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異形戦舞  作者: 天狗天子
5/5

射木組と高次元ライブラリー

3年ぶりの最新話ってマジ?

既に忘れてる人も多いだろうしってか忘れてる人しかいないと思うので、過去作も是非読んでってくださいな。

 僕が(はやて)達のチームに正式に加入して、最初の金曜日の放課後。僕達は、()()()()()に来ていた。いや、厳密には謎の異空間にある図書館に来ていた……。

「どうリザ?良さげな本あった?」

「いやまだだ…。むっ!??」

「見つけた?」

 颯とリザは本の山を搔き分け、目当ての本を探している…のだが……。

「これは凄い!ウィルエンTの作画集の初版じゃないか!!!とっくに絶版になってて半ば諦めてたんだ……!」

「関係ない奴でしょそれ。さっさと魔人形絡みの本…あっ!」

「すまないつい…お、そっちは見つけた?」

「懐かしい…。コレ私が好きだった絵本だわ。アッハハ!そうそうこのキャラクターがとっても愉快なのよねぇ♪」

「君こそ関係ない本じゃないかっ!欲しいのは魔人形の情報だろ!」

「くそっ!何でこの場所にケルが居ないんだよ!?ツッコミが追いつかない…!!」

 颯とリザが漫才やってる中、唯一真面目に資料探しをしてくれそうなレシエは……。

「あ、あのあのっ...! 私も颯さん達を手伝…」

「はぁ……♪どうして貴女はそんなに愛らしいのっ!?レシエたんマジLove……」

「あぅ…。あ、羽根もふもふですね……」

 この異空間の主人である…有翼人の女性に拘束されている。

「…どうなっているんだこの状況は……」

 事の発端は今日の朝へと遡る。



魔人形(まにんぎょう)の調査結果(視点:降石視晴(ふるいししはる))


 朝。アパートを出た所で僕、颯、リザ、レシエ…三位一風(トリニティウィンド)の皆が集まる。チーム全員が同じアパート、同じ学校(レシエは中等部だが)なので、用事がない時は一緒に行こうということになっている。この集まりが、実質チームの朝ミーティングの役割をしている。

「皆、魔人形のサンプルの解析が昨日終わったよ。一応メモに纏めたから、夜までに目を通しておいて」

 リザはチームの頭脳。参謀も務めている。リザのメモは要点が纏められていて助かる…のだが……。

「また全部英語ね…。ハル読める?」

 チームの半数が英語圏(イギリス)出身故、英語が多い。

「これは…時間がかかりそうだ」

「あ、ごめん…シハル……。まだ日本語で書くのは慣れてなくて……」

「いいよ。せっかく纏めてくれたんだ。頑張って解読する」

 正直英語はあまり得意ではない。多少はニュアンスで分かるが、実践となると自信がない。

「それじゃ時間が勿体ないわ。仕方ないから私が読んであげる」

「…助かる」

 そういえば颯は帰国子女だった。時折、颯もリザ達に合わせて英語で会話してることがある。何時か、僕に内緒の話は英語でってルールが女子たちの間でできそうだ。今日から英語頑張ろう。

「えっと、お昼はまた部室で、ですよね?」

「ええ。場所覚えてる?部室棟4階西よ」

「大丈夫ですっ」

「しかし、よく学校内に拠点を設けられたよね。何か、コネクションや生徒会長さんとかに借りを作れた機会でもあったのかい?」

 僕が颯の狩りを手伝い始めた頃、その部室を学校内での異形狩りの拠点とした。そこは元々文芸部の物なのだが、文芸部部長兼生徒会長である人物から許可を得て使っている。非公開であるが、学校の理事長にも認められている。

「あー…まぁね…。あ、友二(ゆうじ)(じゅん)!」

 アパートから少し歩いた所で、友二と純の幼馴染二人が待っていた。

「おっすハル!」

「おはよ、ハルくん。颯ちゃん達に、レシエちゃんも!今日も可愛いなぁ♪」

「あ、はい!おはようございます」

 純は先日レシエと初対面して即一目惚れしたそうだ。早速レシエにべったりだ。

「んー、まだ信じられねぇぜ…。あのクレシェンドがさ……」

「あー…。まぁそうだよね。僕もまだ実感ないや」

 目の前にいる小柄な少女が世間で話題の歌い手クレシェンドの正体だなど、簡単に受け入れられるものではないだろう。友二と純も、リザの時同様ある程度の経緯は話してある。純はともかく友二は口が軽そうに見えるが、こう見えてとても口は堅い。バカだけど筋は通す、それが友二のいい所だ。

「あ、そうだ。純、今日も部室借りるよ」

「またチームの相談?うん、わかった。お兄ちゃんに伝えておくね」

 一応()()()()()の許可も貰っておく。いや、建前上では僕達全員、文芸部所属ということにはなっているけど。

「お兄さん…?ジュンの?」

「ん?リザ達には言ってなかったか?純の兄貴が、文芸部部長で生徒会長なんだぜ?」

「加え、苗字が違うから余り知られていないけど、純達の父さんがウチの学校の理事長なんだよ」

「え、そうだったんですか!?」

「それはまた…意外な事実だね……」

 純の兄と父。この2人がいるおかげで、射木組は学校内に拠点を設けることができたのだが、それはまた別の話だ。世間は狭いなぁ。

「最近は生徒会の方が忙しくて部室には来てないけど。お兄ちゃんもお父さんも2人に会うのが楽しみだって言ってたよ」

「ま、まぁ…拠点設立ができた理由は理解したよ。お兄さん達によろしくね…」


 そして時が進み、昼休み。

「ん、ハル行くわよ」

「待てよ早いって…!」

 授業が終わると同時に颯は教室を出る。

 部室は僕達のいる教室から少し遠くの部室棟にある。そもそも僕達が通う陵雲学園(りょううんがくえん)は物凄く広い。中高一貫の進学校で、すぐ隣には同系列の大学もあるという、世にも珍しい学園だ。学費などもお手頃らしく、一体どうやって経営しているのか不思議でならない。高等部は外部の中学からの進学も多く、外部生向けの入試も簡単な為か、僕や颯に絡んで来た不良達のような生徒も少なからずいる。

