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三話 二代目[北見白狼会]~③~

  こうして、発足した第二代[北見白狼会]険しく見えた門出だったが、そこには礼子を慕い、この蝦夷の地を愛して止まぬ[北見漁協]の漁師達や、礼子や平蔵達を兄、姉のように慕う地元の不良少年集団[北見少年愚連隊]のメンバーが、彼女の二代目襲名とその門出を祝して、盛大に組事務所に集まってくれたのだった。


「お嬢…北見白狼会二代目襲名おめでとうございます……それからぁ海猫のカシラぁよく…戻って来てくださいました……先代に変わって礼を言います……」


「平蔵さん…そんな話しは後だ……あたしはもう…カシラでも無いただの女極道…海猫のお竜 ……いいかい平蔵さん…二代目になった礼子をカシラとして支えるんだ……黒狼会にはあたしを排除しようとした貸しがあるんだ…その貸しに伸し付けて返してもらって命があったらまた…あたしを拾ってもらえますか?二代目ぇ!」


 礼子の二代目襲名、合わせてお竜の白狼会復帰に、そこに集まった全員が活気づくのだった。

 

「……姐さん…一人で突っ込みかけようってならぁそんな身勝手…二代目のあたいが許すとでも……黒狼会の奴らは…あたいら全員で全力をもって叩き潰す!…だよね…平蔵さん……」


 お竜と平蔵のやり取りを黙って聞いていた礼子が、彼の顔を正面から見据えて言った。


  「……全ては二代目のご随意に…わし等ぁあそれに従うだけです」


 平蔵もまた、礼子の目を正面から見据えてそう応えると、改めて傅くのだった。


「礼子…いいや…北見白狼会二代目!……あんたはもう…立派な一人の極道だ……あたしも八坂平蔵二代目若頭の補佐役として参賀させて頂きます!」


 お竜もまた、そう言うと改めて礼子の前に傅くのだった。


「そんじゃあ皆の衆!一丁ぶちかましてやりますかぁ!」


 そこに集まった総勢、わずか九名だけではあったものの、礼子、お竜を始め、二代目若頭に就任した八坂平蔵以下六名はいずれも、生き地獄に匹敵するほどの修羅場を拝んできた。腕利きの猛者ばかりだったのである。


「カシラぁ…ドーグは人数分用意できてるかい?多勢に無勢のこの喧嘩ぁ奴等のガードが手薄になる夜半に狙いを定めて伐って出る!それまで各自身辺整理とドーグの手入れだ……こういう場合ドーグが手入れされてるかどうかが勝負の分かれ目だ……」


 自分の前に集った、八坂平蔵を始めとする、九人の先発部隊に、第二代北見白狼会会長に就任した礼子がそう言って全員に激を飛ばすのだった。


「もちろんでさぁ二代目!ドーグの手入れは怠るなと…先代からもキツく言われてましたからぁ……」


 彼、八坂平蔵はそう言うと、九人分の白鞘の日本刀を全員に配り、礼子とお竜には、黒鞘の段平を捧げ渡すのだった。


「いいかいみんなぁ!この喧嘩ぁあ!この蝦夷の地を余所者から守る事だ!あたいと一緒に散ってくれるかい!みんなぁ!」


 平蔵が、全員に武器を配り終えた後、黒鞘の日本刀を彼から受け取り、礼子が、喧嘩の狼煙を上げるのだった。


 そして時刻は、午前零時。國狼会本部事務所前に来た九人の猛者達は、礼子、お竜を先頭に、横一線の布陣で殴り込みを敢行するのだった。


 午前零時の殴り込み、礼子のヨミは成功したかに見えたのだが、汚いやり口で、低評のある、北見黒狼会会長の朝倉源治の策略に嵌まり、やむなく、元白狼会組員達との、斬り合いを余儀なくされてしまうのだった。


 しかし、礼子達九人の意思は硬く、いくら元を同じくした組員でも、裏切り者に変わりない彼らに賭ける情けなど、微塵も見せず、僅か数十分程度で、襲い来る元組員達を、次々に白刃の餌食にして行くのだった。


「朝倉源治ぃ!あんたも一つの組を構える漢なら…んな姑息な真似するんじゃなくて正々堂々てめぇから正面切って出て来たらどうなんたい!」


 礼子達が、元組員達をほぼ殲滅した頃、やっと事務所奥から姿を現した、黒狼会会長の朝倉源治に対して、そう啖呵を切り、彼の眼前に血の付いた白刃を突きつけたのは、かつては、黒狼会のヒットマンだった。海猫のお竜だった。



「お竜てめぇ!拾ってやった恩も忘れて俺に刃向けるかぁ」


 黒狼会会長、朝倉源治は、自分の眼前に突きつけられた、お竜の白刃に臆すること無く凄むのだった。


「別に…忘れちゃいませんよ…オヤッさん……あたしはただ…あの頃の優しいオヤッさんに戻って欲しいだけです……」


 彼女は、静かにそう言うと、白刃の刃を鞘に収め、怒り心頭に自分に襲い来る彼の前、ただ、無言で傅くのだった。


「朝倉の叔父貴ぃ海猫の姐さんの心意気…わかってやってくださいまし……私共北見白狼会の先代…つまり…私の父親…神楽竜二も今はお宅さん方にゃあ何の遺恨も持ってはおりません……今はただ…この愛して止まぬ蝦夷の地をよそ者から…守りたいだけの事……」


