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前世の記憶がある俺、お姫様ムーヴしてたら前世の騎士がお嫁様になった。

作者: 氷野 樹

 

 姫野 浩太郎、遊び盛りのやんちゃ小学生男子。


 実は、前世の記憶がある。


 前世はお姫様やってました。





△▽△▽△▽△▽△▽△▽






 お姫様っていっても、小国の末姫だし、特別美人ってわけでもなかった。まあ、綺麗系か可愛い系かでいうと、可愛い系か?護衛だって、腕は立つけどいまいちパッとしない騎士が一人付くぐらいのよわよわプリンセス。侍女だって仲良くなりすぎて友達みたい。そんなお姫様もお年頃だったので、もうすぐどこかに嫁がないといけないなー、もう一生このままでいたいわーと、ストレス発散で愚痴る日々。


 そろそろお相手を決めますかと、思い立った時には、世界的に情勢が悪化。あちこちで紛争が勃発して、とてもそんなことをのんきに考えてる場合じゃなくなった。


 弱小国の悲しい宿命か、あっけなく城に攻め入れられて死亡。


 最後まで一緒にいてくれた護衛には申し訳ないが、儚い人生が幕を閉じた。お前も来世では幸せになってくれ。恨むんじゃないぞ、うん。




 そんなこんな前世の記憶のせいで、しゃべり方がお姫様口調になってしまうし、気付けばあだ名が「姫様」になっていた。苗字が姫野だけに。いや、小学生男子にこの仕打ち!キツイって!


 俺には、なぜか、話しかけると、すべてお姫様口調になってしまう呪いがかけられているのだ!



「あら、わたくしもご一緒してよろしくて?」

(訳:一緒にあーそぼ!)


「さあ、難しいことで、わたくしにはわかりかねますわ。」

(訳:わかりません)


「ご健闘をお祈りいたしますわ。」

(訳:頑張ってね!)



 などなど。所構わずお姫様ムーヴをかましてしまうのだ。辛い。


 徐々に自分でコントロールできるようになったが、今でもテンパるとお姫様が出てきてしまう。


 ただ、家族や周りの友人に恵まれたおかげで、俺のこのお姫様ムーヴも個性として受け止められているのだ。ありがとう、多様性。ありがとう、個性として受け止める広い心よ。


 姉ちゃんは、そういうの中二病って言うのよと、教えてくれた。流石、文明大国日本。この現象に名前がついているなんて、前世の記憶と比べてずいぶん発展している。


 最初はこの記憶が本当に正しいのか悩んでいろいろ調べてみたけれど、さっぱりわからん。前世の国があまりにも小さすぎたので歴史に残っていないだけかと思ったが、どうやら世界がそもそも違うらしいと気づいたのは最近のこと。やっと買ってもらえたスマホで調べてみたが、検索結果はゼロ。もしかしての欄も出てこない。俺みたいに、違う世界の記憶を持ったまま生まれちゃうのを異世界転生っていうらしいよ!これも姉ちゃん情報。



 今の俺は小学生らしく、遊びに勉強に本気出している。こんなに小さいときから習い事をするのは、どこの世界でも一緒なんだなーと思いながら、親に勧められるまま塾に通っている。今日だって塾の帰りで、少し遅くなったけど、早く帰らないと見たいテレビが始まってしまう。


 普段は危ないから通らないでと言われている人通りの少ない道を突っ切る。こっちの方が、ちょっとだけ家に着くのが早い。走ってれば大丈夫でしょ。それに、最近の小学生は防犯ブザーを身に着けることが義務化されているのだ。こいつの煩さを嘗めてはいけない。


 だいぶ短くなってしまった足でたったか薄暗い道を駆けていく。背中に背負ったカバンがポンポン跳ねる。人通りが少ないだけあって、誰ともすれ違うことがない。さらに腕を振ってスピードを上げていくと、前方に人影が見えた。こんなところに珍しいなと思いつつ目を凝らすと、制服を着た女の子が怪しげな男に行く手をふさがれている。確かに最近暖かくなってきたが、暖かいを通り越してむしろ暑いぐらいのこの時期にロングコート?怪しい。人気のないところに、知り合いっぽくないおっさんと二人きりの女子高生。さらに怪しい!

 わかった、この人、



 変 質 者 だ !!!!


 

 やばい、初めて見た。どうすればいいんだ。助けるためにも、とりあえず声をかけなくちゃ。あと、大声で叫ぶ!これ大事。よし、いけ!


「そこで何をしているのかしら?」


 姫様――――――!!!

 なぜ、今姫様ムーヴなんだ!ここはかっこよく怒鳴り込むところだろ!