 教室を出て2分くらいだろうか、ようやく部室に到着した。途中でリザと純、レシエとも合流した。友二は別の友人達と学食へと向かったらしい。

「じゃあ鍵開けるね…アレ?もう開いてる……。ってことは……」

 純は鍵をしまい、扉をノックする。

「ああ、どうぞ」

 部室の中から、凛とした男子生徒の声がする。僕と純、そして颯はその声の主を知っている。扉を開けると、長身で細身、整った顔立ちの男子生徒が鋭くも真っ直ぐな目でこちらを見ていた。

「…なんだ、純とハルか」

解人(かいと)兄、来てたんだ」

「ハル…。校内では会長、もしくは部長と呼べと言っているだろ」

「お兄ちゃん、今日は生徒会じゃないの?」

「ああ純。今日の会議は先生が出張で無くなったからな」

「ねぇシハル。もしかして彼が…?」

「うん。純のお兄さん」

「む、射木と一緒に居る2人は…高等部一年と中等部三年に編入して来た2人だな?」

 男子生徒は2人の前まで来た。僕よりも身長が高く、2人は彼を見上げる。

「あ、どうも。リザ・ワインダーだよ」

「えと…風音(かざね)レシエ、です…!」

「陵雲学園へようこそ、ワインダー、風音。俺は戸真解人(とまかいと)。純の兄で、今はこの陵雲学園生徒会会長などもやっている。よろしくな」

 解人兄の左腕には生徒会の腕章が付いている。

「どーも会長さん。ここ、これからチームミーティングで使うわよ」

 颯は相手が年上で会長だろうと言葉も態度も変えず堂々としている。

「ハヤテ…君って奴は……」

「ああ、構わないとも。お前達の行動は、結果的に校内の治安も良くしている。これくらいの協力なら喜んでやるさ」

「ちあん…ですか?」

 レシエは頭を傾げている。

「転入生達は知らないだろうが、射木が来て以来、校内に潜み悪事を働いた異形を何体か退治してくれているんだ」

 陵雲学園の生徒の中にも異形は存在する。その殆どが表だった行動はせず、ひっそりと過ごしている。しかし中には悪事に走る者もいる。生徒の中に潜んでいる異形は、まだ若く、未熟で更生の余地があるので、大抵は懲らしめて叱って終わり。ということが殆どではあるが、中には行き過ぎた罪を犯し、止めを刺した異形も居た。

「この学校内にもそれだけ異形がいるのか……。って、普通に異形の事情とか知っているんだね、カイト会長は」

「射木組は我が校のスポンサーだからな。尤も、この学園で異形及び異形狩りを認知している者は教師含めても少ない。教師にも異形が紛れている可能性があるからな」

「そういえば会長さん。私が懲らしめた連中のその後って聞いてる?」

 極一部を除いた異形の生徒達は、颯が懲らしめた後休学扱いになっている。一般人への説明等は解人兄や射木組の人達が根回ししてくれている。

「ああ。彼らはそれぞれ、自分達のコミュニティでそれなりの処罰を受けたと聞いた。幸い、彼らのコミュニティには拷問や死刑などのルールも無く、休学が終わる来月には普通に登校するようになるだろう」

「そ。まぁちゃんと反省したならそれでよしよ。アイツらによろしくね」

 なんだかんだで颯は優しい。 

「ああ。…さてと、話が逸れたな。作戦会議だったか?部室は自由に使ってくれて構わないぞ。…ああそうだ。今後もここを使うというなら、いっそワインダーと風音も入部扱いにするか?一応文芸部の部室だからな。その方が都合がいい」

「私は構わないよ。レシエは?」

「あ、はい。私も大丈夫です」

「うむ。では俺は2人の入部手続きをしてくる。入部届はこちらで適当に書いておくから、お前達は会議を始めるといい」

 解人兄はそう言って部室を後にした。

「ん。じゃあ始めましょ。お昼食べながら」

 こうして、チームの会議が始まった。リザがタブレット端末に一通りの情報を表示し、全員に見えるように置く。

「あ、私は隅にいるね。気にせずやってて」

 純は椅子を窓際に持って行く。純なりの気遣いだろう。

「まず、魔人形の作りについてだ。ハヤテ達が散々倒してくれていたおかげでサンプルは大量だ」

 リザはカバンから袋に入れた人形の破片をいくつか取り出す。

「これは頭部、そしてこっちが爪、あとローブと中の機構部分の残骸だ。相当脆い構造なのか、まともな状態の関節部分やコアと思われるパーツがないのが残念だね。できれば一体丸ごと、無傷で捕獲出来ていたらよかったんだけど……」

 タブレットの横に置かれた破片を皆で確認する。

「顔はプラスチック製、内部は木と土製、爪は金属製っていった感じで、材質はバラバラだ。日本でこれだけの材料を集めて大量生産は一個人でできないんじゃないかと私は思う」

「何処かの企業がバックについてるとかでしょうか?」

「企業絡みって可能性はあるでしょうね。そうなると、工場かしら」

「でもこの町だけでも結構あるよ。そう簡単に見つかるのか?」

 廃工場も含めるとさらに候補が増える。

「魔人形は過去にイギリスでも発見されてるって宮藤が言ってたでしょ?なら、イギリスの会社と連携してる企業で絞り込めない?」

「成程…。それは調べてみる価値はありそうだ。もしかしたら、魔法協会と関係あるかも知れない。私の方で協会に問い合わせてみるよ」

 リザの言う魔法協会とは、西洋に住む魔術士の中立の大きな組織だ。下級職である魔法使い、その上位の存在である魔女や魔導師によって構成されている。罪を犯していない魔術士の保護や研究の支援が目的の組織で、リザもその協会に登録している。リザの装備やケルの開発費なんかもそこから出ているらしい。

「協会に確認ねぇ…。それって結構時間かかりそうね」

「まぁ仕方ないよ。国が違うんだから。時差もあるし」

 魔法協会の本拠地はその時の最高責任者によるらしい。現在はフランスに本拠地を置いているのだとか。

「それならさ、あそこ行きましょうよ」

「あそこって…まさか()()()()()()?この町にも()()()があるの?」

「ええ、あるわよ」

 2人だけで何やら会話が進んでいる。

「えっとハルさん。ゲート…って、何のことですか?」

 レシエに聞かれるが、ライブラリーやゲートなんて用語は初めて聞いた。

「…ごめん、僕も分からない。2人とも何を話しているんだ?」

「ああ、レシエとシハルは行ったこと無いんだね。ライブラリーって言うのは、私達異形に関わる者達にとってとても大切な情報収集の場なんだ。…まぁ、世界各地からアクセスできる情報局…みたいな?」

「はぁ…?」

 正直、理解できない。ネットサイト?図書館…?

