落とし物
ひろくんは年長さんの男の子です。冬のある夕方、ひろくんは家の近くの公園でお友達とバイバイをしました。
「あれ?あれは何だろう」
公園を出てすぐにひろくんは足を止めました。道の上に何かが落ちています。それは今までひろくんが見たことのないものでした。
「誰か落としちゃったのかなあ。落とした人は困っているよなあ」
ひろくんは立ち止まりました。
少し暗くなっていましたが、あたりにはまだ沢山の人がいます。でも、誰もその落し物には気が付きません。困ったなあ、とひろくんは思いました。どうしよう。
ちりんちりーん。お夕飯の買い物袋を自転車のかごに入れたおばさんが、ひろくんのそばを通りすぎました。
「そんなところでぼーっと突っ立ているとあぶないよ」
おばさんが通りすがりに、大きな声でひろくんに言いました。
公園まで犬を散歩に連れて行くおばさんがひろくんの横を通りましたが、大きな犬がおばさんをぐいぐいと引っ張るので、困っているひろくんやすぐそばの落し物に気付くどころではないようです。地図を見ながら行きたい場所を探しているスーツ姿の男の人もいましたが、もちろんひろくんには気が付きません。宅急便の車に乗ったお兄さんも迷惑そうにひろくんをよけて通ってゆきました。
うーん。どうしたらいいんだろう。辺りはまた少し暗くなってきました。
「にゃー」
すると、ひろくんのすぐ後ろで猫の鳴き声がしました。白に灰のトラ柄でお腹のでっぷりとした猫です。その猫は、ひろくんの足元を通り過ぎて落し物の方へ行きました。くんくんと落し物の匂いを嗅ぎ、顔を上げると落し物の隣でまた「にゃー」と鳴きました。そして太いしっぽを左右に何度かゆっくりとゆらしながら、猫は少しのあいだ落し物の隣に立っていました。そしてひろくんの方へ戻ってくると、猫はひろくんの足に体を擦り寄せ、どてーんとひろくんの足元に寝転んだのです。この猫にはあれが見えるんだ。辺りがだんだんと暗くなってきて一人で心細かったひろくんは、少し嬉しくなりました。
「君にもあれがみえるんだね。」
ひろくんは猫に話しかけました。
「でもあれが何だか僕は知らないんだ。君はあれが何か知っているの」
猫は答えません。だまってその太いしっぽをゆっくりと左右に数回ゆらしただけでした。
ぼく、そろそろお家に帰らないといけないんだけどなあ。ひろくんはますますどうしたら良いのか分からなくなってしまいました。その間も家に帰るサラリーマンや保育園から子供を連れて帰る女の人など、何人もの大人がひろくんのそばを通り過ぎてゆきました。でもひろくんに声をかけてくれる人は誰もいません。
やがて飽きたのか、足元にいた猫がむくりと起き上がりました。そして何も言わずにしっぽを小さくゆらしながら、一度もひろくんの方を振り返えることなく、どこかへ消えてしまいました。
ひろくんはまた一人ぼっちになってしまいました。いったい落し物はどうしたらいいのでしょう。
「ほーう、これはめずらしい。」
ひろくんのすぐ横で声がしました。
「これはこれは。星の落し物ですな」
スーツ姿の男の人がひろくんのすぐ隣に立っていました。
「最近は滅多に見かけなくなったが、こんなこともたまにはあるんですね」
そう言いながらひろくんを見て、おじさんはにっこりとほほ笑みました。ひろくんの顔を見たおじさんは
「おやおや、落し物を見付けてどうしたら良いか困っていたのかな」
と言いながら、ひろくんの顔の高さまで腰をかがめました。
「おじさんはこの落し物の持ち主を知っているんだ。ちょうど今からそちらの方に行く用事があるからこれをその人に届けて来てあげよう。」
どうしたら良いの分からず、ずっと一人で居たひろくんは、ほっとしてちょっぴり涙が出てきてしまいました。
「ほら、あそこに一番星が出ているだろう」
濃い紺色の空に星が一つ出ていました。
「この落し物はね、あの一番星の少し下に出る二番星の落し物なんだ。無くならないようにちゃんと見ていてくれて、ありがとうね。」
ひろくんはごしごしっと目をこすって、無言でぺこっとおじさんに頭を下げました。そしてすっかり暗くなってしまった道を、急いでお家に帰りました。
ひろくんがお家の玄関に手を掛けて後ろを振り返ると、、さっきまで一つしかなかった星のすぐ下にもう一つ、大きなお星様が出ていました。ひろくんは大きな声で「ただいまー」と言いながら玄関の扉をあけました。
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