1-24 異世界の濃度
その光景をしばし見つめていて、ふと私と目が合ったベロニカさんはこのように言ってくれた。
「ふう、サヤ。
私はあなたの事を少し誤解していたようだ」
「というと?」
「あなたは私が思っていたよりも遥かに残念な人だった。
この先が実に思いやられる」
「えーい、ほっといてくださいな。
私はこの先も、この異世界で思いのままに生きるのです。
ベロニカさん。
最初に言っておきますが、この程度で私のすべての残念さを網羅したなどと思うのは思い上がりも甚だしいですよ」
またしても頭を振る破目になったベロニカ女史と、それを見ながら楽し気にカラカラとお笑いになる公爵夫人の落差が酷い。
「まあ、これはまた楽しそうな人が来てくれたものですわね。
また後の機会にて私の娘に紹介いたしますわ。
ああ、主人も一緒に」
「おお、公爵家御令嬢と御当主様ですか。
それは会うのが楽しみですね。
今はどこかへ旅行か何かでお出かけ中なのですか?」
「ええ、二人揃ってダンジョンへ」
この返答には、さすがに私も沈黙した。
え、公爵家の当主と娘が揃ってダンジョン探索に?
そういや、義理の息子(甥っ子)も騎士団で副団長などを……え?
「まあそのうちには帰ってくると思うのですが、熱中して奥の方まで潜っていると、なかなか帰ってこないかもしれないですわね。
オホホホ」
うん、格式とかそういう問題ではまったくないようだった。
これはアカン家だ。
だが、今の私にとっては実に楽しみである以外の何物でもなかった。
「ちなみに娘さんの御歳は?」
「今十五歳ですわ」
「奇遇ですね。
私も今十五歳になったばかりで、来年の三月には十六歳になります。
私の国では、女の子なら親の許しがあれば結婚できる歳なのですが、もうすぐ法律が改正されますので、それもなくなります」
私と同じ歳で、父親の現役公爵と一緒にダンジョンに潜る公爵家御令嬢かー。
これはまた逸材だな。
最早、その帰りを楽しみにする以外の何物でもない。
まあ私自身はダンジョンへ行くなんて絶対に無理ですがね。
「へえ、そうなの?
我が国は特に結婚の年齢制限なんてないけれど。
あまり、そういう事を煩く言っていると結婚をする人が減ってしまって、最後には国が滅びてしまうわ」
「ああ、そうかもしれませんねー」
日本はもう少子化し過ぎて滅ぶ寸前まで来ていますがね。
そのような事は言ったって今更ですので。
それから、なんと公爵夫人自ら私をお部屋まで案内してくれたのですが、これがまた。
「うわっ、凄くゴージャス!
これ、絶対に普通の部屋じゃないですよね」
なんていうかな。
もう高級過ぎて、ホテルの部屋か何かだったら絶対に触りたくないような豪奢なドアを開けた途端に、広がる広大なスペース。
そこに敷き詰められたのは、超高級な絨毯。
おそらく、日本にある私の狭い部屋一つ分を織り上げるだけで、その織り手の少女(織り始めた当時)の人生が終了してしまいそうなほどの驕奢な代物が、それはもう部屋いっぱいに敷き詰められていた。
そして、数々の高級調度に満ちていた。
それらは嫌みもなく、なんというか趣味のよい品々で、それをチョイスした人物の人柄が偲べそうな、そんな逸品揃いだった。
「ふふ、これは元々私の妹が使っていた部屋でね。
ダンジョンで稼いできては、こういう具合に魔改造してしまったのよ。
そして今では、ダンジョンに住み着いてしまって帰ってこないわ。
たまには帰ってくればいいものを」
濃い。
異世界の公爵家、実に濃いな。
とりあえず、その濃さのお相伴に預かって、この部屋はありがたく私が使わせていただくとしますか。
他に行く当てもないのだし。
まあガルさんの抜け毛の対価だと思えばね。
王都にある王国騎士団の予算ですら、たった二十枚さえも払えない値段がしたようだし。
それに加えて、更に百枚ほど追加してあげたのだから、遠慮なくこの部屋は使わせてもらおうっと。
「もしかして、御当主様達は妹さんを捜しに?」
「いえ、別にそういう訳じゃないの。
妹は近隣のダンジョンの下層付近に居を構えて、一種の国というか領地みたいな物を作っているようよ。
そのダンジョンを管理する貴族の了解を貰ってね。
お蔭でかなりの上りがあるみたいだから、その貴族も大喜びで承認しているそうだし」
やはり濃い。
思わずそのダンジョン王国の女王のような妹さんに会ってみたいと思ってしまったが、そのダンジョンの下層とやらに行くのは私には絶対に無理なので、いつか機会があればという事にしておいた。
「じゃあ、とりあえずこの部屋はお借りしますね。
他の住人の方はいらっしゃいますので?」
「主人の父、リュールから見ても祖父に当たる者がいるんですが、これまた放浪癖のある方で。まあそのうちに帰ってくるのではないかしら。
いつも、ふらっと帰ってくるのよね。
へたに主人あたりに探しに行かせると、そのまま主人が逐電して帰ってこない可能性がありますの。
まあ蛙の子は蛙という事ですわ」
それもうみんな、ここに住んでいるとは言わないんじゃないかなと思ったのだが、まあ言うだけ野暮なのでそれは口にするのは止めにした。