「これも見た方が早いわね。放課後、そこに行くわよ。良い機会だし、アンタら2人も紹介するわ。あ、リザ。一応協会への連絡もお願いね」

 こうして、会議はあっさりと終わった。



射木組は威勢のいいアットホームな職場です。(視点:降石視晴)


 放課後、僕と颯、リザ、レシエは商店街へと向かった…が、何故かスーパーで買い物をしている。

「何で買い物?今日の食材はもう家にあるけど…?」

「土産よ。ライブラリーに入るには対価(入館料)があるの」

 颯は僕が持っている買い物かごに2100円くらいの牛ステーキ肉を入れる。それから直ぐにリザも鰻を2000円分入れる。

「って高っ!?」

「一人当たり、日本円だと2000円程必要なんだ。お金でもいいんだけど、食料とかの方が喜ぶんだよ。ライブラリーの主は」

「何それ!?そんな高い入館料取る場所なの!?」

「ほらアンタらも2000円分買いなさい。お金は私が出すわ」

「わ、分かったよ…」

「えっと…何がいいのかな……?」

 僕とレシエもスーパーで2000円相当の品を集める。僕は2200円のギフト用クッキーの詰め合わせを、レシエは600円くらいの紅茶、緑茶の茶葉を2つずつ買うことにした。

「合計15056円になります」

 消費税込み+颯が買い食いするための総菜などで結構な額になった。

「ん、かーどよ。一括でいいわ」

 颯が出したカードは…黒いカード…!?

「…えっ?!…あっ、はい…え…?」

 レジのお姉さんが困惑している。そりゃ普通女子高生がそんなの持ってるとは思わないよね。

「…リザ、前々から気になってたんだけど、異形狩りの年収って平均いくらなの…?」

「国や組織によるんだけどね。私の場合は協会からの収入を含めて日本円で700万くらいだよ」

「そんなに…!?」

 僕なんか祖父さんの店のバイトで月6万くらいなのに…。

「だけど、颯とレシエはもっと凄いよ。何故か桁が文字通り違うんだよね…。どっちも相当古い歴史とその実績があるからかな……。あ、レシエは歌い手としての副収入もあるね」

 リザの組織は19世紀頃に発足したらしい。それに対しアルヴハイムは15世紀、射木組は発足自体は19世紀だが、元になった組織の起源が平安時代頃なんだとか。

「…なら何時も自分で払えよ……」



 買い物を終えた僕達が辿り着いたのは……。商店街にポツンと経っている小ビル、向かいには祖父さんの喫茶店(イーグルアイ)があって……。

「って射木組じゃないか。まさか、そのライブラリーってこのビルの中にあるの?」

「そうよ。厳密には入口が、ね」

「ここが…颯さんの組織のギルド……」

 颯が所属する組織『射木組』は表向きには土木建築や警備員派遣などの事業をしている会社ということになっている。外観は確かに普通の会社…なんだけど……。

「じゃ、入りましょ」

 颯が先頭に立ち、ビルの中へと入る。自動ドアが開き、中にいた屈強な男性たちが一斉にこちらへと振り向き―

「「お嬢!!!お帰りなさいませ!!!」」

「ぴぃっ!?」

 いきなりの統率の取れた大声。それにレシエが驚き跳ねる。

「Oh…Japanese Yakuza…」

 リザも驚いたあまりに母国語が出ている。

「「視晴坊ちゃん!!いらっしゃいませ!!!」」

「ど…どうも……」

 僕も何度かこの事務所には入っているけど、この出迎えは未だに慣れない。しかも皆僕の事を()()()()に扱う。何でだ。

「んー。あんたらは後の二人初見だっけ?こっちがリザ、で小さいのがレシエ。二人共私のチームメイトだから。失礼したら…分かってるわよね」

「「はい!よろしくお願いします!!!リザお嬢ちゃん!!レシエお嬢ちゃん!!」」

「ぴぎゅっ!?は、はひ!よろしくお願いひます!!!!」

 レシエは何故か敬礼で返す。

「あ…うん……」

 リザは余りにも高すぎるテンションに逆に冷静になって返す。

「それでお嬢!本日はどんな御用で?」

 舎弟頭っぽい人が颯の前に立ち、若衆っぽい人達が僕らの鞄を持ってくれる。…なんで射木組の人達ってカタギなのにヤクザっぽい恰好や言動してるんだろ……。

「ライブラリーを使うわ。父さんとお兄ちゃんは?」

 この事務所は颯の実の父と兄が管理している。ヤクザで言う所の組長と若頭って感じらしい。…なんで僕までヤクザで例えてるんだ。

 僕は颯のお父さんとはまだ会った事がないが、お兄さんとは一度会った事がある。…そういえば、颯のお母さんとか他の家族も見たことないな…。

「親父も若頭も、本日は外出されています。若頭はお嬢が帰る頃には戻っているかもしれません」

「ん。コレアンタらに差し入れよ。今いる奴らで食べなさい」

 颯は買い物した物の中からお徳用おつまみセットを3つくらい舎弟頭っぽい人に渡す。

「ありがとうございます!お嬢!!!では、我々はこれにて失礼します!!!」

「「失礼します!!!!」」

「あ、あと入り口前に()()()()いると思うけど、それはリザのパートナーよ。ちょっかいかけないようにね」

 大きい犬、つまりはリザの使い魔のメカ犬ケルベロス、通称ケルのことだ。え、ずっとついて来ていたの!?…振り返ると擬態中のケルが本当に居た。

「「へい!!」」

『日本のマフィアはやかましいな……』

 射木組の人達が受付の人以外去ってようやく静かになった。僕らの鞄は受付の方で預かってくれるようだ。

「す、凄い人達でした……」

「悪い奴らじゃないわ。そのうち慣れるわよ。ほら、さっさと行くわよ。夜になったらすぐ閉めちゃうんだからアイツ」



高次元ライブラリーと有翼人ディア(視点:降石視晴)


射木組の3階にある資料室。その奥の小さな倉庫スペースにそれはあった。

「え…扉…ですか?」

レシエが指差す方向には、洋館などにありそうなアンティーク調の扉だけがポツンと置いてあった。

「そう。あれがライブラリーの入口よ。あの扉から別の場所へ飛ぶの」

「…どこ〇もドア?」

 僕の脳裏には国民的アニメっぽい小道具が浮かぶ。

「あー…うん。日本のアレだね。まぁ…それには近い…かな」

 リザも知ってるんだ。あの青い()。…人?

