ロボオタ少女は科学と魔法の異形狩り「リザ・ワインダーとケルべロス」
本来なら今回で実際の第一話っていうか始まりの物語書く方がいいのかもしれませんが、一先ず今現在MMDモデルの存在する子達のお話書きたいなぁって思ったので、今回はリザとケルのお話を書きました。
小説だったら2巻の前の方ぐらいじゃないかな。アニメとかだと5話~6話くらいに来てそう。
何気に未だモデル化してない子や、絵すら用意していない子も出しています。
降石視晴と射木颯が初めて魔人形やその仲間の異形と戦ってから一週間。彼らの街に最も近い空港に、一機の飛行機が着陸した。正規の便では無く、何処かの誰かが所有する自家用機のようだ。飛行機からスーツ姿の男女が数人、その後に私服姿の少女が大型犬と共に降りて来た。それを見た一般人はこう思っているだろう。
「なんだあの人達?」
「あの女の子、何処かのお嬢様とかスター?」
「自家用機かぁいいなぁ…」
一般人が知るはずもない。この一行が、ロンドンに拠点を持つ異形狩り組織、『女王陛下の狩人達』の者達ということを。
「"私達の方は当面、射木組付近のホテルを拠点にするが、そのうち適当に物件を探す。君はどうする?"」
グループのリーダー格の男が、後方の少女に尋ねる。
「"私達の心配は無用さ。彼女が部屋を用意してくれている。 …ところで、私は行きたい場所があるから先に別れていいかな?"」
「"構わないが、誰か付けるか?"」
「"それもいいよ。私には最高のガードマンがいるからね"」
少女は大型犬の頭を撫でながら言う。
『"その通りだ。俺以上の適任なぞいるわけが無い"』
男と少女の会話に別の声が語りかけている。
「"…ああ、そうだな。くれぐれも、同業者に狩られないようにな。ミス・ワインダー"」
「"そっちこそ"」
少女と犬を残し、スーツの男女達は空港を後にした。
「"彼女を1人にしていいのですか?"」
「"実力と武器がある。何せ射木組の暴れ姫のバディだったくらいだからな"」
『"それで、お前は何処に行きたいんだ?"』
「No Cer.これからはちゃんと日本語で話そう。日本では英語の授業もあるらしいけど、実践できる人間はなかなかいないらしいからね。今の内から慣れておこうよ」
『…そもそも俺の言葉が分かる奴などまず普通に居ないのだがな。まぁ、了解した』
「"こんにちは、日本のテレビ番組です。インタビューよろしいですか?"」
少女にマイクを持った女性とカメラを持った男性が話しかける。
『なんだ貴様ら。特に貴様だ。何勝手に撮っていやがる』
大型犬はカメラマン向かってに唸っている。
「ケル、ストップ。 ごめんね。彼初めての日本で気が立っているんだ」
「い、いえ……。それにしても日本語お上手ですね」
「ありがとう。ロンドンに来た友人に教わったんだよ」
「なるほど。それで、貴女は何をしに日本へ?」
「…その友人のいる学校へ編入するんだ。あ、そろそろ時間だから、これで」
「あ、はい。日本の学生生活を楽しんでくださいね」
少女は犬を連れて空港を後にする。
カシャン……カシャン……。
「ん? 今、変な音しなかったか?」
「彼女のキャリーバッグの音じゃない?」
「そうかなぁ? にしてはなんか、ロボットの足音っぽかったけど……」
『で、何処に行くんだ?』
声の問いかけに少女は赤い伊達眼鏡をクイッと上げて答える。
「決まっているだろう?模型店だ。ケル、この辺りの模型店一通り回るぞ!もしかしたら…ウィルエンTのお宝もあるかもしれないからね!」
『…アリシアが困っていたぞ。もう少しメスらしい趣味は無かったのかとな』
「別にいいだろ。ロボットは芸術と技術の両面で優れている。それを好きになるのに性別なんて関係ないさ」
『俺はお前が何を好きになろうが口出しは基本しないが、国や協会から提供されている研究資金までは使うなよ? お前は金使いが荒いからな』
「保護者か君は!?」
本編(視点:降石視晴)
5月中旬の日曜日の昼。僕は友達3人で、街内の模型店に向かっていた。今年の初めに予約していたプラモデルが今日届くので、取りに行くところだ。
「なぁハル! キットを手に入れたら早速組み立てブースで作ろうぜ!」
