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【王子視点】 3話



学園生活も3年目になり、俺は生徒会長にレーナ嬢は副生徒会長となった。いつでも近くに彼女がいることが今や至福となっていて、このままずっといられたら―― などと思ってしまう。しかし、忌々しい事に未だにレーナ嬢にはあの婚約者(ぼんくら)がいるのだ。奴は同じ学校にいるのに一度もレーナ嬢に会いに来ていない。それに他の女子生徒とのよからぬ噂も俺の耳には入ってきていた。

やはり、この手で抹殺するべきか…… いやまてよ、それより奴の不貞の証拠を掴んで婚約を解消させた方がいい。

ううむ、やはりレーナ嬢の事になるとどうも冷静さにかけてしまうな。気をつけねば。



"カシャカシャ"


「?」


そんなことを生徒会室で仕事をしながら考えていたら、同じ部屋で生徒会の資料作成をしていたレーナ嬢が不思議そうな顔で俺の後ろにある窓の方を見た。


「どうした?」


「いえ… なんだか今、変な音が窓の外から聞こえたような気がしまして……。」


「音?」


「カシャカシャという耳慣れないものですわ……、でも気のせいだったのかもしれません。」


俺は慌てて後ろを振り向き窓際に顔を寄せた。2階の位置にあたるこの部屋の外には大きな木が植えられていた。その木の枝葉に隠れて影が申し訳なさそうな顔で立っていた。そして俺を見ると頭を下げて次の瞬間には消えた。


「なにかありました?」


レーナ嬢が心配そうに俺の背後に立って窓の外を覗こうとした。


「なっなんでもないぞ! た、たぶん鳥か何かが動いた音かもしれんなっ。」


「そうなのですね。なんだかお騒がせしまして申し訳ございません。」


「いや、かまわんぞ! その、そろそろ喉が渇いたなっ。」


「あ、そうですね、では紅茶でもお入れしますね。」


「そうだ、美味しそうな菓子を持ってきた。一緒に食べないか?」


「いつも、ありがとうございます。では私もご一緒させていただきます。」


そう言ってにっこりと微笑むレーナ嬢は正に地上に舞い降りた天使そのものだった。








「アーノルド殿下、先程は申し訳ございません。何せこの魔道具を扱うのが初めてなので…。」


生徒会の仕事を終えて、王宮の私室に帰ったらさっきの影がどこからともなく現れた。


「気づかれてないからいいが、例の物は撮れたか?」


「気づかれる前に撮ったのは失敗しましたが、アーノルド殿下とお話している時に良いものが撮れました。ご覧になられますか?」


「もちろんだ! 早く見せろ!!」


自信満々な様子でもったいぶって言う影をせっついて出させた。


「こっこれは!!!」


影が取り出して見せたのは人の上半身くらいの紙に精巧に写されたレーナ嬢が微笑んでいた。

絵とは違いまるで本人がこの紙にいるようだ。


「すばらしい! これはもはや芸術品ではないか!!!」


作った魔導士達には何か褒美をやらなければ。本当は動く映像のような物が欲しかったが動く映像の前の過程で止まった『写真』というものを写す魔道具を発明してくれた。止まっていてもこんなに綺麗な彼女が動いているところを見たら昇天するかもしれない。


それを楽しみに過ごしていたわけだが、良いことがあれば悪いことが起きる。俺の学園生活に暗雲が立ち込め始めたのは、とある男爵令嬢が転入生としてやって来たことから始まる。


その男爵令嬢は庶子で、母親と共に平民として町で暮らしていたが母親が病で亡くなってしまった為に男爵が家に迎え入れたようだ。まあ、ここまではよくある話だが、男爵令嬢が学園に来て男共は急に浮かれたように彼女の周りを囲みだした。俺も遠目でチラッと見たが、皆が言うように美少女には見えない。それに俺にとってレーナ嬢以外は皆同じに見えるし、ただ目と鼻と口がついているだけだ。だから顔と名前を覚えてないし覚える気もない。


