五話二代目[北見白狼会]~⑤~
二代目[北見白狼会]結成編
本日更新いたしました、第五話にて終幕とさせて頂き、次回からは、道北抗争編がスタートいたしますm(__)m
「お前等ぁ正気か?何百人もの構成員を抱える俺達に正面から喧嘩を売る気か?」
さらに強く殺気だった状態で彼に近づく九人の戦鬼達に、川島良悟は動揺を隠せない様相で言った。
「川島さん…あたし等がここまで言ってもまだ気づかないのかい?お宅の先代と内の先代の間にゃあ共に一人の侠客として認め合う形に休戦協定が結ばれてたんだ……あんたぁそれを意図も簡単にぶち壊してくれたって訳だぁ!どのみちあんたにゃあ命の保証なんてありゃあしないよ!ここであたし等に伐たれるか…東京逃げ帰って生き恥さらしたまま粛清されるかの選択肢しか残ってないってこったぁ……」
彼女がそう言って、引導ともとれる刃を彼の頭上に振り下ろそうとした刹那だった。
白色のツーリングワゴン系の国産車と黒色のベンツが、双方の間に横付けする型で停まり、二人の間に割って飛び込むのだった。
そして向かい合う形に対峙したのは、共に双方の先代会長だった。
「おぅ!日向のぉ!こいつぁ何の冗談だぁ!?俺とおめぇさんの間にゃあ休戦協定が結ばれてたんじゃなかったのか?」
対峙する双方の先代会長、先にそう啖呵を切ったのは、[北見白狼会]初代神楽竜二会長だった。
「すまねぇ神楽のぉ…こいつぁ全部…全て俺の責任だぁ……おめぇさんとの休戦協定も何ら変わりはねぇ……この川島のバカぁそちらさんの好きなようにしてもらって構わねぇ……立派な侠客にお成りのおめぇさんの娘さんが羨ましいぜぇ!」
啖呵を切った礼子の父親、神楽竜二に対して関東[龍神会]二代目にして現最高顧問の日向礼二は、声を荒げること無くそう言って、神楽竜二に深々と頭を下げた。
「ちっと待ってくださいやぁ!あんたぁ三代目の俺を助けに来てくれたんじゃねぇんですかい?」
この後に及んでも尚、自分の罪状を棚上げして、三代目会長の川島良悟がみっともなく喚いた時だった。
「川島ぁ!恥を知れぇ!この愚か者がぁ!」
今まで物腰柔らかく言っていた彼が、烈火の如く怒ったかと思った瞬間だった。
彼、川島良悟は左右の両足を日向礼二の持つ白鞘の日本刀で一刀両断に斬り落とされていたのだった。
「さぁ!二代目ぇ!遠慮なんか何一ついらねぇ!俺とこの川島のバカぁあんたの刃でばっさりやっておくんなせぇ!」
彼、日向礼二はそういうと刃を収めた日本刀を自分の右脇に置き、戦意の無いことを示して、礼子の前に傅いた。
「……日向さん…あんた等二人の魂胆丸見えだぁ……あたしに自分達二人を斬らせて休戦協定の破棄をあたし等のせいにしようって言うねぇ……」
彼女はそういうと、着ながしをもろ肌脱いで、弾痕だらけの素肌をさらし、日本刀を抜刀した状態で、彼等二人に歩み寄ったその時だった。
「礼子ぉ!刃を退けぃ!その外道の始末この父が請け負った!
……お前は…この蝦夷の地を守る事だけを考えろ……それから…そんな外道の魂胆も見抜なかった…愚かな父を許してくれ……」
臨戦態勢に入る彼女をそう言って諌めたのは、彼女の父親でもある、[北見白狼会]初代、神楽竜二だった。
「先代は…黙っててもらえませんか?……先代の結んだ協定不義にされたなぁあたしの落ち度だぁ……挙げ句の果てにぃその尻ぬぐいを先代会長でもあり…実の父親でもあるあんたにされたらぁ……あたしの面子ぁ丸つぶれだぁ……誰がなんと言おうがこの外道二人ぁあたしがこの手でぶった斬ってやる!」
そういう彼女の意思は固く、ガンとして、実父でもある竜二の介入を拒むのだった。
「おぅ!小娘ぇ!さっきから何様のつもりだぁ?人がおとなしく頭ぁ下げててやりゃあその頭ごしに人を悪人扱いの親子喧嘩はじめやがってよぅ!」
自分達の魂胆が見破られたからなのか、日向礼二、川島良悟の両名が苦しまぎれにわめき出した事が、神楽親子の逆鱗に触れたのだろう。
「……日向のぉ…悪いがこの蝦夷の地にゃあおめぇらを住まわしてやる土地は一つとして空いちゃあいねぇんだぁ……外道は外道者らしくおとなしく成仏しろやぁ!」
彼、神楽竜二がそう言って、日向礼二の頭上に刃を振り下ろそうとした刹那だった。