前を歩く茶髪の男子は夕立友二。明るくて前向きなお調子者で、いい意味でバカという言葉が似合う男だ。
「作るって…あれパーツ数相当だぞ? しかも僕とお前ので二キットあるし」
「大丈夫。何とかなるだろ。な、純?」
友二に話題を振られたのは戸真純。真面目で大人しい女の子だ。
「えっと、私、プラモデルはあまり作らないけど、頑張るよっ」
僕ら三人は幼稚園の頃から同じ学校に通っている、幼馴染というやつだ。
「ごめんね、純。友二が勝手に振り回しちゃってさ。颯と家で遊んでてもよかったんだぞ?」
純の趣味はロボット系ではないが、人付き合いが良くて、僕や友二の趣味にも付き合ってくれている。
「ううん、平気だよハルくん。それに、颯ちゃんは昨日も遅くまで戦っていたんでしょ? お休みの邪魔はできないよ」
友二と純も、颯が異形狩りであることを知っている。二人共、死形に襲われたことがあり、颯が助け出したのだ。特に純はそれ以降、颯のいい友人となっている。
「優しいね。純は」
「そ、そうかな……?」
「そうだぜ。純は世界最強に優しい幼馴染だぜっ!」
「も、もうユウくんっ……!」
この二人を見ていると、平和を感じる。颯達の活躍があるから、彼らは平穏に生きることができているのだと。できることなら、彼らがもう異形達と関わることを無くしたい。二人は颯にとっても、貴重な普通の友達なのだから。
因みに肝心の颯は昨日も魔人形の処理に駆り出されており、今は寝ている。…僕の部屋で。
模型店ザード。僕達が子供の頃から玩具や模型を買いに来ている店だ。外観は少し古いが、ちょっとした一軒家より大きい物件だ。玩具と模型は最新の品から十数年前の品まで幅広く、海外限定の品なども顧客のリクエストに答えて取り寄せてくれる、界隈の通には評判の店らしい。
「やぁハル君達か。いらっしゃい」
店の扉を開けると40代後半の男性がカウンターで出迎えてくれた。店長の間宮さんだ。街でも顔が広く、僕の祖父が経営している喫茶店にもよく顔を出してくれている。
「こんにちは」
「どうもっす!」
「えと、お久しぶりです」
今日は日曜日で、店内は子供連れや見るからにその手の人と思われる男達で店は賑わっている。
「ハル君、君達の目的は分かってるよ。アレだね?」
「はい。頼んでおいた二人分、お願いします」
「勿論だとも。少し待って――」
間宮さんが奥に行こうとした時、店の扉が開かれる。
「いらっしゃい…おや」
そこにいたのは僕らと同い年くらいの女の子だ。色白で、少し長めの銀髪と琥珀の瞳。どうやら外国人の様だ。身長は少し低めだが、細身でスラっとしており、赤い縁の眼鏡も合わさり、知的でクールという印象だ。
「オホン。Hello,lady.Welcome――」
「いや、日本語で大丈夫だよ。英語上手いね、オジサン」
「おっと、これはどうも。ウチは海外の模型や玩具も取り扱うし、お嬢さんみたいに海外からやってくる人も多いからね。じゃあ改めて、いらっしゃい。ゆっくり見ていってくれ」
「うん。ありがとう」
「ハル君。少し待っていてくれ。今持ってくる」
間宮さんは倉庫に入っていった。
「ねぇ、君達はこのお店によく来るのかい?」
少女が僕達に話しかけてきた。改めて聞くと、とても聞き取りやすい日本語だ。まるで言い慣れているようだ。
「え? ああ、まぁ小さい時から来てるけど」
「少し古めのキットとかここで取り扱っているのかな……?」
「おう、ここの品揃えは凄いぜ! お前もそういうの好きなクチか?」
「まぁね。日本のロボットアニメは私の人生と言っても過言ではない」
少女はドヤ顔で語る。
「そ、そうなんだ。ところで、貴女は観光で日本に来ているの?」
「いや、ちょっとした事情でこっちの学校に通うことになったんだ。陵雲学園っていうんだけど……」
「それウチの学校じゃねぇか! じゃあ学校で会うかもな! 俺、夕立友二! よろしくな!」
「えっと、戸真純です」
「降石視晴だ。よろしく」
僕も名乗り、手を差し出す。
「私はリザ。リザ・ワインダーだ」
リザは握手に応じた。リザ…あれ? その名前、何処かで聞いたような……?