「おっと、そうだ。シハル、レシエ。ここから先は通行料以外の物は持ち込み不可だ。財布、ペン、筆記用具類、スマホも全部だしてね」

 リザと颯は手慣れた感じに小さな荷物を備え付けられている箱にしまう。

「全部ですか…!?凄い厳しいんですね…」

「そりぁこの先には世界が揺らぎかねない情報がたくさんあるもの」

「世界をって…一体どんな?」

「なんて言えばいいだろう…。…知ろうと思えば本当にどこまでも知ることができるんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね」

「そういった情報を傷つけない、必要以上に漏らさない。だから持ち込みも持ち出しも不可なのよ。中で見て、頭に覚える事だけで情報が持ち出せるの」

「な、成る程…。分かったよ」

 僕とレシエも財布や携帯を箱に入れる。

「あの、コレもですか…?」

 何故かレシエは仮面ファイターの変身アイテムの玩具を持っていた。

「それ普段から持ってるんだ…」

「こういうの持ってるとなんだか勇気が出るんです。今日は仮面ファイターMのアイテムなんです!」

「日によって違うんだ…」

 この子の部屋、きっと特撮グッズでいっぱいなんだろうなぁ。

「残念だけど、それもダメだよ」

 リザも複雑そうに答える。

「あぅ……」

 レシエはしょんぼりしてアイテムを箱にしまう。

「さ、入るわよ」

 颯が扉を開くと、部屋一面に眩い光が満ちる。

「うぉっ!?眩し…!」

 思わず目を閉じる。光が収まったのを感じて目を開くとあたりの景色は一変し、巨大な図書館のような場所になっていた。

「ど、何処だここ…!?」

 後ろを見てもさっきまでいた射木組の部屋は無い。

「ここがライブラリーよ。降石視晴君」

 奥の上の方から女性の声がする。

「だ、誰だ…!?」

「はじめまして、視晴君、()()()()()()

 頭上から天使のような翼を持った、白髪の成人女性が下りてきた。白い服装も相まって天使や女神に見えなくもない。

「は、羽!?…()()…?」

 何か触れてはいけない気がする事を言い出した。

「あー気にしないで。何時もの事よ」

「彼女には、その…()()()()()()()()()()()()が見えてるらしいんだ」

 颯とリザは慣れているようだ……。

「ようこそ高次元ライブラリーへ。私はディア。このライブラリーの主にして、貴方達とは違う遥か高い次元に生きる―」

 ディアと名乗った有翼人の女性は僕の後ろに隠れていたレシエを見て硬直した。

「生きる…え?ど、どうしたんですか…?」

 ひょこっとレシエが顔を出す。

「……!」

 彼女は無言でレシエに急接近してきた。

「ひゃあ!?」

 そしていきなり抱き締めた。

「きゃあ~~!!!!!レシエちゃん!?レシエちゃんじゃない!!!!いぃぃよっしゃああああああああああ!!!!!!とうとう私の所にも来てくれたのね~~~~!!!!」

「「はい…?」」

 その光景に僕とリザは唖然とする他なかった。

「神!レシエイズゴッテス!!!!天使!!!ラブリーマイエンジェルゥ!!!!!好き!!!!!」

 さっきまでの神秘的な印象と打って変わって、いきなり限界化したオタクみたいな言動になった。

「写真!写真いい!?あーあと絵!絵に描かせて!!!!!んぁぁぁかわいい!!!!この姿ってことは、まだ14歳よね!?っしゃああ!ついこの間煽ってきた初対面が大人レシエちゃんだった世界線の私に勝ったぁぁぁぁ!!!!!」

「あ、あのあの…!?」

 レシエは困惑している。

「…ちょっとディア」

 颯が強引にレシエから引っぺがす。流石颯。相手がどんな存在でも強い。

「ぐぇっ!?何すんのよ颯!せっかくウチの次元(原作世界線)にもレシエちゃんが来てくれたのよ!?しかも超レアな10代前半レシエちゃんよ!?SSRよ!!??もう少し堪能させて―」

 颯は更にアイアンクローをかます。…あー、あれキレてるなぁ……。

「いだだだだだだだ!!!!ちょっやめ…本編一(レシエちゃんの次に)可愛くて美しい私のぷりちーふぇいすをレシエちゃんの前で歪めないでぇぇぇぇ!!!!!」

 何だろう、会って数秒でこの人の印象が大きく変わった。

「いーから。先ずはハル達に説明しなさい。あと時間ないんだからこっちの要求する資料の場所に今すぐ案内しなさい。レシエ貸すのはその後よ」

「君のでもないけどね、ハヤテ」

 リザのさり気無いツッコミ。

「あ”ぁ~~ったく…!レシエちゃんの大切な存在じゃなかったらとっくに出禁にしてやれるのに…」

「…何?」

 出た、颯の怖い笑顔。

「ナンデモアリマセンワヨ。…コホン。で、貴方達が欲しいのは魔人形についての資料でしょ?」

 急に真面目になったディアさんは的確に僕らのほしい情報について言い当てた。

「え、何も言ってないのに…!?」

 読心術か何かか…?

1()5()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()と言ったら、それくらいなの分かってるわよ。『どうして?』って顔してるわね“皆”。じゃ、視晴君達には歩きながら説明するわ。だからレシエちゃん、手を…」

「まだ説明してないでしょ?」

さらっとレシエの手を握ろうとしたディアさんを颯が止める。

「チッ…!何でウチの次元(原作)のアンタはそう……!」

 何か愚痴りかけたディアさんにまた颯が笑顔で返す。便利だなそれ。僕も欲しいそのスキル。

 ディアさんを先頭に、僕らは移動する。

「オホホ…。では説明するわ。ああ、道中本が落ちてるかもだけど踏まないようにね。直すのにすっごく力使うんだから」

 床のあちこちに本の山があるので歩きづらい。…主…司書ならそれくらい整頓したほうがいいんじゃないのか…?

