一話 二代目[北見白狼会]~①~
北海道の北の果て、道北と呼ばれる場所に一人、何処の派閥にも属さず、たった一人で北の大地を護る。北見の女狼と呼ばれた一人の女性がいた。
生まれもっての熱い義侠心の持ち主であった彼女には、侠客でありながらカタギ衆と呼ばれる一般の道民達からの信頼が厚く彼女もまた、嫌な顔一つせず積極的に関わっていくのだった。
「おばちゃんその荷物…あたいが運ぶよ……」
街に困った人がいれば老若男女問わず、声をかけ手を差し伸べるのだった。
「若いモンはみぃんな都会暮らしに憧れてこの北見の街を出て行っちまう……後に残るのはわし等ぁ年寄りばかり…本当にすまんのぅ礼ちゃん…わし等ぁ礼ちゃんには足向けて寝られんわぁ礼ちゃん居ってくれんかったらわし等だけじゃなぁんも出来んしなぁ……」
自分の荷物を家の前まで運んでもらった一人の老女がそう言って感謝の念を口にした。
「なぁに言ってんのおばちゃん…この北見の街を護るのはあたいお父ちゃんから受け継いだ使命だと思ってるよ…それと…この北見の街を愛してやまなかったお父ちゃんに対するせめてもの罪ほろぼしかな……」
その老女から礼ちゃんと呼ばれたこの女性。成りは小さいがその身体はストイックなまでに鍛え上げられた筋肉の鎧を纏っていた。
神楽礼子もうじき、三十路を迎えよう年頃だったがその筋肉の鎧と、父親譲りの頑固ヅラから一見すると屈強のヤン衆と勘違いされそうな女性だった。
そんな彼女にも思春期はあったため、侠客でありながら北見地区の道民のために昼夜を問わず、損得勘定無しに汗を流す父親を疎ましく思い、別れた母親の暮らす札幌市内に暮らしていた事もあったのだが、礼子十七の年に全国制覇を目論み、道外から攻め込んで来た暴力団組織[関東龍神会]の二次団体だった[北見國狼会]に単身喧嘩を挑み、玉砕はしたものの見事一人で北見地区の道民達を侵攻組織から護ったのであった。
その姿を目の当たりにした彼女は、母親の元を飛び出し、現在に至るのであった。