「やぁ、待たせたね」
間宮さんが少し大きめなプラモデルの箱を二つ持って倉庫から出てきた。
「こいつはレアものさ。今コレを持っているのはちょっとした自慢になるぞぅ!」
テンションが高くなっている間宮さんが箱をカウンターに置く。
「!? これは……!!!」
突然リザが大声を発し、店中の注目を集める。
「"なんということだ!! まさかこんな品をお目にかかれれるとは!!!!! これは『WG1/100スケールモデル 魔神戦士ウィルエンT Ver.2.0』!!!! イギリスでは未公開な劇場版第二作デザイン仕様じゃないか!!!!"」
「お嬢さん落ち着いて。英語出ちゃってるから」
「あ…ごめん。つい興奮してしまって……」
「何言ってんのか俺にはちっとも分からなかったぜ……」
「私も、殆ど分からなかった……」
「ウィルエンTだけは聞き取れたよ。リザはウィルエンTが好きなんだ?」
『魔神戦士ウィルエンT』とは、20年程前に放送されていた日本のロボットアニメだ。簡潔に言えば、魔法+スーパーロボットという内容で、当時は大人気だったとか。僕らの世代ではないが、間宮さんの熱いお勧めもあって、円盤や再放送で見ており、すっかりファンになっていた。特に友二が。
「ああ! ウィルエンTは一番大好きなアニメだよ。小さい頃に英語版が放送されていてね、凄く元気を貰ったんだよ。ウィルエンTに出会えたからこそ、今の私があるんだ!」
リザがかなり食い気味で語る。…顔が近い。
「私、ハルくん達やお兄ちゃんが見てたのを一緒に見てただけでよく分かってないんだけど、ウィルエンTって、そんなに凄いアニメなんだ?」
「そうだとも! 落ちこぼれ魔法使いの少年が、科学者の娘や宇宙生命体ティストと出会い、魔神戦士ウィルエンTのパイロット…ウィザーティストとなって悪の宇宙魔法使い達と戦い、成長していく……! その王道的アツイ展開、ロマン溢れる合体変身バンク、魔法と科学の異質な組み合わせが上手く練り込まれた設定! 全てにおいて好きな人には堪らない! 日本のロボットと言えばマジンターだとかゲッガーだとかダヴァだとかエンダムって人が多いけど、ウィルエンTだってそれらの名作にも負けず劣らず名を張れるロボットだと私は思う!」
リザの力説に、友二や間宮さん、更には他の客達までもがうんうんと頷いている。…それにしても日本語流暢過ぎないかこの子。本当に外国人なのか?
「へ、へぇ……」
純は苦笑い。
「ハハ、こりゃあいい。若いウィザーティストがまた1人うちの店に……。ウチはウィルエンTリスペクトの店でね、特にウィルエンT関係のグッズやプラモデルに関しての品揃えには自信たっぷりさ!」
「"イイね!" で、オジサン。このキット、まだ在庫あるかい? 私も欲しいんだけど!」
オモチャをねだる子供の様に凄いキラキラした目をしている。
「あー…ゴメンね……。コイツは完全予約限定品でね、次の予約が始まる9月まで入荷予定は無いんだ。今あるのは、彼らが予約した2キットだけなんだ」
さっき自信あり宣言した手前、間宮さんは本当に申し訳なさそうだ。
「グハァッ!?」
リザはダメージを受けてその場に崩れる。…うん、わかるよ。目の前で欲しい物が売り切れた時の気持ち。
「ま、まぁいいさ……。じゃあその時に買うよ……」
とてもシュンとしている。…僕はそれが見ていられなくなり――
「ハルくん……?」
「間宮さん、僕の予約分を彼女に売ってください」
「へっ!?」
リザがぐるんっと僕の方を見上げる。
「おいおいマジかハル!?」
「えーっと…私は別に構わないが、いいのかい?」
「はい。なんて言うか、僕よりも彼女の方が先に手に入れた方がいいと思いまして。それに、今の僕の部屋には飾っていてもすぐ壊しそうな奴がよくいますから……」
言うまでもなく颯の事だ。実際に一度コレクションの一つを壊してる。
「そうか。わかった、じゃあお嬢さん。これは君の物だ」
「…いいの?」
少しうるっとした目でこちらに聞いてくる。…くそ、可愛いって思ってしまったじゃないか。
「いいよ。君の方が大切に飾りそうだし」
「”ありがとう、シハル!”」
いきなりリザが抱き着いてきた。彼女の匂いが鼻先を擽り、体に彼女の柔らかい感触が伝わる。…何処がとは言わないが、一部を除いて。
「なっ!?」
純の驚く声が聞こえる。そういえば、颯が僕の部屋に居座り始めた時も同じ声出していたな。
「う、うん、どういたしまして……。あの、君の国ではどうかは分からないけど、日本じゃあまりこういうのは……」
「あ……! す、すまない! またはしゃいでしまって……!」
リザは慌てて離れる。…そうだよな、普通はそういう反応なんだよなぁ……。
「ハハハ、いやぁ若いねぇ」
痛い、視線が痛い。間宮さんも他のお客さん達もこっち見ないで……。
「お前、颯に続いて……!」
「…ハヤテ?」
「そ、それはいいだろう!? ほら、工作エリアで作るんだろ?早く買って行こうよ!」
ややこしくなる前に逃げる。リザ、颯の名前聞いた時に声色が変わったけど……なんだ……?何か忘れているような……。