「私、片づけるの苦手なのよね~。それに私の力があれば探したい本がどこにあるかなんて一発でわかるもの。で、ここがどういう場所かって事だけど、この場所はあらゆる記録が次元、時間を超えて集まってくる場所。知りたい情報は何でも揃うわ。過去、未来、IFの世界の事でも。このライブラリーはそういう『失われた技術(ロストアーツ)』がこれでもかと組み込まれているの。きっとここを作った人はそれこそ神に等しい存在でしょうね」

 この人が作ったわけじゃないのか。

「失われた技術って、レシエの持ってる矢のような奴のことですか?」

「そうそう。レシエちゃん達の時代では原則再現できない物達の総称。颯の黒双牙(くろそうが)や異形化の力の根源も該当するわね。まぁ、そのあたりはまた今度話すわ。情報ってのは多すぎてもダメなのよ。()()()()()()()()()。簡単に言うと、『すごいテクノロジーで何でも教えてくれる便利なご都合主義の為の場所、チート乙!!』くらいの認識でいいわ」

「えと…はい、すごい場所って事ですねっ」

「そうよ〜!レシエちゃん偉いわ〜!!!頭ぐるぐるしてたのも可愛い!!!!」

「はぁ…」

 何度この人の言動に引くことだろう…。

「あ、一応言っておくけど、全てを教えられる訳じゃないわ。今回の要件で言うと、犯人の名前以外の素性、動機とかね。貴方達の物語の核心に触れる様な情報は見せられないの。それじゃ()()()()()もの。そう言うのは知る権利を得たら教えてあげる。颯、アンタの本当に知りたいも、まだまだ遠いわよ」

「うっさい、それよりまだなの?」

「ちょうど着いたわよ。この辺りがそう」

いつの間にか、僕達は広い図書館の一角、小さなスペースにたどり着いていた。

「ここは()()()()()()に開示できる情報が一纏めにされてるわ。後は自分らで探しなさい」

「えっ、この中から…!?」

 目の前だけでも普通の図書館にある物よりも大きい本棚が3つはある。

「アンタらの欲しいと思ってる情報から今見れるのを片っ端から纏めてるもの。特別に見つけるまで居ていいから、頑張んなさい。じゃ、レシエちゃんこっちに頂戴♪」

「チッ…。じゃあレシエ頼むわね」

「えっ、あ、はい…」

 どうしよう。凄く不安だ。

「…妙な事したら狩る」

 颯もかなりドスが効いた声を出してる。

「しないわよそんなこと。さー何からしましょうかしらねー♪」

「あ、えっと……。み、皆さん頑張ってください」

 レシエが連れて行かれた。と言ってもすぐ後ろにある休憩所的な場所で様子もチラッと見れる位置だ。

「…まぁ、何はともあれ、一応レシエが居たおかげで、時間に余裕ができたね。それじゃ早速探そうか、シハル、ハヤテ」



――そして今に至るわけで…。


 あれから2時間くらい探し続けているが、目当てとなる魔人形の情報が出てこない。ライブラリーに入った時間からして、そろそろ夕飯時だ。颯とリザもそろそろ空腹で集中が切れかけている。

「何か軽食でも作ろうか…。ディアさんに台所の場所を…!?って!!!」

「あ、ハルさん…!?これは、ですね…っ!!!」

 ディアさん達の方を向くと、レシエが何処から持って来たのかゴスロリ衣装を着させられていた。

「いいわ!いいわよレシエちゃん!!!次はこの大和撫子な女学生風の―—」

「何やってんですかアンタは!!!」

 流石に僕もつい大声でツッコむ。

「わっ、急にどうしたの視晴君?」

 ディアさんは僕の方を向きつつもスマホの連写を止めない。ディアさんはスマホ持ってていいんだ…。

「いや撮るの一旦止めましょうよ!?…えっと、颯達の集中力が切れかけてるんで何か軽食を用意したいんですけど、台所を使っていいですか?あと、何か食材を分けて貰えたら…」

「ああ、構わないわ。ちょっと待ちなさい…」

ディアさんは僕の右側、何もない空間に向かって右手を向ける。

「我、この場所に我願う地へと至る門を創造せし【Quick jump gate in to the kitchen】」

 ディアさんが呪文のような言葉を唱えると、手を向けた先にいきなり扉が現れた。

「その扉からキッチンに行けるわ。食材は自由に使っていいから」

「え、はい…」

「凄い…!今のって、『失われた(古代の)魔法』の一つですよねっ!?初めて見ました!」

レシエが興奮している。そんなに凄い魔法なのか…?

「そうよ。凄い魔法なの。なんせ、今の貴方達の時代、世界線ではこの魔法の使い手は数億人に1人もいないのよ。無から門を生成し、念じた場所へと次元を繋げる。所謂ワープ魔法の一種ね。ゲームやフィクションとかじゃよくある魔法だけど、実際にやるのはとても大変なのよ。ほら、そう言った細かい説明は資料集(ファンボックス)やら筆者の呟き(SNS)やら見なさい。あ、私はサンドイッチはカツサンド派よ」

 さりげなくリクエストしてきた。っていうか僕、何作るかまだ言ってないんだけど…。

「わかりました。レシエは何がいい?」

「えっと、じゃあたまごサンドを…」

「了解。…あと、似合ってるね、その服」

 一応褒めとく。姉さんがそういうのは忘れちゃいけないって言ってたし。

「っ…!あ、ありがとうございます…えへへ…♪」

 くそ、やっぱりかわいいなこの子。妹にしたい。

「じーーーー……」

 颯の方から()()()()を感じたので、僕は直ぐに扉の中へ入った。


僕らの未来(視点:降石視晴)


