二話 花魁さん
更新が遅くなってしまい申し訳ございません。諸事情により、名前を変更いたしました。なお、物語には何も変更はございません。また、この作品を読んでくださっている少数の方々には感謝しかございません。気まぐれでも読んでくださっていることにとても深い感激を覚えます、心からの感謝を。
「ここが地獄、ねぇ...。」
「ええそうよ、ここが地獄。おそらくここは第一地獄だと思うけど...。」
「あの、その前に一つ、いいですか?」
「ん?なに?」
「ここ寒すぎじゃない...?」
海斗がそう言うのは無理もなかった。というか普通の反応である。そう、この第一地獄、まさに極寒。地獄といえば灼熱の溶岩、吹き荒れる熱風、そして何よりも燃え盛る火柱の数々。しかし、第一地獄の光景のそれとはまさにかけ離れていた。凍てつく大地、吹き荒れる吹雪、そして何よりも凍っている木々の数々。誰もがこの地を地獄ではなく南極か何かかと思うだろう。
「はぁ...毎回思ってたけど、人類って地獄に対してのイメージが全然なってないのよね。地獄といえば火とか溶岩とか。普通に考えて火が自然に発生することなんてあり得ないでしょ。」
「いや普通にありそうだし。しかもこの状況の方があり得ないし。だって地球の内側に吹雪が起こってるなんて誰も思わないでしょ。だからもうちょっと準備しようって言ったじゃないか!!」
「いいじゃない、私は寒くないんだし。さぁカイ、さっさと第七地獄まで降りて、閻魔様倒しに行くわよ。」
「...なんで前世で俺、こんな人と結婚しちゃったんだろ。あとカイってやつ?なんでスサノオなのにカイなんだ?」
「一応あなたって前世だと水を司る神だったから。だから海をカイって読んでカイ。特にそれ以外に理由はないわ。」
「まずその時代に漢字が存在していたこと自体に驚いているんだけど...」
「あなた絶対歴史の点数悪いでしょ?」
「悪いけど?なにか?」
海斗は歴史以外の点数は平均以上だが、歴史に関してはまさに下の下。幸い海斗の高校は理系高校だったので歴史に無知でもやっていけていたが、中学の時は散々であった。その無知さはまさに卑弥呼と袁世凱を入れ替えてしまうほどである。
「...開き直ってるのは少しイラッと来たけど、まぁいいわ。ここは地獄の中でも突破が一番楽な第一地獄。さっさと突破して、次に行きましょ。」
「これで一番楽とか俺もう心折れそうなんだが...。」
「...あなたそれでも前世猛る神?あの威勢はどうしたのよ?」
「いやぁ...威勢ならもうとっくの昔に妻に取られちゃいまして...。って痛い痛い痛い!冗談だって!ジャパニーズジョークだよ!!」
「あなた、次同じこと言ったら威勢どころかあなたの全てを取ってあげるわ...。」
「!!?それって愛の告白じゃあ..」
「なに?」
「いやなんでもないですすみません。」
日本で夫婦の権力は妻の方が強いのは昔からのようである。彼らの父であるイザナギすらも、イザナミに毎日こき使われていた。そしてこき使われて出来た国が日本という国なのだが、なんとまあサイズの小さい国であったことから、イザナミにさらにこき使われたらしい。なんとも悲しい神である。
「それにしても...生物はなにもいないんだな、ここ。てっきり鬼がうじゃうじゃいるんじゃないかと思ってた。」
「鬼がいるのは第三地獄からよ。こんな高い階層の地獄に鬼なんているわけないじゃない。鬼だって少子高齢化社会だし。」
「なんか日本してんな...。」
「まぁ今の日本と似たようなことにはなってるけど、日本してんなって独特な表現ね...。ってあれ?こんなところに家がある。」
「ええ?どこだよ。どこにも家なんて...え?」
猛烈な吹雪で気付かなかったが、少し先の場所に家が見えた。しかし家の明かりはついていなく、恐らく無人と思われる。
「何かありそうね...行ってみましょう。」
「いや、なにかいたら危険だ。通り過ぎよう。」
「いいえ、私がいるから大丈夫よ。私だってあまり強くないと言っても普通の鬼一匹程度なら勝てるわ。それになんと言っても猛る神がいるしね?」
「...それ聞いてさらに不安になったのでやっぱり通り過ぎよう。」
「いいから!!いきましょ!!」
「...本当、人は顔で判断するもんじゃないよねー...。」