僕達はリザも交えてザードの二階にある工作スペースで早速ウィルエンTのキットを組み立て始める。パーツはその値段分(6800円)もあって、かなり多い。結局、家まで待ちきれないという友二の分だけ作ることにした。
「ねぇ、リザちゃんって何処から来たの?」
組み立てている途中、純が世間話に持ち込んだ。
「イギリスのロンドンだよ。日本に着いたのは4時間程前かな。新居へ向かうついでに、この辺りの模型屋を回っていたんだ。日本人のサービス精神は凄いね。家具家電の設置まで業者と大家さんがやってくれるなんてさ」
「そりゃあ、日本はアレだよ。オモテナシの国だからな!」
「ははは、でもそれは日本人のいい面でもあり、悪い面でもあるかな。真面目過ぎて、自分を滅してでも他者に奉仕する、滅私奉公って言葉があるくらいでね」
「へぇ、私の友人と同じこと言うね。真面目過ぎる人間性は日本人の致命的な欠点でもあるってさ」
「あ、もしかしてリザちゃんはそのお友達から日本語を教わったの?」
「半分正解かな。そいつともう一人、日本語を話せる友人がいて、彼女達にも教わったけど、実際には日本語のアニメ見ながら覚えた方が大きいかな」
「ウィルエンTも日本語で見てたのかよ?」
「最初は英語翻訳された奴だったよ。でも、日本語版も見たくてね、アニメ配信サービスに会員登録して、日本語版も一通り見たよ。劇場版第二作以外はね」
「あー、あれか! 確か、昔外国で起きたっつーテロ事件を連想させる内容だからとかで日本以外じゃ上映禁止になったっとか聞いたな。勿体ないよなぁ、あの映画めっちゃ泣けるのによ」
「それは楽しみだ。折角日本に来たんだし、Blue-rayで買ってみるつもりさ」
「その円盤なら僕も持ってるよ。今度貸そうか?」
「いや、自分で買ってこそファンっていうものだろう?」
「お、良い事言うじゃねぇか! ファンの鑑だな!!」
楽しい時間は過ぎていった。4人で組み立てたこともあり、実際の制作時間は3時間ちょっとで終わった。外はすっかり日が暮れており、街灯が点き始めている。店を出ると一匹の大型犬が座って待っていた。
「ケル。ずっと待っていたのかい?」
リザが犬に歩み寄り、頭を撫でている。
『まさか。街を少し探索していた。なかなかに面白いなこの町は』
「……!?」
声が聞こえた。いや、頭に響いたと言った方が正しいのだろうか。明らかに今ここにいる4人や間宮さんとも違う声が頭に響く。
「その子、リザちゃんの?」
「でっけぇな。犬種何だ?」
二人には聞こえていないようだ。…もしかして、僕だけにしか聞こえていない?
「紹介するよ。彼はケル、私の相棒。あ、噛んだりはしないよ。まぁ、私に手を出さなければだけど」
『……?』
「あ、あの……。凄く僕が見られているんだけど……?」
「ハル、さっきリザに抱き着かれて匂い着いたから警戒されてんじゃないのか?」
「そ、それは関係ないと思うよ!? …ねぇ、ケル?」
ケルは僕の前に歩いてくる。カシャン、カシャンとまた何か変な幻聴まで聞こえる……!
「な、何……?」
ケルは立ち止まり、お座りのポーズで頭を下げた。
「…は?」
『ウチのリザが世話になった。お前、良いニンゲンの様だな』
「保護者か君は!!」
ケルの行動にリザがツッコミを入れる。この声、この犬から聞こえているのか……!?
「えっと…多分ハル君に感謝しているのかな……?」
「ど、どういたしまして……?」
「すげぇな、犬に認められているぜハルの奴……」
そこで僕の携帯が鳴った。
「あ、ごめん。ちょっと失礼」
僕は少し離れて携帯を取り出す。相手は宮藤さんだ。
「宮藤さん? どうかしましたか?」
『あ、視晴君! 今何処にいますかね?』
「ザードって模型店ですけど……?」
『ザード…ああ、あそこか。すると、射木組の事務所に近いですね。すみませんが、直で来ていただけますかね? お嬢もこっち来てるんで』
「もしかして、また人形が?」
「いえ、今回は異形と死形の様です。お嬢と合流して、一緒に現場へ向かってください』
「…わかりました。すぐ向かいます」
電話を切り、3人と一匹の元へ戻る。
「ごめん。用事ができちゃって、僕はこれで失礼するよ」
「あ、うん」
「もしかして、またか? 気を付けろよ」
「ありがとう。じゃあリザ、また学校で――」
「あ、待って。コレ、ウィルエンTの代わりに……」
リザから手のひらサイズでペン型のスイッチのような物を受け取った。
「これって…ウィルエンTで主人公がロボットを呼ぶ時に使う奴……? いや、よく似てるけど……」
「私の手作りだ。…もしも、さ。この世の物と思えない化け物に出会ったら、それを使って」
「え……?」
「それじゃあ、私達も帰るよ。また、学校でね」
リザはケルと一緒に去っていった。
「…この世の物とは思えない化け物って……。もしかして、あの時みたいな……?」
「どういうことだよ? リザもあの化け物知ってるってことなのか?」
純と友二にも困惑が見える。
「…あの子、異形?それとも……。っと、早くいかないと……!」
リザの事が気になるが、今は街に出た人形の方を優先しないと……!
