」


『聖女なの?』


「今のところ、馬専門だけどね」


 本業は『ミス・ドリトル』で、副業が後天性聖女なのだ。

 とりあえず、この子のために副業をする事にした。


「エクストラ・ヒール」


 その子の足がピカーっと光る感じで、完治していくのが感じられた。


 案外と酷い怪我だったようで、腱にもかなりのダメージがあったようだ。


 そういう事も手ごたえがスキルを伝ってきて理解できる。


 本当は隠れ家で大人しくしていないといけなかっただろうに、匂いにつられて出てきちゃったんだな。

 可愛いなあ、もう。


「んー、よし治ったかな」


『わーい、嬉しいー。

 お父さんは、治るまでしばらくかかるから当分お留守番で大人しくしてなさいって言ってたのに』


 私も思わず顔が綻ぶのを押さえ切れない。

 従魔に『お父さん』なんて呼ばせちゃっているんだ。


 しかも、こんな可愛い子に。

 ここの御当主様は、どうみても私の同類だった。


 そして大喜びで飛びついてきたその子を思う存分モフったのであった。


「はあー、モフった後のシュークリームはまた格別っと。

 あれえ?」


 いつの間にか、並べてあったシュークリームが殆ど消え失せている。


「ベロニカさんっ!?」


「う、おかしいな。

 サヤ、いつの間にかシュークリームが消えています。

 一体、何者が」


「ベロニカさん。

 口の周りをそんなにクリームだらけにしておいて、白々し過ぎますよ。

 いいですけど、そこの残り二個はこの子の物ですからね?」


「あう、残りはじっくり味わって食べようと思っていたのに」


「もうっ。

 また作ってあげますから!

 今度はもっと美味しい奴を」


「約束ですよ、サヤ。

 仕方がない。今日のところは諦めるといたしましょう」


「あんた一人で、軽く十五個以上食べてますよね⁉

 はっきり言って私の分が無くなっているのですが」


 とりあえず、なんとかおチビの分のシュークリームは、かろうじて確保出来たので、まあ今日のところはよしとしましょう。


 私の分は見事に無くなってしまいましたが。


 それにしても、まさかベロニカさんがこのような痴態を示すとは。


 おそるべし、シュークリームの威力。

 まったく期待していなかったのに、ちゃんと可愛い子も釣れたしなあ。


 チビを抱っこしてシュークリームを食べさせていると、本日のお留守番の無念が綺麗さっぱり洗い流されて消えていくようです。


 モフモフはやはり正義だ!


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