 扉の先のキッチンは思ってたより近代的だった。まるでレストランの厨房のようだ。

「まずは食材だな」

 冷蔵庫を開けて食材を集める。ディアさんはカツサンド所望なので、カツも作らないといけない。どうせ颯も唐揚げ欲しがるだろうし、ついでに揚げよう。リザは…和風が好きとのことだから、和風ツナサンドかな。たまごサンド用のゆで卵を用意しつつ、豚と鶏に衣を付け、フライヤーの油の温度を高める。シーチキン缶を開けてマヨネーズと醤油を合わせて混ぜる。ゆで卵を刻み、マヨネーズを合わせて具を用意する。油の温度が丁度よくなった所で豚と鶏を投入。唐揚げの方はしっかり2度揚げをする。余分な油を落としたら、カツは千切りキャベツを、唐揚げとたまご、和風ツナにはレタスを合わせてパンで挟んでカットしていく。

「飲み物は…炭酸かな。リザとレシエも炭酸は普通に飲めたよな…。お、コーラあった。ディアさんは…って、ビール缶多…」

「現代のお酒って凄いわよねー。私はビールでいいわよ」

「うわっ!?ディアさんいつの間に!?」

 ディアさんは指で魔法を唱え、冷蔵庫から500mlのビール缶を3つ持ちだす。段々この人の事、残念なOLみたいに見えてきた。

「それ、地味ーに傷つくわ…」

「人の心を読まないでください。…心?で、どうしたんですか?つまみ食いでもしに来ましたか?」

「いいえ。ただちょっと、君とお話したいなーってね」

「お話ですか?」

「というより、初めてこのライブラリーに来た視晴君に特別アドバイス(主人公補正)のプレゼントと言った方がいいかしら。君、今気になってる事、いくつかあるんじゃない?」

 確かに、ある。

「ほら、またとないチャンスよ。今聞いちゃいなさい」

「じゃあ、最初に…ディアさんは、ここではどんな情報も手に入るって言ってましたけど、未来の事が書かれた書物とか、見ちゃっていいものなんですか?」

 未来を知るということは、その未来との矛盾が生まれるということだ。タイムパラドックスだっけ。昔見た映画で言ってた。

「あー、余程貴方達の今後に大きく関わる情報(ネタバレ)とかは多少の規制は入るわね。これは私の判断とかじゃなく、このライブラリー自体が判断するの。知ること自体はさほど問題ではないわ。それに、今貴方達が知れる範囲での未来を教えたところで、それは貴方達とは別世界線での出来事。たとえこれまでが同じ世界線があったとしても、貴方達の世界線でも同じ事象が起きるとは限らないもの。逆に、どうあがいても変えられない、収束する運命にある時もあるけど」

「そうですか…。じゃあそれを踏まえて二つ目。今回の事件、僕らの解決率はどれくらいですか?」

「…成功した例は2,3回くらいよ」

「ッ!?」

 そんなに少ないのか……!

「ああ、それは、私が知り得る世界線の中で、貴方が介入した場合の話ね。他の殆どの世界線では、貴方が颯達と知り合ったのはもっと先のことだったんだもの」

「今回の事件、颯達だけでも解決できるってことですか……」

「ええ。颯達が3人だけで…又は貴方以外の誰かの力を借りたりして、解決できた時はあるわ。ダメだった時も当然あるけど。確率的にはそうねぇ…大体8割位はあの子達が一人も欠けずに解決はしてるから安心なさい」

「それ、安心できる数値なんですか…?でも、成功した例があるんですね。なら、少しは気を楽にできそうです」

「…2,3回だけよ?それ以上に失敗した世界線もある」

「僕は他の世界線の僕とは違う。そうなんでしょう?」

「視晴君、貴方が他の世界線の自分とは違うと言い切れる根拠は何?」

 そんなの、決まっている。

「颯達を信じている。他の世界線の僕に負けないくらい」

 まだ戦える力のない僕にできるのはそれくらいだ。

「…アッハハ!よくそんなクサイ台詞言えるもんね!」

「わ、笑うことないだろ……!?…ああ、もう、颯達には言わないで下さいよ」

「ええ言わないわ。…フフ、じゃあそんな貴方にとっておきのヒントを上げるわ」

 ディアさんは僕の胸に右人差指を当てて、その内容を告げる。

「もし、貴方が颯、リザ、レシエちゃんの内誰か…それとも別の誰かと、仲間以上の関係になるとしたら……」

 ゴクリと息をのみ、その続きを待つ…。

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「ブッ!!!???」

 指先を僕の下腹部に向けて急に全てが台無しになるようなこと言い出した!?

「な、ななな何言ってんですか!?」

「なーによ。これ割と真面目な話よ。貴方が盛ってあの子らに手ぇ出(エロ同人展開に突入)したら後々大変なことになるんだから」

「何処が!?大変って何!?社会的な意味で!?」

 僕が颯達と()()()()()()に…!?…いや、男子としてそういう想像をしたことがない…と言えば嘘にはなる…けど…!!

「特に颯ね。あの子の異形化のシステム、その辺り割と厄介なんだから」

「え…?」

 颯の異形化が厄介…?そのワードだけは本当に大事そうに聞こえた。

「それはどういう―」

「まぁ早い話、世界の命運(ハッピーエンド)は貴方の童貞とあの子らの処女に掛かっている!ってことよ!」

「世界の命運って何なんだよ!?てか童貞とか処女とか言うの止めてくれません!?」

「それじゃ、早く戻りましょ。あー小腹空いたわー」

 ディアさんはそそくさと扉の向こうへと消えた…。

「あ、ハルさん。お帰りなさい!」

「やぁ。すまないねシハル。私達の為に」

 ライブラリーに戻ると、3人とディアさんが何処からか用意されたテーブルと椅子で出迎えてくれた。…どうしよう、さっきのディアさんとの会話を思い出して気まずい……。因みにレシエはゴスロリ衣装から中世の村娘風衣装になっている。…結構ありだ。

「う、うん。…そっちはどう?」

「大方これだって本を数冊見つけたわ。まだ中身をちゃんと見たわけではないけど。…ハル、どうかした?」

 颯が珍しく僕を気にかけている…!?