射木組事務所。商店街にポツンと経っている小ビルにあり、表向きには土木事業や不動産業らしいが、一般人からしたら完全にヤクザの事務所だ。
「…遅いわよ」
事務所の入口で颯が待っていた。もうすぐ夏だというのに、長めの上着を来ている。既に戦闘用の忍者装束に着替えているようだ。
「ごめん。行こう」
僕と颯は事務所前に止まっている車に乗り込む。運転しているのは宮藤さんだ。
「待ってましたよ、視晴君。今回の詳細はいつも通り、そのタブレット内にあります」
「はい」
座席のポケットに入っているタブレットを取り出し、情報を確認する。場所は街から少し離れたシャッター街で、現れたのは鎌を持った死形2体と鎌鼬の異形。犠牲者はそこを住処にしていたホームレスの男性二名。避難した市民から、子供を含んだ3人が取り残されている可能性があるとの通達もある。
「今回は最初から黒双牙で行くわ。ハルは――」
颯が僕に近づいた時、颯がリザから貰ったスイッチに気付く。
「それ、何処で手に入れたの?」
「え?ああ、さっきまで純達と模型店で会ってた女の子がくれたんだ」
颯は少しむっとした顔をしたが、すぐに表情を直す。
「…そっか。ハルは念のため朱鉄扇を持って、取り残された人達を探して」
「別行動でいいのか?」
「大丈夫よ。あ、もし敵と会ったら、そのスイッチは使って大丈夫よ」
「え……?」
颯に聞き返そうとした所で宮藤さんが割り込む。
「そろそろ到着です。準備を」
車を降りてシャッター街を進む。しばらくすると、中央の交差点辺りに異形と死形二体がいた。
「情報通りね。じゃあ、作戦通りに私がアイツら纏めて引き付けるから、ハルは残された人を見つけて」
正直な所、颯を一人にするのは嫌だ。…でも、この状況だと僕がこの場にいるのは逆に危険だ。
「…分かった。気を付けてくれよ」
「ハルこそね」
颯が真正面から奇襲を掛けたのと同時に僕は戦場から離れた場所の探索を始めた。情報にあった、取り残された人達の住所付近を探していると、子供を発見することができた。子供は返り血で汚れており、物影で震えていた。
「君!大丈夫か!」
「…え……? お兄ちゃん、誰?」
6歳くらいの男の子だった。
「僕は…視晴だよ。君達を助けに来た。…他に逃げ遅れていた人達は?」
「あ……! そうだ、おばさん達が……! 化け物に……! すぐそこで……!」
「何だって……!?」
男の子が指差した方向を見ると、壁に大きな血痕を見つけた。…そして、見てしまった。切り落とされた人の腕を。
「遅かったか……! じゃあ死形が―—!?」
背後に気配を感じた。振り向くと死形が一体いた。
「この……!」
直ぐに朱鉄扇を抜き、攻撃する。朱双刃の刀身と同じ材質の刃はしっかり死形を切りつけたが、所詮僕の技術じゃ大したダメージにはなっていないだろう。
「お…お兄ちゃん……!」
死形がゆっくりと近づいて来る。
「…こうなったら一か八か……!」
リザから渡されたスイッチを押す。しかし、押して直ぐには何も起こらない。死形が近づいて右手の鎌を振り上げたその時――
『死にたくなければ伏せろっ!』
頭の中に声が響いた。僕達が姿勢を下げると、頭上を稲妻が走った。それはまるでRPGの魔法の様だ。死形は攻撃を中止し、雷撃から距離を取る。
「な、何だ……!?」
カシャン、カシャンと聞き覚えのある金属音が聞こえる。音のした方向の暗がりから、水色と黄色の光が揺れてこちらにやってきた。
『…やはり、お前は俺の言葉が分かるようだな』
その姿は鎧を纏った犬の様で、月夜に溶け込むアイアンブルーの色をしていた。だがその犬に肉や毛皮は存在しない。全身が人工物で作られた機械の猟犬だ。尻尾はプラスチックと思われる材質でできており、先端には三日月型の杖の様で、中心に赤い球体が繋がれている。頭や体は殆どが金属で、四肢は球体関節で繋がっている様だ。水色と黄色の光の正体はそれぞれが耳と瞳の光だった。
「ロ、ロボットだ……。凄い……」
男の子は少し嬉しそうな声を出す。今のこの子にはあの猟犬が正義のロボットに見えているだろう。
『状況は大体把握した。その子を守り、あの死神を倒せばいいんだな?』
僕はその声に聞き覚えがあった。
「あ、ああ……。その声、まさかケルなのか……!?」
「何か…言っていたの?」
「え……」
純達の時と同じだ。猟犬の声は男の子には聞こえていないようだ。
