表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/104

1-1 不思議な青い鳥

 私、愛土小夜(あどさや)は子供の頃から動物が好きだった。


 動物を見かけると、つい話しかける癖があって、彼らの事を友達のように感じていた。


 彼らもまた私を大変好いてくれていたように思う。


 自宅の犬猫、野良猫に友人宅のハムスターやフェレットに兎、そして鳩やインコ。


 彼らと心が通じていたような気がして、何か会話が出来ていたように思っていた。


 元々、動物というものにはそういうところがあり、言葉ではなく気持ちが通じていたようなものだったのだろう。


 動物の方は、人間が話しかけた言葉を理解してくれるような部分があるのは一般的な考えでもあるし。


 小学生時分までは、親に強請って毎週のように動物園に連れていってもらっていた。

 大変幸福な子供時代でした。


 小中学校時代の友人達は、そんな私を見て、名前の土と小から音読みのドと英語読みのリトルから取って『ミス・ドリトル』なんて仇名を付けてくれた。


 別に本当に動物と話せるわけではないのだけれど、初めて会う動物に話しかけて難しい芸をさせたりするのが得意だったので。


 鳥寄せなんかも大変得意なのだった。

 鳩のような餌目当ての鳥ではない、小鳥や野鳥なんかも口笛一つで簡単に寄せられた。


 そんな私も、この四月から晴れて高校生になった。勉強は比較的よく出来ていたので、受験にはそれほど苦労はしなかったから、受験勉強中も相変わらずもふもふ三昧の毎日だった。


 将来は、動物園か水族館勤務、あるいは獣医さんになるのもいいかと思い、そっちの関係の本などもよく読んでいた。


 食用動物を育てる牧場・農場はちょっとなあと思っていた。


 でもそういった動物関係を仕事にするのは少々躊躇われる気持ちもあり、どうしようかなとも思っていた。


 そういう事を仕事にしてしまうと、もふもふライフを純粋に楽しめなくなるのではないかと密かに危惧していたのだ。


 けれど、ある事をきっかけにそんな心配をする必要も無くなってしまったのだった。


 その発端は、学校の帰り道に川縁(かわべり)で見かけた小さな青い鳥だった。


 初めは、色合いからカワセミかなと思ったのだけれど、飛び方があの川で魚を獲るために一直線に高速で飛ぶカワセミとは明らかに違う。


 なんというか、普通の小鳥のような感じだった。


 インコか何かなのかなと思ったが、あんな真っ青な種類がいたろうかと、思わず目が吸い寄せられた。


 そうやってよく見ると、どうもインコのような鳥とは異なるようだった。


 遠目ではよくわからないが、少しインコよりも大きい鳥みたいだし。


 そして、ふらふらと、その子の後をついていってしまったのだった。


 そこにはちょっとした森があり、その中へ飛んでいってしまった。


 私はどうしても気になって、その子を捜しながら散策していた。


「どこへ行っちゃったのかなあ。

 凄く可愛い子だったのに」


 だが、ふいに可愛くピーっと鳴く音が聞こえた。


 その子は、まるで私を待っていてくれたかのように、私の頭よりも少し高いくらいの枝に止まって、こちらを見つめていた。


「青い」


 とにかく青い、なんとも真っ青な色が鮮やかな、まさに青い鳥だった。


 カワセミの、あの独特な一目でカワセミと知れる鮮やかな色合いや形ではない、割合と普通の鳥のような感じの美しい鳥だった。


 私も思わず見つめ返していたのだけれど、その子はふいに飛び立ってしまった。


「あ、待って」


 そして私はその子の後を、森の奥へ奥へと追いかけていってしまった。


「あれ、あの子どこへ行っちゃったのかな。

 それに、この森ってこんなに広かったっけ」


 そして、気がついてみると何やらうっすらと霧が出てきて、いつしか濃霧に巻かれてしまった。


「ありゃあ、こんなところで霧かあ。

 やたらと動いちゃ危ないかな。

 これじゃ、もうあの子を捜せないな。

 また今度探しに来ようか」


 しばらくすると、霧は晴れてきたので、仕方がなく元の方向へ戻り始めて気がついた。


「あれ? ここって、こんな感じだっけな。

 なんか様子が違うような。気のせいかな」


 でもそれは気のせいではなかった。元の川縁の道には出ずに妙な道へ出てしまったので。


 そこはなんというか、人が作ったというよりも、森の隙間に出来た獣道に近いような感じがした。


「ありゃあ、これは道に迷ったかな。

 迷うほど深い森じゃないはずなんだけど。

 こんな道があったかなあ」


 何しろ、普通に小学生が子供だけで御近所ハイキングに来るような安全な場所なので、そうたいした事はない場所なのだ。


 そして、木々が途切れた途端に、信じられないような風景が私の眼を焼いた。


 それは広大な森の間を雄大な大河が流れ、延々と広がる大自然の光景というか、まるでどこか最果ての辺境のような土地というか。


 地球上で言うならばロシアあたりにありそうな、あるいはカナダやアメリカあたりの情景なら同じような場所が存在するかもしれない。


 そこまで心を揺さぶるような、まるで映画の中の一幕か、切り取られた一枚のフォトのよう。


「あ、あれえ。

 うちの近所に、いつの間にこのような胡乱な場所が……」


 しばし、思考停止してその光景に見惚れていたのだが、それから改めて悩んだ。


 スマホを出してみたが圏外であり、地図アプリも使えなかった。

 GPSも使えないようだ。


 まあ、この光景を見れば納得できる。

 携帯電話の電波中継塔もなさそうだし、おそらくGPS用の人工衛星すらない可能性がある。


 ここは、そこまで異様な場所であった。


「ど、どうしよう。もしかして、家に帰れない⁉」


 私は、その本来なら大金を払ってでも見る価値のありそうな素晴らしい絶景を見下ろしながら、途方に暮れていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