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1-22 ホルデム公爵家へ

「では団長、団旗の件はもうよろしいですね。

 そちらは、あなたとサリタスにお任せいたします。

 私は、副団長と共にサヤを彼の屋敷に連れていきますので」


「なんだ、部屋ならうちにまだ空いている部屋があったはずだがな」


 あなたもですか、騎士団長閣下。

 大体、騎士団というものがどういう団体なのかわかってきたような気がする。


 これはもう完全に体育会系な集団だ。

 騎士団という響きから、私としてはもっと雅なものを想像していたのであったが、百聞は一見にしかずとはよく言ったものだな。


「バルカム・グランダース騎士団長。

 あなたはもう黙っていていただきましょうか。


 まったく、うちの男どもと来た日には、どうしてこう揃いも揃って脳筋であるものか。

 サリタス、もうあなただけが頼りですから、この後の事は全部任せました」


「承知。

 ベロニカよ、あんたもまったくもって苦労性な事だな。

 あんたがいないと、この騎士団は何一つ回らないんだからなあ」


「その言葉はサリタス、あなたにもそっくりそのまま返しておきますよ。

 では、リュール副団長、あなたの屋敷へ参りましょうか」


「ん? もう行くのか。まだ昼飯前ではないか」


 だがベロニカさんは、大きく嘆息してこう告げた。


「あのねえ、リュール……。

 今日初めてこの王都に来て、いきなり公爵家なんかへ御厄介になる破目になった、まだ成人したての女の子の気持ちをお考えになられた事は?」


「う、そう言われてみればな。

 わかった、では今から行こう。

 では団長、サリタス、皆も。

 悪いが今日は早く帰らせてもらうとしよう」


「お疲れ様です、副団長。

 とにかく、その子を連れてきてくれましたので、今日はもう十分というか望外な戦果ですよ。


 ではまた明日。

 旗は俺が責任を持って仕上げておきますので。

 これでやっと肩の荷が下りましたよ。やれやれ」


 大ボスたる騎士団長閣下がまったく肩の荷を背負っていない分、このサリタスさんという方の肩に荷が全部乗っているのですね。


 それも、実質的に王太子の名誉がかかっているような厄介極まる案件が。


 しかも基本的に次期国王となる予定である王太子殿下へ、政敵から嫌がらせのような形で送りつけられてきた厄介事の。


 ああ、本当にお疲れ様です。


「ああ、サリタス。

 団長にはあまり羽根を触らせないでね。

 後で私の手間が増えるだけですから。


 でも、そうですね。

 団長の気が済むように少しは弄らせておいてあげて。

 後でブツブツ言われても嫌ですから。

 そういうところ、あの人って本当に子供みたいなんだから」


「わかった。

 安心しろ、その辺の余計な手間は俺が全部被っておくとしよう」


「よろしくね」


 何か非常にテキパキとしてはいるのだが、内容は非常に残念過ぎる会話を残し、我々はホルデム公爵家の紋章の付いた馬車へと乗り込んだのだった。


 王都の石畳の上をゴトゴトと馬車が進む中、私は思い出した。


「ああ、また馬達の鼻面を撫で損ないました」


 リュールさんはまた呆れたような声で私に言った。


「お前は本当にそればっかりだな」


「当り前です。

 もふもふを愛でずに何の人生なんですか。


 うちの近所で馬なんて良いものに触れる機会なんて皆無なのですから。

 せいぜい動物園や競馬場の触れ合いイベントのポニーくらいのもので。


 あれもチビっ子優先で、なかなか大きい子には回ってこないですしね。

 後は北海道あたりの観光牧場まで行かないと」


 乗馬クラブ(スクール)なら比較的近隣にもあるが、乗馬は怖いので一度もやった事はない。


 馬が怖いのではなく、自分の運動神経などに全幅の信頼がおけないというだけで。


「まあよいがな。

 後で(うまや)に案内してやろう」


「そうですか。

 私は今日の良き日を幸せと呼ぶ事にしましょう」


「なんとも安い幸せだな」


「もうなんとでも言ってください。

 それだけが私の生きがいなんですから」


 何しろ、それが異世界でスキル化してしまうほどには患っている代物なのですから。


 馬車は、馬との触れ合いタイムを想像してホクホク顔の私を乗せて、やがて豪奢な建物がひしめいている感じの場所へと向かった。


 どうやら貴族街のような場所へ向かっているらしい。

 さっきの場所は、街の重要な施設や商業区などが集まっていた場所のようだ。


 街の入り口には衛視のような人が数人立っており、おかしな人間は中へ入れさせないようにしているようだ。


 素では、私などは絶対に入れてもらえそうもない。

 そもそも平民が徒歩で来るような場所ではないのだろうし。

 御貴族様が馬車で通るだけなのだ。


「へえ、リュールさんって凄いところに住んでいるんですねえ」


「一応は、この国に四つしかない公爵家、その筆頭なのだからな」


「なるほど、そうですよね」


「ああ、あなたってこういう事に免疫がなかったわよね。

 ホルデム公爵家はそう格式ばる家柄ではないけれども、まあ王家を除けばこの国一番の家柄ですからね。

 一応は心の準備をしておくといいかもしれません」


「ベロニカさん、そういう事を今頃言ってもらったって、果てしなく手遅れなのですが……」


 公爵家だろうが一般の貴族家だろうが、日本人の小娘なんぞにはまるきり縁の無い世界なので、こうやって貴族街を進んでいてもまるで実感が湧かない。


 まるで映画を見ているかのように、これまでの悠久の年月の間に数々の栄華を刻み込んできただろう御屋敷が、次から次へと車窓の外に流れていくのを見ていた。


 そして、その大通りの最奥あたりと思われる突き当りに、広大な、一際大きな屋敷が見えた。


 傍まで行くと、左右に広がる真っ直ぐな塀が、大通りに負けず劣らずの大きな道に沿って伸びていた。


 大変嫌な予感がしたのだけれど、そこがおそらくホルデム公爵家なのだろうと容易に想像がついた。


 だって、馬車はそこの家の門前に着いて止まったので。

 門番の人が二人がかりで門を開けてくれた。


「「お帰りなさいませ、リュール様」」


「ああ、ただいま」


 どうやら、ここが本日より私が御厄介になる家のようだった。


 超でっかあああ


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