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【クラスメイト視点】 第二王子は縁結びの神様



僕の家族は超が付くほど学問と本好きで、祖父の代からの本が書庫を埋め尽くしそれでも足らずに使っていない客間4部屋を改装して新しく書庫を作るほど本がある。一部では王宮にある書庫より希少な本があるのではないかと噂されているが貧乏伯爵家にそんなものがあるはずない。

父は書記官を務めており、実直な働きによりそれなりに信頼を得ているようだがその父が言うには何事もほどほどがいいとのこと、あまり上の人からの覚えがめでたいと周りがやっかんで面倒くさいことになるらしい。


そんな父が入学式前の僕を執務室へ呼んだ。


「お呼びでしょうか。」


「うん、お前も知っていると思うが今年は第二王子殿下が入学される。」


「はい、存じております。」


「入学前のテストでお前のクラスは第二王子殿下と同じ“特級科”となったそうだ。」


「そうなのですか!?」


これには僕も驚いた。優秀な方だと聞いてはいたが特級科は特に難易度が高い。それに合格するとはよほどの才覚の持ち主なのだろう。


「優秀な方では、あるのだが……。」


なぜか父は渋面を作っている。もしかして子供の頃に噂のあった我儘で癇癪持ちなのだろうか。それだといつこちらにとばっちりが来るかわからない。忽ち、僕の学園生活に暗雲が立ち込めた気がした。


「今の時点であまり多くは口にできないが、お前もいずれは気づくだろう。……まあ、頑張れ。」


「は、はあ。」


いつにもまして歯切れの悪い父の励ましの言葉に首を捻りつつその場を後にしたのだった。



入学式で初めて第二王子のアーノルド殿下を見ることができた。アーノルド殿下はなんと首席で合格したようで今まさに新入生挨拶をしている。

堂々とした佇まいに朗々と読み上げられる言葉は力強くそして王族としての威厳があった。こんなすごい人と共に学べる事を誇りに思うとともに、自分も今以上に頑張らねばと決意したのだった。


同じクラスになったからと言って僕と第二王子殿下には天と地ほどの身分差がある為そう簡単に話しかけることも話しかけられることもない。入学式後のオリエンテーションでそれぞれのクラスに入ったわけだが、第二王子が先ほどから熱心に目線を送っている人物がいる。

あれは確か―― オルコット侯爵令嬢ではなかったか。

何故、あんな目で見つめているのか。瞳孔が開ききってまるで獲物を狙う肉食獣のようだ……。


そんな第二王子の様子をクラスの生徒は何事かと見ている。それに気づいていないのは第二王子に背を向けたオルコット嬢くらいなものだろう。

やがて、意を決したように第二王子がオルコット嬢へと近づいた。


「レ、レーナ嬢!今日からよろしく頼む!!」


いきなり背後から呼ばれてオルコット嬢はびっくりしたように後ろを振り返り、声の主が第二王子だとわかりかなり驚いたようだ。


「はっはいぃい、よろしくお願いいたします!」


第二王子が名で呼ぶほど親しい間柄なのかと思ったのだがどうやらそうでもないらしい。もしかして親しみやすい御方なのかもしれないとも思ったがその後に第二王子の婚約者の座を狙っている令嬢達にはかなりそっけない態度で接していた事で謎は深まるばかりだ。




それから少しずつ、僕は気づかなくてもいいことに気づいてしまった。

たまたま僕の前の席が第二王子殿下なのだが第二王子の目線の先には常にオルコット嬢がいること。他の生徒には声をかけたこともないがオルコット嬢には事あるごとに話しかけている。そう言った状況を踏まえて僕はもしかしたら第二王子がオルコット嬢の事を好きなのではないかと思った。

しかし、オルコット嬢には確か婚約者がいたはず……。

これは、かなり厄介な事になるのではないかと人知れず頭を抱えた。

『君子危うきに近寄らず』だ、気づかなかったことにしよう。

第二王子の気持ちを知ってしまったが僕が下手に関わることではないし、第二王子には悪いが僕は平穏に学園生活を送りたいのだ。



そんな僕のささやかな願いも虚しく第二王子にクラスの男子生徒()()放課後に呼び出されたのだった。


空き教室に入ると既に第二王子は教壇の方に座っていた。机に両肘をのせて組んだ両手が口元を隠している。俯き加減で何やらブツブツと独り言を言っていたが僕達が入ってくるとそれぞれ席に座るようにと指示された。