『俺の声は普通の人間には聞こえない。お前が何者なのか気になる所だが、今はいい』
「お前は一体……」
『俺はLZM/D-001 ケルベロス。リザの受けた恩はしっかり返してやる。安心しろ、ニンゲン』
「リザの……!?」
『ウォォォォォォォン――!!!!』
シャッター街に、遠吠えにも聞こえる金属の震える音が響き渡る。その音に死形は一瞬ひるむ。ケル、機械の猟犬ケルベロスは目にも止まらぬ速さで疾走し、口を大きく開け、そのまま死形の鎌の右腕へと噛み付く。ケルの牙は赤く発熱しているようだ。熱された牙と機械の力で絞まる強靭な顎が、死形の右腕を焼き千切った。死形はすぐさま左手の鎌でケルを攻撃するが、ケルは華麗にそれを回避した。距離を取ったケルの尻尾の先の宝玉が光出す。次の瞬間、数発の火の球が死形へ放たれる。
「凄い…かっこいい……!」
僕と男の子はケルが戦闘を始めたと同時に距離を取り、物影から戦いの様子を見ていた。男の子は完全にケルの勇姿に見惚れている。だが――
「!? ケル! 新手だ!」
ケルの後から、もう一体の死形が現れるのが見えた。先程の遠吠えでこちらに来たのだろう。
「あぶない!」
男の子が叫ぶ。
『心配は要らない。リザ!』
「リザ……!?」
ケルがリザの名前呼ぶ。その直後、ピキューン!と緑色の光の弾らしき物体が高速で跳んできた。光の弾は現れた死形を物凄い強さで吹き飛ばす。死形のいた場所から微かに風が吹いてくる。あの光の弾は強力な空気の塊だったらしい。
「こういう時、皆には内緒だよ。って、日本のアニメでは言うんだっけ? シハル」
光の弾が跳んできた方角にはリザがいた。だが、昼間の姿とは違う。夜に紛れる為の紺のローブと如何にもな魔女帽子。さらその中に暗色のベストやズボン、ブーツ。両腕に腕当て。右手には銃のようなものが握られていた。腰にはポーチとホルスター、そして刀身が太く短めの刃物が収められた鞘がある。
「本当にリザ…なのか……!? 君は……」
「そうだよシハル。でも本当の私は、魔法使いで、異形狩りだったんだよ」
「リザが異形狩り……!?」
「後は私とケルに任せて。ケル、さっさと終わらせるよ!」
リザは銃身を引き金の少し上部分からパカっと開き、筒状の容器を取り出した。瓶の中には先程の光の弾と同じ色に光る液体が入っていた。そして直ぐにポーチから出した別の容器取り出す。こちらの中には赤い液体が入っていた。リザはその瓶を同じ個所に差し込んで銃身を元に戻す。その工程はリボルバーをリロードする際の動きに似ていた。瓶の入れ替えを終えたリザは直ぐに銃を死形に突き出し、引き金を引いた。すると赤い光の弾が放たれる。その弾もまた、高速で跳び死形を捉える。命中した赤い光の弾は爆発を起こし、死形の上半身を吹き飛ばした。死形はそのまま消滅した。
「な、なんて威力だ……!」
『リザ、こちらも終わりだ』
いつの間にか、ケルの方も戦闘を終えていたらしい。
「す、凄いよ! 犬のロボットさんも、魔法使い…? のお姉ちゃんも!」
「ふふん、そうだろうとも。怪我はなかった?」
「うん!」
「シハル、話は後にして、先ずはこの子を避難させよう」
「あ、ああ……」
僕達は男の子を宮藤さんの車の所へ逃がした。宮藤さんは男の子の両親の元へ送り届ける為に一度街へ戻った。男の子はケルがとても気に入ったらしく、最後までケルに手を振っていた。
「…さて、何から話そうか。シハル」
車が見えなくなった所で、リザが切り出す。
「今になってようやく思い出したよ。前に颯が言っていた、ロンドンでパーティを組んでいた魔法使い。…君の事だったんだね」
どうして今まで気が付かなかったのだろう。リザという名前も颯から聞いていたし、昼間友二が颯の名前を出した時の反応やスイッチを渡された時のリザの言葉。推測できる要素は沢山あった。
「それで君が、今のハヤテのパートナー。いやぁ凄い偶然だよね」
「って、そうだ! まだ颯が戦って――」
『アイツなら大丈夫だろう。あの程度の相手ならロンドンでも多く狩っている』
「そうだね。彼女は元々一対複数の戦いに特化している。それに、黒双牙を持ったハヤテなら、並の異形相手には負けないさ」
「そうよ。分かってんじゃないリザ」
戦いを終えた颯が戻ってきた。怪我はしていないようだ。
「やぁ、相変わらずだね。ハヤテ」
「待ってたわ。日本語上達したんじゃない?」
二人はハイタッチした。
「ま、おかげさまでね」