「えっ?いや何も……」

 思わず目を逸らす。見慣れたはずのその顔が、何時もより綺麗に感じて……。

「…ふーん……。どうせディアが何か言ったんでしょ?」

 そうだった…。颯はこう言う所で勘が良かった……。

「いやー、若いわねぇ……」

「ッ…!本当、大丈夫だから。ほら、食べよう」

 4人の前に料理を置く。皆それぞれの好物が入ったサンドイッチを持って行った。

「これは…!流石、喫茶店でバイトしてるだけあるね」

「美味しいです、ハルさん!」

「口に合った様でよかったよ」

 リザとレシエは気に入ってくれたらしい。颯は…

「♪〜」

 いつもと同じ、良い顔をしてくれてる。

「っかぁ……!コレいいわね視晴君!ビールが進むぅ!!!カシュっと二缶目イっちゃうわぁ!」

 なんかもう出来上がってないか!?

「それはどうも…」

「ハル、おかわりよ。もう10個はイケるわ」

「早っ!?」

 颯の分は最初から他より多めにしておいたのに誰よりも早く完食していた。

「あ、あのっ…ハルさん、私も…」

「今回は2人に便乗…していいかい?」

「2人も!?いいけど、残りは家に帰ってからだよ。ディアさんの冷蔵庫の中身がもう酒かジュースしか残ってないからね」

「えっ!?そうなの!?そんなに少なかった!?」

 ディアさんには悪いけど、肉も卵も使い切ってしまった。厳密には、今回の入館料分の食材がまだあるが。

「…ディア、いくら普段は食事が不用な身体とはいえ、流石にアルコールばかりはどうかと思うよ?」

 これにはリザも引く。レシエも何やら不安な目でディアさんを見ている。

「うっさい!500年近く生きてりゃ娯楽の一つでも無いとやってけないっつーの!」

 もう言動がただの愚痴る社会人女性だ…。ってか500歳くらいなのかディアさん。

「えっと、今度来る時食材持って来ますね。使わせてもらった分はもちろん」

 なんか申し訳なく感じた。

「あーいいのよ。ネットスーパーとか出前とか使えるからここ。届くまでちょっと時間掛かるけど」

「…そっすか」

 もう突っ込まない。結局、ディアさんへの入館料の中からお菓子を分けてもらうことにした。



見えてきた黒幕の影(視点:降石視晴)


 食事がひと段落した後、僕らは颯達が見つけた本に目を通した。今リザが開いているのは魔法協会で最近発表された論文集だ。

「あった、コレだ。一年前、魔法協会に提出された論文。この図、魔人形に似てないか?」

「…あれ、()()()()()()()()…?ディアさん、コレは一体…」

「それはここの恩恵の一つよ。読み手に翻訳の術を掛けてくれるの。ここにいる間だけ、あらゆる言語が読める様になってるわ」

 『憑依型使い魔用素体の開発』というタイトルの論文だ。内容は、人形に術者の魔力を込めたり、霊や悪魔の類を取り憑かせて自律させる。と言った内容だ。多少異なるが載っている図面はこれまでに見た魔人形の特徴と一致している。不明だった関節部やコアらしきパーツの図面も見つけた…のだが……。

「これを見た上で、こっちの論文も見てくれ。私達がケルを作った際、一応執筆していた論文だ」

()()()()()()()()()()()。僕らはリザの論文と魔人形の論文を見比べる。

「これ、ほとんどケルちゃんと一緒じゃないですか!?」

 リザの次に魔法と縁のあるレシエは一瞬で分かったらしい。服装は元の学生服に戻ってる。

 確かに、図面の人形の関節等が、殆どケルと酷似してる。というか、人型か犬型かと、姿形が違うだけでほぼ同じものだ。…それでもケルそのものに比べて、こっちの図面の魔人形の原型らしきものははるかに劣っているが。

「うん、まるで盗用したような…」

「ような…じゃないね。されてる」

リザの声から、確かな怒りを感じる。

「実はケルの論文は一度紛失しているんだ。…多分、この論文を書いたヤツに盗まれたんだろう。…皆、今回の事件…何が何でも私がケリをつけなくちゃならないようだ」

 見たことのない、リザが完全に怒っている目…。僕はその鋭い琥珀の瞳に()()()()を感じた。

「…で、その論文書いた奴の名前は?」

 颯は物怖じせずにリザに問う。流石、何年も付き合ってる仲だ。

「ジャン・ランケ。現在の魔法協会最高責任者の派閥に所属していた魔法使いだ」

()()()()ってことは、既に協会にはいないのね。ま、人の論文パクった研究を発表するような三下が、そんな処にいられる訳ないか」

 いつの間にか、魔法協会の加入者名簿の本をレシエが開いていた。どうやらジャン・ランケを探してるらしい。…というかこんないかにもな機密情報満載の本も見れるのかライブラリー。

「レシエちゃんがいるから特別よ♪」

 この有翼人は……。

「うーん…顔写真は無いですね……」

 そういえば、ディアさんが言ってたな。犯人の名前しか分からないとか。

「あっても無駄さ。あの魔女の派閥の奴らって、悪趣味な仮面を着けるのがルールなんだ」

「あー、そういえば、協会の連中の中にいたわね。仮面をつけた奴ら。アレそういうことだったの…ん?」

「…颯?どうかした?」

 颯は少し手を顔に当てて考え込む。

「ねぇ、レシエ。覚えてる?去年の今頃、丁度、ケルが出来た直ぐ後ぐらいの事」

 去年というと、颯達がまだロンドンに居た頃の事だ。って、ケルって生まれてまだ一年くらいなんだ。

「えっと…。そういえば、颯さんと一緒に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を退治したような…」

「え」

 今なんて言った?

