2話
レーナはとにかく早くこの場を終わらせることにした。
「イーサン様、婚約解消の件は承りました。後日、婚約解消の手続きを行う事でよろしいですね?」
「いいや、破棄!だ。お前が俺の婚約者として相応しくない行動をしたため婚約破棄による慰謝料を請求する! またここにいるミアに長期に渡っていじめを行っていたことも含めて慰謝料を払ってもらうぞ。」
「なっ!?」
あまりの言い分に開いた口が塞がらない。婚約者がいる身で別の異性を傍に置くのは立派な不貞行為だ。それを棚に上げてこんなめちゃくちゃな要求をするなんて!
とうとう、頭までお花畑の住人になったようだ。
「驚いた表情も絵になる。なんだか今日は、いろんな彼女の表情が見られて幸せだなあ……。」
後ろからの声は無視して、イーサンの要望を拒否した。
「イーサン様、そのようなお話は受けることはできません。私は誓って彼女を虐めたなどということはありません。それに、私が虐めたという証拠をお持ちなのですか?」
「まったく、俺との婚約を破棄したくないばかりに余計な悪あがきをしおって。証拠ならあるぞ、虐められたミアがそう言っているのだからな!」
「そうですぅ、レーナさんはぁ~いつも私の事見て男爵令嬢風情がイーサン様に似合わないとかぁ言われたり~、本を破かれたり~、わざとぶつかってきたこともありましたぁ~、あ、あと階段で突き落とされましたぁ~。」
「階段から突き落とすなど、殺人行為ではないか!! これでも違うというのか!!」
バカっぽいミアの言葉とそれを真に受けるイーサンにレーナは頭を抱えたくなった。
「イーサン様、ミア様の証言だけでは証拠とは言えません。」
「ひっどぉ~い、レーナさんは私が嘘をついていると言いたいのですかあ~?」
ミアは目に涙をためて訴えた。
「くっ! ミアが噓をつく理由がないだろう!! この悪女が!もう我慢できん!俺が直に鉄槌を下してやろう!!!」
そう言って怒りに顔が真っ赤になったイーサンがレーナの前まで歩いて行く。これまでの二人のやり取りに息を飲んで見ていたギャラリーがこれはまずいのではないかと俄かに騒ぎ始める。
そしてイーサンがレーナの目の前まで来るとその拳を振り上げた。
このまま殴られるのかもしれない、レーナは殴られることを覚悟して咄嗟に目をつぶった。
「女に手を上げるとは紳士の風上にも置けない奴だな。」
恐る恐るレーナが目を開けると、そこにはイーサンの腕を掴む第二王子がいた。