プロローグ 告白されまして。
「好きです、付き合ってください。」
そんな言葉を聞いたのは人生で初めてのことだった。彼女いない歴=年齢の俺にとっては当たり前だが馴染みのない言葉である。まさしくその言葉は幻と呼んでも過言ではないだろう。だからその言葉を実際に聞いたときには耳を疑ったよ。ついに彼女が欲しすぎて幻聴が聴こえてきたのかってね。でも、目の前にいる人物は確かにそこにいるし、残念だが俺の耳はどちらも鼓膜は破れてない。まぁつまり、そこから導き出される答えは、、、
「あの、お返事は、、?」
「ひ、ひゃい!!」
俺は今、確実に告白されているってことだ。
「コホン。えっと、何故早苗さんが僕なんかに告白を?(声裏返っちゃった。)」
「えっとその、、実は一年生の頃から海斗君のことずっと好きで、、気がつくといつも海斗君のこと目で追ってました。それからどんどん好きになっちゃって、、。」
「あ、うん。そうなんだ。あはは、、、」
やばい可愛すぎる、この生物はもはや人間ではない。正しく神々しく輝く女神だ、、っとあれ?なんか早苗さんからキラキラしたものが、、、っと流石に幻覚だよな。確かに早苗さんはクラスで一番可愛いけど、流石にオーラは放っていなかったはずだ、多分。
「きっかけは一年の夏休みでした。私、熱中症になりかけて道端に座り込んじゃった時あったでしょ?」
「そういえばそうだね。その時たまたま俺が通りかかったんだっけ。でもあそこの道、神社にしか通じてないはずだけどなにしてたの?」
「えっと、少し神社に用事があって、、まぁそれはともかく、その時海斗君が私を見つけて助けてくれた時、本当に嬉しかったんです。私何故かクラスの人とかに避けられてたから、、それで海斗君が話しかけてくれて嬉しかったんです。」
まぁクラスの人が早苗さんを避けていたってのは早苗さんが神々しすぎるからだけど。早苗さん誰にでも分け隔てなく接していたからなんかクラスの中で聖母マリア的な位置になっちゃって、、、それで全員話しかけにくくなっちゃったんだよね、なんか自分が話しかけたら早苗さんが汚れてしまうみたいな。
「その日から海斗君のこと気になって、そこから一気にって感じで、うぅ、恥ずかしい、、、それで、お返事は頂けますか?」
「(可愛い)えっと、その、お、俺で良ければよろしくお願いします。」
「え!ほ、本当に?!やったぁ!じゃあ海斗君!一緒に帰ろうよ!」
「え!?あ、うん。だけど早苗さんの家って俺の家の方向なの?」
「うん!結構海斗君の家と私の家近いから、登校する時たまに見かけたんだけど、、その、恥ずかしくて話しかけられなくて、、それと、私のこと早苗って呼んでいいよ?」
「分かった。じゃあ早苗、、良かったらなんだけど、明日から一緒に登校する?」
「え!?いいの!もちろんだよ!」
嗚呼、可愛いは正義なんだなってつくづく思い知るよ。可愛すぎて俺が死にそう。
「じゃあ帰ろっか!」
「うん、そうだね。帰ろうか。」
彼女はいいよ、かなりね。いてくれるだけで俺に幸せと喜びを与えてくれる。ああ、こんな日がいつまでも続けばいいのにな、、、。
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そして、幸せな日が終わり夜が明けた。俺はゆっくりと体を起こし、時計を見る。
「、、ん?あれ?この時計壊れたのか?確か学校の登校時間が8時10分だから、、、今8時?」
その瞬間、俺は全てを悟った。そして理解した。
「これ、遅刻やんか。」
その後の俺の行動は早かった。まずコンマ0.1秒で制服を着て(つもりで)一階に降りた瞬間母さんを振り切りパンを口に加える。そして玄関を勢いよく飛び出すと同時に
「あたっ」
「いたっ!!」
早苗と頭をぶつける。
