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道北義侠伝~北見の女狼~  作者: 枝垂れ桜のお蘭(THE,御老体ズ代表取締役会長)
最終章 二代目[北見白狼会]~内部分裂抗争~
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最終話 道北任侠道の終焉~④~

道北義侠伝北見の女狼、これにて終幕にございますm(__)m

「頭を上げてください…信楽さん……あたしはもう産みの親と実弟を手にかけた重罪人この先どう処罰されようが一行に構いません……最後に一つお願いがあるとするなら…死刑台送りになる前に今一度あの人に会わせて頂けませんか?あたし達は真実が知りたいんです」


 あたしはそういうと、署長室のフロアに正座する深雪さんを立たせて再びソファへと促すのだった。


「さすがは竜子さんの娘さんね……今際の際のあたしの父を必死に助けようとしてくれた……そんな大恩ある人の娘さん…死刑台送りになんてできないじゃない……今の時代…仇討ちなんて時代おくれかもしれないし…どんな理由があるにせよ人を殺めていいなんて決まりはどこにもない……武器を持ち込んでの接見は許可できないけどそれ以外なら…何の問題もないわ……」


 彼女は再びソファに座りなおしながらも、伏し目がちにあたし達四人とあの男との接見を許可してくれるのだった。


「神楽竜二…何のために…何が目的でこんな巫山戯た真似をしたの?貴方のこの巫山戯た戯れ言で命を落とした全ての人達にしっかりと詫びを入れてもらえませんか?」


 あたしは至極冷静にそう言うと、唯一持ち込みの許可された、自決用の匕首をアクリル板の下から彼に渡すのだった。


「礼子…おまえ父親の俺に死ねと言うか?さらには北見の未来を見通した俺の行いを巫山戯た戯れ言とまで愚弄するか?まあ…それもよかろう……どのみちおまえ等は重罪人だぁ……死刑か無期…どちらにしろ永久に娑婆の空気はあじわえねぇんだぁおまえ等の行く末塀の中から拝ませてもらうとするぜぇ」


 彼はそう言うと、詫びるつもりなど微塵も無いといった態度であたしの渡した匕首をそのまま突っ返してくるのだった。


「腐れ外道に成り下がったあんたに名前を呼ばれるのも汚らわしいわぁ!せめて最後くらいは極道者らしくしてくれると信じてたんだけどね……がっかりだよぉ……これ以上の接見は時間の無駄だよね……もし…冥府で会う事があったときゃあ遠慮なんてしないよ一刀両断にぶった斬ってやるからぁはらぁくくっときなぁ!」


 最後まで自分の非を認めようとしない彼に、接見の限界を感じたあたし達は、あたしがそう話しを割り切った所で面会室を出るのだった。


「康太…里緖…リーファン……あたしのわがままに付き合ってくれてありがとうね……あんた達三人はあの男に踊らされただけ…減刑を嘆願すれば七年程で出られるはず……あたしは…あの外道と最後を共にするよ……」


 あたしがそう言って、康太達三人に別離を告げた時だった。


「礼子ちゃん早まっちゃだめある……お母さんも弟さんもちゃんと無事あるよ……あたしの父が助けてくれたある…貴女のお母さんとても素晴らしい医師…あたしの父すごく褒めてたあるよ……それにあたし達はここ着いた時…康太が言ったように地の果てまでだって一緒ある……」


 そう言ってあたしの強行を止めてくれたのは、この四人の中、最年長の日本系中国人のリーリーファンだった。


「……リーファン…ありがとう…母さんと弟を助けてくれて……これでやっと何の心残りも無く冥府に逝けるよ……」


 あたしはそういって、彼から突っ返された匕首を自分の喉元に押し当てた時だった。一発の銃弾がそれを弾き飛ばしていた。


「礼子ちゃん…死んじゃダメよ!あの男の事はあたし達警察に任せて!決して悪いようにはしないから!貴女は生きて…お母さんと弟さんに会うの!そして目いっぱい抱きしめてもらいなさい……あたしの独断であなた達四人は無罪放免!お咎め一切無しよ!」