そうため息をつきながらも、海斗はもう諦めたらしく、本気では抵抗していない。そのため早苗は海斗を引きずりながら家まで連れて行った。
「うーん...窓から中を見ても、誰もいなそうねー...。」
「そうだろ?じゃあ早くこの階層を」
【バタン!】
「たのもー!!誰かいないかー!!」
「...あの、もう少し考えて行動した方がいいんじゃないか?」
「いいじゃない!それにあなただって前世ではこんな感じだったし?」
「俺はもうスサノオじゃないし、そんな無謀なことするわけないじゃないか...今は猛る神じゃなくて、ただの怯える高校生だよ。」
「それにしても、ここほんとになにもないわねー...クション!うぅ...ホコリもひどいし、さっさと出ましょうこんな家。」
これではまるで前世と性格が入れ替わったようである。早苗の前世は決してこんな性格ではなく、どちらかというと今の海斗に近い感じだったのだが...まさに性別反転とはこのことだ。
「ったく...だから最初から...おい、早苗。」
「ん?なに?」
「後ろのそれ、なんだ?」
「後ろ?後ろってなに...え?」
早苗は後ろを向いたと途端に肌が青白くなり、冷や汗が噴き出し始める。もはや気絶寸前のようなものであろう。
「えっと...なんであなたがここにいるの?女郎蜘蛛?」
「いやねぇ...クシちゃんったら、久しぶりなのにひどいわ〜。せめて前までのようにジョウちゃんって呼んでよ〜。」
「え、えっと...知り合いか?」
「...ええ、この人?は女郎蜘蛛、通称ジョウちゃんよ。」
「あら!もしかしてあなた、スサノオ様?なにか前よりもお姿が痩せていらっしゃるように見えるけど...でもやっぱりかっこいいわ〜!!」
「ああ、ありがとう...。」
海斗とて女子にかっこいいと言われるのは満更でもないはずである。しかし、この女郎蜘蛛、ある欠点があった...それは
「あの、ジョウちゃん。人間の姿になってくれない?その姿私苦手なのよ...。だって完全にでかいクモじゃない...。」
「俺もそれには賛成だ。俺実は大の虫嫌いで...。」
「もう...そんなに私のこの姿嫌い?それに虫嫌いっていうのは少し傷つくわ〜...。」
「ご、ごめん。そういう意味で言ったんじゃなくて...」
「まぁ、いいでしょう。じゃあ、久しぶりに人間になりますかね...と!!」
すると女郎蜘蛛は天井から飛び上がったかと思うと地面に着く前に煙を発生させた。そしてその煙の中から現れたのは、まさに花魁とも言える格好をした女郎蜘蛛であった。
「さて...改めてあちきの自己紹介をいたしんしょう。あちきは女郎蜘蛛。元は地上で暮らしていやしたんですが、訳あって今はこの第一地獄に住んでいやす。」
「...本当、あなたってその姿だと美しいわよね...言葉遣いも綺麗だしって海斗?なにをボーとしてるの?」
「...いや、なんかあまりの変わりように驚いていただけだ。」
「ふふ...変わったといえば、お二人さんこそ変わったのではないですかい?前とはえらい、姿や性格が違うように感じやすが。」
「ああ...それなんだけど、」
そして早苗は女郎蜘蛛に今までのあらすじや、どうして海斗たちの姿が違うのかを説明した。
「さいでありんすか...わかりやした。あちきもお二人のお供をいたしんしょう。こう見えてもあちき、そこの姫さんよりは強いでありんすよ?ただし、地獄までのお供となりやすが、よろしいでありんすか?」
「本当!?助かるわ!!」
「ええ、本当でありんす。しかし、一つ条件を出してもよろしいでありんすか?」
「...その条件は?」
「スサノオ様を、あちきの婿さんにしておくんなんし。」
「え?」
「ちょ!ジョウちゃんなに言ってるの!?海斗は私の彼氏だから!!」
「でもお前、俺をさっきまで殺そうとしてたし...」
「それは...本当でありんすか?それでは尚更クシちゃんの側には置いておけないでありんす。スサノオ様は今まであった男の中で1番の間夫。まさにあちきの本命でありんす。」
「ああー!!!もう!!ほら海斗立って!こんなやつさっさと置いていくわよ!!」
「まつでありんすよ。ただのじゃぱにーずじょーくでありんすからそう慌てないでおくんなんし。」
「うるさいうるさいうるさーい!!!」
こうして新たに女郎蜘蛛、略してジョウちゃんを含めた3人の地獄攻略が始まった。