まあ、その男爵令嬢とはクラスも校舎も違うから関わることもないだろうと思っていた。が


「きゃああああ。」


「うおっ!?」


廊下を歩いていたらいきなり後ろから体当たりされて前のめりに倒れそうになるのを何とか堪えた。


「ご、ごめんなさい! アーノルドさまぁ。」


後ろを振り返るとピンク頭の女が何故か目をウルウルさせて俺を見上げている。


「ほぅ、俺が誰かと知っての狼藉か。何が目的か知らないがお前にかまっている暇などないわ。…パキン。」


指を鳴らすとすぐに護衛(の格好をした影)達が現れてピンク頭を拘束する。


「えっ? ちょっなんでぇえ!? ちょっと転んだ拍子にぶつかっただけじゃないですかぁああ!!」


「そうなのか?」


ピンク頭がそう言うから、影に確認する。


「いえ、近くで拝見しておりましたが、殿下を視認して後ろからそのまま突っ込んでいかれました。」


「う、う、うそよお~!! この人が嘘をついているんですぅう。」


「護衛が嘘を言う理由がない。」


こいつは本当にここの学園の生徒なのか? いくら何でも貴族の娘には見えない。まあ、しかしこいつにかまっている暇などないのだ。早くレーナ嬢の待つ生徒会室に急がねば。


「アーノルド殿下、お待ちください!!」


この騒ぎで人だかりが出来ていたのだがその中から男の声がした。

人だかりから出てきたのは何か見覚えがある奴だった。……なんだかこいつの顔見ていたらムカつくな。


「イーサン!!」


「イーサンだと‥‥?」


ピンク頭が嬉しそうに名を呼んだ。

そうか、どうりでムカつく訳だ。イーサンはレーナ嬢の婚約者の名だった。


「アーノルド殿下、ミアは平民から貴族になったばかりであまり貴族のルールをわかっていないのです。それに免じて今回は許してやってもらえないでしょうか?」


「イーサン……。」


必死に懇願するイーサンにミアというピンク頭は感動したように目を潤ませている。この女の涙腺は緩いのではないだろうか。

……しかし、レーナ嬢と言う素晴らしい婚約者がいながらピンク頭と名で呼び合うなどと、お前の方こそ貴族でのルールを知らないのではと思うほどの愚行だ。

さて、どうするか。このままこの女を牢屋にぶち込んでもいいが、この二人は何かありそうだ。このまま泳がせて証拠を集める材料になってもらおうか。


「…そうか、お前がそう言うのなら今回は許そう。だが、次はないぞ?」


「はい! ありがとうございますっ。」


俺はその場を後にした。後ろでは手を取り合って喜んでいる二人がいる。

まあ、せいぜい頑張って証拠を残してもらおう。

これ以上ない、チャンスに胸が躍った。



それから、影達を使って奴らの身辺を探らせた。その際に役に立ったのが『写真』を撮る魔道具だ。そして、念願の動く映像が撮れる魔道具も完成させて、それの試験という事で学園長に直談判し学園の各所に設置させた。


そして、着々と証拠が手に入った頃には卒業式を迎える時期になっていた。

明日が卒業式となった時、影から奴らが卒業パーティでよからぬことを企てているらしいという情報が入った。奴らへの温情で卒業後に婚約解消の話を奴とレーナ嬢の親にするつもりだったがそうも言ってられなくなった。


「すぐに陛下へ謁見の許可を取ってもらえないか。」


謁見の許可はすぐに出て、父上の執務室へと向かった。執務室には父上と兄上がいた。二人に今回の件について証拠を見せながら説明する。二人はそれらを見ながら呆れたように眺めていた。


「このように、イーサンの不貞は明らかです。レーナ嬢とイーサンの婚約は白紙が妥当かと思われます。」


「ふむ、これだけ証拠があればやむを得ないな。」


「では、さっそくイーサンとレーナ嬢の父親を呼び出してこの話を進めたいと思います。……それから、父上。あのお約束はお守りいただけますよね?」


「……はあ、わかった。しかし、先方の意思が大事だぞ、無理強いはするな。」


「もちろんわかっています。」


父上は何か諦めたような顔をして、隣にいる兄上は呆れたような顔をしているが気にはならない。ようやく、長年の願いが叶うのだから。


こうして、俺は奴とレーナ嬢の父親を呼び出して奴の不貞の証拠を出した。奴の父親は何も知らなかったらしく顔を真っ赤にさせている。レーナ嬢の父親も奴のレーナ嬢に対する態度に思う所があったらしく、婚約を白紙にする話はすぐに終わった。




卒業式の当日。卒業パーティでレーナ嬢に何かあってはいけないと俺が自ら彼女をそっと後ろから見守ることにした。

レーナ嬢のドレス姿を見て思わず我を忘れて見惚れてしまっていたのだが、気づいたときに奴が凄い形相で彼女の元へ歩いてくるのが見えた。

奴がレーナ嬢に危害を加えようとしているところを返り討ちにして、レーナ嬢の無実と奴らの不貞の証拠を出して婚約が白紙になった事を告げた。


その後、長年の想いがあふれてついその場で求婚して見事に玉砕してしまった。

直後に気を失ったらしい俺を兄上が回収したらしい。気が付いたら王宮の部屋のベッドに寝かされていた。


「お前は、もう少し考えてから行動しろ!」


気が付いて起き上がった俺に初めて兄上が怒鳴った。


「彼女の気持ちも考えろ。婚約者だった奴が他の女といちゃこらしているのを見せられて気持ちは穏やかではないだろう、そんな時にお前からいきなり求婚されたら混乱するだろう? それにな、まあないと思うが、彼女が婚約者の事を慕っていたのならお前からの求婚は迷惑だったかもしれないぞ」


「レーナ嬢が奴のことを好きだと……?」


「もしかしたら、だ。人の本心は見た目だけではわからないからな。とにかく、自分だけの話ではなく相手の話もちゃんと聞くのだ。わかったな。」


「はい。……そういえば、初めて兄上に叱られた気がします。」


「俺も初めて人に怒った気がするな。ははっ、まあ今度は間違いないように頑張れ。俺も父上も母上もお前の味方だからな。」


兄上はポンポンと俺の頭に手を置いて部屋を出て行った。


それからレーナ嬢が高熱で倒れたと聞いてすぐに会いに行ったが心労から来るものでゆっくり休ませてやりたいとレーナ嬢の父親から言われた。それでも部屋でじっとしていられなくて毎日のようにお見舞いの花を持ってレーナ嬢の邸へと向かった。

一週間経って回復したレーナ嬢にようやく会うことができた。それからいきなり求婚したことを謝った。彼女から求婚を断った理由を聞いてすぐに王宮に戻り父上と兄上に王位継承権の返上とオルコット家の婿に行くことを宣言した。


「はあ…、ここまで来たらお前の熱意には負けるわ。うむ、王位継承権の返上は承認しよう。どこにでも行ってしまえ。」


「ありがとうございます!」


翌日、再びレーナ嬢に会いに行き王位継承権を返上したことを告げて、もう一度、求婚してレーナ嬢に受け入れてもらった。


これは俺の長い長い片思いが叶った話だ。




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