 発砲の主は何と、この道警の署長兼本部長の信楽深雪さんだった。


「深雪さん…こんな事して大丈夫なんかよ?」


 彼女のまさかの行動と発言に、康太がびっくりしたように問い返すのだった。


「このさいあたしの事はどうでもいいのよ……けどこれだけは約束よ…ここを出たらあなた達は渡世から足を洗ってカタギになる……これが今回の特例の条件よ」


 深雪さんはあたし達ひとりひとりの目をしっかりと見てはっきりとした声音で、あたし達を送り出してくれるのだった。


 それから数ヶ月後、あたし達四人は彼女との約束を守り、渡世からはキッパリと足を洗い、今は四人とも北見漁協の職員として、日々を忙しく過ごしていた。


 お竜さんとの一戦で無くした左腕も、リーファンに技手を作ってもらい今は何の問題も無く、生活できていたのだが、お竜さんと良次には未だに面と向き会う覚悟が決まらないでいた。


 そんなある日の昼下がり、漁協の休憩室に設置されたラジオから、思わず耳を疑うようなニュースが飛び込むのだった。


 それは、彼、神楽竜二の獄中死について道警本部長でもあり、署長でもある信楽深雪警視が記者会見を開いているようだったのだが、彼女の口から記者団に対して語られた言葉は、あの時あたし等四人に言った事とは全く逆で、神楽竜二の獄中死の容疑対象者としてあたし等四人の名前が読み挙げられていたのだった。


「……お嬢…俺等ぁ完全に売られちまったみてぇだ……あの信楽深雪ってぇ女刑事と…あんたが産みの親だと信じてた海原竜子とその実子…海原良次親子にね……そして…神楽竜二は紛れもねぇあんたの実の父親だったってこったぁ……けど…心配しなさんなぁあんたの親父さんぁ俺等三人で何が何でも助けだす!お嬢の方ぁ海原親子と最後の決着を付けてくださいやぁ……」


 彼、皆上康太は一言一言をかみしめるように事の顛末を語るとおもむろにタバコに火をつけて、自分が一口吸い、里緖、あたし、リーファンの順に回し最後リーファンが吸い切ったところで、あたし等はそれぞれの戦地へと向かうのだった。


「ちっと待ってよ康太ぁこれって話しができすぎてるよ……父の獄中死は口実であたし等四人をおびき寄せるための罠…だとしたら当然海原親子のとこにも捜査員が配置されててあたし等を分散させといてそれぞれにパクろうとしてるって判断したが妥当じゃない?」


 漁協に退職願いを出し、それぞれに行動に出ようとしたときあたしは、秘めていた疑念を口にだしてみた。


「さすがは礼子さん…冴えてるぅ……けどこの一件…あの女一人でなせる技じゃないのも事実なのよね……誰かもう一人…警察機関の権力者が関わってる気がする……それも道警本部の人間じゃない…東京の警視庁の権力者が……けど…そのまえにこの四人の中にいる仲間の仮面をかぶった裏切り者をあぶり出さなきゃね……」


 彼女一ノ瀬里緖は、そういうと、出発前から急に口数の少なくなったリーファンの喉元にスイッチナイフの刃先を押し当てるのだった。


「……何のまねあるか?……」


 彼女の突然の行動に、若干の戸惑いを見せながらもリーファンは静かに反論すると、鉈とナイフを掛け合わせたような柄物を逆に里緖の喉元に突きつけ返すのだった。


「……よしなよ…二人とも……あたしが何にも知らないであんた達を信用してると思ったの?康太ぁあたし等が見放されたたぁよく考えたねぇ……それから里緖ぉ警視庁の権力者なんてのも妙案だよねぇ……それからリーファン

 お竜さん親子を助けたなんて嘘よく思いついたねぇ……それからぁあんたの付けてくれた左腕ぇあたしにゃあ煩わしいだけの張りぼてだったよ……」


 あたしはそういうと、リーファンの付けてくれた張りぼて同然の左腕の技手を外すと同時に右手に持っていた日本刀を抜いて、いがみ合う里緖とリーファン。それからその脇に無言で佇む康太にその刃を向けるのだった。


「ちっ……そこまで気づかれてたんなら仕方ねぇやぁ!あんたのお察しどおり…俺等三人は信楽深雪警視のイヌだよ……あんた等ヤクザなんてぇ社会のクズに大きな顔されたらぁたまったもんじゃねぇやぁ……けどよぉ…リーファンが海原親子を助けたってなぁ嘘じゃねぇよ……それから…俺の言った神楽竜二があんたの実の父親だってのもなぁ……刃退くなぁあんたの方だぜ…神楽礼子さんよぉ……あんたの親父さんと海原親子の命運握ってんのは俺等の方なんだからよぉ……」