「なんだって!?それって、この図面の奴と同じか!?」

 リザも驚き、詳細を確認する。…少し怖い。

「う〜ん……。あの、凄くバラバラだったので……。でも、色とか同じだったと思います」

「バラバラ…?」

「はい。街の路地裏で浮浪人さんを襲っていたので、颯さんの指示で私がそのお人形さんの足を射抜いたんです。そしたら、そのまま転んで、バラバラに……」

「…ケルの技術を盗んでおいてソレか…。それで、その魔術士はどうしたんだ?ハヤテ」

「腹いせにレシエめがけて魔法使おうとしたもんだから、軽くシバいたんだけど、余りにも小物過ぎてねぇ。ちょっと右手の甲切ったくらいで逃げ出しちゃったわ」

「…()()()()()()

「ま、そうなるわね。あの時、私が狩っていたら…なんて言わないでよ」

「…いや、咎めるつもりはないんだ。それが君のやり方だって、理解はしてるから」

 少しリザが冷静さを取り戻した。しかし、このままだと場の空気が重くなりそうだ。僕は話題を戻すことにした。

「で、その時の仮面の男が、件のジャンかもしれないってことだよね?」

「そーね。ザッコいもんだからずっと忘れてたわ。…たぶん、向こうはそう思っていないのかもだけど」

 魔人形がこの街に現れたのは颯が転入して来てから…。もしかしたら、犯人の颯達への復讐心が消えていないのかもしれないのか。

「何か、手がかりがあればいいんだけど……。背丈とか、声とか思い出せない?」

「え〜っと……。背は解人さんよりちょっと高いくらいでしょうか」

 僕が165㎝で解人兄は170㎝。相手は175cmから180cmくらいか。

「声は…すみません、私は遠くにいてよく聞こえなかったです」

「イギリス英語話してたのは確かよ。仮面+マスクで籠ってたけど」

 颯も英語を話せるとはいえ、母国語は日本語だ。多国語で籠った声、記憶も朧気とくると、声での特定はほぼ無理だ。

「イギリス英語を話す、身長180前後の男性…。特定にはまだ情報が足りないね…」

「…いや、決定的な証拠が二つあるよ」

「リザさん、本当ですか!?」

「まず一つ、魔法協会を追放されたものは、身体の何処かに追放の烙印がある。魔法で付けられる烙印だ。原則、取り除くことはできない」

 リザ曰く、烙印は高位の魔術士達による合同儀式によって遠隔で付けられる。その烙印は協会にも追跡されつづけていて、逃れることはできない。黒双牙のような漆黒の武器で常に魔力を奪われ続けてやっと解除されるレベルらしい。

「二つ目。ハヤテ、その男の右手の傷、黒双牙で付けたモノかい?」

「ええ。()()使()()()()()()()()()()()()()でしょ」

 颯の黒双牙は魔法の力も打ち消す。オマケに異形の力…魔術士の場合は魔法も暫く使えなくなる。僕が魔法使いなら絶対相手にしたくないな。

「なら、傷が残っているんじゃないか?魔力を打ち消す力で付けられた傷だ。そいつ(人間本来)の治癒能力次第だけど、治癒魔法とかじゃそう簡単には消えないし、消せるとしても、余程執念を持った奴なら敢えて消さないとか、よくアニメやマンガでもやってるだろう?」

 少しずつ、何時ものリザに戻ってきた。正直、あんなリザはあまり見てはいたくない。

「確かにそういうキャラはいるけど…。ともかく、手の傷と身体の烙印。この二つがある高身長の男性…?を見つければいいんだね。大収穫じゃないか」

 魔人形の残骸しか情報が無かった今朝に比べて、一気に情報が入っていった。

「そうね。少なくとも、私達とはかなり因縁のある相手なのは確かよ」

「後はジャンのバックについていると思われる企業・組織・お偉いさんか…そいつらも調べられたらよかったんだけど…」

「そっちは協会の連絡待ちだね。…あの魔女がそう簡単に話すとは思えないけど」

「リザさん…その魔女さんのこと、嫌いなんですか…?」

 そういえばリザは魔法協会の最高責任者らしい人に対する当たりが強かった。

「…まぁ、好きではないね」

「はいはい、調べ物は終わったかしら?もう夜の20時を超えてるわよ。ライブラリーは閉館よ」

 気遣って後の方にいたディアさんが割って入る。…ってもうそんな時間なのか。

「なんだったら、レシエちゃんは泊ってっていいわよ!?」

「ええっ!?お誘いはその…嬉しいんですけど……。ハルさんのサンドイッチ、おかわりしたいのでっ…また、今度で……」

「んがっはぁぁぁ!?…フラレタ…」

 ディアさんが羽もしょんぼり。…ディアさんには悪いけど、僕の料理の方を取ってくれたのは正直嬉しい。…いい子だ、たまごたっぷりにしよう。

「ま、視晴君の料理が美味しいのは確かだし、譲ってあげるわ」

 なんで上から目線なんだ。

「アンタのじゃないでしょレシエは」

「君が言えた口かい?ハヤテ」

 颯もレシエに対する独占欲が結構強い。

「あっ、そうそうレシエちゃん!次来るときの入館料、レシエちゃんの手作り料理でもOKよ!あとレシエちゃんの好きな特撮グッズも持ち込み許可!!!!」

「えっ本当ですか!?ディアさんありがとうございます!」

 今日ディアさんに対して一番の笑顔になるレシエ。

「んんっっ!!!???んっがっわいい!!!…天使……!」

 よかったねディアさん。

「あ、アンタらは何時も通りね」

「「「おい」」」

 僕颯リザの三人総ツッコミ。奇跡だね。


 何はともあれ、僕らがこのライブラリーに来たのは大正解だった。魔人形を作り出している犯人まであと少しの所まで進んだ。この事件の終幕も、もうそこまで来ているのかもしれない。



続く。

戦闘シーン無くてがっかり?スマンネ。

ここ3年はメタバースに進出して、そっち用の作品アバターモデルとかやってましたね。颯達とは同じ世界線上の別の場所、こちらが日本編ならあちらはアメリカ編とでも呼びましょう。

サンちゃん達の物語とかも展開を始めましてねえ。…え、そっちも見たい?

はは、その内余裕があったらね。


話の途中でディアさんが、視晴君がエロ展開ルートに行ったら世界ガー的な事言ってましたね。筆者のSNSも追ってるという物好きな方がいらっしゃったら知ってるかもしれませんが、

この天狗、颯ちゃんとレシエちゃん、そしてアメリカ編のサンちゃんで既にエロ展開の絵描いてやがりますね…。(※18歳未満はまだ見ちゃ駄目だぞ!!)でも大丈夫、それらは一種の二次創作(※原作者が描く二次創作とは)だし、彼女達は本来の姿のまま18歳以上になっている世界線なので無問題です!!!!!もし弊創作の二次創作をしてもいいぜってさらに物好きな方がいらっしゃったら、その時はディアさんの発言は気にせず、お気軽に健全でもエロでもウェルカム。創作屋は他人の描く自キャラでしか得られない成分がなにより大好物です。

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