「バカがぁ…俺がおとなしく斬られるとでも思ったかぁ?怪我人はおとなしく病院のベッドで寝てりゃあよかったんだよぉ!」
そう下卑た言葉を発した日向礼二が、彼、神楽竜二に彼と同じく小太刀の一撃を見舞ったのだが、覚醒して尚かつ、日本最古の狼と言われる蝦夷狼の血を体に宿す彼には、さして何のダメージも与えられず、鮮血の海にその身を投げ出すことになったのは、日向礼二と川島良悟の両名だった。
「先代…二代目……ご苦労さまです……奴等の言ってた事が本当なら…長期戦になりますね…この喧嘩……」
日向礼二、川島良悟の両名を血祭りに上げたばかりの礼子と竜二に、二人の腹心の幹部でもある、八坂平蔵が静かに言った。
「ああ…そうなるな……平蔵…また…迷惑かけるかけるかもしれねぇがよ…よろしく頼むぜ……」
彼、神楽竜二もまた、静かにそう返すと、彼に深く頭を下げるのだった。
「頭ぁ上げてくださいやぁ先代……拾って頂いた恩義こそあれ…この八坂平蔵…迷惑などとは微塵も思っておりません……
先代…それから二代目ぇ!跡のこたぁあっしとお竜さんに任せてくださいやぁ……先代と二代目は思う存分暴れてやっておくんせぇ……相手が何人連れてこようが…所詮は都会育ちのヒヨッコ野郎どもだ……蝦夷っ子の意気地解らしてやりましょうやぁ!」
自分の前に頭を下げ続ける神楽親子に対して、腹心の幹部、八坂平蔵は、決起の狼煙ともとれる言葉をかけるのだった。
一方その頃東京では、二枚看板の暴挙に業を煮やした関東龍神会の母体でもある、西新宿龍神一家の肝いりで、西新宿の地下にある一件のショットバーで、緊急の幹部会が開かれていた。
「総長!道北に伐って出ましょうや!こっちとら当代と最高顧問二枚看板を獲られてるんですぜぇ!このままじゃ示しが付かねぇや!」
幹部会が始まって、開口一番にそう言った龍神会の幹部組員がいたのだが、次の瞬間、総長皆上康太の後ろにあるバーカウンターから飛んで来たスローイングナイフによって、秒殺の勢いで命を絶たれていたのだった。
「黙れ!クズ供がぁ…てめぇ等の二枚看板が何しでかしてくれたかも理解しねぇでよぉ……」
にわかに静まり返った店内に、康太の低く威圧感のある声が響いた。
「……総長は悔しくないんですかい?同志が二人も獲られたとゆうのに?」
皆が黙る中、そう言って重い口を開いたのは、禁忌を破り道北侵攻の暴挙から、逆に白狼会の神楽親子の逆鱗に触れ死んだ、関東龍神会三代目川島良悟会長の長男、川島洋平だった。
「悔しいか悔しくないかってか?洋平…よぉく聞けよ……おめぇの親父はなぁ龍神会だけじゃねぇ…その母体組織でもある俺等龍神一家のツラにも泥ぉ塗りやがった大罪人だぁ…悔しく思う事なんか微塵もありゃしねぇ……それにだ…おめぇ等は決して怒らせちゃならねぇ人間を二人もいっぺんに怒らせちまったって事だぁ……ここまで言っても解らねぇバカ供ぁ勝手にしろ!俺は一切協力はしねぇ……以上!緊急幹部会はこれまでだぁ!散会!」
洋平が質問を投げかけた事で、更に静まり返る店内に、低く威圧感のある康太の声だけがはっきりと響くのだった。
「総長!ここまで来て俺等を見捨てるんですかい?そりぁあんまりにもひでぇ仕打ちだぁ……」
散会を告げ、店を出ようとする康太に、一人の古参の幹部が食い下がるのだった。
「……あぁ?…てめぇまで文句言うかよ?裕司ぃ……まさかてめぇ…先代の決め事破るつもりかよ?実の弟のおめぇがよぉ……やめとけ裕司ぃ…おめぇにあの親子とまともにやり合う根性があるたぁ到底思えねぇ…それにだぁ俺が今…この場で四の五の言ったてよぉ……もうおせぇよ……賽はとっくに振られちまったんだからなぁ……」
彼はそう言うと、振り向きざまに裕司の胸ぐらを掴み、無感情に彼を見据えた。
「誤解しねぇでくださいやぁ…二代目ぇ……兄貴は兄貴…俺ぁ俺だぁ……それにだぁ…一度破られちまった物がぁ元に戻る事はねぇのがこの世界の流儀ってもんだぁ……向こうが全力で来るならぁ!こちらも全力で応えてやる!それが俺等の仁義ってやつじゃねぇんですかい?」
彼、里中裕司は康太の目を真正面から見据えると、決意に満ちた様相で自分の胸ぐらを掴む彼の手を振り払うのだった。