「ケルも久しぶり~早速モフらせなさい」
颯がケルに近づくが、ケルは後退する。
『オイ! モフるにしてもまずその黒い武器を下ろせ!!』
「アッハハ! やっぱアンタの言葉わっかんないわ!」
颯にもケルの言葉が分からないらしい。颯は逃げるケルに問答無用で抱き着く。
『ヤメロォォォォォ!』
ケルが本気で嫌がるような声を発している。黒双牙の効力はどうやら彼にも効くようだ。
「颯、彼嫌がってるぞ」
「ん? ハルにはわかるんだ。ケルの言葉」
「ああ、それが気になってたんだよ。シハル、君は異形や魔術士なのかい?」
「いいや、人間だよ。ちょっと人より視覚とかが発達しているくらいで」
「ああ……成程。シハル、どうやら君には魔法に適正があるようだ」
「適正……?」
「そう。通常のケルの声は魔法を使う素質がある人間、もしくは魔法を扱える異形にしか聞こえない。まぁ、ゲーム的に言えば、君はNPC村人が持っていない筈のMPを持っている村人。みたいな感じかな。まぁ、適正があるからと言って、君が魔法を扱えるとは限らないけどね」
その話の通りなら、僕には魔法を使う素質があるらしい。もしかしたらこの目の良さも、それが関係しているかもしれないとリザは言う。
「そうだったのか……。…そういえば、すっかり聞くの忘れていたけど……。ケルって何なんだ?」
ロボットにしては会話がスムーズ過ぎる。SFのアンドロイドやアニメの機械生命体みたいだ。
「ああ、ケルは私の作った自動人形、機械の体に宿っている使い魔だ」
「作った!? っていうか、使い魔!?」
『そうだ。俺の肉体はリザが作ってくれたものだ。それにこの人格もAIだとかそういうものではない。俺の魂はリザの魔法によってこの世に呼び出されている』
ケルは胸部分の装甲を開き、中の赤い宝玉を見せてくれた。
『この宝玉が俺の心臓のようなものだ。これのおかげでほぼ永遠に活動でき、俺自身も魔法を扱うことが出来る』
「魔法って、そんなことまで可能なのか……。なんていうか、意外とSF寄りだね……。もっとポピュラーに、杖と箒もった非化学的なモノを想像していたよ」
「あはは……。まぁ普通はそうだよね。でもね、意外と現実の魔法使いってのは結構現代科学と近しかったりするものなのさ。私のこの銃みたいにね」
リザは自分の銃の説明をする。リザの銃は、圧縮された魔力を放出するものだ。まず、専用の容器にリザが魔力を注入する。容器を銃にセットし、銃の引き金を引いた時に中の魔力が圧縮され、光の弾丸となって発射される。弾丸は注入した魔力の属性によって異なる。風の魔力なら敵を吹き飛ばす風圧の塊に、炎なら敵を粉砕する爆弾といった感じだ。リザ曰く、この銃が杖の代わりなのだという。因みにこの銃もウィルエンTに登場するヒロインの女の子が持つ銃がモデルらしい。
「とまぁ、私は保有する魔力量は多いんだけど、自力で放出できる量が少なすぎてね。それを解決するために、この銃みたいに科学の力も利用しているのさ。他にもあるけど、長くなるから続きはまた今度ね」
「あ、ああ……」
リザには悪いが、殆ど頭に入ってこなかった。
「リザの科学、特にメカに関する話は大抵長くなって、何時も寝ちゃうのよね」
「君は機械音痴で理解が難しいからだろう?」
「何よ、これでも前よりかは使えるわよ。…この前ハルの部屋のエアコン壊したけど」
「…シハル、君も苦労してるね」
リザが頭を抱える。思う所があるのだろう。
「リザもなのか……?」
「そうなんだよ。初めて会った時も、私の研究室に入り浸るようになってからも。私も、もう一人いた子も大分ハヤテに振り回されていたよ……」
「大変だね、お互い」
今までで一番リザに親近感を抱いた。なんだかリザとは仲良くやれそうな気がする。
「フフ…。しかし、シハルがハヤテのボーイフレンドだったとはね。いやぁ、まさかあのハヤテが……」
「何よ。悪い?」
「いいや? 日本に戻ってから、色々と変わったみたいだね。少し丸くなったんじゃないかい?」
「アンタはちっとも変ってないわねー。…少しは成長した?」
颯がリザの胸部を見て煽る。
「う、うるさいな!まだこれからだよ!」
「ほんとにぃ〜?」
おいやめろ。リザの顔が段々赤くなってるぞ。
『そうだ。服で見えないが、リザのバストは5ミリ程度ではあるが成長しているぞ!』
「ッ…!」
思わず吹き出してしまった……。くっそトドメを刺すな犬畜生!