 この時のあたしには、彼の情けないくらいに国家権力に頼りきった強がりが滑稽に見えて仕方なく、笑いを抑えることが出来なかった。


「あんた等ばっかじゃないの?あたし等親子と海原親子…命運握ってんなぁ自分達だって?笑わすんじゃないよ!こっちとらあんた等飼いイヌに獲られるほど生ぬるい世界を生きちゃいないんでねぇ……わるいけど…逆にあんた等三人…全員獲らせてもらうよ!」


 あたしはそういうと、里緖とリーファンを手始めに康太と騒ぎを聞きつけて集まってきた道警の捜査員達をかたっぱしから日本刀の餌食にすると、その返り血まみれの服の上にロングコートを羽織り、次にあたしが向かったのは海原親子の暮らすマンションだった。


「お竜さんだったんだね…あたしや父のネタ…警察に流したの?何でそんな巫山戯た真似を?あたし等親子がそんなにも許せなかった?」


 あたしは無機質な声音でそう言うと、羽織っていたロングコートを脱ぎ、未だ血痕の残る日本刀の刃を抱きあったまま、マンションの一室にうずくまる海原親子に突きつけた。


「……あの時…全ての針が狂ったのよ……あなた達親子が関東龍神会の侵攻を許したあの時にね……このさいだからはっきり言わせてもらうけどあの人も娘のあんたもバカじゃないの?今時流行りもしない義理人情振りかざしてさぁ!そんなんでよくもまぁこの広い道北護るなんて大口叩けたもんだぁねぇ!あたし等親子を獲りに来たんなら…さっさと殺しなよ……ここも時期道警の捜査員達に包囲される……そうなりゃあんたの逃げ場も無くなるよ……」


 その時の彼女の言葉は、つい今しがた日本刀の餌食にした康太達と同じで、今現状のあたしには笑止滑稽にしか聞こえず、あたしは気でも狂ったかのような冷笑を浮かべたまま、何の躊躇いも無く、マンションの一室に寄り添いうずくまる海原親子に未だ血痕の残る日本刀の刃を振り下ろすのだった。


「……父さん…あたし等蝦夷狼は司法なんかに裁かれないよね……もしも地獄で会えたなら…閻魔様も一緒に酒盛りしようよ……」


 あたしは天を仰ぎながら独り言のようにそうつぶやくと、さらに二人分の返り血を浴びてドス黒く変色した衣服のまま、近隣住民の通報で集まった道警の捜査員達の前に姿を現すと、その渦に臆すること無くその身を投じるのだった。


 この日、北見の閑静な住宅街で起きた捕り物騒ぎは大々的に報じられる事は無く、道警本部の失態と署長兼本部長でもあった彼女の失脚が小さく報じられただけだった。


 この時あたしは思った、国家権力という物の浅ましさを。自分達の沽券を守るためなら、その巻き添えになった人間の命など、彼等にとってはゴミ屑同然なのだと。


 そしてその日の夜半、あたしは全ての元凶に終止符を打つべく、未だ違法に拘留されて尚かつ、違法な取り調べを受けているであろうあたしの実の父親、神楽竜二を救出すべく、道警本部に正面玄関から堂々と乗り込むのだった。五人分の血液が染み込み、ドス黒く変色した衣服のまま、抜き身の日本刀を携えて。


「……この喧嘩…あんたの負けだな……いくら国家権力を振りかざそうがアイヌ民族唯一の生き残りで体に蝦夷狼の血を宿す俺等親子にゃあ勝ち目はねぇってことだぁ……信楽深雪……あんたぁこの広い道北を私利私欲で統治するために利用できる人間は一人残らず利用した……血を分けた実の弟ですらなぁ……最後の仕上げとして俺等親子を手の内に治めりゃあ万事休すのはずだった……けど…残念だったな……人とイヌは国家権力に屈するだろうがよ…何人たりとも狼を飼うこたぁできねぇ……まして…日本最古の固有種とまで言われた蝦夷狼を飼うこたぁ不可能だぁ……ついでに言うなら俺等親子を司法で裁くのもなぁ……己の身は己で決する!」


