4話
「お前達の三文芝居はこの辺にしておこうか。」
誰もが固唾を飲み込んで見守る中、アーノルドがイーサンの腕を掴み上げながら怒気を含んだ声で言った。
「ア、アーノルド殿下っ、これはあまりにもこいつが自分の罪を認めないので……。」
「黙れ!!」
「ひぃいい!」
アーノルドに一喝されてイーサンはその場にへたり込んだ。
「お前はレーナ嬢という素晴らしい婚約者がいるのにもかかわらずそこにいる阿婆擦れと親密にしていたのは周知の事実。お前たちの方こそ不貞行為でレーナ嬢から婚約破棄されてもおかしくないのだぞ!!」
「アーノルドさまぁ~、違うんですぅ、ほんとに私はレーナさんにいじめられて……。」
いつの間にか近くに来ていたミアがアーノルドの腕に縋りつくように目に涙を浮かべながら訴えようとしたがいつの間にか現れた護衛に拘束された。
「きゃっあ、な、なにするのよお!」
「俺に気安く触るな、馬鹿がうつる。それにいつお前に名前を呼ぶことを許した?」
「で、殿下。ミアは何も悪くありません!! すべてはレーナが……。」
ミアが護衛によって拘束されたのを見てイーサンは慌てて弁明しようとしたがアーノルドから無言で睨まれて押し黙ってしまった。
「お前はこの女がレーナ嬢によって虐められたと言ったな。だがそれは絶対にありえない。」
「何故ですか!」
「お前達はクラスが違うから知らないのかもしれないが、俺とレーナ嬢のクラスは学園で特に優秀な者が集められた特級科だ。普通のクラスとは授業の内容も時間割も異なるし休み時間もずれている、そんな中でそこの女をレーナが虐めることなどできるわけない! ましてや彼女は1年のときから生徒会の補助を行い昨年と今年は副生徒会長として私の下で働いてもらっていた。放課後は俺も一緒にいたからレーナにそんなことをする時間なんてなかったぞ。」
「そ、そんなことないですぅ~、わたしはほんとに… あ!レーナさんの取り巻きに虐められて……。」
「おいおい、お前はさっきレーナ嬢から直接、虐めを受けたと言っていなかったか? あと本人に階段から突き落とされたとかとも言っていたな。」
「それは本当です! 運よく助かったんですけどぉ、足に痣が……。」
ミアがドレスの裾を捲り上げると足首に包帯が巻かれていた。が、怪我をしているというのにしっかりと踵の部分が高いヒールを履いていた。
「ほう、それなら面白い物があるから今から皆に見てもらおうと思う。」
アーノルドがそう言うとどこからともなく数人の魔術師たちが現れて会場の見やすい位置に白い幕が張られその前に魔道具らしきものが置かれた。
「これは、我が国の優秀な魔術師達が最近作り出した、記憶装置というものだ。実験的に学園の要所に撮影機を設置させてもらい撮影したものだ。なかなか興味深いものが撮れたのでな、皆に見てもらおうと思って用意させた。」
そして、そこにはミアが自分でノートを破ったり、何故か自分から池に飛び込んで助けをよんだり、最後の方には階段の3段目辺りからゆっくりと落ちてワザと大声をあげて人を呼ぶところが映されていた。
「なっ!! こんなの嘘よ!! 全部デタラメだわ!!!」
今までの自分の行動がしっかりと記録に残されていたことにミアは半狂乱になって否定する。
「もっと面白い物があるぞ。」
そこにはいろいろな男子生徒達とイチャイチャしているミアの姿があった。
「もっと過激なものもあるがこれ以上は、女性もいるので止めておいたぞ。」
「そ、そんな!! ミア、嘘だろ!? 俺だけだって言ったじゃないか!!」
「違う! 違うの!!」
「お前たちの話は後でゆっくりと二人だけでしろ、それよりも重要な話がある。」
イーサンとミアが言い合いを始めたが、アーノルドはそれを制止させた。
「イーサン・ロドリゲス、お前とレーナ・オルコット嬢の婚約は昨日を以て白紙になっている。お前の不貞証拠をロドリゲス侯爵とオルコット侯爵に見せて話し合いの結果、婚約自体を白紙にするということになった。卒業までは明かさないつもりだったがお前の馬鹿な行動のおかげで俺から話すことにした。イーサン、お前のお父上はたいそうお怒りの様子だったぞ。」
「そ、そんなあ‥‥。」
打ちひしがれたイーサンは大人しく護衛に連れられて会場を出て行ったがミアだけはギャーギャー騒ぎながら無理矢理、会場から連れ出されていた。
「アーノルド殿下、助けて下さりありがとうございます。」
怒涛のように話が展開してまだ混乱しているが、レーナは助けてくれたアーノルドになんとかお礼を言うことができた。
「い、いや! 俺は大したことはしていない…、その……。」
何だか大きい体をもじもじさせ始めたアーノルドにレーナは首を傾げる。
「レーナ嬢!!」
「はぃいい!!」
いきなり大声で名前を呼ばれ飛び上がりそうになった。
そしてアーノルドはレーナの前で片膝を突いてレーナを見上げた。
それを見ていた会場にいる人々はさっきとは違う緊張感に包まれた。
(まさか王子殿下。今、言う気なのか!?)
「レーナ嬢、ずっと前から好きだった。婚約者がいると知って諦めようと思ったがこうなったからには自分の気持ちが抑えきれなくなった。俺と結婚してもらえないだろうか!!」
アーノルドの声が響き渡った。
「ええ!? あ、ごめんなさい……。」
シーンと静まる中、レーナの申し訳なさそうな小さな声が聞こえた。