「な、なんだよ。今、この子と大事な話をしているんだから、ガキはさっさと帰れよぉ!」

「大事な話?それってこんなところでするほどのこと?だいたい、こちらには話すことなんかなくってよ!」

「う、うるさ―――――」


 血走った眼でどもりながらも睨んでくるおっさん。アウト。振りむいた女の子は震えて涙目。2アウト。チラッと見えたコートの下は思い出したくもない。3アウト!ゲームセット!!


 有罪だ、こいつ。俺の中のお姫様が許すわけにはいかないと叫んでいる。


「おだまりなさい!嫌がる相手にそんな下劣な行いをするなんて許しませんわ!」


 唸れ!!!俺の、防犯ブザー!!!!!!!


 



 閑静な住宅街に警報が響き渡った。






△▽△▽△▽△▽△▽△▽





 あれから、防犯ブザーの音にビビった男は逃げてしまったが、俺たちのことを保護してくれた近所の人が、ばっちり警察に通報してくれた。早く捕まることを願おう。


 なかなか帰ってこないと心配した母さんから電話がかかってきて、変質者の話をしたらたいそう驚かれて叱られた。ごめん、母上。女子高生も変なものを見てしまったが、怪我は特になかったみたいで、今は俺と一緒に保護者待ちだ。


 地面に座り込んでしまった女の子はほっとしたのか、すんすんと鼻をならしている。


「あの、ごめんね。もっと早くに助けられなくて。俺がもっと大人だったら、相手にも嘗められないですんだのに…」

「あー、早くかっこいい大人になりたいなー!俺の父さん、結構背高いから、俺もそこそこ伸びると思うんだ。そしたら、さっきの変なおっさんだって一発でビビるよ!」

「あ!筋トレしようかな!ムキムキになって一発ぶん殴ってやればスッキリするかも。」


「姫様はいつもかっこいいですよ。」


 ええ、そうかなー。なんだか照れる。女の子を元気づけようとしたのに、かえって気を使わせてしまった。さっきまでの緊張が解けてきたのか、ふんわり笑う。この子、かなりの美少女だ。この子の方がお姫様っぽい。んん?姫???


「え、なんで俺の――――?」

「お気づきになりませんか?ユーリです。姫様の護衛をしておりました、騎士ユーリです。」

「は?ユーリ?え、女の子じゃん!!!」

「それを言ったら、姫様は男の子になられたんですね。」


 今はこのような名前ですと、差し出された学生手帳には、「岸 侑里」と書かれている。岸侑里=騎士ユーリ。そのまんまじゃん!


「前世では私が姫様をお守りしていたのに、この度は助けていただきありがとうございます。」

「いえいえ、ユーリにはいつもお世話になってたから、これぐらいどうってことないよ。それに結局、俺一人の力ではどうしようもなかったし…」

「そんなことありません。姫様はいつも私のことを救ってくださる。あのときだって、不覚にも敵に後れをとった私を庇うために、姫様が、代わりに…!」


 え、そうだっけ。残念なことに自分の死に際はよく覚えていないのだ。その他のおいしかった物や楽しかったことはするする出てくるのに、そこだけもやもやと霧がかかっているような感じがする。うーん、ユーリが言うのなら、そうだったのかも?


 考え込んでいた俺の手がぎゅっとユーリに握られる。あのころとは違って白くて柔らかい女の子の手だ。


「どうかもう一度、最後まで姫様のお側においてください。」


 はっっっっ!


 美少女の涙!プライスレス!!!!!


 はらはらと涙が零れていく。前世だって見たことなかったユーリが泣いてる姿に、心臓がどっくんどっくん暴れだす。さっき走ったときだってここまでうるさくなかったのに。かわいい、かわいいなこの子!


 こんな可愛い子が俺のこと好きなのか??マジか。天使かな???


「じゃあ、将来、俺と結婚して!」


 ―――――しまった!!!


 ユーリの泣き顔を前にして、つい脊髄反射で答えてしまった!


 プロポーズは夜景の見えるレストランで、給料3か月分の指輪を渡すのがセオリーだって、姉ちゃんに教えてもらったのに…!


 指輪だって持ってないし、座り込んでいるのだってアスファルトの上で微妙に痛い。座り心地は悪い。


「待って!間違え、てはないんだけど…。もっと、もっとかっこよく決めるから!だからタンマ―――」


「はい、姫様。」



「私をお嫁さんにしてください。」





 涙が残る顔でにっこり笑ったユーリはやっぱり可愛い。あ、笑い方は前世のユーリと同じだ。愛しいわたくしの騎士。


 そういえば、前世のお姫様が頑なに結婚を嫌がっていたのは、好きな人がいたからだっけ―――。







 姫野 浩太郎、小学生男子、前世はお姫様。


 どうやら前世の騎士様が、将来のお嫁様みたいです。



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