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1話



卒業式後のパーティ会場では着飾った紳士・淑女達が互いに卒業のお祝いの言葉をかけあっている。終始、和やかにパーティは進むかと思いきや楽団が演奏を止めてしまうほどの大きな声が会場に響き渡った。


「レーナ・オルコットはいるか! いるなら返事をしろ!!」


レーナは一つため息を吐いて手を挙げた。


「そのように大きな声を出さなくてもここにおりますわ、イーサン様。」


「なっ!? お前があのレーナだと?」


イーサンが驚くのも無理はない。学園ではレーナは華美な服を着ず年齢にしてはやや落ち着いた(地味な)色合いのものを着ていた。髪も常にきっちりと編み込みの三つ編みにして眼鏡をかけていかにも優等生といった雰囲気の女子生徒だった。だから目の前にいるレーナと同一人物とは思えなかったのだろう。


それが今のレーナは眼鏡を外し、いつも結んでいた髪をハーフアップにして少し薄化粧をしている。誰が見ても美人だと言うだろう。


『レーナ嬢は今日も麗しいな、やはり……ブツブツ…ブツブツ…。』



「このような祝いの場で声を荒げて何のお話でしょうか?」


なんだか後ろから声がしているがそれどころじゃない。婚約者であるイーサンが何を言い出すのか。そしてイーサンの隣で彼の腕に縋り付いて小鹿のようにびくびくしながらレーナを見ている女生徒が関係するのかどちらにしても嫌な予感しかない。


「ふ、ふん!! 少し見てくれが変わっただけで俺の決心は鈍らないぞ! レーナ・オルコット! 俺はこの場でお前との婚約を破棄する!!」


「はあ…。」


レーナはまた一つため息を吐く。バカだバカだと思っていたけどここまでとは。

婚約を()()するなら異論はない双方の親達が決めた婚約なので両家で話し合いを設ければそれで済むこと。それなのに目の前にいるイーサンは何を血迷ったのか卒業パーティという祝いの場に水を差してしまったのだ。


さて、どう収拾をつけようかとにかくこれ以上、卒業される皆様の迷惑になるのだけは避けたい。特に今年は第二王子殿下も卒業されるというのに殿下がご不快にならないようにしなければ……。


そういえば、第二王子殿下のお姿が見えないわ。どこにいらっしゃるのかしら…。


『ああ、やはりレーナはそこにいるだけで絵になるな。光を集めたようなあの髪に触れてみたい…そして…て………をやってみたい!!』


なんだかさっきから私の名前が聞こえるような気がするけど気のせいかしら、レーナがそっと後ろの方を横目で見るとそこには第二王子殿下が腕組しながら壁に寄りかかりレーナをじっと見つめているのが見えた。


「ひっ!」


思わず叫びそうになるのを何とか堪えた。王子がこちらを睨んでいる(レーナにはそう見えた)のはこの騒ぎにお怒りになっているのではないか。そう考えると早く何とかしないと、という思いが強まった。


「おいっ! 何をよそ見している!! 俺の話が聞けないのか!?」


「聞いております。しかし、このような祝いの席で私達の個人的な話は他の皆様のご迷惑になりますわ、婚約を()()にしたいのならば日を改めてお話させていただきましょう。」


「凛とした声も素敵だ、レーナ嬢の声はまさに天上の楽器のようではないか! 心地よく耳に残り永遠にその声を聞いていたい……。」


「ええいっ!! そうやって誤魔化そうったって、そうはいかないぞ! お前がここにいるか弱き乙女を裏で虐めていたのはわかっているのだぞ!!」


「何かの誤解では? 私は彼女を虐めてなどおりません! 名前も存じ上げませんしお会いするのも初めてです。」


「真っ直ぐに相手を見る眼差しまるで女神テミスのようではないか! ああ、俺もあの目で見てくれないだろうかっ。」


レーナは焦っていた。早くこの茶番を終わらせたいのにさっきからだんだんと大きくなってくる第二王子の独り言が気になって仕方なかった。


ああ、もう! 誰かこの状況をなんとかして!!


レーナはわけのわからないこの状況に泣きたくなった。




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