「いたた、、ってなんで早苗がここにいるんだ?」
「だ、だって、、一緒に学校に登校するって昨日言ったから、、」
「あ、そうだった、、、あの、ちなみに早苗。」
「ん?なに?」
「今の時刻何時か知ってる?」
「えっと、、8時かな?」
「遅刻じゃない?」
「遅刻だね。」
『…』
「早苗、、」
「海斗君、、」
幸せな日の翌日の朝は、最悪の朝だった。
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「やっと授業終わったー」
「そうだなー」
「それにしても朝から最悪だよなー、遅刻だなんて」
「そうだなー」
「それにさっきからずっと俺の太ももをつねってくる奴もいるからなおさら最悪だよなー」
「そうだなー」
「…あのさ智樹、いつまで俺の太ももつねるの?これ地味に痛いんだけど。」
「そうだな、、後3時間くらい?」
「授業始まっちまうだろうが。」
「うるせぇ!それもこれも海斗が悪いんだぞ!俺を置いてあの立花早苗様と仲良くなるなんて!死んでしまえこの女たらしが!」
「おいおいクラスメイトだろ?なんで様なんかつけるんだ?」
「お、お前、、常にそんな仲にまで、、、」
「いや普通だろ。」
はぁ、、予想はしてたがまぁこうなるよな。そりゃクラスどころか学校全体に名前が知れ渡り、ついには【聖母早苗ファンクラブ】なるものまでできてしまっているんだ。そんな奴と一緒に登校しているのを見られたら、、まぁこうなるんだよなぁ。なんか教室の隅では
「坂本智樹、信楽海斗との接触を確認。」
「坂本智樹に信楽海斗の処分を要求する。」
「しかしどうやって?」
「無論、簡単なことだ。この立花早苗写真集を渡せば一発だろう。」
「なるほど、それはいい案だ。」
とかファンクラブの会員が言ってるし、怖くて仕方がない。しかも智樹ならもしかしたら、、いや、智樹は俺の友人だ。いくらなんでもそんなことは
「くそ、海斗め、、、いつか家に腐った卵100個送りつけてやる、、、。」
やらなかったけど嫌がらせが地味にうざいな。しかも腐った卵100個ってどうやって用意するんだよ。
「まぁ、それはともかく飯だな。海斗、食堂行こうぜ。」
「あぁ、行くか、、っと、うん?なんか早苗がこちらに近づいてきているような、、、」
そして早苗が俺の前でピタリと止まったと思うとなにやら四角い物体を俺の前に突き出してきた。
「あの、海斗君!これ、作ってきたからよかったら食べてください!」
「、、、あ、あのさ智樹。一回落ち着こうぜ?別に俺と早苗はそんな感じじゃ、、」
「さ、早苗、、?お前いつ早苗様のこと早苗って、、、というかこれ、弁当だよな?ああ、そうか。なるほどな。じゃあな海斗。お前だけは信じてたんだがな。」
「いや、なにを信じてたんだ?お、おい!待てって智樹!少し話を、、」
「か、海斗君、、?あの、やっぱり私の作った弁当なんて食べたくない、、、?」
「い、いや、そういうことじゃ、、って智樹?!」
「うわぁああああしんじてたのにぃいいい!!」
「ともきぃいいいい!!、、行って、、しまった、、。」
なにか、、俺は彼女を得たとともに何か大切なものをなくしてしまった気がする、、、。そう、それは友人という名の
「あの、海斗君、、もし良かったら、一緒にご飯食べない?」
「ああうんもちろんだよ。じゃあ早く食べようか。」
友人?そんなの彼女に比べれば大したことないよ⭐︎
「でも、智樹君には悪いことしちゃったかな?もし良かったら3人で」
「いや、智樹はお昼の時間になるとランニングをするのが最近の趣味らしくてさ。だからいまのは気にしなくても大丈夫だよ。」
「そう、かな?そうだよね!じゃあ二人で食べよっか!」
よし、それでは弁当を開けてみるか、、ってこれは!