「お前達を集めた理由がわかるか?」


いえ! まったくわかりません!! 第二王子が聞いた目線の先に僕がいたため仕方なく返した。


「いえっ、わかりません! 僕達は何か殿下のお気に触るようなことをしたのでしょうか?」


お怒りになっているのならば何が原因なのかはっきりさせなければ。


「いや、特にはしていないぞ。お前達を呼んだのは他でもない、今日はお前達に婚約者候補を紹介しようと思って呼んだのだ。」


「婚約者…候補ですか?」


思ってもみなかった話に戸惑った。


「そうだ、聞けばこの学年だけ異様に婚約している者達が少ないらしいからな、お前達の未来を案じた俺は婚約者がいない者同士を引き合わせてやろうと思ったのだが、余計なお世話だったか?」


「い、いえ! そんなことは……、しかし、恐れながら申しますが相手方の家にもそれぞれ事情があるのでは…?」


第二王子の突拍子もない話に驚きはしたものの、僕達の同年代に婚約を結んでいない者が多いのは全て第二王子の婚約者が未だに決まっていないことが起因となっている。ある程度、爵位を持っているご令嬢がいる家はどうにかして王家との縁を結びたいと思う親もいるだろう。


「ああ、たぶん婚約者のいない俺に娘をあてがおうという親達の思惑のことか?」


「はい… おっしゃる通りです。」


やはり第二王子もそのことには気づいているようだ。


「しかし、俺にはもう決めた人がいるのだ。他の娘を妻にする予定はない。ただ、まだ公にできないだけなのだ。」


やはり、僕の考えが当たっていたようだ‥‥‥。


「そ、そうなのですね……。」


「まあ、お前達の悪いようにしないから俺の話を聞いてくれないか。」


第二王子はそう言って次々に僕達の婚約者候補を読み上げて、顔合わせの場まで設けていた。あまりの急展開に僕を含めて他の男達は、戸惑いはしたものの、それで第二王子の気が済むのであれば顔合わせだけでもしようとクラスの友人と意見を後日、一致させた。


そして、迎えた見合いの席は驚くほどスムーズに進んでそのまま婚約することになった。僕の婚約者候補の令嬢は国外にも店舗を持っている大きな商会の娘でその功績を称えられて男爵の位を叙爵されたばかりだ。

最初は口下手な僕に気を利かせていろいろ話しかけてくれていたのだが、お互いに本を読むのが趣味な事がわかり、それからは一気に話が盛り上がった。彼女は他国の読み物にも精通しており、僕の家の事も知っていたようだ。お互いの家で会う回数が増えて、何よりもハキハキと話す彼女に惹かれて僕の方から婚約を申し出て受け入れてもらえた。

こんな機会が無かったら同じクラスでも彼女と話す機会はなかっただろう。きっかけを作っていただいた第二王子には感謝してもしきれない恩を感じた。

そんな気持ちを彼女と話している時にポロッと第二王子の想い人の話をしてしまった。


「それって、レーナ様のことですよね!」


「……やっぱり知っていたのか。」


「知っているも何も、丸わかりですよ。ただ、レーナ様は全く気付いていらっしゃらないようですけど。私と友人はまるで恋愛小説のようでドキドキしながらお二人の様子を観察していましたの。」


「そ、そうなんだ……。」


「それに第二王子殿下には、私達も感謝しているのです。こうして素敵な婚約者を紹介していただけたし、意地悪な子が急にいなくなったのも第二王子が仕向けたのではないかともっぱらの噂で……。」


「へ、へえ~…。」


たしかに何人かの令嬢が学園に来なくなっていたな。あまり興味がなかったので気にもしなかったがそんなことがあったのか。


「だから私達、密かにお二人を応援したいと思っているのですが協力してもらえませんか?」


可愛く首を傾げられると頷くしかないじゃないか!!


こうして、彼女とその友人達の『第二王子殿下の恋を応援し隊』に入れられて、いつの間にか僕の友人も入っていて、あれやこれや手伝わされることになるのだがそれはまた別の話。




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