吹部Life Overture
「皆さん!こんにちは!!!私たちは吹奏楽部です!」
中学に入り、もう1週間がたった。小学校のときとは違い、みんなお揃いの制服。ダサくて着たくない、なんて思っていたけど、服を選ばなくていいって、案外楽かもしれない。
「まず1曲目は~?校歌”海の子よ”です!みんなもう歌えるようになったかなぁ?一緒に歌ってもいいですよ!!」
今日は部活動紹介。いろんな部活が踊ったり、ボールを投げたりしているが、吹奏楽部だけは特別ステージみたいになっている。お母さんもトランペットやってたって言っていたし、吹奏楽部にしようかなぁ…運動は苦手だし、絵のセンスなんてないし。
「ねえみずき?部活決めた?私吹部にしたいんだよね~」
「ゆき、音楽好きだもんね~私も吹部にしようかなぁ…」
「みずきママ中学でペットやってたんでしょ?いいじゃんペットやんなよ!」
「トランペットよりフルートかなぁ私は、でもオーディションだからわからないよね~」
「皆さん、今日の演奏はこれにて終了です!入部届は来週までなので絶対“吹奏楽部”って書いて出してください!みんなが来るのをお待ちしておりま~す!!」
「ほらみずき、体験入部のやつ出しに行こ!1年の柿山先生に出せばいいんだよね?早く書いていこうよ!」
「ゆき、うるさいって、もっと落ち着きなよ…」
「柏原有希さん…と、金町瑞希さん…でいいね?吹部に体験しに来てくれてありがとう。楽しんできてね。」
お願いします、とゆき。少し遅れてお辞儀をする。顧問の柿山先生はトランペットらしい。上手なんだろな、と勝手に思った。
「部長の上田さんが迎えに来てくれるから、それまでこのカタログを読んで、何を体験したいかみんな考えておいてください。」
今日の体験は10人らしい。女の子ばっか。男子2人しかいない。そんなものか。
「初めまして。上田晴香といいます。部長で、パートはクラリネットです。今から音楽室まで皆さんを案内します。今日1日楽しんでね!」
―あ、司会やってた人だ。と、誰かがつぶやいた。上田先輩はニコッと笑った。
「ここが音楽室です。各パート順番にこのフロアの教室を使わせてもらっています。まず、みんなの楽器を決めるけど、何がいいですか~?」
クラリネット、トランペット、サックス、フルート…みんな好きな楽器を言っていく。
「柏原さん、何がいい?」
「トロンボーンやってみたいです!」
「オッケー…あの背ぇ高い女の子のとこに行ってね!んで、金町さんは?」
「あ、フルートで…」
「りょーかい、っと…あの背ぇ低い男の子のとこ、西村くんのとこ行って?」
「はるか先輩うるさいです。背ぇ低くて悪うござんした」
「悪いなんて言ってないよぉ~?西村くんこの子パート部屋に連れてって?」
「金町さん、西村です。おねしゃす」
「あ、お願いします…」
西村先輩は確かに背が低い。しかもちょっと女の子みたい。
「金町さん何か楽器とかやってた?」
「あ、ピアノを習ってました。最近辞めましたけど…」
「ピアノとフルートは調が同じだからやりやすいかな。えっと…まずこれ吹いてみて、頭部管。えっと、こう…」
なんだか難しいな。楽器ってもっと簡単なイメージだった。ふぃ、ふぃ、ふゅこー
「もっとこう…近づけて、そう。口の中広くして…」
ふゅこー、ふゅこー、駄目だ、ぜんっぜん音が出ない。
「一回離して、深呼吸しなきゃ。フルート息使うから、くらくらしたらすぐやめていいからね…大丈夫?じゃ、いっぱい息吸って?」
とぅあ、とぅあ、たー、音が、出た。弱くふらふらな音だけど、フルート、吹けた。
「おーし、おっけ。その感覚忘れないで。じゃあ主管と足部管つけて」
ようやく見た目がフルートになった。
「指はこうで…そう。落とさないようにね」…って、つりそうなんですけど!?
「まずは音階から…これとこれで…ドの音が出るから」
ふゅ、ふゅ、ふぁーーー…ピアノと違う、鋭く、力強い音。これがフルートなんだ…
「そうそうそんな感じ。次はシかな。こうやって…」
一つ一つ、西村先輩は教えてくれた。少しずつ、フルートのコツを掴んできた。初めての部活は、とっても新鮮で、ドキドキして、楽しかった。
1週間、部活体験をした。クラもペットもボーンも難しかったけど、音は出せた。チューバなんて全然音が出ない、と思っていたけど、最後の方には出せるようになっていた。先輩の名前もやっと覚えられた。もともと覚えがわるいのだ。
「はいそれではオーディションをやります。全員1個1個吹いてもらいます。まず、この紙に第3希望まで書いてください。」
―フルート、トランペット、ホルン…っと。
「じゃあまず井出くん、君からお願いします。ほかの人は呼ばれるまで隣の部屋で待機していてください。」
「ゆきは何選んだ?」
「クラ、ペット、トロンボーン。みずきは?」
「フルート、ペット、ホルン…やっぱこれかなぁって。有名だし」
「サックスもいいよなぁ」
「木田くんおっきいもんね~」
―みずき、いつの間に男子と仲良くなってんの…?びっくりしたぁ。
「次、鈴木さん、お願いします」
「はい、お願いします。」
―なんだろう、すごいドキドキしてきた。
「じゃあ金町さん、どうぞ」
「はい」
頑張ってね、とみずき。木田くんは親指を突き立てている。こいつら余裕かい。
「まず、音感チェックをします。ピアノを弾くので音を当ててください。」
―ドレミファソラシド、ソー、ミー、ラー…ピアノやっててよかったかもしれない。
「次に、第一から第三まで楽器を吹いてください。まずフルート。西村くん、手伝ってあげて」
ー大丈夫。頑張れば行ける。心の中で唱える。
ドーレーミーファーソーラーシードー。よし、覚えてた。
「はい、ありがとうございます。次にペット、お願いします。斎藤さん手伝ってあげて。」
―あとはもう、いつも通りやれればいっか。
「はい、皆さんお疲れ様でした。それでは発表していきます。井出泰樹君、トランペット。」
―よしっ。井出くんが叫ぶ。第一希望だったのか。
「木田和也くん、チューバ。鈴木美玖さん、クラリネット。金町瑞希さん、」
―どうしよう、大丈夫。大丈夫。大丈夫…
「フルート。池永幸奈さん…」
―よかった。フルートだ。よかった。
「…柏原有希さん、チューバ。以上です。」
え...とゆきは小さく叫んだ。