「えへへ、実は昨日一緒に帰ってる時好きな食べ物聞いたでしょ?だからお弁当に海斗くんの好きな食べ物を沢山入れてみましたー!」
はい神。もう早苗以上に完璧な女子なんてこの世に実在するんだろうか。いいやいないね。これには誰にも異論は唱えさせない。これは人類普遍の原理であり、、てのはまぁ冗談だとして。それにしてもこのだし巻きたまご、、焼き加減が完璧すぎるな。それにこのタコさんウインナー、中にイカさんウインナーまで仕込まれているとは、、この徹底ぶり、流石できる女は違うぜ!、、でもなんでこのイカさんウインナー白いんだ?
「それじゃあ、いただきます。ではまずだし巻きたまごから、、こ、これは、、!もしかして出汁から自分で取ったのか?」
「う、うん。やっぱりどうしても市販の出汁だと自分で取る出汁より美味しくなくて、、やっぱり海斗君に食べてもらうものだから妥協したくなかったし、、おいしい?」
「ああ、おいしいよ。」
「やった!じゃあどんどん食べて!他にも色々工夫したんだよ!特にこのイカさんウインナーとか!」
「へぇそうなんだ。ちなみになんでこれはソーセージなのに白いんだ?」
「このソーセージはドイツのミュンヘン名物、ヴァイスヴルスト、通称白ソーセージを使っているからだよ!でもヴァイスヴルストは皮ごと食べられないし傷みやすいから、、だから工夫が一番大変だったんだ。」
「へ、へぇ、、じゃあいただきます、、おお!なんだか普通のソーセージと違うけどおいしい!」
「それなら良かった!一番大変だったから美味しくなかったらってヒヤヒヤしたよ。」
「まぁ、早苗が作った料理だから不味いわけないんだけどな。」
「海斗君、、、」
「…くそ、イチャイチャしやがって、、即刻、信楽海斗の処分を要求する。おい坂本智樹、聞いているのか。」
「ちくしょおおお!俺だって、、俺だって、、、、、!!」
【彼女が欲しいんだよぉおおおお!!!!】
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「…なぁ智樹、そろそろ泣き止んでくれないか?そろそろ分かれ道だし、、」
「うるさい!黙ってろ!、、なあ海斗。」
「なんだよ。」
「俺にも、、彼女、出来るかな?」
「ああ、当たり前だろ?だって女子は空の星の数ほどいるんだぜ?その中で智樹に惚れない奴なんていないだろ。」
「!!そ、そうだよな!そうだよ!この世界には早苗さんよりも素敵な女性はいるはずだ!俺はその女性のハートをかならず掴んで見せるぜ!」
「(様付けやめたのか)お、おう。頑張れよ!応援してるぜ!」
「よし!そうと決まれば早速家に帰ってギャルゲーだ!じゃあな!」
「ああ、またな。」
…智樹よ、何故それが彼女ができない理由だと気づかないんだ。それはともかく、早苗は一人で用事があるからって先に帰っちゃったし、家に帰っても母さんは買い物、父さんは仕事、妹は学校で家族はおそらく誰もいないだろうし、暇つぶしに神社にでも行くか。昔からあの神社は猫がなぜかいっぱいいるし、良い暇つぶしになるだろう。そうと決まれば、、走って行くか!!
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「はぁ、、はぁ、、い、意味もなく走るんじゃなかった、、。そのせいで無駄な体力使っちまった、、、。」
海斗、実は重度の運動音痴である。別段身体能力が悪いわけではないのだが、昔からスポーツとは無縁の生活をしていたせいで体力も身につかず、運動神経ゼロとなってしまった。
「しかしこの神社も随分とボロくなったよな、、でも何故か猫はいるんだな、やっぱり、、うん?なんか神社の裏から光が、、?」
一瞬また幻覚かと思ったが違う。明らかに強い光を放っているし、周りにはその光のせいで影もできている。つまりこの光は俺の幻覚ではないというわけだ。
「み、見てみるか?いやでも、、もしも爆弾とかだったら、、んなわけないか。まぁ大体誰かが懐中電灯落としたとかだろ。普通そんなことあり得ないけど。」
そして俺は恐る恐る神社の裏を覗いてみると、、そこにあったのは、いや、居たのは予想外の人物だった。
「、、!!海斗、、君?」
「さな、、え?」
そこには、まるで昔話に出てくるような天女のような格好をした早苗の姿があった。