「ケ、ケル! 今はシハルもいるんだぞ!」
「ハルー。ケルなんて?」
颯がにっこりしながら僕に詰め寄る。リザが『言うなよ! 絶対言うなよ!』って視線でこちらを見ている。やめてくれ涙目で僕を見るんじゃない……。
「5ミリは成長したんだとか」
…僕も悪ノリしてしまうじゃないか。
「ぁぁぁぁぁ!!!」
リザの悲鳴がシャッター街に響く。…反省はしている。
「ハヤテ、シハル! 私も明日から君達の学校に通うから、くれぐれもよろしくな!」
リザ、ケルとはアパートの前で分かれた。リザも僕らのアパートに越して来た。リザの部屋は1階の2部屋だ。101号室を自室、102号室を彼女の研究室として使うとのことだ。因みに僕の部屋は203号室。颯が202号室だ。
僕は自室に戻り、遅い夕飯の支度を始める。言うまでもなく颯がたかりに来ている。
「ちょっと変わった子だけど、気さくでいい子だったな」
「…そうね。何だかんだ、私と友達やってくれてるいい奴なのよ」
帰る途中、僕は颯とリザの昔の話を聞いた。当時、独自の魔法を開発したリザが、過激派な異形狩りや彼女を妬んだ同業者に命を狙われていた事こと。颯も最初はリザと戦ったけど、事情を知ってリザに協力したこと。その後すぐ、颯が連れてきた小さな異形狩りの少女レシエを2人で弟子にして、指導していたこと。3人で力を合わせてケルベロスを作ったこと。昔の話をしている颯とリザの姿はまさに親友と言えるだろう。
「そっか。安心したよ。颯にもちゃんと友達いるじゃないか」
正直な話、颯には今まで友達なんていなかったのではないかと思っていた。実際、今の学校で颯に話しかけるのは、彼女に突っかかる不良達を除けば、僕と友二、純と純の兄くらいだ。…高等部を除けば僕の姉も入るのだが。
「嫌味言ってる? いい度胸してるわぁ」
いつの間にか後ろにいた颯が僕の左の二の腕を抓る。
「痛いって! 包丁持ってるんだからそういうの危ないだろ!?」
「ねぇ、昼間リザに抱きつかれたでしょ? 行く時、少し匂い残ってたわよ」
「なっ!?」
「今夜は唐揚げ3人前用意しなさい」
「今夜はポークカレーだよ!! っていうか今日は鶏肉無いよ!!!」
無言の圧力が怖かったので、明日の夜に食べさせることにした。
巻末。
夜。風呂を済ませたリザがベッドに横になっていた。机の上には昼間視晴から貰ったウィルエンTの箱がある。それを見てリザはにやけている。
『…嬉しそうだな』
ケルはベッドのすぐ側でうつ伏せで寝ている。
「そう見える?」
『ああ。明日に希望を抱くニンゲンの表情だ』
「君も嬉しそうじゃないか。新しい友達ができてさ」
『そうだな。シハル、面白い奴だ。ああいうのが、リザには相応しいオスという奴なんだろうな』
「君はつくづく私の親ぶった事言うよね。…まぁ、確かに……。彼、いいよね。ちょっと意地悪な所あるけど」
また少し、リザの顔が綻ぶ。
『リザにも春が来たようだな』
しかしリザは直ぐに顔を横に振る。
「どうかな? だって彼、世界一おっかない春一番が唾つけているじゃないか」
『…リザ。やはりここでの暮らしは、退屈はしないで済みそうだ』
翌日、リザは純と友二のいるクラスに編入してきた。表向きには、一年間の留学ということになっているらしい。昼休みには純と友二にもリザの素性を明かし、ケルのことも教えた。二人共颯で慣れたのか、すぐに受け入れてくれた。
ケルはリザが学校にいる間は町内を見回りをするらしい。視晴と颯に頼もしい二人の仲間が、新たに加わった。
…そしてもう一人、視晴達を見る小さい影が一つ。射木颯がロンドンで組んでいたチーム最後の一人、風音レシエ。彼女が揃うことで、魔人形事件も解決へと大きく動くことになる。
次回はMMDモデル化済み最後の一人、かわいい担当のレシエちゃん。あと、デザインのみ組の人や未デザインの人も出てくると思います。今回は投稿する以前にちょっと書いていた奴がありましたが、この後からはマジで何もまだできていないので、いつになるかはわかりません。