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1-10 旅立ち

 翌日、ナナさんの巣を引き払ってガルさんの巣に戻り、やはりというかゴミ箱状態になっていた抜け羽根と魔物素材をいただいた。


 上手に収納すると、ナナさんのところにあったように汚れは弾いて綺麗な感じにして収納できるのだ。


 そのあたりは精進してみました。

 だがナナさんは容赦がない。


「あんなゴミだけをお礼に渡すなんて失礼な事が出来るわけないでしょ。

 もうちょっと、いいとこの羽根をお寄越し!」


 と言って、結構な数を毟ってくれた。

 ガルさんは悲鳴を上げて、もう半泣きだ。


「いいのかなあ」


「大丈夫。

 こんな物、私達の再生能力ならばすぐに生えてくるから。

 あたしの羽根も、もうちょいあげるよ」


 そう言って気前よく自分の羽根を抜いてくれた。


 ハーピーなんかの鳥魔物とは違って、羽根の他にちゃんと腕を持っている、ガルーダならではの芸当だなあ。


 ハーピーもいたら見てみたいわ。

 ハーピーみたいな普通の魔物はたぶん凶悪そうだから、見に行くのならガルさんと一緒にね。


「抜く時に痛くないの?」


「もうすぐ生え変わる奴は簡単に抜けるから平気」


 ああ、それはわかる。

 髪の毛なんかでも抜ける奴はすぐ抜けるし、抜けない奴は引っ張っても痛いだけだし。


 きっとカラスなんかが羽根を落とすような感じなんだろうなあ。


 でもガルさんの時は、結構痛そうな感じだったので、昨日の続きでお仕置きの一環なのかもしれない。


 所帯を持つのだから甘やかさない方針なのかもしれない。


 確かにガルさんの場合、そうしておかないと、結婚後にどこまでもダラけていきそうな気もするけどね。


「御飯の講習は?」


「引っ越し先でやりましょう。

 もう、行先はうちの人が見つけてあるから」


「もう随分前に見つけて簡易に支度はしておいたのだが、なかなか求婚の返事が貰えなくてなあ。

 ようやく、あそこが使えるわい」


「あっはっは」


 まるで、お嫁さんを貰おうとして良い家を建てたけど肝心の嫁の来手がないサラリーマンのおじさんみたいだな。


 それから皆でそっちの新しい住処へ行った。


 またかなり飛んだけど、そこは風光明媚な場所で、日本なら坪いくらくらいするのかと戦々恐々になるくらいの超優良物件だった。


 入り口は岩や草で偽装してあり、他の魔物などに取られないように隠してあった。


 まあその時はそいつがガルさんのご飯になってしまうのがオチですが。


 中へ入ってさっそく料理の支度を広げると、ガルさんに岩を加工して道具を作らせながら、私とナナさんで楽しくパーティをしていた。


 岩製のフライパンや鍋などで調理し、調味料あれこれの話をして、手に入る限りの香草や何かで味付けの工夫をした。


 今夜は自分達の塒というか巣は収納で持ってきていたので、ガルさんは雛用の巣を頑張って作っていた。


 今夜、私はナナさんの羽毛で寝させてもらう事にした。


 なんていうか、こっちの方が柔らかくて上質で大変いい匂いがするのだ。


 このあたりが人間の男女と同じで面白い。

 やはり、ガルーダ羽毛布団は雌の物に限る?


 翌朝、また少し御飯をあれこれ試してから、私はガルさんに送ってもらう事になった。


 いざ、彼らと別れるとなると非常に心細い。


 彼らは異種族であるのにも関わらず、私にとても親切にしてくれたが、この世界の人間は果たしてどうなのだろう。


 だが、やはり街へは行かないと。

 

 自分は人間なのだ。

 辺境の荒野では生きていけない。


 幸いにして、彼らから貰った素材などがあるから必要なお金なんかは得る事が出来るだろう。


 ただ、高価な物品を持っていると知られたら悪い奴に狙われるかもしれない。

 その辺は上手に立ち回らないといけない。


「じゃあ、サヤ。

 人間の街へ行ったら気をつけてね」


「ナナさんも元気で。

 可愛い赤ちゃん産んでください」


「ありがとう。

 じゃあ、あんた。サヤを頼んだわよ」


「わかっておる。

 もとより、サヤは我の客よ」


 そして、私はガルさんに抱えあげられて蒼穹へと旅立った。


 みるみるうちに(しんきょ)に残ったナナさんの姿が小さくなっていく。


 今度こそ、この辺境に別れを告げるのだ。

 ここを離れたら、私なんかには二度と戻ってこれないだろう。


 こここそが、日本への帰り道が存在する場所のはずなのだが、あの見晴らし台のような場所から後ろへ戻ったら日本へ帰れたのだろうか。


 だが、もしそうしていて帰れず、ガルさんとも会えなかったら自分は今頃死んでしまっていただろう。


「どうした、サヤ」


「ああ、うん。なんでもないの。

 急に心細くなってしまって。


 ねえ、ガルさん。

 あの森で出口を捜したら、私日本へ帰れたのかな」


「それはおそらくなかろう」

「え、なんで」


 あまりにもキッパリと力強く否定されたので私は驚いてしまった。


「稀人が帰ったという話は聞いた事がないそうだ。

 今まで何人もの人間がその話をしてくれたのだが、どうもそういうものらしい。


 そうホイホイと彼らが帰れるくらいなら、こうもあちこち人の国で稀人が伝説になどなってはおらん」


「そっか。そうかもね。

 あたし、元の道を辿っていたはずなのに、あそこへ出ちゃったんだ」


「不思議な青い鳥に連れてこられたのかもと言っておったな」


「ああ、うん」


「我にはよくわからぬが、人間の街には、そういう魔物の研究をしたり討伐をしたりする専門家がいるそうだ。


 そういうところで訊いてみるがいい。

 何か手掛かりになるかもしれん。


 今から行く街はそこの国で一番大きな街だ。

 きっと、そういうものも充実しておる事だろう」


「あ、うん。ありがとう。

 元気が出てきたよ」


「おお、見えてきた。

 あれが最寄りの人間の国の、一番大きな街だ」


「ありがとう。

 まだ見えないや」


「あはは、我とサヤでは見る力が段違いよ。

 街へ行ったならば、悪い人間には気を付けるがよい」


「うん、そうするよ」


 そして、ガルさんはぐいぐいと降下していき、ついには私の眼にも街の姿が見えるようになってきた。


「本当だ。大きな街だ」


 ガルさんは、辺境住みの魔獣にしては物知りだけれど、やはり人間の街や人間達の詳しい話はよく知らないようだった。


 でもここまでよくしてもらったのだから、後は自分で頑張るしかない。


 ファイトー、愛土小夜!


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