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1-2 最初のお友達

「へ、へい、ミス・ドリトル。

 ここは落ち着いて行こうぜ。


 とにかく、もしこの眼下に広がる光景が夢じゃないのなら、ここはたぶん日本じゃない。


 な、なんとかして家に帰らなくちゃ」


 だが、どうやって。

 少なくとも、これは夢ではない。


 足が踏みしめる大地の感触は確かな物で、その見晴らしのいい場所で頬を撫ぜる優しい風は心地よい後味を残した。


 これが外国の観光地であったというならば言う事は何もなかったろう。


 でも、ここでこうしていたって始まらない。


 何しろ、ここは崖の上というか山の上というか、この先にはとても降りられない。


 引き返すしかないのだ。


 だが、さっき森の奥から引き返してきて行き着いた場所がここなのだ。


 一応、頬を抓って確認してみたが、予想通りやっぱり痛い。


 私はがっくりと項垂れてしまったが、仕方がない。


「とにかく、行くしかない」


 しかし、くるりと向きを変えて歩き出そうとした瞬間に、背後から何かの羽ばたくような音が聞こえ、そして何者かの視線を感じた。


 羽音はかなり大きな物だった。


 そして振り向いた瞬間に、そいつと目が合った。


 それから、私の両眼はくいーっと見開かれ、丸くなってしまった。


 そこにいた者とは!


 鳥、いや鳥人間? 動物好きとしては、その大きく広げられた長く大きな羽根を彩る、大変美しい七色の羽根の羅列が目と心を奪うが、何よりもその異形が目を引いた。


 なんといったらよいか。

 そう、それはまさにガルーダとしか言いようのない存在。


 ただし、かなりイケメンのガルーダだった。


 無論、人間っぽい顔ではなく、あくまでガルーダとしてのイケメンである。


 鳥でも格好いい奴はいる。

 そういう観点からの格好良さ、美しさだ。


 なんというか、孔雀のように美しい、いや孔雀なんてものじゃない凄まじく魂を奪われてしまいそうなほどの美しさだった。


 そしてイケメン好きな私としては吸い付くように目が離せない。


 何しろ、大変にモフモフ的なイケメンという、私のストライクゾーンを抉り込むような超常的な存在なのだ。


 むろん、本来であれば『邪道』な存在なのでありますが。


 モフモフ命にして、イケメンも大大大好きな私なのでありますが、それを足して二で割った存在というものには初めてお目にかかりました。


 あまりにも微妙過ぎますが、それも有りなのかもしれないと本気で考えている自分が怖いです。


「ふわああああああ」


 なんとも形用し難いような叫びというか、感嘆というか、驚嘆というか、そういう物が私の口の端から漏れ出た。


 発したというよりも漏れ出たというのが一番正しい表現だろう。


 彼(男あるいは雄と感じた)はそれほどまでに美しく、また人の目から見て完全に異形の者であった。


 だが、その眼は特に荒ぶるものではなく、そこには知性の光が煌めいていた。


 その身長は四メートルくらい? またその美しい羽根の先から先までが五メートルくらいはありそうで、勇壮で美形(私基準の動物的な美しさで)な、最高のもふもふ羽毛ぶりだった。


 そして、更にそいつは人語を喋ったのだ。


「ほお、人の子か。

 よくもまあ、このような辺境の地に。


 たった一人で、何一つ装備すら持たずに?

 この娘、少し頭がおかしいのではないだろうか」


 なんて事を! 私は思わず憤慨して抗議してしまった。


「し、失礼ね。

 私は学校の帰り道でちょっと道に迷っただけよ」


 だが、彼は大変驚きを露わにした。

 その表情は実に人間臭い。


「なんと、人の子が我らの言葉を解し、我らの言葉を話すというか。

 これはまた珍妙な。やれさて」


「え、何を言っているの。

 あなたが人間の言葉を喋っているんじゃない」


「ほお。なるほどのう。

 むう、これは!

 そうか、お前は稀人か。なるほどな」


「え? 稀人って?」


「お前は別の世界からやってきた者なのだろう。

 だから、そういう事も出来るのだ。


 いや、これはまた珍しい者に出会ったものだ。

 なるほど、なればかような辺境にまだ子供のような者がただ一人でいるのも頷ける」


「え?」


 非常に不吉な宣告を貰ったような気がする。


 別の世界? ここは日本じゃない?


 まあ、あの景色を見て日本のどこかだと思えるほど狂ってはいない訳なのだが。


 つまり、ここから歩いて日本には行けない?


 そんな真っ青になった私を見て、彼は愉快そうに哄笑した。


「ここは、人の里より遙かに離れた場所にある。

 見たところ、こんな場所に来てしまって一人で餌も取れそうにないほど頼りない者に見えるのだが」


 餌どころか、水にもありつけなそうだし、あとトイレはどうしよう。


 お洗濯やお風呂も。

 ここは未開の辺境の地らしいし。


「お前は女だな。

 なれば、娘。

 我の手助けをせぬか。


 我の願いを叶えるのならば、礼はしよう。

 お前、人の世界で必要な金とやらを持ってはいまい。

 あと、人の里まで送ってやろうぞ」


「え、本当?

 でも、私なんかに何かあなたを助ける事が?」


「あるとも。

 こんな場所ではなんだ。

 我の巣にて話をしよう。

 もうそのうちに日も暮れよう」


 気がつけば既に日は傾きかけ、ほんのりと空の端が茜色に染まりつつあった。


 こんな山の中で野宿は御免だし、何しろ水も食べ物もないのだ。


 野獣から身を守る術もないし、何もないところから火を起こす能もない。


 このガルーダのような者は目に知性を宿し、しかも自分に頼み事があるというのだ。


 やたらと危害を加えられる事はないだろう。

 人とは違い、私を騙すメリットは少ないはず。


 もし食べるのなら、きっともっといい獲物がいるはず。

 いくら人外とはいえ、そもそも食べ物に話しかける事はしないだろうし。


 むしろ、へたをすると同じ人間の方が自分に危害を加えてきかねない。


 ここはどのような世界なのかもよくわからない。

 ぜひとも、お話だけでも聞いておかなくては。


 しかし、私は何故このようなお方とお話なんかが出来るものか。

 だが、今はそれどころではないのだから。


「お、お願いします!」


「ふははは。そう緊張せずともよい。

 取って食いはせん。


 それよりも、我は今本当に深刻な状況にあるのだ。

 どうか我を助けてほしいのだ。


 珍しい異界からの客人よ。

 さあこちらへ来るがよい」


 そして彼は手招きをし、私は背後から彼の手に抱かれて空へと飛び立つ事になったのだ。


 こんな風に男性? から抱かれるなんて事は初めてだし、このように翼の力で空を飛ぶのは初めてなので少々パニック気味の私を、彼は悠々と異世界の空の覇者として塒へと向かうのであった。


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