 父、神楽竜二はそういうと、彼女の手から拳銃を奪い、自らの手で自分の側頭部を撃ち抜くのだった。


「……愚かな男よね…神楽竜二……そんなんだから絶滅したのよ日本狼は……」


 少しは父の心の声が届いたかに思えた彼女だったが、血の海に横たわる彼に毒づき、まるで能面のような無感情のまま、惨劇の場と化した自らが日々公務を行っている署長室を出ると、先ほど自分の眼前で自決して果てた父の遺体をまるでゴミでも扱うように、道警捜査員達と激闘を繰り広げるあたしの眼前に放り出すのだった。


「……以前に聴いたことがあったっけ…警視庁に四課の夜叉姫なんて呼ばれてた冷酷非情の女刑事がいるって……けど…いくら司法の人間だってやっちゃいけないことってあるよね……」


 彼女の常識を異した行動に一気に静まりかえる捜査員達、あたしもまたそう言うと、冷笑を浮かべ眼前に立つ彼女と対峙した。


「……フン…社会のゴミ屑同然の貴女が法の番人でもあるあたしにお説教?それも可笑しな話しよね……康太達や海原親子みたく温和しくあたし等司法の人間の言うこと聴いてればいいのに…たまにいるのよねぇ貴女達みたいな跳ねっ返りが……」


 彼女はそう言うと、無造作に三十八口径の銃弾を発砲して、ここまでの連戦で少しばかり動きの鈍くなっていた両足の太股辺りを撃ち抜くのだった。


「……あ…あんたって最低の刑事だねぇ……けど…おあいにく様……三十八口径の鉛玉なんてこっちとら嫌っていうほどブチ込まれてんだぁ!あたしを本気で殺す気ならぁご自慢の大型拳銃でも使ったら!!」


 あたしはそう返すと同時に彼女の懐深く潜り込むと大型拳銃を抜こうとする彼女の両腕を瞬時に斬り飛ばすのだった。


「おまえ等!何してる!この小娘!さっさと射殺しろ!!」


 彼女はあたしに両腕を斬り落とされた事で、態度を一変させると、戦況を見守る捜査員達にあたしの射殺指示を出したのだが、その場に彼女の指示を聞く捜査員は一人としておらず、逆に彼等の銃口は指示を出した彼女へと向けられるのだった。


「……おまえ等!あたしに銃を向けるかぁ!?この道警の署長でもあり本部長でもあるあたしに!」


 先ほどまでの威厳もどこへやら、彼女はただみっともなく強がった。


「……残念ですが貴女はもうこの道警の署長でもましてや本部長でもありません……たった今警視庁の葛城恵梨香副総監より連絡があり…貴女を本日付で懲戒解雇処分にすると……信楽深雪…大型拳銃の不法所持ならびに一連の騒動に関する殺人教唆の罪で逮捕します!」


 そう彼女に宣言したのはあの時、あたしと康太達をこの道警本部まで連れてきてくれた青年刑事だった。


「……あんたってもしかして凌矢君?」


 あたしはあの一件から、彼女の実弟で、あの時あたしの父にトドメを刺されて死んだと思っていた彼の存在がずっときになっており、その疑念を今、目の前にいる彼に聞いてみた。


「……」


 彼は敢えて何も応えてわくれなかったが、あたしを見てにっこり微笑むと軽く会釈してくれた。


 そして、彼女が道警捜査員達に連行されて行った後、その場に残ったのは彼とあたしの二人だけだった。


「驚かせてしまったみたいですね……あの時…貴女のお父さんは自分を殺そうとした俺を見逃してくれたんです……俺はあの時心底貴女が羨ましかった……俺は信楽家の落ちこぼれで…父も姉も正直好きにはなれませんでした……けどあの時…貴女のお父さんに言われたんです……姉にはくれぐれも気をつけるようにと…俺はもともと信楽家の養子だったので…今は信楽の家を出て旧姓の三橋を名乗ってます」


 彼は凄くつらかったであろう今までの経緯を、今は笑顔で語ってくれた。


「……そうだったんだ……」


 あたしはそう言うと、捜査員達の元へと踵を返す彼を見て寂しく笑うと、自分の日本刀を首筋に押し当ててそれを力いっぱい手前に引くのだった。


 あたしの突然の強行に驚きあたしを振り返る彼、あたしはせえいっぱいの笑顔を彼に見せ、自らの血の海にその身を沈めるのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言]  完結、ご苦労様でした。  最後の二行、カッコ良かったです❗  裏切りが交差して最後はこんな風に終わっちゃうんですねえ。  読ませて戴いて、私も任侠小説書きたくなっちゃいましたよ。  今は余…
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