 お竜のその姿にならって、礼子達もまた、刃を鞘におさめると、九人全員が、朝倉源治の前に頭を下げるのだった。


「……あんたが…竜二の兄弟の娘さんかい?まずぁ頭をお上げなせぇ……どうやらこの喧嘩ぁあっしら北見黒狼会の完敗みてぇだぁ……さぁ!遠慮はいらねぇ!あんたの父親の敵!娘のあんたの刃できっちりとケジメつけてくんなぁ!」


 彼はそう言うと、自分も刃を納めた日本刀を自分の左脇に置き、戦意の無い姿勢を示すと、着ていた着流しをもろ肌脱ぎ、体全身に彫られた刺青を晒してその場に座り込むのだった。


「……わかった……」


 彼、朝倉源治のその言葉に、同極道として、彼は彼なりに、この蝦夷の地を愛して止まぬ一人だと、彼女の心に響くものがあったのだろう。彼女は短くそう応えると、黒鞘の日本刀を抜き、その刃を彼の右頬へと一閃させるのだった。


「……北見黒狼会は…たった今からあたくし共二代目北見白狼会の傘下組織になって頂きます……朝倉の叔父貴にはあたし等駆け出しの最高顧問として…その手案を存分にふるって頂きたく…よろしくお願い申し上げます……」


 彼女はそう言うと、刃を収めた日本刀を、自分の右横に置き、戦意の無い事を示し、再び、彼に傅くのだった。


「……あんた…本気で関東龍神会に喧嘩仕掛けるつもりでいなさるね……よぉがす!おいらもあんた達に賭けてみたくなった!それにだぁ関東の青二才に寝首掻かれたとありゃあ蝦夷っ子の名折れってもんさなぁ!ウチの事務所を拠点に使ってやってくださいや…二代目ぇ……」


 彼がそう言って、着替え直したスーツの襟元に付けていた関東龍神会のバッジをむしり取るように投げ捨て、自分の前に傅く礼子達を立たせた時だった。


「おいおい…朝倉さんウチの代紋…そんな手酷く扱われちゃあ困るなぁ……そんなんされたら…ウチの会長がご立腹だぁ……」


 そう言って、現れたスーツ姿の青年の手には、硝煙の立ちのぼる消音器を付けた拳銃が握られており、その銃口の向く先には、礼子達を庇い、その青年の放ったであろう銃弾を己の身体に全て受け止め、口から血を吹き零す彼、朝倉源治の姿があった。


「叔父貴ぃ!!」


 そう叫んで、真っ先彼に駆け寄ったのは、礼子とお竜の二人だった。


「……てめぇかい?この蝦夷の地を食い荒らそうって外道ぁよぉ!……姐さん!叔父貴を早く病院に!」


 礼子は、突如乱入して来て、朝倉源治を撃ったその青年を激しく睨んだまま、お竜に彼を病院に連れて行くように目で合図をするのだった。


「……二代目ぇ……すまねぇ……」


 彼、朝倉源治は力無くそう言うと、意識を手放し、お竜と平蔵に抱き抱えられながら救急車へと乗せられようとした時だった。


「ちっと待てやぁ…さっきから黙って見てりゃあよぉ朝倉のガラぁこっちにもらおうかい?そいつぁウチの兵隊でありウチから出た裏切り者だぁ……そいつの始末ぁこっちで着けさせてもらおうかい?」


 礼子達の、彼を無視したやり取りに、その乱入者の男、日向洋一がそう言って凄むのだった。


「あぁ!ガタガタうるさいんだよぅ!この腐れ外道がぁ!今…ブチ殺してやっからぁ四の五のぬかさねぇでかかってきなぁ!」


 その時の彼の暴言が、礼子の逆鱗に触れたのだろう。彼女は源治を、平蔵とお竜に託すと、再び抜き放った白刃を下段に構え、その修羅の形相そのままに、彼に斬りかかって行くのだった。


「女ぁ!おめぇはばかか?まあ…あんたも一様はご同業みてぇだからよぉ……苦しまねぇように一発で頭ぁブチ抜いてやるよ!」


 攻撃態勢に入った礼子を、嘲うように彼が彼女を挑発した時だった。彼は、自分の横から飛んで来た銃弾に、自分の拳銃を弾き飛ばされていた。


「日向ぁ!よさねぇかぁ!ったくみっともねぇ真似しやがってよぉ……俺ぁただの一度も蝦夷の地を攻めろたぁ言ってねぇぞ……ったく…いつもいつも先走って好き勝手しやがってよぉ……それにだ…今のおめぇじゃあ例えチャカぁ持ってたとしてもそちらのお嬢ちゃんにゃあ万に一つも勝てやしねぇよ……お嬢ちゃん…騒がせて済まなかったなぁ…俺ぁ関東龍神会の三代目はらせてもらってる川島良悟ってもんだぁ……この蝦夷の地を騒がせちまった詫びと言っちゃあ何だがよぉこのクズ…そちらさんの良いように始末してくれねぇか?」


 そう言って、一触即発状態にあった両者の間、一人の初老の男が割って入るのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言]  執筆、更新ご苦労様です。  相変わらず気っぷのいいやりとりが、胸をすく作品ですね。  任侠映画を見てるみたいです。  連載、頑張って下さい❗
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