エネルジーコにガンバルーノ
楽器決めから1週間、ゆきは少し暗かった。仕方がない。希望になんか全然入ってなかったしね。
「いいなぁみずきは。かわいい楽器で。きれいで。私これだからね!?」
いつ見ても重そうな楽器を指さし、ゆきは憤慨した。おーい、隣に先輩いるぞぉ。
「そんなこと言っても、チューバになったんだから頑張るしかないじゃん。」
「そうだけどさぁ…」
「ほらほら、休み時間終わるから。私戻るね。」
「みずきのばかぁぁぁぁ」―なんでやねん。
パート部屋に戻ると、西村先輩が寝ていた。起こすか、いや、このままにするか…いや、やっぱ
「先輩、終わりましたよ?」
「ん…ふぁあ。寝ちゃったか。」
「なんか先輩いつも眠そうですね。寝てないんですか?」
「いや、塾の模試が近くて…」
「先輩、一応勉強してたんですか」
「やってるしなんか失礼だな」
「いや、先輩ゲームばっかしてるって聞いたんで」
「誰にだよ」
「上田先輩」
「…後でスタ爆してやる」
「嫌われちゃいますよ?」
「…練習するぞ。」-あらら、顔赤くして。やっぱり好きなんだ。
今やっているのは、コンクールの曲。今日配られた。マーチだからフルートはそこまで激しい動きがあるわけじゃないって先輩は言うけど、そんなわけない。音符飛び出してますよ。五線の意味ないじゃないですか。
「1から3まで、とりあえずトリルと主旋律だからそこまで難しくないな。セカンドの譜面みして…オクターブしか変わらないか。じゃあ合わせてみる?」
「いや、ぜんっぜん吹けません。追えません。」
「だろうな」-わかってんだったら言わないでよ。
「じゃあまず、13小節目まで歌ってみるか。せーの、ソラソラソラ…」
「え、何ですかこの記号」
「トリル。音を上げ下げして。ほら、歌うよ。せーの…」
「ソラソラソラ…」
「…やっぱピアノやってた御蔭かな、音が正しい。歌いやすいよ」
「…ありがとうございます。」
「んじゃ、楽器で。」
「ソ…と、ラ?」
「あってる。それを繰り返す。」
ホヘホヘホヘホヘ…
「んーっと、もうちょっとしっかり息を吹き込んで…こんな感じ」
ソラソラソラソラ…
―どうやったらそんなにきれいに出るの…?
「練習。」
「っえ?」
「どうやったらって、そりゃ練習しかないじゃん」―心の声、漏れてたか…
「ほら、もう一回。音は出てるんだから。」
「はい…」
西村先輩は、教えるのも楽器も上手だ。優しいし。よかった。いい先輩の下で。
…ほたーるのひかーりまどーのゆきー
―部活動終了のチャイムだ。小学校のとき、6時なんてお家でご飯食べてる時間だよ。
「用事があるのでお先に失礼します。」西村先輩は塾らしい。
「にっしー塾?私も行くから待って~」
「早くしてくださいね上田先輩」-だから顔赤いって。
「ミーティング始めます。気を付け、礼。お願いします。」
今日の日直は私だ。
「今日はコンクール練習を中心に基礎練をやりました。まだまだできないところが多いけど、この土日でできることを増やしたいです。」
「はい、お疲れ様でしたー。今日金曜だからちょっと部活の時間長かったけど、1年生大丈夫だったかな。あ、明日走るから」
えーっ!?、とみんなが叫ぶ。思わず叫んでしまった恥ずかしい。
「1年には先生言ってなかったっけな。筋トレとランニングするから、ジャージもってきてね。あと水分を多めにね。はい、以上です」
「気を付け、礼。ありがとうございました。さようなら」
みーずき、帰ろっ!、ゆきが駆け寄ってきた。
「うん。帰ろうか。」
「ねぇ、西村先輩は上田先輩好きなのかな?」
「ん、まあ、好きなんじゃない?」
「いいよねぇ上田先輩かわいいししっかりしてるし、部長に生徒会って大変なのにこなしてさぁ」
「西村先輩はすぐ顔赤くなるからわかりやすいよね」
「みずきほんと西村先輩よく観察してるね~もしかして…」
―顔にカッと血が上った。
「なわけないじゃん、確かに先輩としては尊敬してるよ、けど、恋愛対象かっていったら、それは、え、だって先輩だし…」
「あ~みずき顔あか~い」
「うるさい!!!」-まさか、そんな、西村先輩は、ただの、先輩、だよね…?